011 謝っても赦してあげない
まずは、魔法生物についておさらいをする。
魔法生物はその名の通り、魔法によって作られた生命体。生きているものに分類されて、ゴーレムもしっかりと生命体に分類される。完全な無機物ってわけじゃない。
魔法生物の代表はゴーレム。土とか鉄の塊にコアとなる魔石を埋め込んで、主人の命令を忠実に聞く下僕として運用することが出来る。私は昔、手持ちがいっぱいになって処理に困っていた魔石を全部融合、そして凄く頑張って圧縮して、虹色に光る魔石になったのをコアとして使ったゴーレムを作ったことがある。ししょー達の家に置いてきちゃったけど、メイドゴーレムのメイレムちゃん。ししょー達の話し相手になってくれたり、お掃除をしたり、畑の手入れをしたり、有害な魔物やゴロツキの駆除やさくらちゃんのお散歩に付き合ったりしてる。かなり賢くて従順で可愛いゴーレム。
「本当にごめん……。やればやるほど、ゴーレムでいいじゃんって思い始めてきた……」
「おっぱる、余計なことを考えない。完璧なスライム作りは集中力が大事。自分で言った」
「う、うん……」
『どうして師匠より弟子のほうが厳しいんだろう……』
「ね……」
「黙って手を動かす」
「ぴぃ……」
そして今作っているのが、魔法生物のスライム。ゴーレムは魔法的要素、魔術的要素が非常に強いけど、スライムは錬金術の要素が非常に大きい。
まず、スライムの本体であるコアを守る体液部分だけど、これの良し悪しは錬金術の腕前が大きく影響する。動き回る度に型崩れして液体が飛び散るようなスライムは、錬金術の練度がとにかく足りていない証拠。コアとなる魔石もしっかりと複数個を融合させて、暴走しないようにガッチリと術式を刻み込んで体液部分とコアを結合させる。この結合の強度も錬金術の腕前が、あっ!!
「うへぇ~……ジーナちゃん良い匂いする~……んひぃ……」
「おっぱる! 余計なこと考えてるでしょ!!」
「へえっ!? 考えてない!! 考えてないよぉ!!」
「もういいもん。全部自分でやるから!! おっぱるはそこで見てて!!」
『オパールさん。今日は多分、疲れてるんだよ! 僕の痒いところ掻いて~! なでなでして~!』
「はぁ、はぁい……」
おっぱるの集中力が終わってる。体液用の液体も、コアとなる魔石の融合と圧縮率も、体液とコアの結合率もぜ~んぶ品質が悪い。
汚い時はわからなかったけど、工房に並んでる魔導コンロとか、魔導クーラーとかは良い出来のものが多いのに、どうしてスライムには熱意がないの? 自分で思いついて、自分で使えるかもって編み出したものなのに。自分の可能性を自分で潰しているだけだよ。
体液用の液体もなくなっちゃったし、こうなったら完全に自己流でやる。私が考えた最強のスライムを作る。
「……体液用の水、浄化水に回復を組み込んで自己再生機能を付けさせちゃお」
『ジーナちゃん、早速手順が違うように見えるよ? あ、そこそこっ! わひゃうっ』
「んひ、んひ……。よもぎちゃん、本当にちっこくて可愛いねぇ~……」
あの人、ちっちゃければなんでも好きなのかな。変態。
「魔石……。インカル帝国の闘技場の魔物達のでいっか~。どんどん使って、前みたいな虹色の魔石を目指そう」
『ねえねえ、魔石ってそんなにいっぱい使って大丈夫なの?』
「まだまだいっぱいある……って言いたいけど、そう言われるとちょっともったいなくなってきた。色が似てるので3種類に分けちゃお」
『赤と、緑と、あお~ん!』
「あお~んなの~可愛いねぇ~」
どういう原理で魔石に色がついてるのかわからないけど、とりあえず同じような色合いの魔石だけで融合させて圧縮して、これに術式を書いちゃおう。書き込む術式は~……。
「ゴーレムは独立して動く兵隊みたいなものだけど、スライムは協力して戦う装備みたいな感じにしたいな~……」
私の攻撃形態、防御形態、移動形態の発動をサポートしてくれるような、そういうスライムがいい! この3形態を同時に展開出来るようになれば、飛び回りながら防御しつつ攻撃も出来る最強の形態に……。まさに、私が考えた最強のスライムになってくれるはず。人間の動きをサポートしてくれるように術式を書いて、知識転写で強制的にこの技を覚えさせる。
まだまだ書き込める余地がある~……。う~ん、赤いのにはなんとなく、火属性の魔法が使えるように知識転写しておこうかな? 緑のは風、青いのは水でいいかな~? これで3形態を取りながら3属性の魔法を同時に展開する最強を超える最強のスライム装備が……。あ、こんな感じだったのかな? これで掃除が楽になる、うっへっへ~みたいな。
「ん、出来た。完璧な仕上がり」
『お~。まんまる!』
「見事に丸いスライムだけど、うわぁ……体液が失われる割合、もしかしてゼロ……?」
「早速装備する」
『装備!? どういうこと!?』
「エッエッエッエッ」
さあ、私のサポート装備になれ、スライム共~。わ~い。
『ピィ~』
『ミャァ~』
『グィ~……』
「…………? ねえ、なんで近寄ってこないの? ほら、共生。共存。私と一緒にな~れ~」
『『『ブミャァ~』』』
『メチャクチャ嫌がってるね!』
「どうして……どうしてこんなことに……」
なんでこんなに反抗的なの……。どうして私の言うことがきけないの……!!
