017 覚えているが故に、知らぬが故に
◆◆ 王都ケルフ・王城にて ◆◆
「あ、イライザ~。体は痛くない? 大丈夫?」
「はい、ジーナ様。イライザはこの通り元気にしております。お気遣い感謝致します」
王城に呼ばれた理由は知らないけど、3日前に大火傷を負ったイライザと、えっと……。猫ちゃんと、アリアの友達の子も招待されてるみたい。あと、モヒさんも居るね。なんだか笑い方がぎこちないけど、緊張してるのかな? 王様に会うんだもん、当然だよね。
「唐突では御座いますが、このイライザ、東のロンダス帝国へ旅立つことに致しました。向こうのターナ神殿が管理している孤児院に移るつもりです」
「そうなんだ。大火傷したばっかりなんだから、無理しちゃ駄目だよ? 頑張ってね」
「はい、ジーナ様。ありがとうございます」
イライザは3日前に……えっと、なんかの用事があって王城にいった時に出会って、大火傷をして死にかけてたのを助けたんだよね。ルビースライムが寄生……寄生って言い方は良くないかな? 共生してて、大部分はイライザの髪の毛に化けているみたい。大火傷の影響で臓器も相当やられたみたいだから、そっちもスライムがなんとかしてるみたいだけど。魔法での回復には限界があるし、あんな状態からここまで立ち直ったのは奇跡と言うべきだよね。
それがきっかけなのか、イライザは凄く私にべったりで……懐いてる? 信仰してる? とにかく、私を見る目が本当に優しい。アリアの何十倍も私に対する感情が大きいように感じる~。おっぱるとは違って清潔にしてるし、日々研鑽を積んで力を磨いてるみたいだし、イライザのことは好き。
同じく助けた猫ちゃんの女の子と、アリアのお友達は私に近寄ってこない。感謝はしてるけど、怖いって感じてるみたい。よくわかんないから、このままでいい。
「よ、よう。ジーナちゃん!」
「モヒさん、緊張してるの? ガチガチだけど」
「お、おう! そうよ、緊張してんのさ! はははは!!」
大きい体格の割に、意外と小心者なところがあるよね、モヒさん。でも、そういう慎重なところが今まで生き延びられてきた秘訣なのかな。私も見習うべきマインドかも。あ、ところで……。
「イライザとモヒさんって、戦ったらどっちが強いのかなぁ?」
「ええっ!?」
「ドラゴー様と戦ったら、ですか」
「いやぁ~……まあ、俺が負けるだろうな。イライザちゃんはここ最近、一気に強くなった感じがするからなあ」
「やってみなければわかりませんが、お互い本気でぶつかれば無事では済まない……といったところだと思います。お互いに手加減が可能な相手ではないかと」
「そうなんだ。んふふ、よかったねモヒさん。冒険者にせっせたくや? 出来るお友達が出来て」
「ジーナ様、恐らく切磋琢磨で御座いますね」
「そう、それ」
そっか~。モヒさんのほうがイライザよりちょっと弱いんだ~。
それにしても本当に、なんでこんなメンバーが王城に集められたんだろう? 3日前のボヤ騒ぎの件なら、ここに居るメンバーの中ではモヒさんが居なかったからおかしいなーって思うんだけど……。
「――――あ!! おねえさま、あの御方が白金の天使様ですか!?」
「そうですよ。ニナ、走っては駄目よ~」
「えっへへへ~!! ふふ~……あ!! わんちゃんも居る!!」
『こんにちは!』
「こんにちは~!!」
この子、誰だろう? リタのことをお姉様って呼んだから、リタの妹かな? じゃあこの子も王族の1人、かな。随分と幼いみたいだけど、しっかりと挨拶も出来るし、よもぎちゃんに触りたそうなのに我慢してるし、偉いね~。
「触りたい?」
「はいっ!! 触っても良いですか!?」
『いいよ!』
「いいって。はい、よもぎって名前だから」
「よもぎちゃん! うわぁ~ふわふわ~!!」
『んっふふふ、くすぐったい~』
よもぎちゃんのもふもふはね、私が綺麗にしてブラッシングもしてあげてるからね、自慢のもふもふなんだからね。
