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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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88 現実への召喚 エターナル・エデンの反応

「私がいなくなった後のエターナル・エデン?」

オーランは意外な事を言われた、と言う表情を見せた。

「旅人たちの世界に召喚されて、戻ってくる事は出来るのですか?」

クレハは、現実でセイのインタビューを見ている。この召喚は一方通行になる可能性が高い。

大晦日のネームドNPCの召喚は、一種のパフォーマンスで、技術的なことはクレハにはさっぱり分からないが、本格的に現実にAIを移植する、と言うのなら、専用の素体の用意から始まって、じゃあ、ちょっと行ってくるね、といった近所に出かけるような身軽さにはならない、位はいくらクレハでもわかる。


「詳細は星王陛下に了承の返事をしてから伺う事になるでしょう。けれど、世界を渡る新技術ですので、誰もが候補に選ばれる訳ではなく、候補に上がってからも、実際に転移するまでに、いろいろ学ぶべき事もあると聞いています。すぐに召喚される訳では無いのですから、それまでの間に、身辺整理はできるでしょう。

それに、私も冒険者ですからね。旅人たちの語る、あちらの世界、と言うものに興味津々、なのですよ」

そう言って笑うオーランは、星王からの依頼とか、この世界に流れ込む悪意の阻止とか、そんな大義名分よりも、自分は冒険がしたいのだ、と強調する。

それは、紛れもなく本心なのだろうが、やはり、そこには、責任感の様なものが隠れ見え、クレハの心をジクジクとさせる。


「ですから、私はこれから星都に向かおうと思います」

そう言って、クレハたちに数日世話になった礼を言い、Sランク冒険者は出て行った。バトラーを見送りにつけたクレハではあったが、その表情は冴えない。

「オーランさん、行方不明になった人たちの事、忘れてないよね」

沈着冷静なオーランの妙に前向きな様子に、何かを誤魔化そうとしているのを感じる。それは、ログアウト前にバーンに依頼した、ゲート開放後の行方不明者リストと無関係とは思えなかった。

「アンちゃん、バーンさんから、連絡あったんでしょ」

終始、自分の話しかしなかったオーランとの会話の不自然さに、クレハはどうしても気になっていた事を尋ねた。

「エイメ・サイアの事件の時にも、バトラー以外に何人か、行方不明になった人がいたよね。その人たちって」

現実世界への転移実験に使われたんじゃ無いかな。

流石にこんな恐ろしい想像を口に出して言うことは出来なかった。

けれど、アンは察したのだろう。ぎゅっと、口唇を噛み、「はい」そう、答えた。


バトラーが関わる前から、♾️傭兵団は、人の出入りの激しい傭兵団、と言う噂があった。

例えそれが、NPCと旅人の融和と協調を謳う傭兵団であっても、傭兵団と言う暴力と危険が日常茶飯事の集団では、それは特に、目立つ事ではなく、問題視されなかった。

バトラーの事件後でさえ、その洗脳の解除方法が特殊であったことから、公にはならず、公式が要観察対象にした程度で、半ば放置されていた。その後のゾンビ化事件がなければ、恐らく、今も、放置されていただろう。

一方、クレハもよく知っているある団体が、密かに解散していたのを、クレハは、このバーンの調査書で知った。

それは、元ヴァルゴ冒険者ギルド副ギルド長アスランが結成した魔滅部隊、である。

彼らは、本拠地をエディアカラン国に移したのち、しばらくして自然解散していた。ヨウ貴妃の私兵になった、と噂されたりもしたが、そのメンバーの殆どの行方が未だ知れない。彼らは、強靭な体力を持つ獣人族からなる武装集団で、旅人を敵視していた。


星王の趣旨に賛同して、現実世界に乗り込む。転移実験に使うのに、打って付けの人材たち。

現実世界への転移が可能となった。

何事も一度で成功することなどはない。

幾度も失敗を繰り返し、失敗の原因を探り、修正し、実験を繰り返し。

そうやって、先日の成功に繋げたはずだ。

何をして失敗と成功を判断するのか。


行方不明になったNPC。その全員が転移実験の被験者とは限らないだろう。だが、あの白い部屋で聞いた星王の言う”忠臣”が、彼らを意味しないと、誰が断言できようか。


VRの世界から持ち出せるのは、データだけだ。

PCやモバイルの買い替えで、データの移植は簡単に出来るイメージはある。

ならば、AIの移植も簡単?