「ん~……。僕が思うに、ジーナちゃんはきっと、完璧過ぎて入り込む余地がないんじゃないかなって思うんだけど。だから僕なら扱えるんじゃないかなぁ~? うひひひ~」
「あ、人の成果物を横取りする悪いやつ!!」
「ほれほれ~こっちにおいで~」
『ピ!!』
『ミャ!!』
『グィ!!』
「は、え、あ……?」
『わあ、ジーナちゃん以上に嫌がってる! 絶対に触るな、近寄るな、あっちいけって言ってるよ!!』
ふっ、私にも私のスライムにも嫌われた。さすがおっぱる、期待を裏切らないへっぽこっぷり。
でも、今おっぱるに怪我をさせない程度に攻撃したのを見るに、術式と知識転写は完璧に作動しているみたい。なんせ、私の他に誰も覚えられそうになかった攻撃形態、防御形態、移動形態の3形態を、この3色スライム達は今目の前でやってくれた。だから完璧に成功しているけど、何かを嫌がって私との共生を拒んでる状態。
「詳細鑑定要求」
こうなったら、これに限るね。
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【名称】ルビースライム
【情報】
知能が非常に高く、世にも珍しい鳴く火属性のスライム。鳴くことに違和感を覚えろよと、創造主にツッコミを入れたいらしい。
共生や共存を命令されているが、より長くより豊かな生涯を送りたいと願っており、消耗品として扱われそうな創造主との共生はどうしても断りたい。
それ以上に不潔なオーラを感じたので、長生き出来そうな相手ではあったがそちらの人間は絶対に断りたい。
ようするに、寄生先を求めている。持ちつ持たれつ、相棒となりえるような相手が欲しいのだ。
同期のスライムの中では攻撃形態に長けており、移動形態が苦手。防御形態は普通なようだ。
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【名称】サファイアスライム
【情報】
知能が非常に高く、世にも珍しい鳴く水属性のスライム。鳴くことに違和感を覚えて欲しいですわと、創造主にツッコミを入れたいらしい。
共生や共存を命令されているが、以下ルビースライムと同文である。
同期のスライムの中では防御形態に長けており、攻撃形態が苦手。移動形態は普通なようだ。
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【名称】エメラルドスライム
【情報】
以下ほぼ同文である。風属性なんだぞと主張したい。
同期のスライムの中では移動形態に長けており、防御形態が苦手。攻撃形態は普通なようだ。
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「…………あっそ」
『あ、ジーナちゃんが急に興味をなくした!!』
「え? どういうことなの……?」
『たぶんね、自分に懐くことは一生ないんだろうなって悟って、どうでも良くなったんだと思う!!』
やっぱりゴーレム。ゴーレムしか勝たない。スライムは自我を持ちすぎだし、これじゃ私にとって全く有用なものにならない。
でも、ゴーレムコアには覚えさせられなかった形態変化の知識転写が可能だったのは収穫かも。多分、スライムは体の形を自在に変えられるから覚えられたのかな? 魔法生物の特徴にあったものなら、覚えられるってことなのかもしれない。
「小型化ぐらい出来るでしょ? この瓶の中に入って、いつか来るかも知れないその日を待てば?」
『ピ!!』
『ミャ!!』
『グィ!!』
『さすがジーナ様、話がわかる!! って、言ってるよ』
「ええ……。ええ、錬金術界隈が震撼するような、とんでもない大発明を見た気がするのに、もしかしてなかったことにされる系なの……?」
「うん。知識転写の術式、教えてあげるから。自分で作ってね」
「ええ……? あ、はい、ありがとうございますジーナ師匠……」
いつの間にか師弟関係が逆転してる。まあでも、天才錬金術師って自称してたのに、おっぱるも上位錬金が使えなかった。もしかしたら、王都の錬金術研究は物凄く遅れているのかもしれない。ここでおっぱるから他の情報を引き出すより、モヒさんから教わった気功をマスターするのに時間を割いたほうが何万倍も有用な時間になる。
「これ、知識転写の知識を転写した知識転写のメモ書き」
「はひ? は、え? 今なんて?」
「無駄のない無駄に洗練された無駄な動き」
「え? え? え?」
「語呂が良かっただけ。言葉遊び。意味なんてないから、ばいばい」
『あ、帰るって! じゃあね! もうこないかもしれないけど、今度は綺麗にしててね!』
ん、おっぱるはこのぐらい雑に扱ったほうが良い。甘やかすとまたゴミ屋敷になって、今度こそ討伐依頼が冒険者ギルドに張り出されることになると思う。モヒさんみたいに礼儀正しくも情熱もないし、私もそれ相応の相手しかしてあげない。目には目を、歯には歯をって、オーサンししょーに習ったから。えっと確か、別の言い方だと……インガオホー? うん、インガオホー。
「ええ、せめて1回だけ!! 抱きしめさせて!! ロリっ娘堪能させてぇええええええ!!」
『魔力防壁』
「ぶぎゃ――――」
『あ! 今度はちゃんと効いたね! バリア!』
◆◆ 満月の魔狼亭に戻って…… ◆◆
「…………? どうしたの、女将。なんか暗い顔してる」
「ああ、ジーナちゃん。おかえり、すまないねえ」
「ヒャア…………」
どうしたんだろう、女将さんもヒャアさんも、凄く暗い顔をしてるんだけど。何かあったのかな?
