↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/54

第四部 第十一章 転送魔紋

第十一章 転送魔紋


「うわぁー」

と叫びながらアレクシオスは自分が、先程とは別の建物の中に居る事に気が付き、周囲を見渡した。

「まあ、アレクシオス殿、そんなに叫ば無くても大丈夫ですよ、さぁこちらに」

と先に転送したマイアレンに言われて魔紋から出た。

そして直ぐに、今度はアデルが転送されてくるのを見て、更に驚愕する。

「これは魔法なのですよね、どの様な仕組みで?」

「さぁ、難しい事はわかりかねますが、安全なのは確かです、隣の部屋に参りましょう、次の魔紋で帝都まで飛びます」

とアデルに言われて、その後を着いて行く。

「では、帝都で」

 と今度もマイアレンが先に魔紋に入り、先程と同じ様に、アレクシオスとアデルが続いた。

帝都の『ラジエル魔法大教会』の『転送の間』で魔紋から降りたマイアレンは直ぐに衛兵を呼び、大至急皇后陛下にお目通りをと衛兵に告げる。

「アレクシオス殿、魔聖ローマ帝国の帝都ユーグウルプスにようこそ、これから皇后陛下に面会をしていただきますけど、その格好だとあまりにもですね、衛兵、客人を湯殿に案内して、それから着替えも用意させなさい」

とアデルは当然の様に衛兵に命令する。

 公式の立場はルテニア王妃なのだが、アデルは皇帝ユーグの姪だ、なので誰もそれをおかしいとは思わないのだ。


 それから1時間ほどして、王宮の皇后執務室に入った三人は笑顔の皇后マロツィアに迎えられる。

「まぁ二人とも山の様なラデッシュを持って、急に帰還とは何事ですか、貴女達は戦場に居るはずでは無かったの?」

と皇后は笑っている。

「はい皇后陛下、進軍はとても順調でございます、ここに主人から陛下への手紙がございます」

とアデルはジョルトから預かった手紙を皇后に渡す。

 それを一読したマロツィアは衛兵に書斎に籠っている皇帝ユーグを呼びに行かせる。

そしてアレクシオスに向かうと

「貴方がアレクシオス殿ですね、魔聖ローマ帝国へようこそ、そのラデッシュの様な作物から本当に砂糖が作れるのですね」

と聞く。

「はい、皇后陛下、我らは何代にも渡って、この作物……ビーツと言いますが……から砂糖を作っております」

 この頃のヨーロッパで砂糖がどれだけ貴重かと言うと、皇帝のユーグの口にさえ滅多に入らない物だった、甘味を取るのには果物を食べるか、それを絞ったジュースを飲むか、あるいは蜂蜜を使うしか無かったのだ、そう言う意味でも、アラブ世界の方が文化が進んでいたのは確かだろう。

 

しばらくして皇后の執務室に皇帝ユーグが、目を腫らした顔で入って来た。

「なんだ、緊急時以外は呼ぶなと言っておいただろう、せっかく新しい荷車が……」

とマロツィアに向かって文句を言おうとして、三人の姿に気づき

「アデル、マイアレン殿も、まさかユーグとロベールに何かあったのか?」

と一瞬だけ狼狽えた。

「陛下落ち着いてください、それにしてもまた徹夜されたのですか? 研究もよろしいですが、お身体の事をもう少しお考えになってくださいね、これジョルト殿からの手紙です」

 手紙を読んだユーグは、アレクシオスに向かうと

「貴卿がアレクシオス殿か、農作物に詳しいそうだな、しかもそのラディ……ビーツか、から砂糖を作れるとか?、帝都に良く来てくれた、早速仕事に取り掛かって欲しいが、まずはそのビーツの栽培からだな、どの様な土地が良いのか?」

 魔聖ローマ帝国には一々皇帝の言葉を取り次ぐ役人等は存在しない、皇帝に問われた者は、身分の上下無く直答が許されているが、ブワイフ帝国やアッパース帝国等の中東の帝国はそうでは無い、なのでアレクシオス殿は一瞬躊躇ったが、周囲には衛兵以外に誰も居ないので、直接答える事にした。

