第四部 第八章 海峡制圧
第八章 海峡制圧
帝都ユーグウルプスの新宮殿『パンテオン城』の中庭に直陸したスキーズブラズニルを見た皇后マロツィアは、早速中庭まで出迎えた、ユーグと三人の皇妃達が船から降り、皇妃達は皇后に跪いて待機をする。
「まぁ陛下、お帰りなさいませ、また面白い物をお造りになって」
と微笑む。もう皇帝ユーグの魔法には驚かない事に決めたのだ。
「ああ、今からノルマンディのカーンまで行く、乗っていくか?」
「はい陛下喜んで」
「三人とも、ご苦労だった」
「はい皇帝陛下、皇后陛下行ってらっしゃいませ」
と三人はそのままの姿勢で頭を下げた。
「空を飛ぶ船とは、本当に陛下は……」
「呆れているのかな?」
「はい、でも楽しいですね子供の頃の夢が叶った様な気がします、それに乗り心地も川を走る船より良いです」
ユーグは子供の様にはしゃぐマロツィアと眼下の景色を楽しみながら、しばらく帝都付近の空を飛行した、そして景色が田園風景に変わった所で、ユーグは転移魔法を発動させて、ノルマンディ地方まで一気に転移した。
「まぁなんて海が綺麗な事」
ここでもマロツィアは飛空船から見える景色を楽しんでいる。
「この船を作った時に、マロツィアを乗せて色々な所の風景を見せたいと思ったんだ、この大戦が終わったら二人でイタリアへ行こう、アドリア海も綺麗な眺めなんだろうな」
「はい陛下、楽しみにしております、あらあの街がカーンですか? 綺麗な街並みですね」
「ああ、そうだ今は亡きロドルフ公が精魂を込めて作った街だ、ヴァイキングとフランク王国の建築様式
が調和した見事な街だろう?」
「そうですね、私からすると異国情緒のある素敵な街に見えます」
そうしている内に飛空船は街の中央広場の上空に差しかかる、地上では警備の兵や街の住民達が空を見上げて右往左往している。
ユーグが船を降ろして、遠巻きにしている兵や住民達に向かって声をかける
「余は魔聖ローマ帝国皇帝、ユーグ・カペーである、この街の船大工の長に用があって来た、誰か居場所を知らんか?」
船の周囲の人々が一斉に平伏した、そしてその中の一人が、
「恐れながら申しあげます、私が船大工の長『エギル・スカラグリム』でございます、陛下」
と声を上げたのは初老のヴァイキングの男性だった。
「エギル? その名は覚えて居るぞ、ロドルフ公の側近だったな、まだ健在とは懐かしい」
「はい陛下、私は戦より大工の方が得意でしたので」
「そうか、では貴公に頼もう、この船と同様な船を後10隻作って欲しい、図面と製造指示書はここにある」
「拝見してもよろしいですか?」
「少し待て」
とユーグは浮遊魔法でエギルの隣に行くと、そのままエギルを抱えて船に戻る。
「お、おおこれはまた恐縮でございます」
とエギルは冷や汗をかいている。
「成程、作りは我らの船とほぼ同じですな、これなら二週間も頂ければ作れます、ただこの部分の宝石などは我らでは用意ができませぬが?」
「それは後で届けさせるから安心せよ、それと船の外装だが普通の仕上げで良いぞ」
「はい、かしこまりました、それなら更に工期を縮められそうです」
「それと、この旗の部分だが、それぞれ帝国内の各王国の旗にしてくれ」
「はい……はて?帝国の王国は八、残りの二隻はどういたしますか?」
「ああ、それは無しで良いこちらで用意する」
「では頼んだぞ、これは手付金だ、完成したらすぐに帝都に使いを寄越せ、残りはその時に払ってやる」
とユーグは新造された帝国の金貨が入った袋をエギルに渡して、船から下ろした。
船が浮上すると、気せずして街の住民から「ヴィヴァート・マギカ・ローマン・インペリウム、ヴィヴァート・インペラトーレ!!」の大歓声が上がった。
ユーグとマロツィアは船の上から住民達に手を振る、そして船は高度をあげて帝都に向かって転移をした。
「楽しゅうございました、陛下ありがとうございます、一つお伺いしてもよろしいですか?」
「ああもちろん」
「先程建造を命じた船、飛空船でしたか?は今度の戦の恩賞とするのですね」
「そうだ、そろそろ新しい領地を彼らに与える事は難しくなってくるからね、領地以外で何かと考えた結果だ、どう思うかな?」
「誠に良いお考えかと、すると残りの二隻は?」
「勿論将来の皇太子、ユーグ2世、それにロベールの物だ、二人共間違いなく大戦果をあげて戻って来るだろうからね」
「まぁ、それは親馬鹿と言うのですよ」
「はは、そうか、そうかもしれないね」
「二人には『旗』も与えないといけないが、どんなデザインが良いかな?悪いけど考えておいてくれると助かる」
