第十章 最後の一年、最後の改革
## 第十章 最後の一年、最後の改革
三年生の秋。
僕たちの卒業が近づいてきた。
永山中学校では、三年生が後輩たちに何かを残すことになった。
ただの記念品ではない。
**「自分たちが三年間で学んだことを、次の世代に渡す」**
という取り組みだった。
僕は迷わず手を挙げた。
「僕は文章を担当します」
健太が横から言った。
「小説書いてるからな」
「それは関係ないだろ」
「いや、関係あるだろ」
僕たちは笑った。
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### 後輩へのメッセージ
僕が書いた文章は、短かった。
> **好きなことを探してください。**
>
> すぐに見つからなくても大丈夫です。
>
> やってみて、違うと思ったらやめてもいい。
>
> また別のことを始めてもいい。
>
> 失敗しても大丈夫です。
>
> 失敗した自分を責め続けるより、
> 「次はどうするか」を考えてください。
>
> 落ち込んでもいい。
>
> 泣いてもいい。
>
> 休んでもいい。
>
> でも、できればそのあとに、
>
> **もう一度、自分の好きなことを探してみてください。**
書き終えてから、僕は読み返した。
「……なんか、校長先生みたいだな」
健太が言った。
「三年間、ずっと聞いてきたからだろ」
確かにそうだった。
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## 校長室へ
僕はその文章を校長先生に見せた。
校長先生は最後まで読んだ。
そして、
「いい文章だ」
と言った。
「ありがとうございます」
「直人」
「はい」
「君は三年前、何が得意だった?」
僕は少し考えた。
「……分かりません」
「今は?」
「小説を書くこと」
「それだけか?」
「あと……失敗したときに、立て直すこと」
校長先生は頷いた。
「それが君の三年間だな」
僕は黙っていた。
「学校に来て、何か特別な才能を発見したわけではない」
「はい」
「でも、自分が何を好きで、どうすれば前に進めるのかを知った」
「……はい」
校長先生は笑った。
「それなら、十分だ」
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## 五軸評価、最後の記録
卒業前。
最後の五軸評価を受けた。
僕の記録は、
**理解力 ★★★★★**
分からないことを自分で調べ、整理できる。
**忍耐力 ★★★★★**
すぐに答えが出なくても考え続けられる。
**発想力 ★★★★★**
小説の世界設定を作り、複数の可能性を考えられる。
**継続力 ★★★★★**
三年間、小説を書き続けた。
**回復力 ★★★★★**
失敗や落ち込みから、自分で立て直す方法を身につけた。
全部が五つになっていた。
けれど、僕は星の数を見て喜ぶより、
**一年生の頃の記録**
を見返していた。
三つ。
三つ。
三つ。
三つ。
三つ。
「本当に変わったな……」
僕は思った。
でも、五軸が全部五つになったからといって、
「もう成長しなくていい」
わけではない。
むしろ、これからが始まりなのだと思った。
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## 卒業式
卒業式の日。
体育館には、三年間見慣れた先生たちが並んでいた。
石橋校長の姿もあった。
式辞の中で、校長先生はこう話した。
「皆さんには、それぞれ違った得意があります」
「まだ見つかっていないものもあるでしょう」
「それで構いません」
体育館は静かだった。
「人生には、学校のテストのような正解がない問題がたくさんあります」
「そのときに必要になるのが――」
僕は分かっていた。
校長先生が五つの言葉を口にする。
「理解力」
「忍耐力」
「発想力」
「継続力」
「そして、回復力」
僕は少し笑った。
三年前なら、
「また五軸か」
と思っていたかもしれない。
今は違う。
この五つは、僕の中に残っていた。
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## 卒業
式が終わった。
教室に戻る。
机の中を整理する。
最後に、僕は教室を見回した。
一年生の頃は、ただ普通の中学生だった。
特別な才能もないと思っていた。
でも今は、
「自分には小説を書くことが好きだ」
とはっきり言える。
それだけでも、大きな変化だった。
健太が声をかけてきた。
「直人、行こうぜ」
「うん」
教室を出る。
廊下を歩く。
校長室の前を通る。
僕は立ち止まった。
ドアの向こうでは、石橋校長が次の年度の資料を整理していた。
僕は小さく頭を下げた。
そして学校を出た。
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### 数年後
高校に進学してからも、僕は小説を書き続けた。
もちろん、勉強が忙しい時期もあった。
書けない時期もあった。
設定を全部作り直したこともある。
何度も、
「もうやめようかな」
と思った。
それでも、しばらくするとまた書き始めた。
金庫にしまっていたノートは、いつしか本棚に並ぶようになった。
もう隠す必要はなくなった。
そしてある日。
僕は一冊目のノートを開いた。
そこには、二年生の頃に書いた言葉が残っていた。
**「主人公は、失敗しても立ち直れる人間にする」**
僕はその文章を読み、
「やっぱり、僕の話だったんだな」
と笑った。
永山中学校で過ごした三年間。
僕が一番身につけたものは、
知識でも、
成績でも、
技術でもなかった。
**「失敗しても、また始められる」**
という感覚だった。
そしてそれは、卒業してからも、
ずっと僕を支えていくことになった。




