3.知らない魔女に嫉妬する
ある日の夜、レオのスマートフォンから連絡が届いた。
『次の休み、泊まりに行っていいか?』
いつも通りのメッセージだった。
タオは出張から戻った翌日、レオと酒を飲み、そのままレオの家に泊まることが多い。ふたりの間では、すっかり習慣になっていた。
だから、今回もいつも通り返事をすればいい。
そう思ったのに、レオは画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。
今回の出張先は、タオを気に入っている魔女のところだった。
以前、タオから仕事の話を聞いたことがある。
その魔女は優秀な術師で、タオの実力を高く評価しているらしい。仕事上の付き合いだけでなく、タオ自身にも興味を持っているようだった。
そのときは、特に何も思わなかった。
タオが誰と仕事をしようが、誰に好かれようが、レオには関係のないことだ。
なのに今は、その魔女のことが頭から離れない。
タオは向こうで何をしているのだろう。
魔女とふたりで食事でもしたのだろうか。
あの整った顔で、いつも通り淡々と話しているのだろうか。
……いや、待て。
なんで俺、こんなこと考えてるんだ?
レオはスマートフォンを置き、頭を抱えた。
最近、ずっとおかしかった。
タオの顔を見ると心臓が跳ねる。
触れられると落ち着かない。
そして今度は、見知らぬ魔女にまで嫉妬している。
答えは、ひとつしかなかった。
「あっ……! わかった!」
レオは勢いよく顔を上げた。
そうだ。
あの腕輪だ。
普通のアクセサリーではなかったのだから、何か魔術が仕込まれていてもおかしくない。
タオは魔術師だ。本人が気づかないうちに、何かの影響を受けるような道具を渡してしまったのかもしれない。
そして、あの腕輪には――。
「タオを好きな魂が入ってるんだ……!」
口に出してみると、妙に納得できた。
そう考えれば、すべて説明がつく。
自分が突然タオを意識するようになったことも。
タオに触れられると、心臓がうるさくなることも。
知らない魔女に、こんなにも嫉妬してしまうことも。
全部、腕輪に宿った魂のせいなのだ。
……たぶん。
レオは自分の手首を見つめた。
けれど、ひとつだけ、気になることがあった。
もし、これが魂の影響なら。
どうして、タオのことを好きな魂なのだろう。
そして、どうして自分は、その気持ちをこんなにも自然に受け入れてしまっているのだろう。
答えは出なかった。
レオは小さく息を吐き、タオへの返信を打ち込んだ。
『いいよ! いつもの店で飲もうぜ』
送信してから、胸の奥がまた少しだけ苦しくなった。