王族や貴族の男子は自分の『旗』や『紋章』を持つ事が可能だそれは通常は成人した後や初陣で功績を上げた後に、父や祖父、王などから与えられる、皇帝ユーグの個人の旗は『青字に金の百合』でこれは今は皇帝旗と呼ばれている、西フランク王国の国王であったユーグの父の紋はその百合が二個だったがユーグは三個の百合の紋章を使用して居る。
「はい陛下、かしこまりました、それとこの空飛ぶ船の魔法技術は、以前お乗りになっていた馬の無い馬車と同じでございますか?」
「ああ、基本的にはそうだが、それが?」
「はい陛下、この技術を荷車に使えない物かと思った次第です、車輪の無い荷車を作ったらどんな物かと」
「荷車、荷車か、さすがマロツィアだ、目の付け所が違うな、私にはその発想は無かった、早速作らせてみよう」
ユーグは自室に引き上げると、直ぐに大工を呼び車輪の無い荷車の試作を指示して、次はどの戦線の視察に出向くかを考える。
『やはり、海かな』
と思い、今夜はこれで眠る事にした。
皇帝ユーグは、翌朝には再び飛空艇を駆り、アドリア海を抜けてエーゲ海上空に到着した。
千里眼魔法で周囲の陸地を確認すると、イタリア王アルベリーコの艦隊を発見した。
アルベリーコの艦隊は『魔バリスタ』の圧倒的な攻撃力……敵の弓や魔法攻撃の射程外から炎の魔法を纏った『スピアボルト』を発射でき、その威力は一撃で敵のガレー船を破壊できる……で、エーゲ海から
ブワイフ王国の艦艇を一掃して、ほぼ無傷で『ヘレスポントス海峡』へ突入して要塞都市『カリポリス』
を攻撃中だった。
『(間に合ったか、ちょうど良い所に来たかな)』
とユーグは皇妃達と空の上から戦況を見守る事にした。
「アルベリーコ陛下、敵城砦を突破いたしました」
「ご苦労、残りの陸戦隊を上陸させよ、一気にこの要塞を制圧する」
「しかし陛下、このバリスタの威力は凄まじいですな、まさか一射で、城壁を破壊できるとは」
「そうだな、歴戦の魔術師と同じ働きを、数人の兵で可能になる、何とも凄まじい武器だ」
とアルベリーコは、自分が魔聖ローマ帝国の将である事の幸運を噛み締めている。
こんな兵器を持つ軍と相対しなければならない敵を憐れむ余裕さえある。
そして陸戦隊も魔弩級を装備しているので、魔術師達は防御魔法に徹する余裕があり、上陸から二時間もかからずに、要塞の中心部の聖堂に白旗が上がった。
イタリア王アルベリーコはこの戦いで初めてブワイフ王国の『街」を制圧した事になる。
降伏した領主と守備兵達には、彼らのガレー船に乗る事を許可して、その家族や街の住人共数日分の水と食料を持たせて要塞から離脱させた。ある意味これが本来のこの時代の戦争の礼儀だ。
これにより魔聖ローマ帝国は『ヘレスポントス海峡』の制海権を握った事になり、『プロポンティス』(マルマラ海)とエーゲ海の交通の要所を確保した事になる。
アルベリーコは即座に要塞の城壁の修復と城壁の上に『魔バリスタ』を多数設置させて街の守りを固めさせた。
ユーグの乗る飛空船が『カリポリス』の上空に現れたのは、そんなタイミングだった。
「ほう、もう落としたか、やるな」
とユーグは船を街に降ろした。
「皇帝陛下」
唖然とする将兵達をかき分けて、とユーグを出迎え何事かと訝るアルベリーコに
「何、前線を視察に来ただけだ、それにしても見事な差配だな、流石にマロツィアの血を引くだけの事はある」
とその手腕を称賛して、持参した魔道具を渡した。
「陛下これは?」
「エーテルの流れを捉えて魔力で離れた場所でも話す事ができる魔道具だ、1000マイル離れていてもお互いの声が聞こえるぞ」
と言いながら使い方を教えた。
「なるほど、これは便利ですな」
「ああ、この先の海は貴卿に任せたぞ」
「はい陛下、お任せください」
「ここから先はまだ長い、無理はするなよ、補給と援軍が必要なら直ぐにこれで連絡をしろ」
「はい、皇帝陛下」
ユーグはアルベリーコなら安心してこの海域を任せられると確信して、一度帝都戻る事にした。
『ヘレスポントス海峡』を抑えたアルベリーコの艦隊は、翌日には『プロポンティス』(マルマラ海)に入り、ここから『カペーウルプス』までの制海権を確保、これにより魔聖ローマ帝国の輸送艦隊は安心して、『プロポンティス』に入りカペーウルプスに大量の食料や軍需物資などの補給物資を届ける事ができた。この補給艦隊はそのままカペーウルプスに駐留して、陸路で行軍している『第二軍アナトリア方面軍』を待つ事になる。
