012 勧善懲悪
暗殺者教団。
胡散臭そうな名前のこの教団が、どうしてししょー達の名前を騙っているのかな? それだけでも赦せないんだけど、その上で香辛料を独占しようとするような動きに、どう考えても異常な金額の脅迫。真っ当な連中ではないってことだけは、会わなくても理解出来るよね。
『ジーナちゃん、飛び出してきたけどどうやって探すの? 手がかりなんてほとんどないよ~』
「大丈夫。考えはあるから」
私だって、何の手がかりもなしに人探しなんてしたりしない。それなりに考えがあるから、こうして逆に相手を探し出して殲滅しようとしてる。
とりあえずこっちが持っている情報は、相手が香辛料を独占しようとしているってことと、暗殺者教団という名前、それに幹部のしん……しん……そう! 新月の黒影ゼノンっていう名前だけ。それと情報を秘匿出来る協力者が居るってことぐらいかな。かなり上位の秘匿魔法が使えるんだと思う。
『うん~……。どういう考えなの……?』
「すれ違ったやつら、全員を詳細鑑定要求で調べてる」
『…………うわあ、それってノープランに近いと思うんだけど』
「犬も歩けば棒に当たるって言う。そのうち当たりに出会う」
『あ、なんか意味が違うと思うそれ!』
今はそんなことより、暗殺者教団に関係してそうなやつを探すほうが大事。
この人は魚屋、寄生虫にお腹をやられてて毎日辛い……。はい、食中毒抹殺術。
この人は? 足の怪我で仕事が出来ずに家賃が払えそうになくて途方に暮れてる? はい、回復。それと銀貨1枚ぐらいならあげる。
「あ……? 腹が……」
「えっ……!? 足が、それに銀貨……えっ!? あ、ありがてえ、ありがてえ!!」
この人は? 彼女に贈る花の色で悩んでる? 彼女は赤が好き? じゃあ、情熱を伝えるのと勝負どころなんだから当然赤にするべき。簡易洗脳。
この人は? お酒に溺れてお酒以外考えられないけど、お酒がやめたくて、それが原因で家庭崩壊の危機? 簡易洗脳。
「赤……。すみません、この赤い花にします!」
「酒……? なんであんなものを飲もうとしていたんだ……。恐ろしい……!! 家に帰らなくては……!!」
『ジーナちゃん、なんかしてる?』
「ぷらいばしーのしんがい? をした、お詫び」
『……そういうところはなんか、律儀だよね』
「情報を勝手に引き出したから、勝手にお礼もする。あたりまえ」
この調子で全員調べていこう。1人5秒ぐらいのペースで調べていけば、そのうち何かしらの情報に突き当たる。時間はかかるけど、確実に――――。
「ん? 腰が……」
「鼻水止まった!」
「右目が……見える……?」
「昨日怪我したところ、治ってる!」
「あ、俺の財布!! 昨日落としたやつ!!」
「おい、居たぞ!! 昨日無銭飲食で逃げた野郎だ!!」
「捕まえろ!!」
「な、なんで!? 変装は完璧だったはずなのに!!」
そう簡単には見つからない。こうなるのは覚悟の上だったから、とにかく地道にやる。
この人も違う、この人も、こっちも、あっちも……。ペースを上げていこう。1人3秒を目標で。
「あら奥さん、いつもより肌すべすべじゃない?」
「そういうあなたも!」
「う、腹が痛え……!! 3日振りに……!!」
「ねえ、満月の魔狼亭ってご飯が美味しいんでしょ? 行ってみない?」
「ゴールドランクに上がった記念に、いってみるか!! 少し値段が高いって聞くが~……」
「おい、見ろよ! 今日の依頼の上乗せ報酬、金貨3枚も追加されてるぜ!?」
「何!? よぉし、こいつでパーッといくか!!」
「ねえねえ、これって――――」
「おお、膝が痛くなくなって――――」
「――――…………」
「――……」
「……」
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【名称】イライザ・フェリ (18)
【情報】
暗殺者教団の幹部、新月の黒影ゼノンにスカウトされたソロのゴールドランク冒険者。一匹狼な彼女だったが、数日前にゼノンと偶然出会い、『世直しのために正義の鉄槌を』という謳い文句に惹かれ、暗殺者教団に加入した。この謳い文句で加入した通り、私腹を肥やした貴族や横暴で腐りきった神官達に強い恨みを抱いており、今夜王城を襲撃する手筈となっている。
身長は165センチ、スリーサイズは上から91、61、92。プロポーションの良さには自信があるほうだが、大勢にジロジロと見られるのも嫌なので外套で隠している。
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「(居た)」
『!!』
147人目、関係者発見。1000人は超えるかと覚悟してたけど、こんなにあっさり見つけられたってことは……やっぱり、黒光虫と同じ。1匹見つけたら30匹は居ると思ったほうがいい、そんなレベルで繁殖しているんだ。王都の裏側は暗殺者の卵でいっぱいだ~。
「(尾行する。ゴールドランクの冒険者だから、甘く見ないほうが良いかも)」
『(わかった!)』
「隠密行動、浮遊」
隠密行動を発動して、音と姿と匂いと熱を隠蔽する。足跡までは消すことが出来ないから、浮遊移動で追跡する。
この状態での追跡は完璧、と言いたいところだけど、王都には夜でも人がたくさん歩いているから、その人達とぶつからないように気をつけなければならない。
だからって屋根に登って追跡すると、どこかへ入りこまれた時に見失うことがあるからあまり賢い選択ではない。もっと万能な追跡術を作れば良いんだけど、こういうのは滅多にやらないから先送りにしてた~……。今度、今度やるから。
