第五章「夜と父の言葉」(1/3)
「記録として残ることは、完全には失われないということだ。知っていることを書け。誰かがそれを必要とする」
——エルスタ連邦文書館所蔵、余白の書き込み、著者不明
廟から戻った後、夕食を食べた。味がしなかった。
味がしなかったのは廟の体験のせいではなく、俺の頭が別のことを考え続けていたからだった。食べ物の情報が入ってくる前に、別の情報で埋まっていた。ブレンが何か言っていた。ラーシュが笑っていた。マレンがブレンに何か言い返していた。全部の音が、ガラスの向こうから聞こえているように届いた。
宿舎に戻った。
エヴァンが寝た。早かった。今日の儀式の疲れか、もともとそういう人間なのか。トールが寝た。デインがろうそくをつけて何かを書き始めた。俺は横になって天井を見た。
目を閉じると、廟の白が来た。
閉じた瞼の裏に、白があった。均一で、方向のない、影のない白だった。廟の中で見た光の残像が、目を閉じるたびに戻ってきた。残像というより——記憶というより——もっと物理的な何かだった。皮膚の上に残った感触のように、目の内側に残っていた。
目を開けた。
部屋の天井があった。石の天井。デインのろうそくが端の方で揺れていて、天井に影が動いていた。影が動いていた。当然のことだった。ここには影があった。廟の中には影がなかった。
廟の中で、光の糸が来た。俺の体が退いた。退いた後、俺の体の内側で何かが動いた。俺はそれを閉じた。閉じ方を知らなかったのに、閉じた。
閉じたものが、今もそこにあった。
閉じているだけで、消えていなかった。
デインのろうそくが消えた。
部屋が完全な暗闇になった。四人の呼吸だけがあった。エヴァンの均等な呼吸。トールの深い呼吸。デインの——デインは今夜、寝つきが良かった。儀式が彼に何かをしたのかもしれなかった。
俺は横になったまま、引き出しのことを考えた。
本が入っている引き出し。鍵はない。この宿舎の机に鍵はついていない。ヴォルン村の父さんの机の鍵のかかる引き出しに入っていた本が、今は鍵のない引き出しに入っている。より無防備な場所にある。それでも今まで開けなかった。
今日、廟で何かが起きた。
俺の体の中で何かが動いた。それは俺の意思ではなく動いた。俺の意思より先に動いた。俺がそれを閉じたのは、閉じようと決めたからではなく、体が閉じたからだった。体が俺より先に動いている。俺の意識は遅れている。
それがどういうことかを知るためには、本を読む必要があった。そんな気がした。
今夜じゃない、という言葉が来た。いつも来る言葉だった。ただ今夜は、その言葉の後ろに別の何かが続いた。
今夜じゃないなら、いつか。
明日の訓練に行く。明後日の訓練に行く。来週も。再来週も。その間ずっと、廟で起きたことを知らないまま、体の内側に閉じたものを抱えたまま、「候補生のケイル・ヴォルン」として動き続ける。
できるか。
できる、と思った。今まで通り、知らないふりをして生きることはできる。ただ——今まで通りではなくなっていた。廟の前の俺と、廟の後の俺は、同じ名前を持っているが同じ人間ではなかった。廟が何かを変えた。変えた後の俺が「今夜じゃない」と言い続けることは、変わったことを認めないまま生きることだった。
それは、今までの「今じゃない」とは違った。
今まで「今じゃない」は待つことだった。今夜「今じゃない」は逃げることだった。
俺は逃げるつもりがなかった。少なくとも、自分の内側から逃げるつもりはなかった。
起き上がった。
音を立てなかった。石の床を素足で歩いた。机まで行った。引き出しに手をかけた。
引き出しを開けた。
暗がりの中で本を取り出した。革の感触があった。表紙が手のひらに収まった。重さがあった。父さんの手がここに触れた、という事実がその重さの中にあった。
デインの机のろうそくを借りた。火をつけた。最小限の明るさにした。部屋の隅に座った。三人が寝ている方を向かないようにした。
本を膝の上に置いた。
しばらく、表紙を見ていた。
革の表紙に題名はなかった。父さんの筆跡で何かが書かれている可能性があったが、暗がりでは見えなかった。ろうそくの光を近づけた。何も書かれていなかった。題名のない本だった。題名をつける必要を感じなかった、か、題名をつけることを意図的に避けた、かのどちらかだった。
親指を表紙の端に当てた。
前回は、ここで止まった。3章の夜も、2章の夜も、ここで止まった。親指が端にあって、開く動作の最初の部分まで来て、止まった。
今夜は止まらなかった。
表紙を開いた。
最初のページは、九歳のときに読んだものと同じだった。
影は悪ではない。ただ、誰も引き受けたがらないものを引き受けているだけだ。
父さんの筆跡だった。ヴォルン村で見慣れた、少し右に傾いた文字。村の帳面に書かれていた文字と同じ。薪の量の記録、季節の変わり目の覚書、村の古老への手紙の下書き——そういう紙に書かれていたものと同じ手が、この一文を書いた。
七年かけて変わらなかった一文だった。
次のページを開いた。
父さんの文字が続いた。ただし一ページ目とは違った。一ページ目は宣言のような一文だった。二ページ目から先は、研究者の文体だった。細かく、体系的で、感情の温度が低い。ここに書かれているのは思いではなく、知識だった。