「皇帝陛下、御尊顔を拝し……」

「我が帝国ではその様な余計な挨拶はいらん、早く本題を話せ」

と言われて恐縮しながら、皇帝の問いに答えた。

「なるほど、日当たりと風通しが良く冷涼で水はけの良い土地か、これは帝国の各王国で実際に試してみた方が良さそうだな」

「はい陛下、このビーツを畑に植えれば、やがて葉が出て花が咲き種が取れます、その種を畑に撒く事で

次の収穫ができる様になります」

「そうか、アデルとマイアレン殿が二人で来たと言う事は二人共自分の領地で試してみたいと言う事だな」

「はい陛下」

二人は声を揃えた。

 皇帝ユーグの決断は早い。

「良かろう、アレクシオス、貴卿を魔聖ローマ帝国子爵位を与える、併せて帝国農務省次官に任命する、またルテニア王国とビザンツ王国でのビーツの試験栽培を許可する、皆これで依存は無いな?」

「え、あ、ははい、身に余る光栄にございます」

とアレクシオスは深々と頭を下げた、訳がわからず、帝都に転移魔法で連れてこられたが、爵位を授かり更に次官と言う高位の職務まで与えられるとは思わなかったからだ。

「ではマロツィア、後は頼んだぞ、来年か再来年には砂糖が味わえるのか、楽しみだな、あそうだ私は明朝、また視察に出る事にする」

と言って皇后の執務室から出て行った。

「皇后陛下、皇帝陛下(叔父上)は相変わらずなんですね」

「そうなのよ、いかにも陛下らしいでしょう、さてではあちらでお茶でも飲みながら。実務の話をしましょうか」

 と言う事になる、帝都に初めて訪れたアレクシオスだが、彼は既に実質的に宰相格として帝国を動かしているのが、この皇后だと言う事を直ぐに認識した。

 そして、マロツィアが呼び付けた文官達と打ち合わせをして、自分が居るべき場所をやっと見つけたと確信したのだった。

 帝都に屋敷を賜り、充分な報酬と作物に関しての権限、魔紋の使用も許可されて家族が居るなら帝都に呼び寄せる事も可能になった。何が何でもビーツの栽培に成功して砂糖を作らないといけない状況になったのだ。