そこが、クレハには分からない。


だって、簡単なら、あんな大騒ぎになる筈がない。

大晦日のゲームショウの盛り上がり、息子の龍樹の様子、SNSのサイトの乱立。

どれを取っても、あのゲームショウで発表した事象は、普通では無いのだろう。


少なくとも、現実世界では、EEC16内キャラの召喚は、熱狂的に受け入れられていた。


そして、EEC16世界では、現実世界への召喚をこの世界を変える好機と捉えている。


クレハと紅葉のようなどっちつかずの者が一番タチが悪い、と我ながら思う。

ゲームと割り切っているつもりで、がっつり、NPCに感情移入している。

セイならば、転移実験の為に育成したキャラ、と魔滅部隊の面々を使うことに抵抗はないのだろう。

クレハも、自分と関わりのないキャラが使われていたなら、なんとも思わなかったかも知れない。

だが、実際問題として、星王は、オーランを指定した。

途端に、転移実験は、身近な問題、として、クレハの前に立ち塞がり。そして、どっちつかずのクレハは、何も決められないまま、オーランは旅立って行った。


「エターナル・エデンに転生したいと希ったリ・リーちゃんなら、オーランを止めるのかな?」

エクタシアン国のエンチャンター:ル・ルーに憧れて、その妹になりたくて出現国ガチャを回し続けた性同一性障害の男の子。

今では、テイムした魔物たちや仲間たちと共に、随分しっかりした旅人になっている。

見事、ル・ルーに妹として認められ、エクタシアン国のキヌ産業の立役者となったのも、この子だ。

そんなリ・リーは、この騒動をどう思うのだろうか。

尋ねてみたい、と心の底から、クレハは思った。



『明けましておめでとうございます、クレハ様』

猫の顔なのにどうしてこんなにやつれて見えるのか、と、驚く程元気の無い声で、猫アレクが挨拶した。

NPC召喚の件で色々、問い詰めてやろう、と待ち構えていたクレハだったが、そんな疲れ果てた様子に、思わず、人をダメにするクッションを無言で差し出してしまう。

ふみふみふみふみ、とクッションを踏みつつ、何やら呪詛の様に呟く言葉に耳を傾けると、どうやら、EEC16キャラの現実召喚についての問い合わせに、正月休み返上で対応していた様子。

一応、本業はEEC16のガイドなので、今日から通常業務が始まるらしい。

「私、家で大人しくしてるから、休んだら?」

流石に社畜すぎる、とクレハが提案すると、猫アレクは感激しつつも、今年の業務計画を伝達した。


元旦にセイがインタビューで宣言した通り、今年から、EEC16ではGW、夏休み、周年などの定期イベントの開催は全て中止終了となった。ただ、夏休みに行われていた天下一大武闘大会だけは、すっかりエターナル・エデンの恒例行事として定着しており、大会運営もほぼNPCが行っていた為、今後の継続もありうる、と言う。

シムテムに関するメンテナンス等はこれまで通り、運営が継続する。

「メインイベントが無くなる以外は、大きな変化は無いと考えてもらって良いです。これでようやく、クレハ様の望む、のんびり引きこもり生活、が果たせそうですね。私たち運営の規模も縮小予定です」

VRMMOで育成したAIを現実の素体に移植する事業は新たな会社を立ち上げ、ゲームの運営は子会社化する、現地人枠で採用したクレハたちの雇用はこの子会社にそのまま移行される。契約更新書類が後日送られる、とまで業務連絡を済ませると、大きなあくびをして猫アレクは、そのまま、むにゃむにゃと眠ってしまった。


猫アレクの予言?の通り、EEC16のその年は平穏に過ぎた。

オーランの不在に奮起した冒険者達は、次は自分こそが星王に選ばれて、特別な依頼を受けるのだ、と張り切って依頼をこなした。

シデリアン国の冒険者ギルド長ウーカンは、エディアカラン国の新王即位を機に職を辞し帰国した。が、前任者(ロット)失踪後の混乱を経験していた冒険者ギルドは、ギルド長に依らない運営を心がけており、大きな混乱は起きなった。


この年も、天下一大武闘大会は星都で開催され、クレハの銀杏商会は七宝焼風のペンダントヘッドを売りに出した。勿論、製作したのはアマツマラたち、根の国の職人集団で、クレハはアイデアを出しただけだ。扇型の簪の頭の平たい部分の周りにぐるりと下がっている、ビラ、と呼ばれる細長い板状の飾りを、七宝焼で様々な色に焼いた一品物のビラカンと呼ばれる簪をクレハは対価にもらっていた。「試作品として焼いたモンの再利用だ」とアマツマラは笑うが、その繊細さと巧緻さは、決していい加減に作られたものではなかった。クレハの白銀髪に、七宝焼のビラカンは華やかに映えていた。


天空島への直通隠しゲートも最後の一つを残し、無事、発見された。

そうすると正規ルートより、遥かに制限の少ないそのゲートに人々が殺到したと思われそうだが、怠惰の罪源を盗られて、活動度の上がったドラゴンの巣や、砂漠を移動する砂漠ヤドカリの背負う貝の中など、隠しゲートに辿り着くまでの困難が半端ない場所にあれば、素直に星力を払って行った方が、マシ、と判断する者が大半だった。


現実では、EEC16から移植したAIを入れる素体の開発が急ピッチで進められていた。

ゲーム内のNPCと同様の動きを再現するのは、召喚したNPCの能力値が高い分、難易度が跳ね上がっており、今は、とりあえず、彼らに現実に馴染んでもらうべく、汎用型に移植して動作調整中、と公表されていた。


そんな中、EEC16藍サーバーでは、星王の結婚が発表された。





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