↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/6

4.いつも通り、のはずなのに

約束の日。


タオがレオの家を訪ねてきた。


「よ」


「おう! 毎回迎えをありがとな。 いくか!」


いつも通りの挨拶。


いつも通りの顔。


なのに、レオはタオをまともに見られなかった。


これまでのことを、正直に話すと決めていたはずなのに。いざ本人を目の前にすると、どう切り出せばいいのかわからなくなる。


結局、ふたりで食事を済ませたあと、レオは意を決して口を開いた。


「なあ、タオ。ちょっと話があるんだけど」


「……何?」


「実はさ、この腕輪なんだけど……」


レオは手首を差し出し、腕輪を見せた。


そして、最近起きていることを、できるだけ正直に説明した。


タオを見ると動悸がすること。


触れられると妙に意識してしまうこと。


そして、タオが気に入っているらしい魔女に、嫉妬のような感情を抱いてしまったこと。


最後に、自分なりに考えた結論を告げた。


「たぶん、この腕輪にタオのことが好きな魂が入ってるんだと思う」


タオは目を見開いた。


普段、感情をあまり表に出さない男が、はっきりと驚いている。


レオはそれを見て、ますます不安になった。


「……違った?」


タオはしばらく黙っていた。


やがて、慎重に言葉を選ぶように口を開いた。


「その腕輪は、俺がお前にあげたんだよな?」


「? ああ、そうだけど。『俺のための腕輪』って言ってた」


「……そうか」


タオは視線を落とした。


「悪かったな。明日、俺の職場に来い。そこで解呪できると思う。それまでは平気か?」


そう言って、タオはレオの顔を覗き込んだ。


近い。


いつもなら気にならない距離なのに、今はそれだけで心臓が跳ねる。


レオは少しだけ視線を泳がせ、それでも素直に頷いた。


「うん。別に、体調が悪いとかじゃないし」


「なら、今日はいつも通りにしよう」


「……いいのか?」


「もともと遊ぶ約束だっただろ」


タオは淡々と言った。


レオは少し迷ったあと、頷いた。


確かに、腕輪の影響以外で困っていることはない。


それに、明日になれば解呪できるのだ。


だったら、今日はいつも通りに過ごせばいい。


そう自分に言い聞かせ、レオはタオといつもの酒場に向かった。


くだらない話をして、笑って、いつものように過ごす。


時々、タオと目が合うたびに心臓が跳ねたけれど、それ以外は普段と変わらなかった。


夜も更け、ふたりはいつも通りレオの家に向かい、順番に風呂へ入ることになった。


先に上がったレオは、寝る準備をしようとして、ふと手を止めた。


……そういえば。


いつも、タオが泊まりに来たときは、同じベッドで寝ていた。


それが当たり前だった。


タオは体格がいいくせに、寝るときはなぜかレオを抱き込むように腕を回してくる。最初こそ文句を言っていたが、今ではすっかり慣れてしまっていた。


けれど、今は違う。


あの腕輪のせいでタオを意識しているのだ。


そんな状態で、いつも通り一緒に寝られるのだろうか。


ベッドに腰掛けることすら恥ずかしくなり、レオは部屋の中をうろうろした。


そのとき、脱衣所の扉が開いた。


「……何してんだ?」


風呂上がりのタオと目が合った。


「な、何でもない!」


反射的に顔を伏せる。


自分でもわかるくらい、耳まで熱くなっていた。


タオは少しだけ眉を寄せたものの、何も聞かずにベッドへ向かった。


「大丈夫。いつも通りでいい」


そう言って、先に横になる。


その言葉に背中を押されるように、レオもそっと隣へ入った。


……いつも通り。


そう、いつも通りなのだ。


なのに、隣にいるタオの気配が気になって仕方がない。


近い。


こんなに近かっただろうか。


少し動けば肩が触れる。手を伸ばせば、すぐに届く距離だ。


今さらながら、自分たちの距離感がどれほど近かったのかを思い知らされた。


やがて部屋の灯りが消え、静けさが広がった。


しばらくして、レオはぽつりと呟いた。


「……俺らって、いつもこんなに距離近かったんだな」


「そうだよ。ずっと前からな」


「うわっ!?」


思わず振り向くと、すぐ目の前にタオの顔があった。


レオは慌てて前を向き直した。


「起きてたの!?」


「まだ寝てない」


「そういうことじゃなくて……!」


「挙動不審すぎるだろ」


タオが小さく笑った。


「だって、起きてると思ってなかったし」


「いつもなら、もう少し飲んでから寝るだろ。今日はやけに静かだと思ったら」


「……そりゃ、魂が入ってるかもしれないんだぞ。落ち着かないだろ」


「まだそれ言ってるのか」


タオは呆れたように息を吐いた。


「魂がどうとか関係なく、お前はお前だろ」


そう言って、レオの頭をくしゃりと撫でた。


その手つきは、いつもと変わらない。


何気なく触れてくる手も、少し低い声も。


レオは胸が締めつけられるような気持ちになった。


気づけば、撫でてくれるタオの手に、自分から頭を押しつけていた。


タオの手が、ほんの一瞬止まる。


けれど、何も言わずにもう一度、優しく頭を撫でた。


「……ほら、もう寝ろ。腕輪は明日、解呪するから」


「……うん」


解呪すれば、元に戻るのだろうか。


タオを見るたびに跳ねる心臓も。


触れられると熱くなる頬も。


魔女に嫉妬してしまう、この気持ちも。


全部、なくなるのだろうか。


そう考えると、なぜか少しだけ寂しかった。


レオがそっと寝返りを打とうとした、そのときだった。


タオの腕が伸びてきて、レオの体を包み込むように抱き寄せた。


いつものことだった。


タオは寝るとき、昔からこうしてレオを抱き込む癖がある。


慣れ親しんだ温もりに、レオの体から少しずつ力が抜けていく。


安心する。


不思議なくらい、落ち着く。


胸の奥が温かくなり、幸せだとさえ思ってしまう。


……本当に、魂が違うだけなのだろうか。


タオの腕の中で、レオは静かに目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。