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第四部 第十二章 皇子対皇子

第十二章 皇子対皇子


 標高の高い丘陵地帯と抜けると、その先は荒地と灌木の連なる荒野で、所々に小さな集落と畑がある様な土地だ。途中には東ローマ帝国時代の魔法教会の廃墟もある。

 斥候に出していた兵が戻って来て報告する。

「5マイルほど先に、敵の偵察部隊約50名を発見しました」

との事だ。

 ジョルトは、ユーグ2世とロベール、ロベールの副官アールモシュの三人を呼び

「前方に敵が50人ほど居るそうだ、三人で蹴散らして来い、できれば敵の指揮官を生け取りにな」

と指示を出す。

 ユーグ2世とロベールはすぐにマーリカの方を見た。

「指揮官として兵を何人連れて、どの様な攻撃方法を取るかはあなた達で考えなさい」

とマーリカは二人に言う。

 二人は直ぐに自分の部隊から精鋭50名ずつを選び魔弩弓騎兵10、歩兵90と言う構成で、意気揚々と出発した。

「おい、一緒にいかないで大丈夫か?」

とダークナイトは心配そうだがマーリカが

「アールモシュが付いています、この程度の敵なら余裕でしょう、問題はちゃんと敵の指揮官を生け取りにしてこられるかね」

と言うので黙った。

 

 斥候の兵に敵兵の居る場所まで案内させた三人は敵の様子が伺える丘の上で作戦を考える。

「兄上、廃村の様ですね、どうします?」

年は同じだが、生まれが先のユーグ2世が兄と言う事になっていて、ロベールはいつも兄の意見を尊重する様に母から育てられている。

「俺の部隊が、迂回して敵の背後から攻撃する、それに合わせてお前とアールモシュ殿が一緒に攻めかかると言うのはどうだ」

「挟み撃ちですね、それで行きましょう、先に敵の馬を攻撃してそれから兵、そして指揮官を捕えると言う事で良いですね」

「ああ、馬が可哀想だが仕方が無い、では行くぞ」

 それぞれが自分の部隊に目標の優先順位を示して、ユーグ2世は自分の部隊を連れて丘を敵とは反対側に降り、敵の死角から背後に周り込んだ。

 そして打ち合わせ通りに、まずは敵の馬を攻撃する。

「敵襲だ、応戦しろ」

こんな所で会敵するなどと予想もしていなかったのか、敵の部隊は混乱して、統制が乱れる。

全員がユーグ2世の部隊の方を向いて防御と攻撃の用意をした所で、今度は背後からロベールの部隊に攻撃されて、馬、兵士達、と次々に倒されていき、残り10名程になった所で、魔弩級を構えた二人の部隊の兵達に包囲されて、武器を捨てた。

「両手を高く上げて、跪け」

アールモシュがそう指示をするが、言葉が通じないので、誰も言う事を聞かない。

それどころか、何かを叫びながら、アールモシュの方に向かってくる兵も居る

「危ない」

それを見てユーグ2世は即座にその兵を射殺した、結局こちらの意思が全く伝わらないまま、更に残りの敵兵が暴れて無駄に命を失い、最後は無理やりに一人の士官らしい男と、魔術師らしい男の二人を全員で取り囲んで縄で縛ると言う形になった。

三人が、指揮官だろうと判断したのは一番良さそうな装備を着ていたからだ。

「よし、引き上げよう」

 こうして、二人の初陣は混乱はあった物の目的を無事に達して、本隊と合流する事になる。

 

 二時間ほどして、ダークナイトがそろそろ落ち着かなくなった頃に二人の皇子とアールモシュは捕虜を二人連れて、得意げに戻って来た。

「遅いから心配したぞ」

「申し訳ありません、こいつらが何を言っているのか全くわからず、こちらの言う事も理解できない様なので、色々と手間がかかりました、せっかく十人ほど無力化したのですが、残ったのはこの二人だけです」

