009 次から次へと
美味しかった。あまりにもお肉が美味しすぎて、一瞬で外が暗くなっちゃった。さっきまでは明るかったのに。
遅めの昼食からのそのまま夕食突入、モヒさんはお酒が回って完全に熟睡。他のお客さんも泥酔してほとんど起きてない。それはそう……なんせ何度食べても美味しいし、どれだけ食べても幸せな味。本当にキングボアは美味しいの中でも最上位クラスだったから。
「ヒャアさん、キングボアのほろほろ焼きってどうやって作るの?」
「ヒャア!! いい質問だなぁ!! 本当はこれ、全く完成からは程遠いんだぜぇ!!」
「えっ」
キングボアのほろほろ焼き。圧力鍋っていう、密封が可能なお鍋でお肉がとろとろになるように柔らかくして、それにこんがりと焼き目をつけた料理。香辛料が染み込んだ肉汁、骨を持ち上げるとほろほろと崩れる肉塊、ヒャアさんの渾身の一品だと思ってたのに……これが完成から程遠い? 嘘も大概にして欲しい。
「実はな、圧力鍋を使うのは時短なんだ。本当は窯みたいなところでじっくりとやるのさ。肉を臭み消しのデカい葉っぱで包んでそいつに泥を被せてな、数日間熱し続けて極上の味を出すのが本物なんだ」
「つまり、これはその時短版ってこと?」
「そういうこったぁ! しかも今はちゃんとした香辛料がな、50種類以上も使い放題ときた!! 極上を超える天上のほろほろ焼きを出せるぜ!!」
そうなんだ~。これ以上の品、天上のほろほろ焼き……。
今すぐ、食べたい。
「つまり、窯みたいなところで長い時間置いておければ、良いってこと?」
「まあつまりそうなるな!」
「ん……」
『ジーナちゃん? 何かロクでもないこと考えてる顔だよ?』
つまり、熱のこもった場所に長時間放置出来れば良いってこと。そしてそれを短時間で調理するには、時間の部分を解決出来れば良い……。
レイショーししょーが昔こんなことを言ってた。確か、制約と誓約。能力の発動条件を限定的にして、それを破らない限り威力を極大に増加させられるっていう技術。殺戮の女神はまさにそれで、私の髪が触れたと宣言することと、すいっちをおんにすることで威力諸々を調節出来るようになる。
「マジックバッグに、制約と誓約みたいなのを課せば、いけるかも……?」
『ジーナちゃ~ん?』
コピーしたマジックバッグを流用しよう。マジックバッグの性能をテキトーに作った鋼鉄の箱に継承させて、このマジックボックスに制限を設ける。
まず、生きている生き物は入れられない。料理に関係するものしか入れられない。火属性の魔石を内部に格納し、永久的に放熱と魔石の魔力回復が出来るように術式を刻む。その代償として箱の内部の温度を調節出来るようにして、熱源の場所からどの程度離して収納するかを選べるようにする。
そしてマジックバッグの本質、時間の保存。これを解除して時間が進むようにする代わりに、中に入れたものの経過時間を加速させられるように調節出来るようにする。
直接手を入れることが出来なくなる代償として、外付けの水晶板でこれらの調整を容易に出来るよう手を加えて、マジックボックスの上部に置いた食べ物を内部の広い空間に転送出来るようにする。まずは動作チェックから。
「ヒャア! なんか作ってるみてえだが、それはなんだぁ!」
「ん~。内部に永久の熱源を格納した、反転マジックバッグ? マジックボックス?」
「意味わかんねえ!! よもぎちゃんは、これがなんなのかわかるかぁ?」
『ん~……わっかんない! ジーナちゃんは意味わかんないものいっぱい作るから!』
「そっヒャア!」
出来上がるまで時間がかかる焼き芋。さつまいもを内部に転送して、熱源から程よい距離を選択して、温度の調節をして、とりあえず時間経過を60倍にする。1秒で60秒経過するから、10秒で10分、20秒で20分って経過する。これで時間がかかる料理もあっという間に出来るはず。最大で600倍まで加速出来る。超加速で連続して使うと魔力不足になっちゃうから、なるべく間隔はあけて使わないとだけど。
「取り出し。あ、出来た」
「…………そんなすぐに出来上がるものじゃないだろ。なんだこれ、魔法か? 神の作った代物か? どういう原理だ? どうやって使う? どうすれば良い?」
「え、え、えっと。食べ物を箱の上に乗せて、この水晶板に表示されてる場所を選択して、熱源の温度と、時間経過の倍率を選んだら使える……」
「ほろほろ焼きだ。今すぐだ、すぐにもだ!! 本物のキングボアのほろほろ焼きを作らねばならんのだぁ!! うっヒャア!!」
「あんた!! もう食べる客が居ないんだっての!!」
「お前!! 俺がこの、最高の調理道具を目の前にして、待てると思ってんのかぁ!? あぁん!?」
あ、こ、これは、責任を取らないと。しーらないなんて、絶対に言えない。
作った料理を最高の状態で保存出来るような魔導具を~……。手軽に使えて、見た目でわかりやすくて、う~ん……! う~ん……!!
