第八章 好きなことを隠さなくてもいい
## 第八章 好きなことを隠さなくてもいい
二年生の冬。
僕は相変わらず小説を書いていた。
金庫の中のノートは、もう五冊になっていた。
最初は世界設定だけだった。
今では、
* 世界の歴史
* 国ごとの文化
* 登場人物
* 魔法体系
* 地図
* 物語の本編
* 各章の出来事
* 設定の矛盾チェック
まで書いてある。
健太には時々見せていた。
「また増えたな」
「うん」
「これ、最後まで書くの?」
「分からない」
「じゃあ何で書いてるの?」
僕は少し考えた。
「……面白いから」
健太は笑った。
「それならいいじゃん」
その言葉が妙に心に残った。
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### 好きなこと発表
三学期。
学校では「好きなこと発表会」が行われることになった。
「自分が好きなこと、興味を持っていることを発表してください」
僕は悩んだ。
小説を書くことを発表する?
無理だ。
みんなに知られるのが恥ずかしい。
そこで担任に相談した。
「先生、好きなことがあるんですけど……人に見せたくない場合はどうしたらいいですか?」
先生は答えた。
「見せなくてもいいですよ」
「え?」
「好きなことは、発表する義務があるものじゃありません」
「ただ、自分が大切にしていることなら、話してみるのも一つの方法です」
僕は悩んだ。
家に帰ってから、金庫を開けた。
ノートを見る。
ずっと隠してきた。
でも――。
「別に悪いことをしているわけじゃないよな」
そう思った。
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### 発表の日
僕の順番が来た。
教壇に立つ。
手には、一冊のノート。
「僕の好きなことは……小説を書くことです」
教室が少しざわついた。
僕は続けた。
「物語だけじゃなくて、その物語の世界を考えるのが好きです」
黒板に簡単な地図を描く。
「この国には鉄鉱山があります」
「こっちの国には食料が豊富です」
「だから、この二つの国は交易をする」
「でも、昔は戦争をしていた」
話しているうちに、緊張が消えていった。
質問が飛んできた。
「主人公は強いの?」
「最初は弱い」
「じゃあ、どうやって強くなるの?」
「失敗して、考えて、練習して……」
僕はそこで止まった。
そして笑った。
「僕自身と同じです」
教室から笑い声が起きた。
嫌な笑いではなかった。
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### 校長先生も聞いていた
発表が終わった後。
廊下に出ると、石橋校長がいた。
「面白かったぞ」
「聞いてたんですか?」
「校長だからな」
僕は少し恥ずかしかった。
「でも、設定を作る力はかなりあるな」
「そうですか?」
「うん」
校長先生は言った。
「発想力だけじゃない」
「世界の仕組みを考えているから理解力も使っている」
「矛盾を直しているから忍耐力も使っている」
「何冊も書いているから継続力もある」
「設定が壊れても書き直しているから回復力もある」
僕は五軸を思い出した。
「……全部使ってる」
「そういうことだ」
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### 「好き」を学校で育てる
その後、学校では新しい活動が始まった。
**「好きなこと研究」**
週に一時間、自分が興味を持っていることを調べたり、実際にやったりする時間だった。
勉強してもいい。
工作してもいい。
読書してもいい。
絵を描いてもいい。
スポーツでもいい。
小説でもいい。
ただし、一つだけ条件があった。
**「三か月後に、自分が何をやったか説明する」**
上手である必要はない。
成果が出なくてもいい。
途中で別のことに興味が移ってもいい。
「やってみた結果、向いていなかった」
それも立派な結果だった。
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### 三年生への準備
二年生の終わりが近づいてきた。
僕はもうすぐ三年生になる。
進路を考える時期でもある。
でも以前ほど、
「将来何になるんだろう」
という不安はなかった。
まだ分からない。
小説家になるかもしれない。
ならないかもしれない。
別の仕事をしながら趣味として続けるかもしれない。
それでもいいと思えるようになった。
大事なのは、
**「好きなことを見つけたこと」**
そのものだった。
そしてもう一つ。
小学校の頃の自分と比べて、
**失敗から立て直す力がついた。**
それも、僕自身が見つけた大切な変化だった。
三年生になれば、今度は僕たちが最上級生になる。
後輩たちに何を残せるだろう。
そんなことを考えながら、僕は家に帰った。
その夜。
金庫を開ける。
ノートの最後のページを見る。
そして新しいページに書いた。
**「三年生――この学校で最後の一年。」**
少し考えてから、その下に続けた。
**「自分の好きなことを、もっと深くやってみる。」**
そしてもう一行。
**「後輩にも、失敗していい学校だと伝える。」**
僕はノートを閉じた。
この一年で、僕は少し変わった。
そして――
学校も、少しずつ変わっていた。




