第五章 二年生になった
第五章 二年生になった
春。
僕――佐伯直人は、二年生になった。
クラス替えがあり、担任も変わった。
新しい教室。
新しい先生。
そして、去年まで一年生だった僕たちは、今度は**後輩を迎える側**になった。
入学式の日、新入生を見ながら思った。
「去年は、僕もあんな感じだったんだな」
少し緊張している新入生。
先生の話を真剣に聞いている子。
友達と小声で話している子。
みんな違う。
校長先生からの発表
始業式。
石橋校長が壇上に立った。
「皆さん、二年生になりました」
僕たちを見る。
「去年、この学校では五軸評価を始めました」
体育館に少しざわめきが起こる。
「今年は、もう一歩進みます」
スクリーンに文字が映った。
生徒学校改善会議
「学校を良くする方法を、生徒自身に考えてもらいます」
僕は驚いた。
隣の友達が、
「生徒会みたいなもの?」
と小声で聞いてきた。
僕も分からない。
校長先生は続けた。
「ただし、これは生徒会とは少し違います」
「学校行事を運営するだけではありません」
「授業、校則、休み時間、図書室、部活動、学校設備、相談しやすさ――」
「皆さんが普段感じていることを、学校改善につなげます」
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最初の会議
各クラスから数人ずつ代表が選ばれた。
なぜか僕も選ばれた。
「僕でいいの?」
担任に聞くと、
「去年のグループ活動を覚えているか?」
「はい」
「みんなの意見を聞いて、最後にまとめていたから」
僕は少し照れた。
会議室には、二年生、三年生、一年生の代表が集まっていた。
校長先生もいる。
「最初から立派な案を出す必要はありません」
校長先生が言った。
「まずは不満を書き出してください」
「不満?」
「はい」
「学校の嫌なところ、不便なところ、もっとこうなればいいと思うところ」
紙が配られた。
僕は考えた。
最初に書いたのは、
「昼休みの図書室が混んでいる」
だった。
別の生徒は、
「体育館をもっと使いたい」
「相談したいけど先生が忙しそう」
「宿題が多い日と少ない日の差が大きい」
「教室が暑い」
「部活動の終了時間が分かりにくい」
などを書いた。
すると校長先生が言った。
「いいですね」
僕は思った。
「こんなこと、言っていいんだ……」
僕の提案
僕には、もう一つ気になっていることがあった。
授業中、
「分からないけど、質問するのが恥ずかしい」
という人が多い。
僕自身もそうだった。
そこで僕は発言した。
「質問を書く箱を作ったらどうですか?」
みんながこちらを見る。
「授業の最後に、分からなかったことを紙に書いて入れるんです」
「名前は書かなくてもいい」
先生たちが答えをまとめて、次の授業の最初に説明する。
校長先生が聞いた。
「なぜ、それが必要だと思った?」
僕は答えた。
「分からないって言うのが恥ずかしい人がいるからです」
「なるほど」
校長先生は頷いた。
「五軸で言えば?」
僕は少し考えた。
「理解力……ですか?」
「それだけではない」
校長先生が言った。
「質問すること自体が、回復力にもつながる」
「分からない状態を放置せず、立て直そうとしているからです」
僕は納得した。
「質問ポスト」
翌月。
各学年の廊下に、小さな箱が設置された。
名前は、
質問ポスト。
誰でも匿名で質問できる。
「数学のここが分かりません」
「英語のこの文の意味が分かりません」
「友達と喧嘩したとき、どうしたらいいですか」
「進路ってどうやって決めるんですか」
最後の方は、勉強とは関係なかった。
でも校長先生は、
「学校に必要な質問なら、何でもいいでしょう」
と言った。
先生たちは質問を分類した。
授業について。
生活について。
人間関係について。
進路について。
設備について。
そして毎週金曜日、
「質問ポスト回答時間」
が設けられた。
意外な質問
ある週、こんな質問が入っていた。
> 「失敗すると、ずっとそのことを考えてしまいます。どうしたらいいですか?」
先生たちは回答に困った。
そこで校長先生が言った。
「これは五軸評価の第五軸ですね」
そして全校放送で話した。
「失敗を忘れる必要はありません」
「失敗したことを覚えているから、次に同じ失敗を避けられます」
「ただし――」
少し間を置く。
「**失敗した自分と、これからの自分を同じものだと思わないことです**」
僕はその放送を聞いていた。
校長先生は続けた。
「昨日失敗した自分がいても、今日の自分には今日の選択があります」
その言葉は、去年よりも深く感じられた。
二年生の夏
僕たちは少しずつ学校を変え始めた。
図書室の利用方法が変わった。
質問ポストが定着した。
体育館の使用ルールも、生徒の意見を聞いて改善された。
そして、もう一つ。
「失敗事例発表会」
が始まった。
誰かの失敗を笑う会ではない。
「自分が失敗したこと」
「原因」
「どう直したか」
「その後どうなったか」
を発表する。
僕も発表した。
一年生のとき、英語の発表で止まってしまった話。
みんなの前で話すのは恥ずかしかった。
でも、話し終わった後――
拍手が起きた。
僕は少し驚いた。
「失敗した話なのに……」
隣にいた友達が言った。
「直人、それもう失敗じゃなくて経験じゃん」
僕は笑った。
「そうかもな」
二年生の夏休み前
ある日、校長先生から呼ばれた。
「直人、少し頼みたいことがある」
「何ですか?」
「来年度、五軸評価をどうするか考えるための生徒代表になってほしい」
「僕が?」
「二年間受けてきた生徒の意見が必要なんだ」
僕は考えた。
入学したときの僕は、
「得意なものなんてない」
と思っていた。
今の僕は違う。
自分に何ができるか、少し分かるようになってきた。
僕は答えた。
「やります」
校長先生は笑った。
「ありがとう」
そして帰り際に言った。
「ただし、直人」
「はい?」
「君の意見が正解とは限らない」
「はい」
「だから、他の生徒の意見をよく聞いてくれ」
僕は頷いた。
それは去年からずっと続いている、
五軸評価の本当の意味
なのかもしれなかった。
自分だけが成長するのではない。
人の意見を聞き、
考え、
失敗し、
また考える。
二年生になった僕たちは、
今度は**学校そのものを成長させる側**になっていた。




