男性心理⑥
「性欲がなくなったんじゃない。“父親”になっただけ」
出産後、夫とのセックスレスに悩む女性は少なくありません。そして多くの女性が、「女として見られなくなったのでは?」という不安を抱えます。でも男性側にとっては、「性欲がなくなったわけではないけど、そういう気持ちになれない」といった、言葉にしづらい葛藤が渦巻いているのです。
まず前提として、男性は出産という出来事を、女性ほどリアルには体感していません。妊娠・出産という身体の劇的な変化を経験するわけではないため、頭ではわかっていても、父親になる実感を持つのが遅れがちです。お腹の中にいるときから赤ちゃんとの絆を築き始める母親と比べると、男性の「父親化」のプロセスはゆっくりで、時に戸惑いを伴うものです。
多くの男性は、妻のお腹が大きくなるにつれて、徐々に「これから父親になるんだ」という意識を持ち始めます。しかし、実際に赤ちゃんが生まれてからも、その実感は断片的なもの。特に、赤ちゃんと母親の間に生まれる特別な絆を目の当たりにすると、「自分はこの関係の外側にいる」と感じることもあります。
そんな中、赤ちゃんが生まれた瞬間から妻が"母親"に変わる姿を見ることで、男性の中にも「家族として守るべき存在」という意識が強まります。これは一見、愛情の形とも言えますが、その「守るべき存在」に対して、性的な感情を抱くことが「不謹慎」と感じてしまう心理も働くのです。
特に「母親=性対象であってはならない」という無意識のブレーキを持っている男性は少なくありません。自分の中で"妻"と"母"の像がうまく結びつかなくなり、気づかぬうちに距離を置いてしまうケースもあります。これは彼らの多くが育ってきた家庭環境や、社会的な「母親像」のイメージが影響していることも。自分の母親に対して持っていた「清らかで神聖」というイメージが、無意識のうちに妻にも投影されてしまうのです。
「授乳している姿を見ると、性的な気持ちになるのは申し訳ない気がする」と心理カウンセリングで打ち明けるパートナーも少なくありません。自分でも理解できない複雑な感情に、戸惑い、混乱している男性も多いのです。
また、産後の生活は"余裕のなさ"との戦いです。夜泣き、ミルク、オムツ、寝不足……自分のことは二の次三の次。妻が必死に子どもの世話をしている姿を見て、「今それどころじゃないよな」と空気を読んで手を引く男性もいます。時には「疲れてるのに誘うなんて、わがままじゃないか」と自分を責めることで、むしろ自分から距離を取ってしまう場合もあるのです。
産後うつなど、母親の心身の状態を気遣うあまり、「無理をさせたくない」という配慮が、過剰なまでの"遠慮"になっているケースも。特に日本の男性は「察する文化」の中で育ってきたため、「言われなくても相手の気持ちを考えるべき」と思い込み、結果的にコミュニケーションが減ってしまいがちです。
加えて、「自分から誘って拒否されたらどうしよう」という不安や、「もし断られたら傷ついてしまう」というプライドも影響しています。こうした不安が積み重なって、"何となく避ける"という選択になってしまうのです。「もし誘ったとして、彼女が疲れているのを我慢して応じてくれたとしても、それは本当に彼女のためになるのか」という葛藤も。
さらにもう一つ。セックス=愛情確認という意識が強い女性に対して、男性は「スキンシップがなくても一緒に暮らしてるし、仲良くやってるじゃん」と思っていることも多いです。だからこそ、妻が"足りない"と感じていること自体に気づいていない場合も少なくありません。
男性は「性」と「愛情」をある程度分けて考えられる一方で、いざ長期のパートナーシップになると、むしろ「家族の安定」「社会的責任」といった面に意識が向きがち。特に子どもが生まれると、「セックスはいつでもできるけど、今は家族を守ることが優先」という思考に切り替わることが多いのです。
また、一部の男性は「妻とのセックスレス」の代わりに、ポルノなどで性的欲求を満たしているケースもあります。これは「性的な面と家庭的な面を分けたい」という心理が働いているとも言えるでしょう。しかし、そうした行動が長期化すると、妻との性的な関係が復活しにくくなる原因にもなりかねません。
男性にとってのセックスレスは、「嫌いになった」とか「魅力がなくなった」とはイコールではないのです。ただし、そうであっても女性の心が傷ついていることに、本人は気づいていない——それが、この問題の難しさのひとつです。むしろ多くの場合、「彼女を思いやっている」「大切にしている」と信じているからこそ、このすれ違いに気づかないまま時間が過ぎていくのです。