それはそうと、リタが居るってことは~……。あ、やっぱり居た。あれ? あの槍って、私が作った槍に見えるんだけど…………あげたんだっけ? まあ、いっか。作り方は覚えてるし、そのうちまた作れば。
「ジーナ様、そしてお集まりの皆様も、本日はお越し頂き誠に感謝致します」
「…………悪いものでも食べた?」
「…………私でも、ちゃんと挨拶ぐらいは出来ますので」
「そうなんだ」
ルリアーナって、きちんと挨拶出来たんだ。まあでもそうだよね? リタの近衛騎士長をやってるんだし、このぐらいは出来ないとマズいか~。
「ニナ? このお姉ちゃんと一緒に、王城を散策していてくれる? わたくし達はね、よもぎさん達と大事なお話をしなくちゃいけないの」
「え~っ!! よもぎちゃんも一緒がいい~!!」
『ニナちゃん、あんまりお姉ちゃんを困らせちゃ駄目だよ? 終わったら一緒に遊ぼうね!』
「うん!! 天使様、ニナがお城の中を案内してあげる~!!」
「ん? よもぎちゃんに用事があるの? うーん、まあ、いっか。じゃあね、よもぎちゃ~ん」
『うん、ごめんね! すぐ終わると思うから!!』
あれ、私に用事があるんじゃなくて、よもぎちゃんに用事があったんだ。ちょっと拍子抜けだけど……暫くリタの妹と一緒に、お城の中を散歩して暇を潰してようかな。
「天使様は、どこにいきたいですか!?」
「うん? うーん、ニナの好きなところ」
「わぁあ~!! じゃあ、このお城の一番高いところにいきます!! 凄くいい景色なんです!!」
「お~」
私、別に飛んで空から見られるから高いところの景色は別に……って言ったら、この子が泣き出しそうだからや~めた。ちっちゃい子と遊ぶのなんて久しぶり。セルフィの街は子供がほとんど居なかったから、なんだか新鮮な体験かも~。いざ、王城散策へ~。
◆◆ ケルフ国王は…… ◆◆
これは罰なのだ。
王としての責務を全うせず、王国を帝国に明け渡す寸前まで追い込まれていたことにすら気が付かなかった私の愚劣さに対する、罰なのだ。
「…………あの夜を知る者は、ここに居る者達と、ニナだけだ」
あの夜。ケルフィード王国はある意味で、一度滅ぼされたのだ。
ニアスと名乗ったあの悪魔のような少女は、王都に蔓延っていた暗殺者教団と、東のロンダス帝国に国を売っていたテテロッティに関わりのある者、その全てを一切合切処刑してしまった。
そして…………国民全員に、大規模な洗脳魔法を施した。我々王族と、ルリアーナ、王都最強の冒険者ドラゴー、ニアスの狂信者3名を除いた全ての国民に。
「ルリアーナとドラゴーは、あの夜を忘れたくないという強い意思をニアスに示し、洗脳から免れたのだったな」
「はっ。我が君であるリタ王女のため、共に背負っていく覚悟をした次第です」
「あの光景から目を背けたら、俺は一生前に進めないと思ったんだ。戒めとして、忘れたくねえと……あ、ああ……忘れたくないと、思いました」
「そう、か……。お前達も、真実を知って仲直りが出来たようで、なによりだ」
「兄がわたくしを薄汚い銀色と嫌っていたという噂も、真実とは異なるものだと知り、呆然としました」
「愛する妹に命を狙われる程嫌われているのかと思っておりました……。真実は、あのカラス達の仕業だと……」
正直、我々王族だけが覚えている内容でなくて、本当に……。本当に、助かったと思っている。そうでなければ、我々はこの罰の重さに押し潰されていた。
「今朝、ある臣下からこう言われた。王国は今日も平和で、なんの心配事も存在しない最高の状態です……なのに、どうして王様はそのように暗いお顔をされておられるのですか? とな……」
「わたくし達が成し遂げられなかった、王都の問題の解決と国民の幸福度の向上……。これを、たったの一夜の内に達成されてしまったのです。そして誰も、このことを覚えていない……。頭を抱えました」
「我々王族は、果たしてこの国に必要なのか? 久しぶりに妹と顔を合わせ、この3日間何度もその話となりました」
