023 嘆きの聖歌
ア~リア~アリア~。ターナ大神殿~。
今日はアリアの職場……職場? 職場って言いかたはマズいかなぁ? とりあえず、行こ~。今日は怪我してる人、居ないよね~?
「――――天使様~!! 天使様、このお宿にいらっしゃると聞きました!! 天使様~!!」
「あ、迷惑客だ」
『ジーナちゃん、今から会おうとしてた人が向こうからきたんだよ』
「…………なんで?」
『わっかんな~い!』
なんで私が向かう前に宿屋へ押し寄せてきたの、この聖女……? 朝……あ、もうお昼だった。今日は起きるの遅かったからね~。
それより本当になんでここへ? もしかして? まさか? いやそんなまさか?
「あ、天使様! 天使様、ご機嫌麗しゅう!! アリアで御座います!!」
「急患……?」
「いえいえいえいえ!! 違います、そんな年がら年中急患が居てはこっちも困ります!!」
『違うんだ~』
「じゃあ、なんで……?」
本当になんで……?
「ただ会いたくなったので!!」
「…………なるほど。私、今日会いにいこうと思ってたところ」
「まあ! まあまあまあ、嬉しい!! このアリア、心が通じ合ったようで本当に嬉しいです!!」
どうしよう、アリアが気分屋さん過ぎて、ぽわぽわしてる日だ。私もちょっと、ほんの少しぽわ~っとしてるところがある気がするけど、アリアは結構ぽわ~っとしてる。ご機嫌なお日様の使徒みたいな。
「…………あの、実はちゃんと理由があります」
「あ、そうなんだ? どうしたの? 私は、アリアの回復魔法の上達を確認しにいこうと思ってたところだけど」
「ええ!? 私の腕を確かめにですか!? まあ、なんて嬉しい!!」
「もしかして、同じ理由?」
これも同じ理由でした~って言われたらどうしよう。ちょっと怖い。
「いえ、実はおいしいご飯が食べられる場所を聞いて回っていたら、こちらが王都で一番おいしいと。そしてなんと、天使様もいらっしゃると聞いてこれはいかねばと思い……!」
「あ、私はご飯のついで。あ、ふ~ん。ふ~ん、そうなんだ。ふ~ん」
『アリアちゃん、これはね、ちょっと怒ってる時のジーナちゃんだよ』
「かわ…………あ、いえ、申し訳ありません! そのような言いかたになってしまい!! 天使様がいらっしゃらなければ、本来外出するかどうかすら迷っていたほどでしたので!! 決め手は天使様がいらっしゃるから、ですよ!?」
むむむ~……。まあ、うん、確かにヒャアさんの作る料理はとてもおいしい。アリアは良い情報筋を持ってるね~。
「ヒャア!? 聖女様じゃあねえか!! なんで俺の宿に聖女様と天使様が両方存在してるんだぁ!?」
「あんた、もっと気合い入れて揚げないと終わんないよ!!」
「ヒャア!! こいつだけは時短調理出来なくてヤバいぜぇ~!!」
おお、ヒャアさんが気合い入ってる。今回ヒャアさんに『なんとか作って~どうにか作って~』ってお願いした料理、多分上手くいってる……はず。
完全再現までは期待してないけど、似たようなものが出来れば凄く嬉しい。正直これは、イッチししょーの作ったものが一番おいしい。メイリンちゃんが完全コピーしようとしても、なんだかイッチししょーが作ったほうがおいしくなる。本当に不思議~。
「さあ、どうだ!!」
「…………どうだろうね。とりあえず、中までは完全に火が通ってるようだけどね」
「これ以上のものは、今日の今日じゃ出来ねえぜえ!! とりあえず、審査員の方ァ~!!」
「はぁ~い」
『はぁ~い!!』
はいはいはい、審査員です。よもぎちゃんと一緒に審査しま~す。
「お待ちどう!! メガロバードの唐揚げだ!!」
「唐揚げ~」
「じゃがいも粉をまぶして揚げるなんて、本当においしいのか不安だったけどねえ」
「いや、間違いない!! こいつは、間違いなくうまい!!」
ん……。見た目は完璧な鶏の唐揚げ。メガロバードのお肉は火が通りやすくて、ふわっとしてて肉汁が多い。このお肉で作った揚げたての唐揚げは、間違いなく……。
「はふはふはふはふはふはふ」
『はふはふはふはふはふはふ』
「まあ、熱いだろうなァ!!」
「熱いだろうねぇ……」
「はふはふはふはふはふはふ」
『はふはふはふはふはふはふ』
ん!! 熱い、でもこの溢れる肉汁!! カリッとした衣に、しっかりとした下味……中まで火が通ってるのに、お肉も固くなってない。完璧~!!
