バレンタイン
「来た!」
僕は胸の高鳴りを感じていた。僕は校舎の壁から、ちらっと顔を覗かせた。
『お待たせっす。』
学生服姿の彼がやってきた。校舎の裏、僕たちは待ち合わせしていた。僕は笑顔で彼を迎えた。
部活も終了の時間を過ぎていた。部活が終わってから、僕はカバンとラケットを持ったまま体操着で駆けつけた。もうグランドには人影も見えない。
数日前、僕は彼にバレンタインのチョコを渡したいと言った。
彼は少し驚いていたが、しばらくして笑顔になってくれた。嬉しかった。
「来てくれてありがと。」
『いえ。ちょっと驚きましたけど…、嬉しかったです。』
「下足箱に入れたりするのが見られたら、まずいかなと思って。」
『うん。』
「あの…。これ。」
『あ。ありがとうございます。』
僕は彼にデパートで買ったチョコと、マカロンを渡した。
『あ。こんなに?マカロンも好きなんですよ。何で知ってるんですか。』
「よかった。」
ガサゴソと彼も袋からリボンのついた青い箱を取り出した。
『僕もお返し買ってきました。』
「うわ。ありがと。嬉しい。」
僕の手と彼の手が、一瞬触れ合った。彼の頬は少し赤らんでいた。
「ごめん。嫌じゃなかった?」
『いえ、でも、やっぱり驚きました。』
僕は学級委員で部活の副部長。みんなからは、真面目で優等生とみられている。そんな僕は、同じクラスの彼が気になっていた。熊のぬいぐるみみたいな彼。いつもほんわかしていて、怒っているところは見たことがない。気は優しくて力持ち、そんなイメージだ。
「僕、前から気になってたんだ。こんなの変だっていうのも…わかってる。」
僕は彼の顔を見つめながら言った。
『僕は女子からもらったこともないんで…純粋に嬉しいっす。』
彼はにっこりと微笑んだ。その笑顔に僕は癒された。
二人は壁にもたれてグランドを眺めながら話をしていた。二人でじっくり話すのも、実はこれがほとんど初めてと言ってもよかった。
『来月、卒業だね。』
「うん。」
『たしか、関東に行っちゃうんですよね。』
「そうなんだ。」
『遠いっすね。』
「うん。」
彼の顔を見られるのがあと一カ月と思うと、僕の胸は張り裂けそうだった。
「ずっと好きだったから、言っておきたくて…。」
『そうなんですか。ありがとうございます。』
「あの。握手してもらってもいいですか?」
『あ。はい。』
彼はごしごしとズボンで手を拭いてから、僕と握手した。
「元気でね。」
『そちらも。』
彼の手は大きくて温かかった。二人とも照れていた。
「前から好きでした。」
『ありがと。』
僕と彼は、一度抱擁した。
突然雨が激しく降ってきた。グランドに雨粒の跡が残るような雨だ。
『うわ。これじゃずぶ濡れになっちゃうな。』
僕たちは屋根のあるところまで走った。
「やむまで待ってる?」
『そうします。』
彼の髪の毛から滴がたれていた。僕は雨をまっすぐ見ている彼の手にすっと手を添えた。彼はそれを握ってくれた。
ある年の二月、それは僕の淡い初恋だった。
バレンタイン絡みで、今作と前作の二話を考えてみました。
いかがでしたか?
学生の頃、こういう経験したかったな~と思いながら想像していました…笑
みなさんの思い出も聞いてみたくなりますね♪