あの日、我々はニアスに『無能なお飾りの王、お前はこの国に不要じゃ』と、間接的にそう言われたような気がした。
そして未だに、我々は答えを出せないで居る。果たして本当に、我々は……王族として、王として、ここに居ていいのかと。
だから、あの日の夜を覚えている者を集め、答えが得たいと思ったのだ。だから、集めた……。
「――――結論から申しますと、貴方達は不要な存在です」
「貴様ッ……!!」
「やめなさい、ルリアーナ」
「ぐっ……!!」
イライザと言ったか、この修道女は。随分と単刀直入に言ってくれる……。
「理由を、聞いても良いか」
「はい。なぜなら、ニアス様が『この国は元々国民の代表を決め、その者を数年置きに交代させて政をしていた国、国王は存在しない』とすれば、それでまかり通るからです。それをしなかったのは、ニアス様がただただ面倒だったから。貴方達は、ニアス様が面倒だから生かされているだけの存在なのです。だから、貴方達が特別に存在している意味は存在しないのです」
聞きたくない言葉だった。最も、聞きたくない言葉だ。我々の全てを否定するような、最悪の言葉だ。
本来ならばこの無礼者を即刻打ち首にすべきなのだろうが、ニアス直属の狩人である彼女に、我々が束になったところで敵うはずもない……。
「では、我々はやはり、退くべきなのか……」
『なんのためにニアス様が記憶を残してると思ってるのさ』
「よもぎ殿……?」
「皆まで言わねばわからないと思います。貴方達は現状不要、ただ居るほうが面倒事が少ないのでそのままにされている存在。では、これからどうするべきなのか? これまでのことを教訓とし、より強い国を作る指導者として再度君臨しなければならないのです。二度とあの夜を見たくないのであれば、そのように国を強くしなければならない。存在価値がないのであれば、これからその価値を作れば良いだけのこと」
『要するに、記憶がある人達で頑張って、この国を強く導いてねってこと!! それをやるんだったら、必要なんじゃない?』
そうか……。そうか……!
ずっと後悔ばかりに囚われていて、未来のことを何も考えていなかった。今この国には、最も平和で豊かな時代が到来した。ここから転落し冬の時代にしてしまうのも、更に平和で豊かで強い国にするのも、我々の努力次第……!!
「では、イライザとドラゴーもこれに協力してくれると言う」
「あ、俺は無理だ。やりたいことがあるんでね、遠慮させて貰うぜ」
「私もそれは不可能です。この後、ロンダス帝国に乗り込みますので……きひっ……」
早速、可能性が2つも潰えたか……。いや、甘えては居られない。我々は存在価値を示さねばならないのだ。
「…………絶対王政の必要性について、考える必要はあるだろう。ゲドル、リタ、どちらに王を継がせるかという話だったが、私はお前達の両方にこの国を任せたい。王が1人だけでは、付け入られる隙が大きいだけだ。そして我々には1人で何かを解決出来るような能力は、ない。我々は無力で、無能だ」
「あ、あの……!! イライザは帝国へいきますが、私達はいかないので……」
「出来る限り、協力します。出来る限りですが……」
「このルリアーナも、命ある限りリタ様のために」
「ありがとう。感謝する……」
ここで立ち止まるわけにはいかなくなった。まずは、あの日の記憶をなくし、この平和な国に満足しきっている諸侯の尻を叩く必要がある。
なんとしても、この国を……あの夜を、二度と見なくても済むように。導かねばならんのだ……。
「今後のことを相談したい。イライザとドラゴーは……」
「これで。ジーナ様のお側に居たいので、失礼致します」
「俺もジーナちゃ……んんっ!! ジーナに用事があって……ああ、あるんで……。失礼させて貰う」
あの天使のような少女を、二度と悪魔のような少女に変えないために。この国の未来のために。
私はやるぞ。存在価値を示して見せるぞ……!! この国を、ドゲルとリタに託すために。




