↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/57

第四部 第二章 新戦術

第二章 新戦術

 

「あら、陛下、子供達の稽古をご覧になっていたのでは無いのですか、随分とご機嫌な様子で」

 マロリッツアはテラスで山の様な書類に目を通している所だった。

全てが帝国の内政関連の書類で、皇帝の決裁が必要な書類ばかりだ。

「いつもすまないね、ユーグ2世とロベールの二人が、魔法上の大発見を行ったんだ、皇帝の権限として二人に『大魔術師』の資格を授ける事にした、これから『ラジエル魔法大教会』へ行きその儀式を行う、大主教にその旨連絡を入れてくれないか、それとルクレチアも一緒に連れて行く」

「はい殿下」

 息子が『大魔術師』の称号を得る事を喜ばない母親は居ない、特にマロリッツアは自分が魔法を使えないので、魔法力のある子供を授かった事を大いに喜んだし、いつかはその息子が『大魔術師』となる事を

期待していた、だがこんなに早く、しかもまだ12歳でとは思っていなかったから驚いた、魔術の申し子と言われた皇帝ユーグでさえ、大魔術師となったのは15歳の時だったからだ。


 『ラジエル魔法大教会』 は旧市街……帝都『ユーグウルプス』ではライン川の東側を旧市街、ライン川の西側『パンテオン城』側を新市街と呼ばれている……の旧王宮を改装した物で、皇帝ユーグが廃止した魔法教皇庁に変わり、魔法教会の頂点となった場所だ、それによりこの教会の大司教は全ての魔法教会の実務の最高責任者として『大主教』と呼ばれる様になっている、現在の大主教はマロリッツアが次期教皇候補としていた、ローマ生まれの元枢機卿ステーファノであり、大教会では既にかっての教皇庁を凌ぐ程の司祭や魔術師達が働いている。

 ユーグ達が、大教会に到着すると、大主教は既に表まで出迎えていて、膝を付いて頭を下げる。

当然だが、大主教もまた皇帝の臣下となるからだ。

「皇帝陛下、皇后陛下、御来臨歓迎いたします」

「大主教殿、出迎えご苦労、して準備は?」

「はい整っております、 サン・ベアトリス大聖堂までお越しくださいませ」

 『サン・ベアトリス』と言うのは昨年亡くなったユーグの母……大魔術師で元パリ郊外の『サン・ジェルマン・デ・プレ魔法教会大司教』の地位にあり、ユーグの子供達が小さい頃の実質的な母代わりであり、父が存命中は風の魔女として数々の戦功を上げ、晩年は帝都の魔法修道院で後進の指導をしながらユーグの子供達に魔法を教示した……の事だ。

 死去した母に大主教ステーファノは魔法聖人位を贈り、大聖堂にその名を冠したのだった。

言い換えれば、この大主教はかっての教皇と違い、完璧にユーグの傀儡としての仕事をこなしていると言う事だ。


 式典は大聖堂で厳かに始まる、ちなみにユーグの時は当時のロベール伯爵邸で簡易的に行われた。 

「……では最後に、両名に大魔術師の証として、魔法のワンドを与える」

と二人は、ワンド=小型の片手杖を手にして、其々の母親の方を振り返って嬉しそうに振ってみせた

 並んで式典を見守っていた、マロリッツアとルクレチアの二人はシルクレースのハンカチで涙を拭っている。

 ここにローマ帝国以来、旧魔聖ローマ帝国やフランク王国を通しても最年少の大魔術師が二人誕生したのだった。本来大魔術師は魔術師の中から魔法力が優れ功績があった者に贈られる称号であり、自動的に帝国男爵となる、ユーグの二人の息子は成人前に帝国男爵の称号も同時に得る事になった。

 その夜は、『パンテオン城』で身内だけの宴が行われた。この時、次男ロベールは宝剣『クストス』と宝具『パラビアの指輪』をユーグから与えられている、既に長男ユーグ2世は誕生日に宝剣『エクスカリバー』と『パラビアの指輪』を与えられていたので、素直に弟の剣を祝福している。ちなみに、この二本の剣は銘が違うだけでほぼ同じ物だ、剣と言うよりはレイピアと言うのが正しいだろう。

