1.俺のための腕輪
「レオ、これ」
「ん? なに?」
「やる」
差し出されたのは、細身のシルバーの腕輪だった。控えめながらも洗練されたデザインで、レオの好みにも合っている。
「え、いいの? かっこいいじゃん!」
「……俺のための腕輪」
「ん?」
聞き返したものの、タオはそれ以上何も言わず、グラスに視線を落とした。
「いや、どういう意味だよ」
「……別に」
普段から口数の少ないタオだが、今日はいつにも増して返事が曖昧だ。顔色こそ大きく変わっていないものの、動作はゆっくりで、どうやらかなり酔っているらしい。
まあ、タオがくれるというのなら、もらっておこう。
「ありがとな! 大事にするよ」
レオは素直に礼を言った。タオは定まらない目でレオを見返すだけだった。
その夜は珍しくタオが酔い潰れてしまったため、レオは彼を自宅まで送り届けた。いつもなら飲んだあと、そのままレオの家に泊まっていくのだが、今日はそうもいかない。
「じゃあな、タオ。水、ちゃんと飲めよ」
返事がないのを確認して、レオはタオの家を後にした。
翌朝、タオが昨夜のことをどこまで覚えているのか、レオはまだ知らなかった。
そして、あの腕輪がどんな意味を持つものなのかも。
・・・・・・・
翌日。
レオはいつも通り、店に出すアクセサリーを磨いていた。
ふと、昨日タオからもらった腕輪のことを思い出す。
せっかくもらったのだから、今日から身につけてみよう。
そう思って手首に通した、そのときだった。
シュル、と小さな音がした。
「……え?」
腕輪が淡く光り、形を変えた。
細い銀の輪が、まるで生き物のようにレオの手首に沿って縮まり、ぴったりと収まる。
「うおっ!? なにこれ!」
慌てて腕輪を引っ張ってみる。けれど、びくともしない。
隣で作業していた店長が、レオの声に顔を上げた。
「なんだ? 変質系チャームか?」
「変質系? なにそれ?」
「知らないのか? 魔道具の一種だよ。身につけた人間の体に合わせて、形を変えるんだ」
「へえー! すげえ!」
「感心してる場合か。ものによっては、形が変わるだけじゃなくて、特殊な魔術が仕込まれてることもある。うちみたいな普通の店じゃ、まず扱わない代物だな」
店長は腕輪を眺め、少し考えるように首を傾げた。
「でも、お前の友達って魔術師なんだろ? だったら、サイズを合わせるだけのものかもしれないな」
「ああ、タオね! 確かに、あいつならこういうの持ってそう」
レオは納得したように頷いた。
魔法のことはよくわからないが、タオがくれたものだ。きっと大丈夫だろう。
それに、腕輪は思った以上に気に入っていた。
外せないのは少し困るけれど、いつかタオに聞けばいい。
そう考えたレオは、ひとまず仕事に戻った。
実際、それから数日が経っても、特に変わったことは起こらなかった。
体調もいつも通り。仕事にも支障はない。
腕輪を身につけていることさえ忘れそうになるほど、何事もなく過ごしていた。
だからレオは、あの腕輪は身につけた人間の体に合わせて形を変えるだけの魔道具なのだろうと思っていた。
――あの言葉の意味も、深く考えないまま。




