記憶の回復
「シャルルはフルーリュンヌ生まれ?」
「ええ。エイラも?わたし、ここに来て同じ国の人に会ったことがなかったの…。逃げた先がここだったから…」
「魔物、多いからね。」
「それに…この国、ヴァイシュロスには怖い人がいるの。」
フロストの霜のようにその言葉が冷たく私に降りかかった。
「フルーリュンヌの人を次々と襲うの。この場所もその人にバレないかヒヤヒヤしてて…」
「シャルル、シャルル、もしかしてその人って…シュネー・ガザナディラフって言わない?」
シュネー、と言うとシャルルは急に震えだした。
「そう、そうよ。エイラは怖くないの?本当に強い人ね」
「シャルル、本当のことを言うとね、今、ここにそのシュネーがいるのよ。」
「えっ!?どこに!?」
私は申し訳なさそうに自分を指して「ここに。」と言った。
シャルルはポカンとした後、すぐに私と距離を取った。
「シャルル!ごめんね、怖がらせるつもりはないの!でも…嘘じゃなくて…大丈夫!今の私はエイラ。もうシュネーじゃないわ!」
「…本当?」
「うん。本当。」
シャルルはゆっくりと再び近づいてきた。
「でも…何で?何でエイラがシュネーだったの?」
「それは…私にもわからない。父上様っ…じゃなくて、この国の王は、私が記憶を無くしてたから利用したって……そうだ!シャルル、私の記憶を戻すことはできる?」
赤毛の少女は首を横に振った。
「そっか……」
私は俯いた。すると、例のネックレスだった。
シャルルもそれを見る。彼女は、傷だらけの面を見て私に尋ねた。
「そこには何て書いてあったの?」
「それもわからないのよ。多分、文字を消したくてこうしたんだから。」
「…ねぇ、何で文字を消そうとしたんだろう?」
「それは…私がエイラだって思い出させないように…まぁ、少しは思い出しちゃったけど。」
「ということは、エイラはその文字を見たら全部思い出しちゃうってこと?」
「そうかも……あっ!」
私はシャルルを見た。彼女も同じことを考えていたみたいで、ペリドットの瞳を輝かせている。
「シャルル、このペンダントを直してくれる?」
「もちろん!」
急いでペンダントを首から外して手に乗せた。
その上をシャルルの手が覆う。光るドームの中でペンダントはふ……と宙に浮かび、傷がだんだん消えていく。
ほどなくして、シャルルが手を下ろした。
ザラザラした面に光沢が戻り、そこにはこう刻まれていた。
見慣れてしまったヴァイシュロスのものではない。フルーリュンヌの文字だ。じっ…とそれを見る、少しずつ、何となく、意味がわかってきた。
「ーーこれは、……」
その意味がわかった途端に、シュネーが見たことのない記憶が蘇っていた。
ルウくんだ。どこの場面でもルウくんがいる。
ルウくん。ルウくん。会いたいよ……。
「エイラ?」
シャルルの声で我に返った。
「思い出した?」
「うん…まだ少しかけてるみたいだけど…」
流石に細かいところまで全て戻ることへないみたいで、私の記憶は虫食いパズルのようだった。
そうだ、ルウくんにもう一度会ったらわかるかもしれない。
ルウくんが覚えているかもしれない。
「シャルル、シャルルはこれからどうするとかってあるの?」
「ううん。ここにしか隠れる所無いし…」
俯くシャルルに、私はこう提案した。
「一緒に逃げよう」
…シャルルはポカンとしていた。
「魔物達に捕まる前に、遠くに逃げよう。私は知ってる。ルウくん…私の幼馴染が人間界って所にいるの。そこなら危険はないわ。…どう?」
シャルルは少し考える素ぶりをした。
そして一言。
「うん。」
私は『やったぁ!』と言いかけたが、はしゃぎすぎかな、と自制した。
「でも遠いんでしょ?その、"ニンゲンカイ"って。」
あ。そうだった…私たちは以前、ワープ機能を使ってたんだ…。
何か持ってきてなかったかな…と、カバンを漁って見る。
すると、運良く一つの石が出てきた。別世界に飛べる魔力を持つ道具だ。
「これでいけるよ。」
私はそれを嬉しそうにシャルルに見せた。シャルルへ嬉しそうに「荷造りしちゃうね!」と言って大きなバッグにさほど多くない荷物を詰め込んでいく。
私はそれを手伝いながら自分にこう言った。
エイラ、やっとルウくんに会えるよ。
ゆぅは思った。
な、なぜそんなにポンポンと他人と話を進められるのか……
シャルルちゃん、シュネーのこと怖がってたじゃないか…
幾慧さんは言った。
二人はとてもいい子なんだと……
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