この頃、ウィリアム麾下の艦隊はエーゲ海の東、アナトリアの西端の要所『スミルナ』(イズミル)の街を占拠して周辺の街や村の制圧にかかっている、そしてこの二つの艦隊に出遅れたエリク麾下の艦隊はローマ帝国以前からの港湾都市『アンタリア』(アンタルヤ)を制圧して、そこから東に進み、地中海に浮かぶ島、ブワイフ帝国領のキプロス島の街『レフコシア』(ニコシア)、『ネメソス』(リマソール)『コンスタンティア』を制圧して全島を魔聖ローマ帝国の領土であると宣言をした。制海権を失ったブワイフ帝国は、魔聖ローマ帝国海軍とその陸戦隊の侵攻に全く対応できないまま、アナトリア海岸線の街を失っていく事になる。
海軍に遅れる事数週間、魔聖ローマ帝国軍の第二軍は、無事にカペーウルプスに集結した。
行軍の間、毎日夕方から夕食の時間までみっちりと、マーリカから剣技を叩き込まれていたユーグ2世とロベール、それにロベールの副官アールモシュの三人はやっと苦行が終わったと言う感じでホッとしている。この中では18歳のアールモシュが一番年長なのだが、その彼でもマーリカには全く歯がたたないのだ。
「アールモシュ殿の叔母上はまさに悪鬼の様な強さですね」
「はい殿下、アンリ王も負けた事があるとおっしゃっていましたから、叔父上ダークナイト殿とは互角らしいですが……」
「そうですか、先は長いなぁ」
と天を仰ぐ三人だった。
この行軍の間に、ユーグ2世とロベールは背が伸び、体が二回りほど大きくなっている。
皇都を出陣した際にそれぞれの母から贈られた甲冑が既に体に合わなくなってきているのだった。
そういう意味でも成長期の男子を鍛えると言うマーリカの方針は正しかったのだろう。
「殿下達、いかがしました?」
とそこに話題のアンリがやって来た
「この川を渡るのですね、橋は架けらねないのですか?」
ユーグ2世の質問に、アンリは
「そうか、川に見えますか、これは海峡と言って一応海なんです、流れが急で深いから船で渡るしか無いんですよ、さて軍議が始まりますよ」
と教える。
物見の兵からの報告は?」
軍議の席は軍団長であるジョルトの発言から始まった。
「は、街は無人の廃墟との事です、遺体が数体発見されましたが、いずれも白骨化していたとの事です」
対岸にはこの街が旧東ローマ帝国の帝都としてコンスタンチノーブルと呼ばれていた時代の『カルケドン』(カドゥキョイ地区)の街がそのまま残っていて、書物によると帝国が黒魔法の暴発によって滅亡、帝都が『死の都』と呼ばれる様になってからはカルケドンの街も帝都同様に住む者も無く廃墟状態になっている、何度か侵入を試みた者もあった様だが、その都度疫病に襲われる結果になり、やがてそれを試す者も居なくなったとの事だ。
皇帝ユーグが西岸を浄化した際にはあちら側も一緒に浄化されているが、その時に海峡を渡って逃げて来た犬や猫、鼠等によってこの地は再び汚染される事になった。なので、渡海した軍が最初にやる事は街の浄化だった。
「では予定通り第一陣から渡河をするとしようか、先鋒の魔術師部隊が浄化を終えたら、各部隊順次渡河を行う様に」
現在カペーウルプスには60000を超える軍が駐留しており、それを渡河させる為に『シヌス・ケラティヌス湾』(金角湾)には1000隻以上の大型のヴァイキング船が集結している。
アナトリア方面軍を指揮するルテニア王ジョルトは、義弟であるスロバニア王ダークナイト・ユーグとその弟分のビザンツ王アンリを従えて、『シヌス・ケラティヌス湾』を見渡す高台からその光景を眺めている。
「第一陣がそろそろ岸に上陸する頃ですな」
「しかし、ここに橋をかけるか」
アンリはふと思い出して微笑んだ
「なんだ、先ほど言っていたユーグ2世殿下の話かな、お二人ともまた逞しくなられた様で甲冑を新調したそうだな?」
「ええ、帝都を出た時の甲冑ではもう寸法が合わないのです」
「なるほどな、確か東洋の昔のことわざに『男子三日会わざれば刮目して見よ』と言うのがあったが、まさにその通りだな」
「まさにその通りですなジョルト殿、しかし確かにここに橋を掛けられれば、将来向こう岸に渡るのも楽だろうと思いますが、しかしこの深さでは橋桁を建てられません、何か別の方法があれば良いのですが」
「私には想像もできんな、土属性魔法を極めたアンリ殿でも無理とすれば、致し方が無いのではないか?」
「いえ、残念ながら私の魔法は攻撃特化なので、建築の方はさっぱりなのです」
「そうか、まぁそれは私も人の事は言えないしな」
「そろそろ、お二人の殿下が逸っている頃ですな、では私は殿下達を連れて先に参ります」
と二人の会話を聞いていたダークナイト・ユーグは一礼して、その場を後にした。




