004 わんこがいっぱい
ケルフィード王国の王都ケルフ、到着~。
途中でリタのばかわんこが騒ぐから、何度も魔猪とか魔狼とかに襲われた。外の世界って魔物がいっぱいで、本当に大変なんだ~。ししょー達はこういう魔物のことを『指先ひとつでぇ、ドゥ~ンさぁ~』とか言ってた。いつか私も、デコピン一発で魔猪をしばき倒せるぐらい強くなりたい。
「ねえね」
「はい? どうなさいましたか、ジーナさん」
「御者は要らないって言ったのに、なんでわんこが御者してる?」
「あのですね。御者不在の馬車が突然突っ込んできたら、混乱を招きますでしょう? それにこれは王家の馬車。護衛が居ない時点で異常事態ですのに、御者すら居ないとなれば……」
「ふぁあ~……」
「人が説明をしているのにあくびをしない!!」
だって、なんか難しい話してるから面倒臭くって……。
『ジーナちゃん、このほうがスムーズに通れるんだって!』
「ん、よもぎちゃん天才。説明、わかりやすい」
「はぁ~……。なんという低レベルな説明で……」
「わかりやすいは、ハイレベル。面倒臭い言葉ばっかりが、賢いとは限らない」
あのわんこが交渉をまともに出来るとは思えない。だって現に、わんこは王都に入るための列を抜かして横入りしようとしてるし。横入りは悪いやつなんだって、ししょーが言ってた。順番を守れないやつはクズだ、生きていちゃいけない存在なんだ~って。
「横入りするの? 悪いことだよ?」
「どうしてそういうところは常識的なんですか……!!」
『ジーナちゃん、王家の馬車は特別なんだよ~多分!』
「そう、そうです。特別なんです。王家ですから」
「そうなんだ~。じゃあ、悪くないか」
あ、特別だとかなんだとか言ってたけど、やっぱり門のところで止められた。わんこ、怒られちゃえ~……。ほら! 門のところのおヒゲ、怒ってる!! あれ、でもわんこに怒ってるわけじゃないみたい。なーんだ、つまんないの。
なんか色々と話をしてるみたいだけど、周囲の人がこっちを見て『王家の馬車……?』『リタ様か……!? よくご無事で……』『チッ、しくじったか、ゴミ共が』とか、いろんなことを言ってる~。
そもそも思ったんだけど、リタってなんで外に出てたの? 王都でぬくぬく生活してればよかったのに。
「リタって、なんで外に出たの?」
「同盟国との会談です。詳しいことは言えませんが……。とある事件に対して、どう対処していくかとお父様の代わりに出向いていたのです。もうすぐ学園に入るので、これが最後とはなってしまいますが」
「ガクエンって、なに?」
「ええと、大勢との生活を通して集団行動の大切さなどを学んだり、知らない知識や身につけていない技能を学ぶ場所、でしょうか?」
「あ、ししょーが居て、そこで色々とお勉強するところなんだ」
「…………はい。そうですね、その通りです」
へえ~ししょーが居るところなんだ~。私が知らないことは、ぜーんぶオーサンししょーが教えてくれたけど、オーサンししょーですら説明が困難だったこととか、ガクエンにはまだまだ知らない知識がたくさんあるかも?
「学びの園と書いて、学園です。これからわたくしも3年間、そこに入る予定なのです」
「出てくる時は18歳だね~」
「そうですね…………。なぜ年齢を知っているのかは、聞かないでおきます」
「私も、15歳。学園、入れる?」
「…………はい?」
え、なにその反応。もしかして、私は入れないの? 知らないことがいっぱいある場所なのに?
