018 ぶしゃー。
ん~……。ニナちゃん可愛い~……。王城の中をパタパタ歩き回る姿と、不安そうに後ろをついていく護衛の兵士の振り回されっぷりが、見ていて凄く面白い。
それはそうと、リタとそっくりな銀髪だけど、ストレートヘアのリタに比べてかなり癖っ毛。くるくるふわふわの羊ちゃんヘアー。撫で心地は良いけど、髪を気にする様子が多いし、それにちょっと……うん。ベトっとしてる。王族なのに使ってるシャンプー、良くない? 錬金術ギルドに死ぬ気で質の良いシャンプーを作らせるべき。
「ニナ、自分の髪の毛、嫌い?」
「えっ!? どうしてわかるんですか……? うう、嫌いってことでは、ないのですけど……」
「リタ、サラサラだもんね。ふわふわ、微妙?」
「はい……。乾きにくいし、可愛い髪型にも出来なくて、あんまり……」
そっか~。おっぱるに頼むべき……うーん。おっぱるは清潔から程遠い存在だし、無理。青わかめのほうはぷらいど……? が高くて気障ったらしい喋り方だけど、知識に貪欲だから教えたら伸びるかも。青わかめを育てたら、おっぱるがボロ負けして悔しがって少しは頑張るようになるかも。おっぱるを伸ばすために、青わかめを徹底的に鍛える……ん、あり。
「ニナの髪を乾かすのは、誰の仕事?」
「えっと、えっと……あ! 侍女のアムリさんです!」
「あ、後ろの方に居る子。茶色の髪の、リスみたいな子……アムリス」
「そうです! えへへ、アムリはリスさんみたいなので、アムリスって呼ばれてるんですよ!」
「ほえ~」
私が誰かの愛称を当てたの、初めてかも。アムリス、うん! 覚えた!
「アムリスは、どんな生活魔法が使えるの?」
「…………ッ!? !? !?」
「アムリ、前に出て答えなさい。ニナ様のお客様に失礼のないように」
「ぴゃ、ぴゃい!!」
あ、本当にリスみたい。小動物感が凄い。ちょっと驚かしたら直立したまま気絶しそう。
「あ、あの!! アムリです!! アムリは、乾燥と洗浄が、えっと……!!」
「乾燥、風魔法だと思う? 火魔法だと思う?」
「え!? え、え!? えっと、えっと……!! 風、だと思うのですけど……」
ふっふっふ……。不正解だ、アムリス~。生活魔法は一般的に広く親しまれて使われている便利な魔法だけど、実はちゃんと魔法の属性が付与されているのだ~。これはね、セルフィの街の近所の奥様達に生活魔法講座を開いて実証済みだから、間違いない情報。
「不正解。実は、火と風の両方の属性を持つ魔法」
「え、えええ~!?」
「そうなのですか? ニナは風の魔法だと習いました!」
「じゃあ、いつもの感じで使ってみて。飲料水作成」
じゃあ、私の髪を濡らしてやらせてあげよう。お風呂上がりで髪を拭いた程度の濡れ方を再現して~……こんなもんかな~?
