夜景
少し冷たい風が吹いてくる。ビルに造られた屋外の展望台。
「わー、綺麗。」
「ほら見て、あそこに見えるのが…」
距離をあけて数組のカップルも、それぞれの会話を楽しんでいた。
時折、横から光が放たれる。デジカメで夜景をバックに写真を撮っているようだ。
「意外と綺麗だね。」
『そうっすね~。』
僕たちは特に煌びやかでもない会話をしていた。
二人はコートを着て、腕を組みながら夜景を眺めていた。
でも、それだけで僕たちは幸せだった。
「あの辺が僕たちのうちだよね。」
『ですね~。』
僕は指を差した。
「こうやって見ると、工場の夜景も綺麗。」
『うん。』
「昔、工場に勤めてたけど、夜とか早朝に工場のライトを見ながら歩いてると、僕が今動かしてるんだって気分になるんだよね。」
『へえ~。』
工場の煙突からは、もくもくと止まることなく、白い煙が暗い闇の中へ昇っている。
下を見ると、ビルのそばを流れる川が、闇よりも濃い色で絶えることなく滾々と流れ続けている。
流れ続ける時間の中で、こうやって出会った二人。
川を流れる一枚の葉が、なぜもう一枚の葉と結びつき重なり合い、今、一緒に時の流れを見つめているのか。
それは考えれば考えるほど不思議だった。
「あの光の一つ一つに、僕たちの知らない人生があるんだよね。」
『そうっすね~。』
「いまさ、世界中でキスしている人って、どれくらいいるんだろうね。」
『さあねえ。』
「僕たちもそれに加わらない?」
『そうしますか。』
二人はお互いを見つめ合い、唇を寄せ、深い時の中へ沈んでいった。




