022 翼を得た者、翼を失った者。
イライザが出発する前に、よもぎちゃんが『手紙とかやりとり大変だね! 僕とさくらちゃんが使ってる共有能力を、転用出来たりしないの?』って言われて、うん。やってみるもんだよね。
「はい、出来た」
「ああ、そんなに簡単に渡しちゃうんですから……」
とりあえず仮称パブリックボックスが完成した~。異空間収納能力がある小箱を真っ二つにして、中をよもぎちゃんとさくらちゃんの使ってる特殊な空間魔法で接続した箱。
ただ、よもぎちゃん達の能力みたいに大きなものもとはいかなくて、色々と制限は必要だったよ。入れられてもお米2キロが限界? 手紙のやり取りぐらいなら支障がなさそうだから、とりあえず大丈夫そうではあるんだけど、元が200キロは入る箱だったから、いやぁ~内容量がすっご~く小さくなったね~……。しかも、連続した使用はちょっと難しそう。再使用可能になったら、外付けの青い宝石がぽや~っと淡く光るようにした。使えない時は消灯って感じ!
「パブリックボックス、名付けて……」
「パブリックボックスのままでよろしいのでは……?」
「…………?」
「え、あ、申し訳御座いません。名付けは必要ですね」
そう、名付けは重要。実は寸胴鍋にも名前がつけてある。ずんちゃん、どんちゃん、ずどちゃん、どうちゃん、うどちゃん。あ、槍と特大剣にはつけてない。思い入れがないから。
思い入れがあるものには、なるべく名前をつけるようにしてるんだ。だって、そのほうが可愛がれるもん。イライザもそのうち武器に名前をつけてあげるんだよ~?
それよりね、この箱の名前!! パブリックボックスだからぁ~……。
「ブリッボ」
「あ、凄く汚い響きです神。どうか再考して頂けると」
「ん、再考裁判所に有罪をくらった。再考する……」
「再考裁判所…………?」
ぶぅ~……。ブリッボが良かったのに~……。でも確かに、響きがちょっと汚い。イッチししょーが好きそうな響き。
「じゃあ、パックス」
「…………パックスで御座いますか! ええ、良いと思います!!」
「今の間、なに?」
「…………いえ! なんでも御座いません!」
はい、再考裁判所からギリ無罪判決。うーん、この裁判官厳しい。もうちょっと捻って、うーん……。可愛い系でいく?
「パックンと、ボックン」
「パックンボックンで御座いますか! はい! とても良いと思います!!」
イライザは可愛い系の名前が好き。覚えた。
じゃあ、イライザにはボックンをあげようかな。
「じゃあこれ、ボックン」
「パックンですね! ありがとうございます!」
「…………ボックン」
「パックンですね!」
「ボックン!!」
「パックン!!」
あ、この裁判官……横暴だ! 不当な権限でパックンを奪取しようとしてくる!!
『ピッ!!』
「あいっだぁ!? クリムお前何するんだぁ!? いきなり頭を殴るか、なぁ!?」
『ペギャ!!』
「…………そ、それもそうだけど。じゃあ、ボックンを頂きます」
『ピッ!!』
「はい、ボックン。そっちがボックンだから」
「はい……。ありがたく頂戴致します……」
赤ぷにに叱られたみたい。ふっ、これでパックンは私のものだ~。
とりあえずこれで、イライザと手紙のやり取りぐらいは出来るかな。あとは~……定期的にお米を送ってあげようかな? カレーライスのライスがないと、悲しいもんね。ある程度は持たせてあげたけど、イライザも食いしん坊だからすぐに食べ終わっちゃうと思うし。
「そうだ、イライザ~? 体は元に戻りそう?」
「あ、いえ……。そちらはクリムに再生を任せていますが、元には戻らなさそうですね……」
「そっか~……」
「胸は、クリムがなんとしても戻すと意気込んでいるので、食事さえ怠らなければ大丈夫だと思います」
「ん、そっ!!」
「あ、あれ……。なんだかちょっと怒って……?」
「怒ってない!!」
イライザは腸がほとんどなくって、赤ぷにに消化とか吸収を任せてる状態なんだよね。他の臓器はなんとかギリギリ機能するぐらいまでは戻ったみたいだけど……。そのせいでお腹の中がスカスカだから、赤ぷにを詰め込んでおかないと私のお腹より細くて、かなり怖い。凄く怖い。人間のお腹の中身って大部分がなくなるとこんなになっちゃうんだって、恐怖を感じた~。
それから肉体の修復のために、体中から使えるものを掻き集めたから、イライザは偽乳状態~。こっちは元に戻っちゃうんだって。ぺったんこ同盟を組めると思ったのに……。まあでも、ないって程の平坦さでもないけど? ありますけど~? ぷにってぐらいは。
「それじゃ、今度こそいってらっしゃ~い!」
「は、はい! イライザ、いってまいります!」
「頑張れ~」
はぁ。イライザ、いっちゃった。私も王都に暫く滞在して、色んなところに顔を出して、一通り満喫したらロンダス帝国にいってみようかな~? まずは、どこにいこうかな~……。あ、槍が倒れた方向にある場所にいってみよ!!
