記憶のメッキが剥がれる時
「あの青年も、己の愛していた者に殺されて本望だろう。
生き別れたはずの『エイラ・ヴィットレイ』に」
ゴトリ。胸の奥で、何かが落ちた。
脳内はもう荒れてなかった。寧ろ、凪いていた。
『私』がエイラ・ヴィットレイ?
もう一度その言葉を咀嚼した。
………だから。
今まで渦巻いていた疑問が、次々にほどけていく。
だからフルーリュンヌの人間は、私を"エイラ"と言った。
あの懐かしい曲もフルーリュンヌのものだとすれば筋は通る。
『僕が守ってみせる!』
あの夢の、深い青い瞳の少年は、ルウクス?
そしたら、私はー………。
気付いたら、走っていた。
塔の部屋に一目散に駆け込み、さほど大きくない袋に未完成のショートボウといくつかの材料をつっこんで、持てる限りの矢と愛用の弓を手に取った。
そして、クローゼットのドレスを裂き、しっかりそれ同士を結び、近くのベッドの足にくくりつけた。
適当な紙に何言か文字を書いて、誰にも気付かれないうちに、唯一外へ通じる窓から布切れを垂らして、
私は、逃げた。
「シュネー、シュネー?」
雪のような白さの羽をバタつかせながら、フロストは女主人の部屋へと入った。
が、そこにいるはずの女がいない。
ベッドの足から伸びるドレスの残骸が異様であったが、フロストは机の上にぽつねんとある文字の書かれた紙を見た。
それはこんな内容だった。
私を捜さないでください。フロスト、貴方の演技力には脱帽します。
ーエイラ・ヴィットレイ
フロストは元から白い顔をさらに青白くさせた。
「こいつぁやべェ…、陛下に知らせねェと……」
塔の下には足跡一つ残ってない。
「奴が逃げたら、全部終わる。あの駒をこっちに戻さねェと…っ!!」
白鴉は鉛の空を見上げた。
そして、こう叫んだ。
「畜生……あんのクソ女ァァァ!!!」
彼の声が、虚しく空に散った。
閲覧ありがとうございます
やっと物語が動き出したー
あと5話くらいはずっと幾慧さんターン
ゆぅがサボっているという訳ではないっす、決して