「ほら、やって」
「……!? !? !?」
「アムリ、いつものようにやってみなさい。失礼のないように」
「ぴゃ、ぴゃいい!! 乾燥!!」
ん~……確かに、アムリはこの魔法を乾燥だと思って使ってるみたい。でも実際に発動しているこの魔法は、乾燥ではない……! くっくっく~。
「これ、送風」
「……!? ぴゃい!? ひぃん!?」
「実際の乾燥は、こう。左手で発熱の魔法を操作して、右手で送風を操作して合成する。凄く簡単な生活魔法の組み合わせで、乾燥が使える」
「えっ、えっ……! えっ!? ええ~っ!? 生活魔法で、合成魔法ですか!? そんな高等技術は~……」
「高等だと思うから出来ないだけ。発熱も送風も、凄く簡単な生活魔法。それを同時に使うだけなのに、何が難しいの? セルフィの街の奥様方は、こんなの10分で覚えた」
「10分!? 10分で合成魔法をですか!?」
「合成魔法……!! ジーナ様、すご~い!!」
「ほら、ニナもやる。合成魔法の基礎とも言うべき技術、しっかり覚える」
「ええ~!? ニナもやるの~!?」
つべこべ言わないでやるの。あ、せっかくだから『私達は見ているだけで良いですよね』みたいな顔をしてる、護衛の人達とか侍女長さんとか、他の侍女の子達にもやらせよう。
「全員やる。はい、得意な方の手で発熱」
「え!? は、はい」
「何を関係ないみたいな顔をしてるの? 護衛も、ほら、やる」
「は、はっ!? はっ!! 発熱!!」
ん~……とりあえずここまでは誰も脱落してない。まあ、この程度で脱落するようならこのお城には居られないよね。
「はい、反対の手で送風。乾燥は一時的に忘れて」
「あ、あっ……」
「どちらかが、疎かになって……」
「う、上手くコントロールが……!!」
「ん~!! 難しいけど、出来たかも~!! ジーナ様、みてみて~!!」
お、まさかのニナが一番乗り。やっぱり潜在意識がほとんどないから、簡単に使えた。そう、合成魔法は意外と簡単…………簡単なはず。
「凄い。一発で出来てえらい」
「えへへへ~!」
「はわわわわ……!! ニナ様の髪の毛を乾かすアムリの大役がぁ~……!!」
「焦らないで、両方同時に操作しようとしないで、発熱を安定させて固定して、送風を調整しながらくっつけるイメージでやればいい」
「なるほど……。片方を固定化しながら、ですか。風量を一定に温度を、温度を一定に風量を、なるほどなるほど。コツが掴めてきました」
「自分も!! 出来たであります!!」
ほらね、意外と出来るものなのよ~。ふふ~ん。
「しかしこれは、魔法学校の常識を覆すような……。根本的な部分から、崩れ落ちたような……」
「2個の生活魔法の合成魔法で崩れるようなら、この先の技術はちょっとしんどいと思うけど……」
「まだなにかあるの~!? ニナ、知りたい知りたい~!!」
「いいよ~。ふふ~ん」
「ジーナ先生、教えて~!!」
あ、いいね? ジーナ先生。ん、いい……。ジーナ先生……。
「氷魔法は使える? 氷球」
「ええ!? 詠唱もなしに!?」
「初級魔法は完璧にイメージを固定化するまで使い続けて、詠唱なんて無駄なことは捨てて。完璧な精度と絶大な威力が要求される場合のみ、詠唱に頼る。無詠唱での精度は練度でカバーして」
「は、はい!!」
「……王立魔法学校では、詠唱が絶対として教えておりますが」
詠唱が絶対? 魔法使いだってバレてる場合、それは命取りになるってことを理解していない人の考え。机上の空論。
「机上の空論。殺傷能力がある魔法の詠唱には、どう頑張っても5秒以上かかる。今からここに居る全員の喉を5秒以内に潰すなんて、簡単なこと」
「それこそ不可能な話では……」
「ニナ、ちょっと向こうへ行ってて。侍女長と護衛の兵隊さんは、5秒以内に喉を潰されないって自信があるみたいだから」
「は、はい、先生!!」
「姫様、こちらへ!」
「あわわわわ……。送風が崩れる~!!」
さて、3対1。詠唱が完了するのが先か、私が喉を潰すのが先か。証明してあげるね。
「私、貴方達の攻撃魔法じゃびくともしないぐらいには体が丈夫だから。死にたくないなら、本気でやったほうがいい」
「本気ですか……!? では、いきますよ!!」
魔法使いの戦いにおいて、詠唱というものがどれだけ無駄な行為で死に直結する行為なのか、教えてあげる。
「大いなる大地の神よ――」
「清らかなる水の神よ――」
「偉大なる風の神よ――」
そこで呼吸、するよね。
「送風」
「この者に、へっ……!? へ、げほっ!? げほっ、げほ、げほぉ!! うぇええええ!! なん、こ……!? げほ、げほっ!!」
「う……!? ど、く……げほげほっ!! げほっ……!! おええええっ!!」
「あああ、目が、へっ……!! えっほ、げっほ!! げほぉおおお!!」
はい、私の勝ち。殺傷力の高い詠唱魔法は、無詠唱の生活魔法に負けました~。や~いや~い。
「浄化水、治癒」
「う、げほっ……うう……」
「はぁ……はぁ……。あ、ありがとう、ございます……」
「今のは、なんだったんですか!! うう、まだ喉が痛い感じが……」
「唐辛子の粉。それを送風で口の中にシュートした」
「…………はぁ!?」
「唐辛子に、負けたのですか……」
「嘘だろ……。そんな、生活魔法に負けた……?」
これが精度を練度でカバーするってことよ。戦いにおいて、精度と威力だけが絶対の勝利条件とはならないってことを、身を持って知って貰えたかな~?