「え、申し訳ありません。15歳、なのですか? てっきり12歳ぐらいかと……」
「絶対美麗少女、12の時に貰ったギフトのおかげ。ししょー達の可愛い娘であり続けるギフト。むふーっ」
「…………ナーンジェイは未解明のギフトすらも自在に与えることが出来る……? 危険だわ、やはり危険過ぎる……。この子を野放しにするのもまた……」
「何か言った~?」
『ジーナちゃん! 誰かこっちに走ってくるよ!!』
あ、それは気がついてた。だからリタがなんか喋ってたけど聞きそびれちゃったんだよね。さっきからこっちに向かって、物凄くギラギラした目線を送ってきてた奴が居たから、気になって仕方なかった。
多分、殺し損ねた山賊か誰かかな~? わんこも離れていてこっちを警戒していないし、リタが1人だけになったと確信して突っ込んできたんだろうね~。どうしよ、殺せば良いのかな?
「敵、きた」
「ええ!?」
『頭を低くして! ジーナちゃん、こっちは大丈夫!!』
まだ日が高い内に、王都の玄関とも言うようなこの場所で堂々と。相手にはよっぽど余裕がないってことかな。これを逃したらもうチャンスはない~みたいな、そんな焦りを感じる~。
敵は、1人だけ。短剣を2本、鉄製ではないみたい。多分、毒も塗られてる。
でも、これぐらいの相手はししょー達の家に何十人も襲撃してきたし、ししょー達の住んでる街に居たこういうやつらのアジトも、全部私が潰してきた。
「攻撃形態」
髪の毛を攻撃形態に。天使の翼みたいな見た目は防御形態と変わらないけれど、防御性能を捨てて殺傷力に特化させた翼は、岩石だろうが鋼鉄だろうが、生半可な硬さのものはバターを溶かすぐらい簡単に斬れる。
「あ! おかーさん、みてみて、てんしさまだ~!!」
「天使……」
「本物の……!?」
「白金の、天使……!!」
「死ね……!! 銀色の天使!!」
あ、人違いです。はばたけ、アサルトフェザー。
「覚悟――――」
魔法硬鎧もなしにアサルトフェザーに触れたら、そりゃあ~あっという間に輪切りになっちゃうよ。魔法硬鎧が使えるようになってから、出直してきてね。もっとも、今まで使えた人は4人しか見たことないけど。
「おかーさん? てんしさま、みえないよ~」
「しっ!! 見ちゃダメよ……!!」
「うっ、嘘だろ……。あんなに、簡単に……」
「王家の馬車が、襲撃されたのか!?」
「今のはなんだ、何が起こったんだ!!」
「殿下ーーッ!! リタ殿下!! リタ殿下は!?」
ん、うるさいわんこ。馬車で大人しくしてる。
あ、自分で先に確認して勝手に安心してる。まあちょっと目を離した隙にこんなことばっかり起きてるんだったら、このわんこがしょっちゅうガルガルギャウウウウしてるのも頷ける。心が休まる暇がないっていうか、大変そう。
「……君が、ルリアーナが話していた、ジーナさん……だね?」
「う? うん、ルリアーナが話してたかは、知らないけど。おヒゲ、誰?」
「おヒゲ……。ああ、失礼。名乗るのが遅れたね。私の名前はヴェルフェローム・アドリアーノ」
「ゔぇゔぇゔぇゔぇ、ゔぇゔぇ……」
「…………おヒゲさんと呼んでくれたまえ」
「おヒゲさん」
よし、この人の名前はおヒゲさん。覚えた。
おヒゲさんはルリアーナ……えっと、わんこのじょーしか何か? 話を聞いたって言ってたけど、どこまで聞いたの?