「えいっ…………うん。明日、アリアのところに遊びにいってみよ~」
明日はターナ大神殿にいこうね~。アリア、治療の腕前は上がったかな~? リジーも一緒に居るんだし、多分大丈夫だと思うけど。
とりあえず今日は帰って、お風呂に入って寝ちゃお~。んふ~ふ~。
◆◆ それから時は過ぎ、ロンダス帝国では…… ◆◆
「…………ケルフィードへ向かった狩人が、帰ってこないだと?」
「は、はっ……! 全く音沙汰がなく……!!」
ロンダス帝国第11代目皇帝となってから、ケルフィード関連で初めてのトラブルが起きた。
狩人、つまりカラス狩り……。暗殺者教団の連中が消息を絶ったと言うのだ。奴らは神への反逆者、神の使徒であるカラスを狩る狩人達……。殺しの技術を幼少から磨き、我に絶対の忠誠を誓う闇の戦士達だ。そんな彼らが、我等を裏切り消息を絶つとは思えない……。つまり、何者かに敗れたのだ。
「異世界の勇者、か?」
「いえ、勇者達に動きはありません……」
「魔王は?」
「魔王は……魔王は、魔王復活の啓示があったあの日より20年以上が経過し、我こそが魔王と名乗った魔族が10年前に、討たれて御座います……」
「しかし、あの老婆は『魔王未だ死せず』と言っているのだろう?」
「はっ……! 今でも、魔王未だ死せずとのことで……。しかし、魔族達の士気は地の底に落ち、魔王となるようなものも見つからず……」
異世界より召喚された勇者達は、元の世界へと転送されず未だにこの世界へ留まっていると聞く。伝承によれば、彼らは魔王を討ち滅ぼせば元の世界へと帰るとされているのだ。
それが帰らない、いや……帰れないのだろうな。つまり、魔王はまだ生きている。存在しているのだ、この世界のどこかに。
「……狩人を殺した何者か。案外、魔王だったりしてなぁ?」
「は、ははっ……! まさか、そのようなことはないとは思いますが……。その説が正しいとすれば、人族を強く恨み殲滅せんとする魔王が、人間と仲睦まじく暮らしているということに……」
「それもそうか。今の話は忘れろ」
「ははっ!! は、は……っ!」
魔王でないとすれば何者だ? 王国の聖なる狂犬、ルリアーナにでもやられたか? いや、王都ケルフは狩人で埋め尽くされている。ルリアーナの自慢部下は山賊に殺され、王城に駐留していた狩人に置き換わっているはずだ。本来はルリアーナとリタも殺されているはずだったのだが、全くどうして生き残っている? 生きて王都へと帰還した、それ以上の情報がパタリと入ってこなくなった。
「それより、先程からどうしてそんなにも顔色が悪い? 何を恐れておるのだ?」
それに此奴、暗殺者教団との連絡員である幹部の男。名は確か、エンゾと言ったか。どうにも様子がおかしい。
「そ、それと……。西の鉱山の件なのですが……」
「ああ、試掘段階の山だったな。あの山は宝庫だと、そう報告を聞いているが」
「原因は不明ですが、山が……小さくなり……。地表の一部が土砂崩れを起こし、麓に滞在していた兵が巻き込まれ大損害を……」
「何ぃ……?」
「しかも、入口が全て塞がり!! 掘り返せども掘り返せども、鉱石は影も形もなく……」
「…………何ぃ…………?」
なんだその、怪談のような話は……。ありえるのか、そんなことが? 一体どういうことなのだ……?
「麓より侵入可能だったはずの古代神の迷宮も、影も形もなくなっており……!!」
「…………」
意味がわからない。ダンジョンが、山ごと崩落して潰れたというのか? いや、影も形もなくなっていたというのが本当に意味がわからない。
崩落したなら少しでも痕跡が残るはずだ。それが、ない? 一切? 何も?
「では、あの山に眠る宝の山というのは……」
「おそらく、何も望めない状態、かと……!!」
「あれがあれば、今度こそケルフィードを完全に支配出来るという話ではなかったか?」
「そう、なのですが……!!」
「出来ぬ、と?」
「…………お、恐れながら」
いや、そんなことはない。ケルフには大勢の狩人が居る。あの国はテテロッティという商人が狩人達と結託し、香辛料の流通を全て遮断している。
保存食の作れない奴らに、長期戦は不可能。短期決戦を仕掛ければ、今度は狩人達が内から食い尽くす。隙を生じぬ二段構え、そしてあの宝の山で三段構えのはず。
「15年だ……」
「は、はっ……!!」
「15年、王都陥落のために築き上げてきた、万全の策だ」
「ははぁっ……!!」
「山がなくとも、奴らにはまともな保存食が作れない。長期戦を仕掛けさえすれば」
「お、恐れながら……!!」
「まだあるか!!」
ええい、今度はなんだ! まだ何かあると言うのか!!