「今ので、手加減した。本当なら地獄草の種をすり潰した、今の5000倍の辛さの粉を使うし、風撃爆発を無詠唱で使う」
「今の……!?」
「辛さの……!?」
「5000倍!?」
魔法使いの戦いは、相手をより迅速に無力化出来るかが勝負。だから、こんなチープな攻撃でやられたりしないように、魔力防壁とか、魔力硬鎧を初手で使っておかなければならない。この人達は、基礎の基礎が出来てない。
「ニナ、詠唱に頼りっきりなのと、完璧になるまで無詠唱で練習するの、どっちが大事だと思った?」
「えっと……! 詠唱は詠唱で、切り札になるものを覚えておいて、普段は全部無詠唱で出来たほうが、いいと思いました!」
「ん!! はなまる大正解!!」
「やったぁ~!!」
「あ!! 真の乾燥が出来ました~!! アムリも出来ましたよぉ~!!」
ん、アムリスは全体的に一歩遅れてる。でも可愛いから許す。
「この王城の人、全員が詠唱至上主義?」
「は、はい……。恐らく、そうです……」
「我々は考えを改めましたが……」
「じゃあ、出来る限り全員を訓練場に集めて。全員理解させる」
「ひっ……!!」
「おい、こうなったらあいつらにも今のをくらって貰うぞ。俺達だけ今のなんて、不公平だ……!!」
「戦闘能力のある侍女全員を集めます。第1訓練場に全員を集結、第2訓練場で先程の実戦をお願い致します」
うん? どうして集合場所と実戦場所を変えるんだろう?
「…………第1訓練場に居る者が、第2訓練場から上がる悲鳴を聞いて、不安がる様子を楽しみたいので」
「ジーナ様、侍女長は元々、兵団の副長もしてたんだよ」
「あ、ふ~ん」
やられて悔しかったから、自分の元同僚にも同じ目に遭って欲しいってことだ~。なるほど、この侍女長……いい性格、してるね。採用!
「じゃ、1人残らず考えを改めさせる。意識改革、開始~」
「はい。よろしくお願い致します……ふっふっふ……!! ニナ様、私と無詠唱魔法の発動の練習を致しましょう。私も一から鍛え直さねば」
「うん! やる~!! ジーナ様がお忙しい間に、ニナは侍女長と一緒に頑張ってるね!」
「ん、ニナは筋が良い。きっとすぐに上達する」
「ありがとうございま~す!! えへへ~」
――――その後、王城のみならず、王都中の衛兵を含め、魔法の知識があって戦闘能力があるやつには全員『唐辛子ぶしゃーわからせ大作戦』を実行した。
ついでに王立魔法学校の教員、生徒のところへも足を運んで、無詠唱を馬鹿にした連中を徹底的にわからせた。
みんな泣いて喜びながら、無詠唱の大切さを痛感してくれたみたいで、物わかりが良くて私も嬉しかった。
次の日から、どこからか『魔法殺しの天使』っていう呼び名が聞こえたけど、それは多分私のことじゃないと思うし、気にしないことにした。