とユーグ2世が答える。

「そうか、言葉が通じないのか、不便だな」

それを聞いてダークナイトとアンリは顔を見合わせた。

「ご苦労だった、死傷者は?」

ジョルトの問いに

「かすり傷が二人だけです」

とロベールが答える。

「良くやった、しばらく休んでいろ、誰かイオアンネス殿をここに、通訳を頼む」

そう言ってからジョルトは甥のアールモシュと目を合わせて頷いた。

『殿下達を守って良くやった』

と言う視線なのはアールモシュも理解ができる。

 ジョルトとしては甥が将来の皇帝となるユーグ2世と戦場を共にする事で、皇帝ユーグとダークナイトやアンリの様な『戦友』と言う関係を築ければ良いと思っている、今回の戦闘はその一歩で甥がその任務を無事に達成した事を喜んでいる。


 イオアンエスの通訳で得られた情報は、彼らはブワイフ帝国の魔法小隊で、炎の魔術師が30名

警護の騎士と歩兵が20名と言う編成で、『アナスタシウスポリス』以北の村々の浄化を担当していた、

浄化と言うのは発症者が居る村を発見した場合は村人共々、炎の魔法で焼き払うと言う物で、同様の任務についている部隊が、後50以上は存在すると言う事だった。

 浄化の終わった村を発見して、休憩中に襲われたので魔術師達が詠唱が間に合わず一方的に蹂躙された

と言う事で、指揮官は

「正々堂々とした戦いなら負けなかった」

と胸を張った。

「なるほどな、生存者が居ても構わず、全て焼き尽くすか、まぁそれしか方法が無いのだろう、それで

『アナスタシウスポリス』の状況は?」

 指揮官は

「アナスタシウスポリスとその周辺は浄化が終了して、今は焼けた神殿の再建工事を始めている、その為に、司令官の元、高位の神官とその指揮下の部隊1000名が駐屯している」

とペラペラと喋り、最後に

「唯一の神である『アフラ・マズダー』に使える神官は最高の炎の魔術師で、貴様ら異教徒など一瞬で炎に焼かれて滅びるだろう」

と言い切った。

 もう一人の捕虜、こちらは炎の魔術師でそれなりの地位にある様だが、やはり答えは一緒だ。

ジョルトはこの二人の処遇をどうするか考えたが、イオアンエスは一族の仇なので、自分に始末させて欲しいと強く要望した。

 ジョルトがダークナイトとアンリの方を見ると、二人も頷いたので帝国法に基づき、この二人を

『放火殺人犯』として処刑する事になる。まぁこれは完全に方便だが無為に捕虜を殺すわけにはいかないのが今の帝国だ。


「よし、では先を急ごう、明日にはアナスタシウスポリスに入りたいからな」

と全軍はまた行軍を開始した。

 やはり途中で敵の浄化部隊、数隊と遭遇したが、必要な情報はすでに入手済みなのでそのまま一気に殲滅して前進を続ける。


 街まであと数時間と言う場所で野営をする事になるが、ジョルトの幕舎にアンリが顔を出した。

「ジョルト殿、夜襲をかけてみたいと思うのだが、許可をいただけるかな?」

 基本的に二人は魔聖ローマ帝国の『王』として同格だが、この軍団の指揮官はジョルトであるのでアンリは礼を通した事になる。

「夜襲か、面白そうだが無理はするなよ」

とジョルトはアンリの提案を受け入れて、

「あの三人も連れて行ってやれ」

と指示をした。

「そうですね、良い経験になるでしょう」

とアンリはその提案を受けて、早速二人の皇子の幕舎に行って、夜襲の件を伝えた。

二人が大喜びしたのは当然だが、この件の承諾を得にダークナイトの所に行くと

「何夜襲だと、お前抜け駆けする気か? 俺も行くぞ」

と言われて、ダークナイトは直ぐに義兄であるジョルトの幕舎に向かったがそこで、

「そんな大勢で行っても同士討ちの危険が増えるだけだ、諦めろ」

と言われて、おとなしく引き下がる事になる、

 アンリ率いる1000名の夜襲部隊は、馬に嗎を鳴かせない様に馬用の軽量兜を着用させて、イオアンエスの先導で、最低限の松明の明かりを目印にアナスタシウスポリスに向かう、この夜は空は厚い雲に覆われていて、月も差さず夜襲に最適だ。一行は街まで丘一つという場所で停止した。

