第九章 三年生
## 第九章 三年生
春。
僕たちは三年生になった。
入学したばかりだと思っていたのに、もう最上級生だ。
新入生が校門をくぐっていく。
その姿を見ていると、二年前の自分を思い出した。
「緊張してたな、僕」
健太が隣で笑った。
「お前、入学式の日から変なこと考えてたもんな」
「変なことって何だよ」
「五軸とかいうやつ」
「ああ……」
僕も笑った。
今では、五軸評価は僕たちにとって当たり前になっていた。
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### 三年生の最初の授業
担任が黒板に書いた。
**「卒業までに、自分について何を知りたいか」**
「進路を決めるだけではありません」
先生は言った。
「高校を決めることも大切ですが、その前に自分を知ってください」
僕は、
**「僕は何を続けられる人間なのか」**
と書いた。
小説を書くことは続いている。
三年前には一冊だったノートが、今では十冊を超えていた。
金庫には入りきらなくなり、ついに大きなケースを用意することになった。
健太には、
「もう出版社みたいだな」
と言われた。
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### 後輩との出会い
昼休み。
一年生の男子が、廊下で困っていた。
「どうした?」
声をかけると、
「数学が分からない……」
と言う。
僕は一瞬、昔の自分を思い出した。
「どこ?」
問題を見る。
「ここか。じゃあ、一緒に考えてみよう」
教えているうちに、その一年生が言った。
「先輩って、頭いいんですね」
僕は首を振った。
「僕も昔は分からなかったよ」
「そうなんですか?」
「うん。分からなかったから、分からないところを探すようになった」
その子は少し考えた。
「……それって五軸ですか?」
「そう」
二人で笑った。
そのとき僕は思った。
**この学校で学んだことを、今度は僕が伝える番なんだ。**
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### 小説の壁
しかし、小説は順調ではなかった。
三年生になってから、物語の続きを書けなくなった。
主人公の目的が分からない。
世界設定は膨大になった。
登場人物も増えた。
歴史も複雑になった。
なのに本編が進まない。
僕は机の前で何時間も悩んだ。
「……駄目だ」
ノートを閉じる。
以前なら、そのまま諦めていたかもしれない。
でも今は違う。
僕は五軸を思い出した。
**理解力。**
「そもそも、主人公は何をしたいんだ?」
考える。
**発想力。**
「別の展開にしたら?」
考える。
**忍耐力。**
「もう少し考えてみよう」
そして、
**回復力。**
「書けないなら、一度休めばいい」
僕はその日は書くのをやめた。
翌日。
もう一度ノートを開いた。
そして、主人公の設定を最初から読み直した。
「あ……」
原因が分かった。
主人公が強くなりすぎていた。
何でもできる。
敵も簡単に倒せる。
困ることがない。
だから物語が動かない。
僕は大幅に設定を変更した。
主人公に弱点を作った。
失敗する。
判断を間違える。
仲間と意見が合わない。
それでも考えて進む。
書き直していくうちに、
物語が再び動き始めた。
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### 校長先生との会話
ある日の放課後。
僕は校長先生に呼ばれた。
「三年生になったな」
「はい」
「どうだ?」
「楽しいです」
「それは良かった」
校長先生は窓の外を見る。
「三年前、この学校の改革を始めたとき、私にも分からないことが多かった」
「今もですか?」
「今もだ」
僕は少し驚いた。
校長先生は笑った。
「学校改革に完成はないからな」
「生徒が変わる」
「社会も変わる」
「先生も変わる」
「だから学校も変わらなければならない」
僕は頷いた。
「じゃあ、僕たちが卒業したら?」
「その次の生徒たちが、また変えていく」
校長先生はそう答えた。
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### 三年間を振り返る
その夜、僕は三年間の記録を並べた。
一年生。
「失敗してもいい」
二年生。
「好きなことを探していい」
三年生。
「好きなことを続けてもいい」
そして自分自身も変わった。
小学校の頃。
失敗すると、長く落ち込んだ。
中学校一年。
失敗しても、原因を探すようになった。
二年生。
好きなことを見つけた。
三年生。
失敗しても、一度休んでからまた始められるようになった。
僕はノートに書いた。
**「回復力とは、落ち込まないことではない。」**
その下に、
**「落ち込んだ自分を、そのままにしないこと。」**
と書いた。
そして最後に、
**「この学校に来て、それが分かった。」**
と書いた。
窓の外を見る。
卒業まで、あと半年。
僕はまだ小説を書き続けている。
まだ完成していない。
でも、もう焦ってはいなかった。
完成しなくてもいい。
書き続けることそのものが、今の僕にとって大切だった。
そして三年生の秋。
僕たちは、最後の学校改革として、
**「卒業生から後輩へのメッセージ」**
を作ることになった。
僕が何を書くかは、もう決まっていた。
**「好きなことを見つけてください。」**
そして、その次に――
**「失敗しても、自分を終わらせないでください。」**
と書こうと思っていた。