これだけでお米が相当進んじゃう。パンに挟んでもおいしいけど、やっぱり唐揚げはお米が一番。脳に直接効く。カレーに乗せて一緒に食べてもおいしい!
あ、ちなみに私は揚げ物が苦手。少しだけせっかちなところがあって、辛抱強く待つってことが必要な揚げ物はやや不向き~。作れないことはないけど、ヒャアさんが作るものよりずっとずっと下のランクのものになっちゃう。お肉も固くなるし……。衣がまばらで、しかも一部はベチャッとするし。
「……あの、初めて見るお料理ですが、これは?」
「ジーナちゃんがやっつけてきた、メガロバードっていう魔物の肉で作った唐揚げって料理さァ!! まあ、メガロバードがどんなやつかは知らねえが、鳥の肉なのは間違いねえ!」
「私も頂きたいのですが、おいくらですか……?」
「いいや、金は取らねえよ! 試しで作った料理だからなぁ!! さ、食いな!!」
「はふ、ん、食べるべき」
『食べるべき~!』
食いな、アリア。そして悔いるがいい~。唐揚げの虜になってしまえ~。
「…………素晴らしき食事と関わった全ての者に感謝を。は……はふっ、はふはふはふはふ……!!」
「まあ、熱いだろうなァ!!」
「熱いだろうねぇ……」
「私達は別に大丈夫だけど、アリアの口は普通なんだから、焦らず冷まして食べればいいのに」
『でも、揚げたてからしか得られない感動があるんだよ!!』
「わかる。それは凄くわかる」
「はふふふはふ!? はふ、ふふはふはふはふ!!」
「食べてから喋って」
アリア、意外とお行儀が悪い。物凄く興奮してるのはわかるんだけど、もう少し落ち着いて食べて欲しい。仮にも聖女様って呼ばれてるんだから、両手にフォークを持って唐揚げを構えるなんて子供みたいなことしないで欲しい。聖女様ガチ恋勢が多分、泣く。あ、ガチ恋勢っていうのは、えっと……イッチししょーが言うに、本気で憧れている人ってことだって言ってた。
「…………全部頂きたいのですが!?」
「え、食いしん坊」
「ヒャッハッハッハ!! そうかそうか、おいしいと思って貰えたようで俺は嬉しいぜぇ!!」
「うん。ヒャアさんの唐揚げ、かなり完成に近い。後は下味の主張の強さをもう少し調整したり、味のバリエーション増やすのもアリ」
「他の粉でやるのも良いかもなぁ~。キングボアはこの揚げ方より、もっと分厚い衣でサクッとやったほうが良さそうだなァ!!」
あ、ヒャアさんが勝手にトンカツへ辿り着いた。凄い、まだ教えてなかったのに。
「んっ……!! んっ、んっ!? ほひょ、ひほいほーふは」
「食べてから喋って」
「…………この! 白いソースはなんですか!?」
「ヒャア! マヨネーズだ!! ジーナちゃんが教えてくれたもんでな、唐揚げと合うらしいぜェ!!」
「…………ああ!! あ、あ!! 罪!! 罪!! 罪の味がします!!」
そっか、アリアは唐揚げにマヨネーズがいけちゃうタイプなのね~。ああ~罪だよね~。
「へほんほひほっへひぃ」
「食べてから喋って」
「…………レモンも、合うのですか!?」
「人によるらしいぜェ!! 他人が食べようとしてるもんにかけると、戦争になるらしいから気をつけなァ!!」
「はい!! あ……あっ!! さっぱりして、これは……。普通のものを食べて、マヨネーズをつけて、レモンをかけてで3個……。このローテーションで、無限に入ってしまいます!!」
そっか、レモンもいけちゃうタイプなのね~。ちなみに私はあんまり好きじゃないよ~。サタンレッドペッパーをかけたマヨネーズで食べるのが好き~。唐揚げレッド。
「止まらない、止まらない……ああ……なんてこと……」
「ちなみに太るよ」
「え?」
「太る。唐揚げと、マヨネーズの組み合わせ。太る」
「…………え?」
フォークが止まった。手がぷるぷるしてる……食べるべきか、食べぬべきか、恐ろしいほどの葛藤が手に現れてる。そっか、アリアは太りやすい体質なんだね~……じゃあ、裏ワザ教えようかな?