「マイアレン、頼んだぞ」

「はい陛下」

アンリの妻のマイアレンはこの中で唯一浮遊魔法と飛空魔法が実用なレベルに達している。

ここから飛空魔法で、空の上から敵の状況を偵察しに行くす事になる。

 その間に全軍は急速と武具の確認をする。しばらくしてマイアレンが戻ってきて、羊皮紙に書かれた地図に、敵の配置と大まかな兵数を書き込んで行く。

「なるほど、敵の主力は、建設中の神殿に居ると言う事だな、街の東西の大門は閉じていて、警護の兵が100名ほどと、街の中は石造りの建物が残っているがほぼ廃墟状態か、確認できたのは篝火や焚き火のある場所のみだが、大枠では問題無いだろう。では部隊を二つに分ける、私の指揮する部隊は東、マイアレンは西、ユーグ殿下は俺に、ロベール殿下とアールモシュ殿はマイアレンの部隊に同行してもらう、最初に魔術師部隊と殿下達の部隊で東西の大門を壊し、私の魔法騎兵が突入する、そして頃合いを見て離脱と言う事になる、殿下達は門の破壊を確認したら、後方に下がって、万が一逃亡する敵が居たらそいつらを殺すか捕まえるかしてください、ただし近接戦は控る様に、あくまでも遠距離からの攻撃に徹してくださいれよ」

と指示をする。これは逸った二人が街内の白兵戦に参加しない様にする為だ、アンリは二人の剣の腕をすでに確認していて、二人ともまだ実戦で敵の将クラスを相手にする腕は無いと判断しての事だ、まぁ後数年あの恐ろしいマーリカ……アンリは一度手合わせをして引き分けているが、その膂力は女性とは思えず、アンリは木剣を叩き折られている……によって鍛えられれば問題無いと思っている。

 

 アナスタシウスポリスに駐屯しているのは、この地方の浄化を任せれた炎の魔術師『イッズ・アッダウラ』で、彼はこの任務をこなして父であるカリフ(皇帝)『イマード・アッダウラ』に認められて

『ワリー・アル=アハド』(次期カリフ)の地位を得ようと考えて、功績を焦っていた。

 そもそもブワイフ帝国の元になったのはジバール地域のダイラム人の傭兵団であり、彼らは実力主義であり族長の地位は一族の中の武力に優れた者が引き継ぐと言う習慣がある。カリフの長子であっても戦功が無ければ認められず、現在はカリフの二人の弟が実力、戦功共にイッズを大きく引き離している。

 現在イッズを支持するのは、旧アッパース帝国からブワイフ帝国に乗り換えたハムダーン王国や、アナトリア地域のテュルク系民族……古代中央アジアの騎馬遊牧民の末裔……それにアラブ人などあったが、イッズは功を焦るあまり、大きな過ちを犯してしまう、カリフ・イマードは生粋の武人であり、戦功は戦って勝つ事以外は認めていない、つまり幾ら街や都市を浄化しても、相手が病人や死人である為に戦功とは認められないと勝手に考えてしまい、その為にイッズは浄化と共に帝国に恭順していない城塞都市『アンゴラ』の攻略を考え、20000の兵で城塞を取り囲んだ、だが三ヶ月立っても城塞が落ちる気配は無く、疫病の蔓延で補給も滞り、20000の兵が15000まで減った所で、イッズは仕方無く当初の目的である、アナトリア各地の浄化に専念する事にしたのだった、だがそれでは武功にならない、そこでイッズは『アナスタシウスポリス』に感染者を追い込む事で、街に内乱を起し、領主であるヨハネス・ピロポノスが帝国に反乱を起こしたと言う事にしてこれを討伐して武功とする事を企んだのだった。