「地獄耳」
イライザって人がなにかブツブツ喋ってる気がするし、誰かと秘密のやり取りをしているかもしれないから、イライザとその周囲限定で音を拾っておこう~。視覚と聴覚、そしてよもぎちゃんの嗅覚の三段構えで追跡! 絶対に逃さない。
「…………あたし1人で十分やれるっての、あいつら甘く見やがって。他に同志が2人居るから、それも連れてく? ゼノンのやつ、ピクニックにでもいくつもりかっての」
他に2人、それにゼノンも同行するのは確定みたい。お喋りさんで助かる~。
今夜王城へ襲撃って情報が引き出せたけど、その2人とゼノンで何かやるつもりなのかな。もっと情報が引き出せそうだし、早く合流しないかな~…………ん。なんだろう、あの髭面のローブ男。詳細鑑定要求~。
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【名称】新月の黒影ゼノン (37)
【情報】
暗殺者教団の幹部、新月の黒影ゼノン。今夜王城を襲撃する計画を立てている。目的は王族への最終警告。ナーンジェイの名を騙り、再び王都を恐怖の時代へ引きずり落とそうとしている。
強力な秘匿装備の影響により、多くの情報が引き出せない。
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「(居た、ゼノン)」
『(思ったより早く見つかったね! どうする、やっちゃう?)』
「(幹部ってことは、まだ上のやつが居るし、他にも仲間が大勢いるはず。アジトを突き止めたい)」
『(わかった!)』
よもぎちゃんの言う通り、思ったより早く見つかった。戦闘力的には、こちらの詳細鑑定要求に気が付かないぐらいだし、大したことはない。秘匿装備を身に着けていて、それが作動したって気がついているなら、ほんの少しでもリアクションがあるはず。それすらないんだから、能力は知れたもの。問題は、背後の存在まで辿り着けるかどうか。
「……こっちだ」
「ッ!? い、いつの間に……」
いつの間にって、さっきから後ろを追跡されてたよ、イライザ。こんなのに気が付かないぐらいだから、イライザも大したことないかも。もしかして、暗殺者教団ってかくれんぼ下手くそ集団? 目立ってます見つけてください教団に名前を変えるべきだと思う。
あ、路地裏に入った。多分この辺りにアジトがあるのかな? 多分あの建物がそうっぽい。この建物にも詳細鑑定要求! ん、ゼノンの隠れ家って書いてある。場所はゼノンと中にいる2人だけ知っている……ふぅ~ん。だいぶ綺麗にしてるみたい? まあ、痕跡が残ると足がついちゃうだろうし。そのへんはしっかりやってるんだ。
「ここは俺しか使っていない隠れ家だ。同志2人に会わせる……入れ」
「あ、ああ……」
「(お邪魔しま~す)」
『(入っちゃいま~す)』
じゃ、入りま~す。へえ~鑑定通り綺麗にしてある~。元々は空き家だったのかな? 家具はしっかりと揃ってるみたいだけど、ベッドとかもちゃんとあるみたいだし、生活感があって良いところかも。良い趣味してる~。
「ここは……?」
「元はある貴族の、まあ密会所だ。不倫関係にあった相手との愛の巣だった、とでも言えばわかるか?」
「使ってないってことは……」
「我々に敵対したので消した。それだけの話だ」
ああ、そういうこと。とある貴族から奪った家ってことなんだ~。だから生活感があって綺麗にしてあって~……ふぅ~ん……。それで、その同志2人が後ろにいる女の子2人? このゼノンとかいうやつ、えっちなことばっかり考えて集めてない?
「紹介しよう。リジー神官、元だがな。聖女アリアが居なければ、王族や貴族の干渉がなければ、彼女こそが聖女と呼ばれていたであろう存在だ」
「リジー、です……。よろしくお願いします」
「その隣がメル、猫獣人族だ。東の森に住んでいたが、王族や貴族達の狩猟地として開拓された際に集落ごと追われ、復讐に燃えているというわけだ」
「メル、よろしく」
「あたしはイライザ、冒険者だ。貴族の治療を優先されて、妹は神殿のやつらに見捨てられた。ただ腹が痛かっただけのやつのために、あいつらは金があるからって、あたしの妹は……!!」
ん~。全員訳ありなんだ~。ここに居るメンバーじゃ、暗殺者教団の本部までは辿り着けない……か~。3人を制圧して、ゼノンだけを拘束して装備を引っ剥がして尋問するのが一番早いんだけど、世直しのために~ってのは本当なのかも? これがどうしてあんな脅迫の手紙を出すに至ったのか、香辛料との繋がりはなんなのか、かなり気になってきた。もうちょっと追跡を続けようかな。
「挨拶は済んだな。我々はこれより、王族へ反旗を翻す。その気になればお前達などいつでも殺せるのだと、我々の力を示すのだ。今宵、王城には我等暗殺者教団の全員が集結する……。お前達は、この華々しい活躍を最前線で見届け、我々が本気であるということを知って貰いたい。俺の指示に従えば、何も危険なことはない。では、いくぞ」
「はいっ」
「あい」
「ああ」
「(は~い)」
『(は~い!)』
じゃ、その安全に襲撃出来る王城ツアーに、私も同行しま~す。だって、全員が集結するんでしょ? まとめて全員終決させるのに、絶好の機会だよね。
それじゃあ怪人ヒゲマント、王城までのガイドよろしく~。私もこのツアーに、ただ乗りしちゃうね~。