 まだ二人がレイピアとして本格的に使うには早いだろうが、剣を魔法具として、そして指輪の方も二人共充分に使いこなせるとユーグは思っている。

「父上、大魔術師の称号はありがたいですが、私は早く『騎士』になりたいです、騎士の称号はいつ頂けるのですか?」

と聞いて来るのはユーグ2世の方だ。

「義兄上、ああ言ってますが?」

「まだまだですな、少なくとも練習試合で、私から一本取れねば騎士の称号は早いでしょうな」

「そう言う事だ、二人共エルベールの言う事を良く聞いて、鍛錬に励むのだな」

「あら、陛下魔法の方も更に勉強していただかないとダメですわ」

と言うのは母に変わって二人の魔法の教師となった『大魔術師』ルクレチアだ。

「うえー、鍛錬に勉強ばかりかぁ」

二人はそう声を揃え、テーブルの全員からは温かい笑いが起きて祝いの宴は終了する。

 ユーグの私室では、マロリッツアとルクレチアが一緒に食後のハーブ茶を飲見ながら雑談の時間となった。

「ルクレチア、良く子供達を導いてくださったわね、感謝します」

「いいえ、私の力と言うよりはサン・ベアトリス様のお力です、私はその後を継いだまでですから」

「そう謙遜しなくても良い、所で実際の所はどうなのだ、二人の魔法の取得具合は?」

「はい陛下、攻撃魔法に限ればお二人とも上級魔法を使えます、防御魔法はあまりお好きでは無いのか

まだ時間がかかりそうですね、それと浮遊魔法は使える様になりましたが、まだ飛行するまでには至っておりません」

「転移魔法はどうだ?」

「こちらもまだですね、唯一問題があるとするとお二人とも治癒魔法を覚える気が全く無い様で、困ったものです」

「あらそうなの、確かビザンツ王も治癒魔法は使えないと公言してましたね」

「ああそうだな、困った奴だが、それはまあ仕方が無い、私も子供の頃は治癒魔法を覚えるのが面倒だったからな、だが母上とギョーム師匠に厳しく教えられて、なんとか初陣の時には使える様になっていた、

あの時治癒魔法が使えなければ、母上の命を救えなかったと思うと、治癒魔法の重要さが良く理解できたのだが……」

 とユーグは自身の初陣の時を思い出している。

「二人には私から治癒魔法を真剣に学ぶ様に諭しておこう」

とルクレチアに言う

「でも、ヤンチャな二人が言う事を聞きますかしら?」

と言うマロリッツアに、ユーグは笑いながら

「簡単だ、治癒魔法を覚えなければ初陣に出さないと言うだけだ」

「まぁ」

と全員で笑ってこの話は終わる。


 翌日、朝からユーグは自分の執務室に、鍛冶屋と木工細工屋、宝飾屋の職人を呼んで、新たな武器の作成を依頼する、今回頼んだのは弓が二振りと、試作品の弩弓が二丁だ。

 弓の方は以前ヴァイキングの古老から聞いた、伝説の弓、『ウルの弓』…… 北欧神話の狩猟と弓術の神ウルが使う弓……を再現させてそれに魔力を嵩上げする効果のある宝石ルビーとエメラルドをあしらった物で、これは二人の息子用だ。

 弩弓と言うのは、『クロスボウ』とも呼ばれ、まだ魔法歴以前に東方から伝えられた武器と言われている。それなりに使える様になるまでに訓練が必要な弓と違い、弩弓は誰でも使えると言う点が大きな違いだ。

 ただし、一般には弓より弩弓の方が射程が短い、また大型の『バリスタ』(『弩』)と言う物も存在したが、これは城壁などに固定され数人掛りで扱う物で携行武器では無い。

 この弩弓にユーグは安価な宝石ガーネットとペリドットを埋め込む事を職人達に依頼した。

このガーネットとペリドットにはユーグが大図書館で発見した魔法書から取得した『魔紋』が土魔法で刻み込まれている。

 魔紋とは魔法陣と言う言い方もあり、あらかじめ術式を紙等に記しておけば、特定の条件でその魔法を発動できると言う物だ、ユーグはこれについての巻物を大図書館で見つけてずっと研究していて、今は完璧に使いこなせる様になっている、火の魔法の術式をガーネットに、風の魔法の術式をペリドットに魔紋として刻みこむ事で、この弩弓は魔法が使えない一般の兵士、つまり農民や商人上がりの志願兵達でも二人の息子達と同じ様に魔力を纏わせた矢を射る事ができる様になるはずだ。そしてガーネットもペリドットも帝国内で大量に採取できる安価な宝石なので、量産も可能なのだ。

 これで今まで槍歩兵としか使い用が無かった臣民の志願兵達の攻撃力を大幅に上げる事ができれば、次の戦いでは帝国は更に圧倒的に優位になる筈だ、二人の息子が発見した事はそれ程重大な事だったのだ。


 二振りの弓と二丁の特製の弩弓は翌々日にはもう仕上がって、ユーグの元に届けられた。

ユーグは、弓は自室に仕舞い、『魔弩弓』と命名した弩弓だけを衛兵に持たせて『円卓の間』に向かった。

 円卓の間とは、皇帝執務室の隣に作った帝国の八人の王と皇帝ユーグと皇后が会議に使用する部屋で、当然アーサー王伝説の『円卓の騎士』に倣った部屋だ。

 そしてこの部屋には8つの小部屋があり、その小部屋の床には人が二人乗れる程の大きさの魔紋=魔法陣が記されている、この魔法陣には転移魔法の術式が刻まれていて、それに乗る事で、それぞれが8つの王国の王都にある王宮に転移できる様になっている、王国の王宮側にも対となる魔法陣があり、これによって、各地の王や王妃達は、瞬時に帝都の『パンテオン城』と自領を行き来できる様になった。