 アデルとマイアレンはアレクシオスから、ビーツを畑に植える方法を教わり、20本ほどを持って一度領地に戻った。

 皇后マロツィアは、有能そうな文官をまた一人得た事で、満足をしている。


 翌朝皇帝ユーグは三人の皇妃を伴って飛空船で、『アナトリア』地方に飛び、ジョルト達が野営している、『クラウディオポリス』を目指している。

「陛下、あの、大きな街では無いでしょうか、神殿の屋根に帝国旗が翻っております」

と船の舳先から下界を監視していたエディルドが言う。

「ああ、そうみたいだね、神殿前の広場に降りようか」

 そして飛空船の高度を下げると、お馴染みの光景が広がってくる。

空を指差して狼狽える兵士達、目が良い者は帝国旗と皇帝旗を発見して、上官に報告と言う感じだ。

ユーグが、船を地上に降ろした時には、既にジョルトとダークナイト、アンリの三人の王と、ユーグ2世とロベール、幕僚達が、広場に整列して跪いて頭を下げていた。

「皆、出迎えご苦労」

「は、皇帝陛下、しかしまた奇妙な乗り物でお越しですな、前線視察歓迎いたします」

と声を出したのはアンリだ。

 ジョルトの方は、ユーグの魔法の事を熟知しているので、特に驚く事もなく平然と船を見ている。

そして、その後で信じられない物を見たと言う表情をしているのは、ヨハネス老人だ、そして船から皇帝と皇妃達が一度空に浮かんで、目の前に降りるのを見て更に驚愕する。

「その者が手紙にあったヨハネス・ピロポノス殿かな?」

と皇帝ユーグはジョルトに声をかける。

「はい、皇帝陛下、『アナスタシウスポリス』の領主ヨハネス・ピロポノス殿です」

ジョルトにそう紹介されたヨハネス老人は、ブワイフ帝国(それ以前の国も同様だが)の風習通りに

ほぼ土下座の姿勢で、頭を地面に擦り付けるように下げて

「皇帝陛下におかれましては……」

と型通りの挨拶をしようとしてユーグに止められる

「我が帝国ではその様な挨拶は無用だ、頭をあげよ」

 そう言われてジョルトの方を見ると頷いているので、安心して頭をあげて、姿勢を正した。

「昨日貴殿の甥御アレクシオス卿を謁見したが、かの者も同じ様な堅苦しい挨拶をしようとしたな、この地域ではそれが普通なのか?」

「はい陛下、仰せの通りでございます」

「ふん、面倒な風習だな、まぁ良い、それで貴卿は我が帝国に帰順したいと言う事、間違い無いか?」

「はい皇帝陛下、願わくば一族全員魔聖ローマ帝国の一員として頂きたく」

「そうか、貴卿は『アナスタシウスポリス』の領主と言う事だが、その街は今どうなっているのか?」

「残念ながら、この周辺の街と同様に既に廃墟となってしまっているかと」

「成程、空から見たがこれより西の街はほぼ全滅の様だな、痛ましい事だ、ダークナイト途中の街はどうなっている?」

「カルケドン、ニコメディア、と守備兵を残しております、ここクラウディオポリスも同様にして、ヨハネス殿の領地『アナスタシウスポリス』に向かう予定ですが」

「そうか、ではヨハネス卿、貴殿を帝国伯爵に任じる、余の総督として、アナスタシウスポリス以西の街町や村の状況を把握せよ、生存者がいれば麾下に加えて構わん、この地方を再び人の住める地域とするのだ、ジョルト、ダークナイト、アンリ、兵を1000ずつ伯爵に残して行け、治癒師と光魔術師も忘れるな」

「は、皇帝陛下」

三人は同時に頭を下げた。

「恐れながら、皇帝陛下一つお願いがございます」

「何か?」

「ここに控えますのは我が末子のイオアンネスにございます、未熟者ではございますが、剣も炎の魔法も使え、ラテン語も話せます、この先『アンゴラ』に向かうのであればお役に立てるかと存じますので是非

お連れいただけたらと思います」

「そうか、それは助かるな、ジョルト一緒に連れて行ってやれ、イオアンネス殿、道案内を頼んだぞ……」

と行ってからユーグはイオアンネスを見て少し考えた。

 元は高価な装備だったのだろうが、今はボロボロで剣も刃こぼれがしている様だ。

「アンリ、あの格好では帝国の騎士としてはあまりにも見窄らしい、装備を用意してやれ」

と指示を出す。

「かしこまりました、それで陛下はこの後どうされますか、我らと御一緒していただけるのなら嬉しいですが?」

「いや、私は少しこの辺りの土地を視察しようと思っている、文献に寄ると豊かな土地らしいからな、疫病が広まっていなければ良いが、あ、そうだジョルト殿に渡す物がある、船まで来てくれ」

と皇帝ユーグは飛空魔法で船に戻る、ジョルトも同じ様に空に浮いて船に乗った。

「あの、もしかして魔聖ローマ帝国の方々は皆空を飛べるのですか?」

飛空魔法に驚いたヨハネス老人がアンリに聞くと

「風魔法の上級者なら皆飛べる、俺なんかはまだ修行中だから、浮かぶ事しかできんがな」

と空にフワリと浮いて見せた。

 ブワイフ帝国やアッパース帝国では魔法と言えば炎の魔法で、治癒魔法を使う者も稀だ、ヨハネス老人にとっては風魔法は大昔の東ローマ帝国の文献に出てくる幻の魔法と言う認識だった。

「魔法では魔聖ローマ帝国は、ブワイフ帝国より遥かに進んでいる、私の選択は正しかった」

と思うヨハネス老人だった。


「これを貴卿に預ける」

とユーグはジョルトに小さな長方形の箱を渡した。

「陛下これは?」

「エーテルの流れを捉えて魔力で離れた場所でも話す事ができる魔道具だ、1000マイル離れていてもお互いの声が聞こえるぞ」

「それはまた便利な物ですね、しかし一個では二人が拗ねると思いますが?」

「あいつらは不器用だからな、大切な試作品を壊しかね無い、使い方は……」

「はい陛下、かしこまりました、話す前にこの鐘を鳴らして合図をすれば良いのですね」

「ああ、アンゴラに入ったら連絡をしてくれ、どんな街か興味があるからな」

「はい了解いたしました」

「二人はどうだ?」

「まだ一度も戦闘になっていないのが不満の様ですね、それでも言い付けた仕事はちゃんとこなしています、炎属性魔法の火力が高いので、遺体の処理に助かっていますが、そろそろ接敵が無いと我々の士気も下がりますな」

と言ってジョルトは笑った、ユーグもジョルトもアナトリア地方の惨状がここまで酷いとは思っても居なかったのだ、当初の予想ではカルケドンの街を出た後はかなりの抵抗を予測していたからだ。

「では、私は帝都に戻るとしよう、頼んだぞ」

「はい皇帝陛下」


 こうして、ジョルト麾下の軍に見送られて皇帝ユーグの飛空船『スキーズブラズニル』は西の空に消えていった。

 そしてジョルトの率いる魔聖ローマ帝国軍はアデルとマイアレンの帰還を待って、南の『アナスタシウスポリス』に向かって進軍を再開した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。