「そしてまた繰り返す」
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ここまで読んでもらってありがとう。これが最後の報告です。
その前に、せっかくなので【メニュー】の経過時間機能を拡張してみました! なんと『9999時間』までカウントできるようになりましたーっ!
ひゅーひゅー、ぱちぱちぱちぱち…………え? なんで上限がわかるかって……? HAHAHA!!
それじゃあ余興はこのくらいにして、完全勝利の方程式を書いていこうじゃないか。
最初は『スタートライン』の話から。
まず結晶の封印から解かれた僕は、必ず『人間』でなければならない。
ぶっちゃけクリアするだけならばホムンクルスで始めるほうが有利だ。だがしかしその後のことまで見据えるとなると、わずか数年で死んでしまうホムンクルスより、まともな寿命を持つ『人間』のほうが断然いい。というか『人間』一択だ。
次に封印を解く者たちは『勇者グループ』であること。
これはいろいろ試した結果、「僕は封印を解いたグループから離脱することができない」ということがわかったからだ。少なくともダンジョンにいる間は。この制約がなければ、もっとずっと簡単にクリアできただろう。
『勇者』である理由は戦力的な意味で欠かせないからだ。一緒に行動するならむさくるしいオッサンや偏屈なおじいちゃんより、若くてかわいい美少女のほうがいいからという理由では絶対にない。ホントだよ。
ただし『勇者グループ』はかなり出現しにくいのが難点だ。だいたい全体の3パーセントくらいの確率だろうか。【リセット】をとにかく連打していると、せっかく出現した『勇者』を見逃してしまう凡ミスが多発して地味に大変だった。
スタートラインまでたどり着いたら、今度は『状況その1』を開始する。
封印から解かれてファーストコンタクトに成功したら、次の行動はなんと「真っ先にボス部屋まで直行する」。ボス部屋はもちろん、【狂気の成れ果て】のいるあの部屋のことだ。
しかし間違ってはいけない。ボス部屋に突入するのではなく、ボス部屋に「直行」するのだ。つまりボス部屋の中に入るのではなく、その扉の前でほかの2グループ『冒険者』と『魔法学者』たちを待ち構えて合流することが目的だ。
『勇者』『冒険者』『魔法学者』の3グループ全員が無事合流できたら、僕が考えた作戦の説明に入る。もちろんうっかりボス部屋に入らないように場所移動も忘れない。場所は僕が封印されていた中間地点がオススメだ。どこに行くにもちょうどいい位置にある。
ただこっからが本番だ。
僕は警戒心が振り切っている状態の『勇者』『冒険者』『魔法学者』の全員をどうにか説得して作戦に協力してもらわなくてはならない。
全員が敵対する寸前まで僕を警戒するのも当然だ。なにせ封印を解かれたばかりだというのに、なんのよどみも迷いもなく積極的にグイグイ動くものだから罠か詐欺かと疑われても不思議じゃない。そんな状況で説得できるかって?「できる」「できない」じゃない、「やる」しかないんだ!
でもやっぱり難易度は高かった。リアルな会話には選択肢がない。同じセリフでも発音や表情のビミョーな違いで可不可に差が出る。説得の直前の些細な会話や行動すらも影響する。もう途中であきらめなかっただけでも僕はすごいと自画自賛。一生分のコミュ力を使い切った気がする。
仲間たちの説得が終わったら、ようやく『状況その2』に進める。
僕の考えた作戦とは、要は「ボス3連戦がきついなら、3グループで各個撃破すればいいじゃない」という内容だ。ただし【成れ果て】は素の状態では倒せないため、キメラとゴーレムを先に倒して弱体化させてから倒すという2段構えになる。
『冒険者』は【結晶キメラ】を担当し、『魔法学者』は【結晶ゴーレム】を受け持つ。それぞれ得意なグループが手分けをして一気に倒してもらう。
【結晶キメラ】は結晶の肉体を持つ四脚獣だ。動きが速くて機動性に長けているため、攻撃を当てるのに一苦労する。武器は鋭い爪と牙、さらに胴体から結晶のトゲを出してカウンターまで狙ってくる強敵だ。