「うむ、ではジーナさん。まず君の身元についてだが、ルリアーナが保証人となってくれた。その間に先程の襲撃事件があったわけだが……」
「襲ってきた。倒した」
「そうだな、うむ……。恐らくあれは、秘密結社ナーンジェイから放たれた刺客だろうというのが、私の見解だ。君も十分に注意してくれたまえ」
「…………え?」
「うん? 秘密結社ナーンジェイを知らないのかね?」
あれ、わんこから話を聞いたって言ってたのに、私がそのナーンジェイで育てられた存在だってところは話をしてないの? もう~あのわんこったらおっちょこちょいなんだから~。
「私、ナーンジェイで育てられた。あんな弱っちいやつ、知らない」
「…………うん?」
「あれ、ナーンジェイじゃない。ただの山賊か、ちんぴら? きんぴら?」
「…………うん!?」
「そういうことだから、ただの雑魚。知らないやつ」
とりあえず、リタの馬車に戻ろ~。よもぎちゃんにリタのことを任せっきりだったし、わんこも駆け込んでいったし、どうなってるか心配だから。
さて、と。リタの様子は~……。
「わんわんわんわん!!」
『わうわうわうわう!!』
「なにやってるの」
「大事な時に居なかったルリアーナを、よもぎさんが叱責して……」
「忙しかったし、こんな場所で堂々と襲撃してくるとは思わなかったんだ!!」
『どんな時でも主人を守るのが忠犬の役目だよ!!』
「『がううううううううううう!!』」
あ、お邪魔しました。飽きるまでやっててね~。
じゃあ私、王都を散策したいから入って遊んでくるから。
「いや、いやいや待ってくれ!! 今の話を聞いて、さすがに入れるわけにはいかない!!」
「……リタ~。おヒゲがいじめる~」
「ええ!? おヒゲって誰ですか……ええ!? ヴェルフェロームさん!! どうなさったのですか!?」
「リ、リタ王女!! この者がその、あの結社の者であると、とんでもないことを……」
「あ、そうですわよ。ジーナさんはナーンジェイの構成員で間違いありませんが?」
「…………それがどうして一緒に乗っていて、ルリアーナが身元保証人になるのですか!? あのナーンジェイですよ!? あの極悪非道の!!」
え~? ししょー達、王都で本当に何をやらかしたの~? ししょー達って、ケルフィード王国の辺境の街、セルティの街からほとんど出てなかったはずだけど……?
「放火! 殺人! 強盗! 禁制の品の密輸入!! 上げればキリがないほどの犯罪の数々!! ナーンジェイの関係者だと言うのであれば、即刻処刑!! 処刑でありましょう!!」
「それがナーンジェイの仕業だという証明は? 未だに出来ていないのではなくて?」
「いえしかし!! ここまで上がる噂がどれも同じであれば、それは真実!!」
え? 大兎を捌くことが出来ない、水撃爆発を見ただけで吐いちゃう優しいししょー達が、そんな重犯罪を? 凄い、格好良い。いつもは演技だったんだ……!! やはりししょー達は神。最強の存在……!!
「ですからそれは――――」
「ええ、だからこそこの者は――――」
「ん……ししょーは最強、桁違い……」
『わうっ! ジーナちゃん、なんだか師匠達の悪評が広まってるみたいだね!』
「有象無象にはわからないか。ふっ……」
『そんなこと言ってる場合じゃないと思うんだけどなぁ~……』
――――この後、おヒゲとリタの口論は暫く続いてた。周りの人はドン引きしてたし、襲撃者の身元も判明しないし、とりあえず大変そうだった。
私? お腹が減ったから、王都の屋台で串焼きを買って食べてたよ。味気ないから、ミックスハーブをどばーっとかけたら凄く美味しかった。
最終的に、私が所属しているナーンジェイと、王都で暗躍しているナーンジェイは別組織なんじゃないかって話で終わったらしい。まあ、ししょー達が王都に行ったことがあるのは私が生まれる前のことだったみたいだし、冷静に考えればししょー達が近年ここで暴れていたら辻褄が合わない。
とりあえず、ナーンジェイの名を騙る不届き者は、私がギッタンギッタンにしてやろうと思った。王都での目標が出来て、ちょっと嬉しい。
それと、おヒゲは勘違いだったと後で謝ってくれた。おヒゲはここの守備隊長なんだって。国のわんこ。みんな大変だね。