「回復魔法を使った、裏ワザダイエットがあるけど、知りたい?」
「ええ!? 是非、教えて頂きたいのですが!?」
「唐揚げばっかり食べてると、肝臓っていう臓器が悪くなりやすいんだって。それがぶくぶく太って、いろんな病気になるんだって。本にそういう疑惑が書いてあって、調べてみたら本当だった」
「それと、回復の奇跡がどのような関係性を……」
「体中から無駄なお肉を犠牲にして、肝臓の機能を回復させる。蓄えた余分な脂肪で、臓器の回復が出来て一石二鳥」
「…………!? え、つまり、無駄なお肉を消費して健康体になれるということですか!?」
はい、そう言ってます。でも、この裏ワザには弱点があります。
「ただし、物凄く痛い」
「…………はい?」
「体中の無駄なお肉を犠牲にする時、肉離れになるような激痛が走る」
「でも、健康になるしお肉もなくなるんですよね!?」
「そう。あ、パラライズすればいいって思ったでしょ。なぜか途端にこの裏ワザの効き目が悪くなるから、使えないよ」
「くっ……!! 駄肉を消費して健康になるためには、痛みを伴うのですか……!!」
「ヒャア……そもそも運動すりゃいい話じゃねえかぁ……?」
「あんた、聖女様はお忙しいんだよ! 運動する時間も惜しいのさ!! 今は、まあ、特別なんだろうさね!!」
そもそも回復魔法は、健康な部位を消費して魔力と結合させて怪我をした部位とかを埋める魔法だから、実は太ってる人のほうが効き目が良かったりするんだよね。あ、もしかしてそのへんのことも実は知らなかったりするのかな? 回復魔法はなんでも治せる万能の力じゃないってこと、なんとなく気がついては居るんだろうけど、詳細までは知らなさそう。
「…………きっと、いつか未来の私が痛みを負ってくれます。頑張れ、未来の私。あ、天使様もその時は一緒に頑張りましょうね」
「私、病気にならない。臓器はいつまでも健康だし、太らない。そういう特別なギフトを貰ってる」
「はあ!? はああああ!? 太らない!? はあああああ!? ズルくないですか!? 私、すぐにお腹にお肉がついて、毎日必死で運動して、やっとこのプロポーションなのに!! 無駄に胸ばっかり大きくなって、肩こりも酷くって、あ!! これも回復の奇跡で治せば良いじゃないですか、やだーっ!! でも痛いんですよね!? やだーっ!!」
ん、唐揚げおいしい。カレーの時に炊いたご飯、まだ残ってた気がする。食べちゃお~。
「それ、なんですか? その白いの、まさか唐揚げと一緒に食べるとおいしい最強フードですか? 私も食べたいんですけど、天使様? ねえ、天使様?」
「これ、唐揚げと一緒に食べると、物凄く太るよ?」
「…………頑張れ、未来の私! あとで神官達も道連れにします。あのぶくぶくと太った巨体に、悲鳴を上げさせて健康にします。そのうち私もやることになるでしょうが、それは未来の私が頑張ることなので今は関係ないです! あ、こんなに良いんですか? 素晴らしい食事に巡り会えたことに、感謝を。あ……あ……」
アリア、さっきの祈りの言葉よりも真剣に、唐揚げに対して祈りを捧げるのは聖女としてどうかと思う。このままじゃ、唐揚げの聖女って言われる日も近い。
「おいしい命……。おいしい命……。うふふ……おいしい命……」
『ジーナちゃん、アリアが壊れちゃったみたい……』
「ん、ん~……。多分、未来のアリアがなんとかすると思うから、放置」
「おう! 大将、やってるかい……って、随分と美味そうなのを食ってるじゃねえか」
「あ、モヒさん。前に話した唐揚げだよ、食べる?」
「おう!! ん……おふおふおふおふはふはふはふはふ」
「まあ、熱いだろうなァ!!」
「熱いだろうねぇ……」
はふはふはふはふ。モヒさんも気に入ってくれたみた……いっ……!?
「…………唐揚げ。私の、おいしい、命」
「お、おい、ジーナちゃんよ……。なんかすっげー睨まれたんだけどよ……!」
「怖い。唐揚げガーディアン。唐揚げの聖女」
アリアの近くのお皿に手を伸ばすのは、やめたほうが良いかもしれない。よもぎちゃんもパピー期に『僕のご飯だぞ~ぴゃう~!!』って威嚇してくることがあったけど、アリアはそれの比じゃない。凄い、怖い。王都にきて一番迫力を感じた瞬間。
「ま、まあ、まだまだあるからなァ! そうカッカするんじゃァないぜ!!」
「まあ! では、それも是非! 私、唐揚げ大好きです!! 大将さんの作る唐揚げ、愛しております!!」
――――満月の魔狼亭は、暫く『聖女の愛する唐揚げ』が飛ぶように売れた。
メガロバードのお肉の在庫が切れて、アリアが唐揚げにありつけなかった日は、アリアが抜け殻みたいになって大変だった。
メガロバードは、定期的にここへ納品しようと思った。とりあえず暫くは在庫切れが起きないように、その日の内に5羽ぐらい仕入れておいたから、これで暫くは大丈夫だと信じたい。
ちなみに、アリアの悲鳴が大神殿に響き渡ることになったのは、2週間ぐらいで訪れた。嘆きの聖歌って名前がついたらしい。哀れ。