『冒険者グループ』なら、経験豊富でトリッキーな動きにもしっかり対応できる。いくら動きが速くとも連携して取り囲むようすれば確実にトドメを刺すことができるだろう。『冒険者』たちだからこそすみやかに討伐できる。
【結晶ゴーレム】は全身が結晶製の巨大人形だ。重い一撃と高い耐久力が自慢で、真正面からぶつかりあうと被害は甚大なものになってしまう。動きは遅いものの、短所を補って余りあるほど力強くて堅い難敵だ。
『魔法学者グループ』ならば、強力な魔法で遠距離攻撃ができる。危険すぎる接近戦を避けて一方的に攻撃できるのはポイントが高い。『魔法学者』たちの英知の結晶である大魔法を放てば敵が近づく前に討伐することだって可能だ。
『勇者グループ』は少し時間をずらして【狂気の成れ果て】と戦う予定だ。たしかに『勇者』たちは強大な戦闘力を誇るが、さすがにボスを弱体化させなければ勝機はほぼないと見ていいだろう。
倒した中ボスは一定時間で復活してしまうこともあるため、『冒険者』『魔法学者』両グループにはなるべく同時に倒してもらう作戦だ。しかしまともな通信手段がないため、どこまでタイミングを合わせられるかが最大の難関になる。ここは僕の今までの経験から推測した各グループの討伐時間から逆算することになる。
もしも片方のグループが討伐に手間取ってしまっても『勇者』たちならば、中途半端な弱体化であっても持ち堪えることができる。そうして耐え凌いでいる間にもう片方の中ボスを倒してさらに弱体化させれば必ずや勝利できることだろう。
以上が僕の考えた作戦の全容だ。
そして僕たちは『最後の戦い』に挑んだ。
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「そ、そんな……バカな」
僕は絶望の淵に立たされていた。
地面から隆起した結晶が僕の動きを封じているからだ。僕だけじゃない。一緒にボスに挑んだ勇者たち全員が結晶に封印されてしまった。
途中までは作戦通りうまくいっていたのだ。
ほぼ同時に2体の中ボスを倒され弱体化した【狂気の成れ果て】は、こちらの最高戦力である『勇者』たちの攻撃によって確実にヒットポイントを削られていった。このまま押し切れば勝利は間違いないだろう。誰もがそう思っていた。
だが【狂気の成れ果て】の切り札によって、たった一撃で形勢は逆転した。
その時僕は目の前でなにが起こったのか、まったくわからなかった。かるく4ケタは挑戦して経験を積んだはずなのに、この土壇場で初見の攻撃を食らうことになろうとは、いったい誰が想像できるだろうか。
隆起した結晶に巻き込まれなかったのは胸から上の頭部と右手首だけ。右手に握られた紋章の剣も切っ先が結晶に取り込まれているため悪あがきすらできそうにない。
「もうだめだ……おしまいだ……」
『全滅』の2文字が脳裏をよぎる。いつもならとっくに【リセット】して再挑戦しているはずなのに、予期せぬ展開でふいに心を折られてしまった。それほどショックだった。
【狂気の成れ果て】がタメを作った。ああ、あの攻撃は隙が大きくて大振りで、不意打ち以外ではほぼ当たらない即死攻撃だ。動きが封じられていなければ、誰でも簡単に避けられる。動きが封じられていなければ。
僕は『死(ゲームオーバー)』を覚悟する。
「――――坊主ッ、あきらめるなァ!!」
目の前にはオッサンたちの頼もしい背中。冒険者たちが僕たちの前に立ちふさがり、【成れ果て】の猛攻撃を防ぎ切っていた。
オッサンは怒鳴りつけるように僕に喝を入れる。
「坊主、お前はなんのためにここまで頑張ってきた!?【狂気の成れ果て】に完全勝利するためじゃなかったのか!?」
「で、でもだめなんです。封印結晶のせいで身動きが取れなくて――」
「――――ならば、ワシらの出番じゃな」
振り向くとそこには魔法学者のおじいちゃんたちが、自信満々の表情で呪文を唱え始めている姿があった。
やがて詠唱し終えた『結晶を消滅させる魔法』が発動する。
「……すごい。封印結晶が、完全に消えた」
「ほっほっほっ、オヌシが隠し場所を教えてくれた『結晶魔法』を解析した結果じゃな。結晶を生み出すだけでなく、その逆の消し去る方法も発見することができたのじゃ。ちと、時間ぎりぎりになってしもうたようじゃがのう」