 ところが、肝心の領主ヨハネス・ピロポノスは一族の動ける者達を連れて、街を捨てて逃亡、イッズが手にしたのは半ば廃墟と化し、疫病でほぼ人が死に絶えたアナスタシウスポリスの街だけだった。


 そして深夜、イッズは突然の轟音で眠りから起こされる。

「敵襲、東と西の城門が破壊されました、敵の騎兵が街に入り込んでいます」

 と報告を受けて、直ぐに戦闘準備にはいる。

「敵が騎兵と言う事はテュルク人の反乱か、おのれ目を掛けてやった恩を仇で返すとは」

と槍を手にした、イッズは炎の魔術師である前に、ダイラム人の伝統である槍術使いなのだ。

「敵にも炎の魔術師が居る様です、その他にも土の魔術師の存在が……」

と報告を仕掛けた伝令の兵が、再建途中だった神殿の崩れた天井の瓦礫で押し潰されて即死した。

 イッズからは見えないが、神殿上空にはマイアレンが居て、皇帝ユーグから下賜された愛剣『ティソーナ』を掲げで得意の土魔法で、神殿を破壊しているのだ。

「司令官、撤退を具申いたします、このままでは不利です」

 敵の数も正体もわからずに、イッズは街を捨てて退却する事を躊躇った、だがこのままでは未知の敵によって壊滅させられる事も確かかもしれない。

 この時イッズが夜襲を仕掛けて来たのはたった1000名ほどの魔聖ローマ帝国軍だと知っていれば

彼は、神殿を出て街の広場で敵を迎え撃つと言う選択肢を取れただろう、だが敵の情報が全く無い状況で

その判断を下す事ができなかった。

 彼は残存する兵力を纏めて、東の門から街の外に退却する道を選んだのだった。

 その東の門の外にはユーグ2世の部隊が周囲の暗闇の中に身を隠している。

「敵が出てきます」

門の付近で中の様子を伺っていた、1000人将の一人が報告にくる、

「全軍、攻撃用意、焦るなよ充分に引きつけて射て」

とユーグ2世は自分に言い聞かせる様に部隊に指示をした。

 100人の魔弩級兵は二人一組となって、交互に装填と射撃を繰り返す様に訓練されている。

つまり敵には常時50本の矢が降り注ぐ事になり、更に矢の攻撃を防いでも各属性の魔法攻撃が待っている。敵にとってはここが死地になるのだった。

「射て!」

大門の松明に照らされた敵に対して、暗闇から矢が飛び、敵は面白い様に倒れていく。

「伏兵だ、固まるな!」

イッズは大声で指示をして、矢の音だけを頼りに槍を振るって叩き落とす。

「見事だな、全員あの騎乗の男を狙え、おそらく敵の将だ」

 一本や二本の矢ならなんとかなるが、数が多すぎる、そしてその中の一本は、矢に火属性の魔法を纏わせたユーグ2世の渾身の矢だ、その矢はイッズの胸のラメラーアーマーとその下のチェーンメールを貫通して、イッズは落馬した、ほぼ即死状態で魔法歴942年秋、イッズの人生はここで幕を閉じた。

「敵将討ち取った!!」

ユーグ2世の部隊から大歓声が上がり、残りの兵達も次々と討ち取られて、運の良い数人が逃亡に成功した。

 この状況は西門でも同様で、こちらの門の方が近いと、この門から撤退をしようとした将兵達は、ロベール達の部隊によってほぼ壊滅状態にされて、こちらも数人が生き延びて逃亡しただけだった。 

 

 夜明けを迎える前に、 『アナスタシウスポリス』は魔聖ローマ帝国軍に占拠され、アンリが雷鳴を空に放って本隊にその事を伝える。

「あ、ちくしょう、俺の獲物を残しておけと言ったのに」

と弟分のアンリに先を越されてダークナイトは大いに悔しがったと言う。

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