第六章「共鳴の兆し」(2/3)
俺が席に座って本を開くと、少し間があってから、セリアが棚に本を戻した。別の棚に移った。今度は本の背表紙を指でなぞりながら、何かを探していた。
俺は戦術書を読み始めた。
包囲戦の補給線遮断について書かれた章を見つけた。読んだ。著者の分析は俺のアプローチに近かった。退路を断つ、補給を切る、時間をかけて消耗させる。ただ著者は「降伏の機会を残すことで無駄な消耗を避ける」という章も書いていた。戦術的な合理性から、敵に逃げ道を残す。
俺の答えにはその視点がなかった。
「あなたの戦術学のレポート、ヴェラ先生が回覧させていたわね」
棚の向こうからだった。セリアの声だった。俺に向けて言ったというより、思考の延長として声に出した、という感じの言い方だった。
俺は本から顔を上げた。「回覧」
「優秀な例として、他の班にも見せていた。私の班にも来た」少し間があった。「読んだ」
「そうか」
棚の向こうで、ページをめくる音がした。「敵の退路を断つ計算が、過剰なまでに徹底していた」と彼女は続けた。「一つも残さず終わらせることだけを目的としているみたいだった、と思った」
俺は何も言わなかった。
「批判ではないわ」と彼女は言った。声が確認するような声になった。「ただ、そういう考え方はどこから来るのかと思って。戦術として効果的だということは分かる。ただ、効果的かどうかとは別の何かが、あなたの計算の中にある気がして」
別の何か。
俺は少し考えた。どう答えるべきかを考えた。正確に答えようとすれば、父さんの本の話をしなければならなくなる。影の話をしなければならなくなる。それはできなかった。ただ、全部を隠すことも、今のセリアに対してはできない気がした。彼女は何かを見ている。正確には見えていないが、輪郭は見えている。
「辺境で育った」と俺は言った。「終われないものを見てきた」
棚の向こうが静かになった。本を閉じる音がした。それから止まった。
「終われないもの」と彼女は繰り返した。声が少し低くなった。独り言のような声だった。「それを——終わらせたいと思うのね」
「思う」と俺は言った。「それが正しいことかどうかは、まだ分からないが」
長い沈黙があった。
図書室の静けさがあった。ジオが別の棚を巡回している気配があった。外から音は来なかった。沈黙の回廊の向こう側で、学院が動いていた。ここだけが止まっていた。
「正しいかどうかより、必要かどうかの方が先に来る問いがある」とセリアは言った。棚に本を戻す音がした。「そういうことが、世の中にはある」
俺は彼女の声の温度を確認した。批判ではなかった。同意でもなかった。それは自分の中にすでにある考えを、声に出して確認している声だった。彼女は俺に言ったのではなく、俺が口にした言葉を使って、自分の何かを確認していた。
「そう思う理由がある、ということか」と俺は言った。
棚の向こうが少し動いた気がした。セリアが俺の方を向いたのかもしれなかった。向いていないかもしれなかった。確認できなかった。
「ある」と彼女は言った。それだけだった。
それで終わった。彼女は出口に向かった。扉のところで一度だけこちらを見た。図書室に入ってからずっと、足元ではなく顔を見ていた。今日も顔を見た。ただ今日は、何かを測っている顔ではなかった。何かを測り終えた顔だった。
出ていった。
ジオが棚の間から現れた。
巡回の続きだった。俺の横を通り過ぎながら、一度だけ俺を見た。いつもの目だった——何かを知っている目。
「ジオさん」と俺は言った。呼び止めた。初めてだった。
ジオは立ち止まった。振り返った。
「父さんの名前を知っている、と言いましたね」
ジオは俺を見た。三秒か四秒。何かを計っているような間だった。「ヨルン・ヴォルン」と彼は言った。「エルスタから来た研究者だ。ここに来る前に、この図書室を使っていた時期がある」
俺は驚いた。「学院の図書室を」
「二十年以上前のことだ。私が来てから、もう少し後のことになる。若い研究者だった。何週間か、毎日のように来ていた。何を調べていたかは話さなかった。私も聞かなかった」ジオは少し間を置いた。「そのうち来なくなった。理由も話さなかった」
俺は何も言えなかった。
父さんがここにいた。王都に来て、この図書室を使っていた。何を調べていたかを話さなかった。理由も言わずにいなくなった。それがエルスタを出る前のことか、出た後のことか、ジオの話からは分からなかった。
「名前が同じだったから、覚えていた」とジオは言った。「ヴォルン、というのは珍しい名前だ。お前が入ってきたとき、分かった」
「何か他に、覚えていることは」
ジオは少し考えた。「最後に来た日、禁書の棚を探していた」と彼は言った。「この図書室には禁書は置いていない。そう言ったら、分かりました、と言って出ていった。それが最後だった」
禁書の棚。
父さんが探していたものが禁書の棚にあった。この図書室にはなかった。それがどこにあるかを、ジオは言わなかった。俺も聞かなかった。
「ありがとうございます」と俺は言った。