あ!! これこそマジックバッグの応用でいい。マジックバッグの根本的な作り方がわからないから、とりあえずコピーと応用しか出来ないけど、出来る!! まずはマジックバッグをコピーするためにてきとーな袋をいっぱい用意して、中にそこそこの魔石を投入して術式をコピー! これで同じ品質のマジックバッグは量産出来る。
そしたら、このマジックバッグの保存機能を、大皿と店で見た皿を覆うやつに移す。ガラスのクローシュにすれば、何が入っているか一目瞭然。作りたての料理がいつまでも作りたてのまま、見た目も良く保存出来る。マジックバッグの中に料理をそのまま移したら、絶対に型崩れしちゃうから、この方式のほうが良いはず。
――――とりあえずいっぱい作っとこ。
「すげえ、すげえ。革命だ……!! ヒャア!! 革命的調味料、革命的食材、革命的調理器具!! そしてこれは、なんだ!!」
「りょ、料理をそのまま保存出来る、お皿……。この蓋とセットの時だけ、保存出来る」
「革命! 革命! 革命! 革命!! クアドラプル革命だァーー!!」
それから、ヒャアさんは止まることがなかった。水を得た魚のように、ノンストップで時間がかかる料理を作り続けた。
焼く料理だけにとどまらず、鍋ごと箱の中に投入して煮物、揚げ物まで自在に作れるようになった。なってしまった。私が意図していない『エリアごとの温度と時間調整』までいつの間にか可能にして、よくわからない複雑な進化を遂げていた。ヒャアさん曰く『そうなって欲しいと願って叩いたら出来た』とのこと。多分、本人ですら無自覚の凄まじいパワーが働いたんだと思う。
「…………もう、皿がねえのか」
「あんた、置き場がないんだよ」
「そう、か……。じゃあ、寝る……か」
「ああ、そうしとくれよ。ジーナちゃんも、こんな時間まで付き合わせて悪かったね」
「ううん、私が変なの作ったから、責任がある」
物づくりは責任と隣り合わせ。作って、はい終わりなんて三流以下。作ったあとの面倒が見れて二流、使う人の面倒も見て一流。
今回は最後まで付き合ったから、多分一流の仕事が出来たと思う。今後ヒャアさんに改良を頼まれたら、その時は快く改良しようと思う。
「ジーナちゃん、こういう変わったものを作るのが好きなんだったらね、この宿にたまーに泊まりに来る変わり者の子が詳しいんだよ」
「ん? ふーん、ちょっと会ってみたい」
「興味がありそうな子が居たら紹介して良いって言われてるからね。住所を書いたメモ書きを出しとくよ! さて、その前に後片付けだねぇ……」
「手伝う」
『わう! ジーナちゃんは洗い物も得意なんだよ!』
「よもぎは食べる専門」
『きゃうーん……』
「ありがとうね。流石にこの量を深夜にってのは、骨が折れると思ってたんだよ」
変わったものを作るのが好きな人かぁ~……。また私の知らない技術を持った人かもしれないし、会ってみよう。明日やりたいことが決まって、なんだか嬉しい。
ほとんど目標のない旅だったけど、王都に引っ越してきてから毎日明日を迎えるのが楽しみになってる。早く明日にならないかな~。楽しみ楽しみ~。
「浄化水」
「水なら魔導具で出せばいくらでも……って、これはなんだい!? 凄い、油汚れがモリモリ落ちていくじゃないか!!」
「ふふ~ん」
その前に、今日やるべきことを終わらせる。私、食器とかの洗い物も、洗濯物もお掃除も、全部得意だよ。あんまりやりたくないだけで。




