第25話(3)
「リシェ……?」
ケイトにとっても初めて聞く名だった。
人形娘ドールは作られてから200年。
今の名はドールだけど
昔の名はリシェという事なのかしら。
ドールの過去なんて
聞く必要無かったから聞いた事無いけど。
当のドールは、
特に隠す話でもないのか淡々と語る。
「リシェは私たち5人の人形娘の
オリジナルです。
リシェを知っているという事は、
貴女はブラックシープの幹部、
12冥教師の一人でいらっしゃいますね。」
!
ドールやエルたちのオリジナル……?
それにあの女がブラックシープの幹部!?
200年前は分家していないブルッグ家だった。
当時の御先祖は、
どんな経緯で人形娘5人を迎え入れたの?
少なくとも、
都市伝説みたいな存在の闇組織ブラックシープと
何らかの繋がりがあったって事よね?
……分からない事だらけだけど、
一つだけはっきり分かっている事がある。
ブルッグ家は
人形娘5人を温かく見守っていたという事。
でなければ彼女らが今の分家に従順な理由が無い。
そうよ、ドールの過去なんてどうでもいい。
大切なのは今でしょ。
その想いの強さがケイトを一歩前に進ませた。
「ブラックシープって、
全世界の盗賊のまとめ役だったかしら?
それとも西の帝国の下っ端だったかしら?」
ケイトの挑発な声に女は少しため息まじり。
「存在が不可解すぎて色々言われているけど、
少なくとも私は帝国側に付いているわ。
そうそう、自己紹介がまだだったわね。
私の名はミレディ。
普段は
マイナーな神を崇める宗教を支援しているわ。
一般の寺院から見れば邪教扱いされがちだから
“邪教の徒”なんて二つ名があるけどね。」
「随分とお喋りなのね。」
「間違った情報を正したかっただけよ。
ケイトさんだって
自分があられもない事を言われていたら
必死に訂正するでしょう?
それより、人形娘の事は聞かなくていいの?」
「ドールは私たちの大切な家族。
それ以上でもそれ以下でもないわ。」
真正面から向かって語るケイトの声に、
ミレディはどこか納得した表情を見せた。
「なるほどね、
フラロウスとディージアが信頼していただけあるわ。」
また聞いた事の無い名にケイトは小首を傾げる。
「誰よ、そいつら?」
「貴女たちの先祖が出会っていた、
ブラックシープの古株よ。
二人はダークエルフだから長命なの。
もっとも今は袂を分かっているけどね。」
「ブラックシープは一枚岩ではない、と?」
「ええ、その通りよ。
今は大きく3つに分かれているかしらね。
簡単に言えば、強硬派、保守派、中立派って感じ。
さっき話した
フラロウスとディージアは中立派の筆頭よ。
男性のフラロウスが4人の冥教師を従えているわ。
他の派閥も似た感じ。
12冥教師筆頭のララと男性のフライアーは保守派。
そして私は強硬派なわけ。」
「ミレディの強硬派にも男性の上司がいるの?」
「いるけど名までは教えなくてよ。
自分の所属する組織の情報まで公開したら
馬鹿みたいじゃない。」
なるほど、
他2つの派閥とは本当に無縁みたいね。
って、どこまで信じていいんだか。
ケイトがそう思っていると、
ミレディの姿が薄くなりだした。
やっぱり幻影だったか。
「……驚かないのね。
私の姿が幻影だと分かっていた?」
あれ?
ミレディ、分かってなかったのかな?
「いや、バレバレでしょ。
本体だったら、
今頃ここにいる二人に八つ裂きにされてるわよ。」
「そう……確かにその二人は強そうよ……ね。
そう言えば、
私が時間稼ぎの為にここに幻影を留めていた
のは分かっていたんでしょう?
何故わざわざ私の話に付き合ってくれたの?」
あー、
やっぱり分かってなかったんだ。
12冥教師の中では実力は下なのかなぁ。
「たぶん近いうちに分かると思うわよ。」
「そ……う……?……それ……じゃ……」
ミレディの幻影は完全に消え去った。
その後、ケイトはドールに向き直る。
「ドールは12冥教師の全員を知っているの?」
「いえ、200年前にお世話になった
フラロウス様とディージア様の御二方のみです。
ただ12人の冥教師たちの実力は、その全員が
ポーラ様やケイト様に匹敵する
古代語魔法の使い手とお聞きしています。」
!
「え、あの鈍感そうなミレディも?」
「強すぎるが故の鈍感さと思われます。
幻影を通して遠隔で上位悪魔を召喚するなど、
異常としか思えない魔法を平気でこなす者たちです。
ロバス様たちはミレディの魔力の残滓を元に
ミレディの本体に向かっていったようですが、
一筋縄ではいかないでしょう。
ところでケイト様。」
「ん、何?」
「これら悪魔の死体ですが、
どうやって地上に運びましょうか?」
いきなり何の質問かと思えば……
今心配する話じゃないと思うんだけどなぁ。
人形娘の感覚って、ほんと分かんないわ。
まぁ緊張がほぐれるからいいけどね。
「デカいから転移魔法で一緒に移動するわ。
……あ、そうなると、
サイレンとフィルは護衛しなくて大丈夫よ。
なんならロバスさんの加勢に行っても……」
その声にサイレンは被せ気味に返答する。
「いえ、それは不要です。
加勢などしたら怒られてしまいます。
それに……」
「それに?」
「陛下からはケイト様から離れないようにと
仰せつかっておりますので。」
あ、
まさかエレナ、あたしが女王との
マハラティーニ同行を拒否しない様に
目付を二人も寄越したって事!?
護衛はやっぱり表向きの理由でそれが本命ね!!
あンの腹黒女王ぉー!!!
マジでブン殴るわよぉー!!!!
心の叫びを極大にして叫びたいケイトであった。