中ボス討伐を押し付けてしまったので、せめてもの報酬だと思って提供した『結晶魔法』がこんな効果を発揮するなんて……なんてうれしい誤算なんだ。
よく見ればオッサンたちも高性能の『結晶武器』で戦っていた。戦力アップしたからこそボスの猛攻撃を真正面から耐え凌ぐことができたのだ。
そして美少女勇者たちの封印も次々に解かれていく。自由になった彼女たちはちょっぴり恥ずかしそうだ。
「……勇者らしかぬカッコ悪いところ、見せちゃいましたね」
「そんなことはねえさ。お嬢ちゃんたちは十分やってくれたさ。もちろん坊主もな」
「ふむ、生きておれば何度でも立ち上がれるわい。若ければなおさらじゃ」
「ありがとうございます。私たちはもう絶対に負けません!」
全滅寸前まで追い詰められたが、勇者たちの戦意はまったく衰えていないようだ。それどころか九死に一生を得たという貴重な経験でさらに成長するだろう。
そして今ここに『勇者』『冒険者』『魔法学者』の全員が集結した。
「正真正銘、本当にこれが僕たちの『最後の戦い』だ」
【狂気の成れ果て】が最後の抵抗で大暴れする。本当に瀕死なのかと疑うほどの強さだ。
だが僕らだって負けてはいない。冒険者たちがボスの攻撃を引きつけ、魔法学者たちが結晶の鎧を剥ぎ取っていく。そしてその隙を狙って勇者たちと僕が総攻撃を仕掛ける。
この勝負、絶対に勝ってみせる。
「うぉぉおおおおりゃぁぁああああああッッ!!」
偶然か、あるいは必然か、【狂気の成れ果て】にトドメをさしたのは僕だった。
僕の結晶剣に貫かれた中心核は、目も眩むほどの激しい輝きに包まれる。美しくもどこか哀しげな浄化と消滅の光だ。
やがて光輝が収まり、その場には僕たちの姿だけが残された。
【封印されし者】である僕と――
『勇者』である美少女と、その仲間たちと――
『冒険者』であるオッサンと、その仲間たちと――
『魔法学者』であるおじいちゃんと、その仲間たちと――
僕がずっと待ち望んでいた最高の結果がそこにあった。
まさしくこれは僕の完全勝利だ。
「やっっっったぁぁぁあああああああああ!!」
歓喜に打ち震えて思わずガッツポーズ。みんなの目も気にせず、僕は吠えた。
大声で勝利を叫ぶ僕の姿にみんな驚いていた。しかしやがてそんな僕に触発されたのか、全員がまんざらでもない様子で勝利の余韻に浸った。
強敵を討ち取ったことを喜び、仲間とともに戦ったことを誇る。手と手を取り合い、結ばれたばかりの絆を分かち合っていた。
ただ少し残念だけど、僕のこの感情だけは誰とも分かち合うことができないだろう。
でもそれで構わない。これは僕だけの勲章なのだから。
「――――おや?」
なにかが頭の中で響いた。いわゆる祝福のファンファーレというやつだ。
僕は【メニュー】を開く。
「……ああうん、やっぱりレベルが上がっているな」
そして自分のステータスのある部分が目に留まった。さっと見て、はっと二度見して、ぴたっと動きが止まってしまった。
『 幸運 +1P 』
「ひっっっく! マジかよ、最低値じゃねーか!」
ちなみにレベルアップして上がる数値は固定ではなく、+1~10Pのランダムだ。ここに至るまでに何度も何度もレベルアップをしてきたので断定してもいい。
「う~~~~~~~~ん……………………」
「どうした坊主、突然。おい、大丈夫か?」
「急に叫んだかと思えば、今度は唸り出しおった。ついに狂ったかのう?」
「いったいどうしたんです?」
突然のことでみんなは混乱している。
冒険者たち、魔法学者たち、そして勇者たち。彼ら彼女らの顔を見て、僕は決断した。とりあえず先に謝っておく。
「ごめんなさい! もうちょっと付き合ってください!」
そういう性格なのだから、もうこればっかりは自分でもどうしようもない。最後の最後で根負けして妥協できるような性格なら、もうとっくに『完全勝利(仮)』で満足して、異世界ライフを満喫している。
僕は高らかに声を上げた。
「【リセット】」
僕の冒険は、まだ始まったばかりだ!
次回、
「低出現率エネミー×低確率ドロップ!? 幻の激レアアイテムに挑め!!」
をお送りします。(大ウソ)