 この事は帝国の政治や軍事に大きな変革をもたらす事になる。

午前中に帝都で円卓会議をした後で、午後には自領でその会議の結果をすぐに指示できるし、敵の侵攻にも即座に対応できる事になる。 ちなみにこの円卓の間を一番良く使っているのは皇帝ユーグでは無く皇后マロリッツアと各王妃なのだが、それも当然と言えよう、帝国の内政を実質的に動かしているのは彼女達だからだ。

 王妃と言えば、政略結婚で形だけの結婚をして別居婚状態だったアクィタニア王サンシュは、王となった時にその妻を離縁して独身に戻った、その後マロリッツアの紹介でイタリア貴族の娘レジーナと再婚して、レジーナを王妃としている。もちろんこのレジーナも大魔術師で、マロリッツアの元侍女と言う関係にある。


 今日、円卓の間に呼ばれたのは、義兄エルベールとダークナイト・ユーグの二人だけだった。

当然だがこの二人を呼んだのは理由がある、この二人は剣の腕は帝国屈指だが、魔法は使えない。

 つまりこの二人が魔法具である試作品の魔弩弓を使い、矢に魔力を乗せる事ができれば、試作した魔法具としての弩弓は実用性があると言う事になる。

 ユーグは二人を連れて旧市街の軍務省に徒歩で移動する。

「陛下、良い天気ですな特にこの橋の上を吹く風は最高の気分です」

「そうだな、私もこの橋の上から市街を見るのが好きだな」

 ちなみにこの三人の前方と後方には警護の親衛隊が20人程付き従っている

ライン川に掛かる、この石造りの橋はローマ帝国時代の故事に倣って『ユリウス・カエサル大橋』命名された橋で旧市街と新市街をつなぐ帝都の重要な施設だが、眺望が良いので観光名所にもなっている。


 軍務省の中庭の魔術練兵場では、魔術師達の訓練用の木人が多数並べられていて、今日も攻撃魔法の訓練をしている魔術師達が大勢いる、ユーグは衛兵に言って魔術師達を練兵場から下がらせた、そして衛兵に持たせた箱から魔弩弓を取り出して、エルベールとダークナイトに渡した、矢は普通の弩弓用の矢だ。

「ほう、弩弓ですか?珍しいですね、昔は兵達に装備させていましたが」

とダークナイトは楽しそうだ。

「二人共弩弓の使い方は知っているな、ただこの弩弓は少し特別で、引金を引く時に左手で、この部分の宝石に触れるんだ、二人共最初は緑の方、二射目は赤い方、三射目は両方触れてみてくれ」

「はい陛下」

二人に魔弩弓の使用方法を教えて、通常の攻撃魔法に使用するラインに立たせて、ユーグは的になる木人の後方に立ち、風魔法ヴェンティ・ウオールを発動させる。

「(さて、どうなるか)?」

 二人はほぼ同時に魔弩弓の矢を放った、そしてその矢はユーグの防御魔法を突破して木人に当たる。

「これは、一体?」

ダークナイトが不思議そうな顔をしている。

「説明は後だ、二射目を頼む」

ユーグは今度は防御魔法のレベルを中級魔法に上げる。

だが、二射目の炎を纏った矢は、その防御を突破して木人に当たる……エルベールの方は木人を掠めて後ろの壁を壊した。

「おっとこれはいかん」

「エルベール殿、そろそろ眼がおぼつかないですかな?」

とダークナイトは笑っている。

「よし三射目、二人共後ろの上級魔法の線まで下がって射て見てくれ」

「はい陛下、しかしそれでは当てるのが難しいかもしれませんね」

「なんの、まだまだ次は外さん」

とエルベールは少し悔しそうだ。


 そして第三射、ユーグは風属性の防御魔法を上級に切り替える。このレベルの魔法を発動できるのは風魔法を得意とする大魔術師だけで、宝剣で魔力を嵩上げした魔法騎士達でも中々難しい魔法だった。

 風と炎の魔法を纏った矢は、魔力の全く使えない二人が放ったにも関わらず、ユーグの防御を突破して

綺麗に木人に突き刺さり、これを完全に破壊した、人間なら即死の威力がある。

「ここまでの威力とは」

「陛下、この弩弓は一体?、量産は可能なのでですか?」

 二人共瞬時にこの魔弩弓の意味を悟った様だった。

「話の続きは軍務省でしよう」

とユーグは二人を連れて、軍務省の中の自分の執務室に向かった。魔聖ローマ帝国は皇帝親政と言う政治体制で、特に軍務に関しては全ての権限をユーグが持っている、なので皇帝の執務室が軍務省に有るのは当然だ、そして軍務省大臣はルテニア国王のジョルトが兼任している。


「陛下、朝から魔術師練兵場が賑やかでしたが、何か新しい魔法の実験ですかな?」

と軍務省で、ルテニア王ジョルトがユーグを出迎える、転送魔法のおかけで、ジョルトも帝都と自国の両方での政務が可能になっているが、本人的にはのんびりできないので、軍務大臣の方は、サンシュにでも譲りたいと思っている所だ。

「朝から騒がせて済まんな、計画の方は進んでいるのか?」

「はい、陛下、数日中には陛下に御報告にあがろうと思っていた所です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。