「王都の北に、香辛料畑らしきものを発見したと、猟犬から報告が……!!」
「何……? 何!? なぜだ、流通はテテロッティが完全に止めているはずだろうが!!」
「しかし!! 複数名の猟犬……帝国の息のかかった行商人達から、報告が!!」
「テテロッティ……!! しくじったか!!」
「しかも、王国中にも蔓延していたはずの獣人差別の気配がまるでなく、仲睦まじく生活しており、森の民達とも共存していると……」
「テテロッティをここに呼べ!! 首を刎ねるだけでは足らん!! 出来る限りの苦痛を与え、惨たらしく殺せ!!」
「…………テテロッティの消息も、掴めておりません。商会の跡地には、ペペロンチーノ料理店なる飲食店が……」
「ふざけるなぁあああああああああああああああ!!」
はぁ……!! はぁ……!! なんだ、これは。どういうことだ!? 15年も前から準備していたものが、ほとんど機能していないではないか!! テテロッティは、狩人達は何をしているのだ!? 一体何を!!
「そ、それに、真偽は不明ですが……!! 狩人がシンボルを取り出すと、全員が豹変して狩人を殺すまで追いかける殺戮者と化すと……!! それを見たと!!」
「まさか、狩人が。狩人は……」
「…………既に、全滅している可能性が高いと、愚考致します」
「…………」
何を、言っている……? では、なんだ。
15年用意してきた全てが、水泡の帰したと?
「こ、皇帝陛下……。王都ケルフは数日の内に!! 本当に、ここ数日の内に、おかしくなってしまったのです!! 我々が少し油断した隙に、致命的な何かが起きたのです!!」
「その致命的な何かとは?」
「そ、それが……」
「それを調べるのがぁああああああ!!」
「ひっ……!!」
それを調べるのが貴様らの、役目!! ターナ大神殿などを崇拝している神の下僕共を!! 神の使徒を滅ぼさんと、反逆を誓った我らの!! 我が帝国の!! 悲願ッ!!
勇者? 魔王? そんなものに頼るこの不安定な世界は狂っている。人間が!! 人間の世界を支配すべきなのだ!! そうすべきなのだ!!
だからこそこの帝国が、その崇高なる役目を全うするべきなのだ!! 我が……!! 我々が……!! この皇帝である、我こそが!!
「とっととケルフィードの情報を集めてこい!! 寝る間も惜しんで探れ!! 些細な情報も見落とすなぁあああああ!!」
「は、ははぁああ!! そ、それから、もう1つ……!!」
「今度は、なんだぁあああああ!!」
ええい、ええい!! 次から次へと!!
「慈愛の手という、神を信仰していない者達が善意で運営している孤児院に、新たな修道女が入ったと……」
「そんな報告がなんの役に立つ!! 死にたくなければ、とっとと消えろ!!」
「は、はぁ……!!」
修道女如きが、報告するような内容か!! くだらん!! 実にくだらん!!
この怒り、どう晴らすべきか……。ここは、やはり……アレか。ふんっ……!
「消音障壁は解除した!! おい、誰でも良い。入ってこい!!」
「はい、皇帝陛下! このトルニ、馳せ参じまして御座います!!」
「我は気分が優れぬ。気晴らしがしたい……意味は、わかるな?」
「ははっ!! やはり、アレで御座いましょう!! ですれば、このトルニがまさに適任!! 仮面舞踏会の準備を、大至急!!」
仮面を着け、身分も何もかも関係なく1人の男として一夜を愉しむ……。気に入った女を部屋に連れ込み、熱い夜を過ごすもよし。羽目を外して飲み明かすもよし。ひたすらに踊り明かすのもよし……。そうだな、よし……。
「我が息子達も参加させる。特に下のは女を知ってもよい歳だ。良い女を選べよ?」
「はは~っ!! 皇帝陛下より上級伯の地位を賜りましたこのトルニ!! 必ずや、第二王子に相応しきお相手を用意してみせましょう!!」
ふぅ……。なに、策が潰れて最悪の状態であるのは確かだが、これで帝国が滅びるわけではないのだ。また用意すれば良い……。そうだ、今回は上手くいかなかっただけ……。次がある……。そして我が間に合わずとも、息子達が必ず世界中を……!!
「まずは、英気を養わねば……。ああ、そうだ。今足りないものはまさにそれだ……」
とにかく、また新たに策を練らねばならん。王都ケルフの状態の不気味さ然り、今は派手に動く時ではない。耐える時なのだ。
その前に15年溜まりに溜まったものを発散したい、それだけの話よ。簡単なことさな? 次がある……次が……。
「…………くそがぁあああああああああああああああ!! くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」