ジオは頷いた。それだけだった。巡回に戻った。
俺はしばらく、借りた本を膝の上に置いたまま、座っていた。
父さんがここにいた。二十年以上前に。禁書を探していた。見つからなかった。その後エルスタを出て、ヴォルン村に来た。そういう順序だったかもしれなかった。確かなことは分からなかった。ただ、一つの点が増えた。父さんの動きの中の、一つの点が。
点は増えれば増えるほど、線になる。
図書室への廊下は、他の廊下と音の響き方が違った。
沈黙の回廊、と誰かが呼んでいた。音が吸われる廊下だった。足音が立てても消えた。声が届かなかった。石の壁が普通の石より音を吸収する性質を持っているのか、あるいは設計がそうなっているのか、俺には分からなかった。ただ、この廊下を通るたびに、学院の他の場所と違う空気があった。
実習の疲れを引きずったまま、廊下を歩いた。
戦術学のレポートを仕上げるために参考資料が必要だった。今週の課題——包囲戦での補給線の遮断。ヴェラが出した課題は毎回、地図と数字だけで答えが出るものではなかった。地形の読み方、季節、輸送手段の種類——複数の変数が絡む。俺のアプローチはいつも同じだった。変数を全部書き出して、優先順位をつけて、最も効率的な解を探す。
ただ今回、提出前に読み返して、少し間を置いた。
俺の答えは常に「終わらせること」に向かっていた。補給を断つ。退路を塞ぐ。残存戦力をゼロにする。それは戦術として正しかった。ただ、俺の答えには余白がなかった。敵の降伏を許す退路も、兵士の逃げ道も、俺の計算には入っていなかった。全部を完全に終わらせることだけを、俺の答えは目指していた。
なぜそうなるのかを考えた。
父さんの本の一文が来た。誰も引き受けたがらないものを引き受けているだけだ。 終わらせることが俺の体の中にあった。戦術学のレポートに出てきたのは、その体の論理が文字になっただけだった。
そのことを考えながら、廊下を歩いた。
図書室に入ると、ジオが棚の整理をしていた。
三十年ここにいる人間が棚を整理するとき、本を探している動きではなく、居場所を確認している動きをする。ジオの手の動きがそうだった。ここにあるべきものがここにある、という確認。それが終わると次の棚へ移る。作業ではなく巡回に近い動き方だった。
ジオが俺を見た。一秒だけ。目が合った。何かを知っている目だった。いつもそうだった。ジオの目には常に、何かを知っている人間の静けさがあった。何を知っているかを俺はまだ確かめられていなかった。
「資料が必要か」とジオは言った。
「包囲戦の戦術書を」
ジオは黙って、別の棚に向かった。俺がついていくと、一冊の背表紙を指で示した。古い本だった。著者の名前が読めないくらい背表紙が擦れていた。「これが一番詳しい。古いが、原則は変わらない」それだけ言って、巡回に戻った。
俺はその本を抜いて、席に持っていこうとした。
そのとき、奥の棚の前にセリアがいた。
彼女は本を開いたまま立っていた。読んでいるのか、考えているのかが分からない立ち方だった。本に視線が向いていたが、目が動いていなかった。ページを読む目ではなく、別のことを考えながら手に本を持っている人間の目だった。
俺が席に座って本を開くと、少し間があってから、セリアが棚に本を戻した。別の棚に移った。今度は本の背表紙を指でなぞりながら、何かを探していた。
俺は戦術書を読み始めた。
包囲戦の補給線遮断について書かれた章を見つけた。読んだ。著者の分析は俺のアプローチに近かった。退路を断つ、補給を切る、時間をかけて消耗させる。ただ著者は「降伏の機会を残すことで無駄な消耗を避ける」という章も書いていた。戦術的な合理性から、敵に逃げ道を残す。
俺の答えにはその視点がなかった。
「あなたの戦術学のレポート、ヴェラ先生が回覧させていたわね」
棚の向こうからだった。セリアの声だった。俺に向けて言ったというより、思考の延長として声に出した、という感じの言い方だった。
俺は本から顔を上げた。「回覧」
「優秀な例として、他の班にも見せていた。私の班にも来た」少し間があった。「読んだ」
「そうか」
棚の向こうで、ページをめくる音がした。「敵の退路を断つ計算が、過剰なまでに徹底していた」と彼女は続けた。「一つも残さず終わらせることだけを目的としているみたいだった、と思った」
俺は何も言わなかった。
「批判ではないわ」と彼女は言った。声が確認するような声になった。「ただ、そういう考え方はどこから来るのかと思って。戦術として効果的だということは分かる。ただ、効果的かどうかとは別の何かが、あなたの計算の中にある気がして」
別の何か。
俺は少し考えた。どう答えるべきかを考えた。正確に答えようとすれば、父さんの本の話をしなければならなくなる。影の話をしなければならなくなる。それはできなかった。ただ、全部を隠すことも、今のセリアに対してはできない気がした。彼女は何かを見ている。正確には見えていないが、輪郭は見えている。
「辺境で育った」と俺は言った。「終われないものを見てきた」




