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5軸の中学  作者: toiasa
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校長に転生

校長に転生


第一章 五つの力


気が付くと、石橋拓郎は校長室にいた。


年齢は40歳。


そして目の前には、


「D県立永山中学校 校長 石橋拓郎」


と書かれた名札が置かれていた。


「……校長?」


机の上には学校要覧、職員名簿、生徒名簿、各種書類。


窓の外を見る。


校庭では生徒たちが体育の授業をしていた。


拓郎はしばらく黙っていた。


やがて、小さく笑った。


「そうか……」


前世の記憶が少しずつ戻ってくる。


教師という仕事には興味があった。


学校という場所にも興味があった。


そして何より、


一度、学校そのものを自分の考えで動かしてみたかった。


もちろん、校長になれば何でも自由にできるわけではない。


教育委員会もある。


法律もある。


保護者もいる。


地域もある。


教師にも、それぞれの考えがある。


それでも――。


「やってみたかったことを、やってみるか」


拓郎は立ち上がった。




五つの軸


最初に取り組んだのは、成績評価だった。


もちろん、


国語、数学、理科、社会、英語。


それらの学力評価をなくすつもりはない。


学力は大切だ。


しかし拓郎は思っていた。


「テストの点数だけで、その子の成長を判断するのは違う」


例えば、


テストでは30点だった。


しかし、その生徒が以前は10点だったなら、大きな成長だ。


何度失敗しても挑戦している生徒もいる。


友達の相談に何度も付き合っている生徒もいる。


一度落ち込んでも、自分で立ち直っている生徒もいる。


そういうものを学校が評価しなくていいのだろうか。


そこで拓郎は、新しい評価制度を考えた。


**「五軸評価」**


である。


第一軸 理解力


「分かったことを、どれだけ理解できているか」


単なる暗記ではない。


自分の言葉で説明できるか。


別の問題に応用できるか。


分からないところを自分で発見できるか。




第二軸 忍耐力


「うまくいかないとき、どれだけ粘れるか」


一度失敗した。


そこで終わりではない。


二回目に挑戦した。


三回目も失敗した。


それでも方法を変えて挑戦した。


その過程を評価する。


---


第三軸 発想力


「別の方法を考えられるか」


正解を一つ覚えるだけではない。


「もっと簡単にできないか」


「逆に考えたらどうなるか」


「別の道具を使ったらどうなるか」


そんな発想を評価する。




第四軸 継続力


「続けることができるか」


毎日少しずつ勉強する。


部活動を続ける。


読書を続ける。


植物を育てる。


研究を続ける。


目立つ成果がなくても、


**続けたことそのものを評価する。**




第五軸 回復力


そして最後。


拓郎が最も重要だと思っていたもの。


「メンタルの立て直し」


である。


失敗した。


怒られた。


試合に負けた。


友達と喧嘩した。


テストで悪い点を取った。


発表に失敗した。


そんなとき、


「もう駄目だ」


で終わるのではなく、


「じゃあ、次はどうする?」


と考えられる力。


それを、


**回復力**


と名付けた。




 職員会議


数日後。


拓郎は職員室で五軸評価について説明した。


「成績をなくす話ではありません」


教師たちは静かに聞いている。


「学力評価とは別に、生徒が成長していく過程を見る評価を作りたいんです」


一人の教師が質問した。


「しかし校長先生。そんなもの、どうやって数字にするんですか?」


「最初から完全な数字にはしません」


拓郎は答えた。


「むしろ、数字にしすぎない」


ホワイトボードに五つの言葉を書く。


理解力

忍耐力

発想力

継続力

回復力


「例えば、この生徒は以前は数学が分からなくなるとすぐ諦めていた。でも最近は先生に質問するようになった」


「それは成長です」


「この生徒は失敗すると落ち込む。でも翌日にはまた挑戦するようになった」


「これも成長です」


教師たちが少しざわつく。


「学校が見つけるべきなのは、『誰が一番優秀か』だけではありません」


拓郎は続けた。


「**昨日の自分より成長した人間を見つけることも、学校の仕事だと思っています**」


しばらく沈黙。


やがて、一人のベテラン教師が口を開いた。


「……面白いですね」


別の教師も言った。


「確かに、今まで評価してこなかった部分です」


しかし、反対意見も出た。


「でも、先生によって評価がバラバラになりませんか?」


「なります」


拓郎は即答した。


「だから最初の一年は試行期間です」


そして付け加えた。


「失敗していいんです」


教師たちが顔を上げた。


「この制度そのものも、五軸で評価します」


「……学校改革そのものを?」


「はい」


拓郎は笑った。


「理解できているか」


「忍耐強く改善できるか」


「新しい発想が出ているか」


「継続できているか」


「失敗したとき、立て直せるか」


職員室に笑い声が起きた。


---


 生徒への説明


翌週。


全校集会。


拓郎は壇上に立った。


「今日から永山中学校では、新しい取り組みを始めます」


生徒たちが見る。


「これまで通り、勉強も大切です」


「でも、学校ではもう一つ大切にしたいものがあります」


黒板に五つの言葉が映し出された。


**理解力**


**忍耐力**


**発想力**


**継続力**


**回復力**


「この五つです」


生徒の一人が手を挙げた。


「校長先生、回復力って何ですか?」


拓郎は笑った。


「例えばテストで30点を取ったとします」


ざわざわする。


「落ち込むでしょう」


「はい」


「私も落ち込みます」


笑い声。


「でも、そこで終わらない」


拓郎は言った。


「なぜ30点だったのか考える」


「先生に聞く」


「勉強方法を変える」


「もう一度やってみる」


「それが回復力です」


そして最後に、こう言った。


「この学校では、**失敗したことだけを理由に、人を駄目だとは決めません**」


体育館が静かになった。


「失敗した後に何をしたかも、ちゃんと見ます」


その言葉は、何人かの生徒の心に残った。


---


その日の放課後。


校長室。


拓郎は一人で新しい書類を作っていた。


題名は、


「永山中学校 五軸成長記録」


まだ完成していない。


制度上の問題もある。


教師の負担もある。


保護者への説明も必要だ。


教育委員会との調整も必要になる。


それでも拓郎はペンを走らせた。


「さて……」


そして小さく笑う。


「次は、授業そのものを変えるか」


永山中学校の改革は、


まだ始まったばかりだった。


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