「盗まれたんだよ、香辛料をさ」
「根こそぎ全部、ナーンジェイの仕業さぁ……。手紙が警告として、置かれてたんだ……」
『ジーナちゃん……!!』
「読んで良い?」
「ああ、構わないよ」
へえ、いい度胸してる。今の私は物凄く機嫌が悪いのに、タイミングが悪いやつ。
『我々に無断で香辛料を扱う者へ。次はない。明日の朝日を拝みたくば、我々ナーンジェイを畏れ敬え。金貨1000枚を用意せよ』
「…………ふぅ~ん。はい、よもぎ。くんくん」
『んっ!!』
「詳細鑑定要求」
この手紙の差出人に、明日の朝日は拝ませないことにした。ししょー達の名を騙り、ししょー達から頂いた香辛料を盗んだ挙句、金銭まで脅し取ろうとしてきてる。
これは間違いなくゴロツキのやり口。昔、ペペロンチーノ傭兵団を壊滅させた時もこんな感じのがキッカケだったし、多分今回も同じようなやつらの犯行。こういうやつらは放置すると1匹が30匹、30匹が900匹って数を増やす。放置するのは悪手だから、徹底的に叩き潰す。
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【名称】暗殺者教団の置き手紙
【情報】
暗殺者教団の幹部、新月の黒影ゼノンが置いた手紙。満月の魔狼亭から金銭を脅し取ろうとしているようだ。
その他の情報は読み取ることが出来ない。
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へえ、所属組織と名前以外が読み取れなかったのは初めてかも。情報を隠す能力に長けたやつが裏に居るみたい。
それにしてもナーンジェイの名を騙るなんて、本当にいい度胸。本物のナーンジェイを敵に回したことの愚かさを、骨の髄まで教えてあげないと。
「ししょー達の顔に泥を塗るような連中を生かしてはおけない」
『ごめんねジーナちゃん……。かなり臭いが希薄で、追えないかも。近くまでいけば臭いを思い出すぐらいは出来るよ!』
「あ、あのねえジーナちゃん。あたしらは大丈夫だから……」
「大丈夫な人は、そんな顔をしない」
「――――そうだぜ、女将。ジーナちゃんの言う通りだ!!」
あ、モヒさん……! 今の話、モヒさんも聞いてたのかな。
「ナーンジェイだぁ? 金貨1000枚寄越せだぁ? 俺達の憩いの魔狼亭相手に、随分とクソッタレなことをぬかすじゃねえか。なあ、お前らもそう思うよなぁ!!」
「ドラゴーさんの言う通りだ!!」
「ナーンジェイだろうがなんだろうが、あっちから仕掛けてくるって言うなら俺はやってやるぜ!!」
「やれやれ、今夜は少し、本気を出さねばなりませんね」
「あたしらの魔狼亭だ!! 好きにはさせないよ!!」
「ぶっ殺してやるでござる」
「ここに居るのは全員ゴールドランク以上、俺を含めてプラチナランクの冒険者が8人も居るんだぜ!!」
「単独でプラチナはあんただけなんだけどね」
「うむ……」
ここの守りをどうしようかって思ってたけど、モヒさん達が居るならきっと大丈夫……。モヒさんが信頼している冒険者なら、きっと。
「いくんだろ? このクソッタレのアジトを探しによ」
「うん。いく」
「派手にやってやれ!!」
「うん!」
まだ短い付き合いだけど、魔狼亭の女将さんもヒャアさんも、モヒさん達も……。ここは、居心地の良い場所だから。
だから、徹底的にやる。私が守る。私が潰して私が壊す。
「ジーナちゃんや!!」
「んっ!」
「無事で、帰って来るんだよ! あたしらは、待ってることしか出来ないけど……」
「じゃ、香辛料と残りのお肉、置いてく。宴の準備、しておいて」
「…………ヒャア!! 任せろォ!! とびっきりのを用意して待ってるからよォ!!」
「さすがヒャアさん。期待してる」
『期待してる~! いくよ、ジーナちゃん!!』
後悔させてやる。ごめんなさいって謝っても、赦してあげないんだからね。ふふ~ん。




