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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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87 無意識の時差ぼけ

心配そうに自分を見るアンに申し訳なさを感じる。


元旦の夜、紅葉はEEC16にログインした。

目覚めたのは、いつもの寝室ではなく、ヴァルゴの自宅の蔵の仮眠室だった。

誘拐事件に巻き込まれたクレハの安全の為、この屋敷で最もセキュリティの高い場所で、昨夜、クレハは眠ることになった。つまり、貴重な資料が保管され、時々、時間を忘れて引きこもるクレハの為に用意された、この仮眠室に、である。仮眠室とは言え、使用頻度の高いそこは、シングルベッドが置かれており、小さなテーブルセットと簡易給湯室、シャワー室・トイレまでも完備されている。狭いながらも豪華なワンルームマンションの一室、といった環境だ。そんなことをつらつらと思い出しつつ、しばらく、天井を見つめ、クレハは覚悟を決めて起き上がる。


蔵の出入り口には、瓶底眼鏡のゴスロリメイドが控えていた。

「おはよう、アンちゃん」

アンの目が上から下まで素早くクレハを観察し、その眉を寄せたのがわかる程には、付き合いは深い。

「大丈夫だよ」

無理に笑おうとして引き攣ったのだろう。アンが小さく口唇を噛んだ。

「オーランさんは?」

「母屋でお過ごしいただいております。ご主人様がお目覚めになられましたら、お暇したいとお待ちでございます」

「そういう訳にもいかないよねー。星王様のお誘いを断ったんだし」

昨日はとりあえず、でクレハの自宅に匿ったが、今後の方針を決めなくてはならない。

まだ、自分が狙われた理由を理解していないオーランに、クレハが現実世界で見聞きしてきた事、”EEC16のAIの現実世界への召喚”。その召喚ターゲットにされた事を、どう説明したものか。


軽く食事を済ませ、身支度を整えて、母屋に移動するが、クレハの心は決まらない。

「おはうようございます、ご主人様」

完璧執事モードのバトラーの横で所在なげに佇むオーランは、クレハを目にするとホッとした表情を見せた。借り物のラフなシャツにボトムスが美形エルフとミスマッチで、思わず、クレハは謝ってしまった。

「申し訳ありません、オーランさんにそういう無防備な服は落ち着きませんよね」

「いえ、ご迷惑をお掛けしているのは、私の方です。お気遣いありがとうございます。

それより、バロネスこそ、お身体は大事無いのでしょうか?この2日、お姿をお見かけしなかったので、心配していました」

「2日?」

こてん、とクレハは首を傾げた。


オーランたちと別れ、ログアウトしたのは深夜。現実で目覚めた時は、元旦の1時過ぎだった。そこから、ひと眠りして、遅めの朝食兼昼食を9時ごろに食べて、ネット検索をして、昼過ぎにログインしたはず。大体、12時間、現実で過ごしたが、

「ちょっと、起きるの遅かった?」

尋ねられたアンは、「そうでございますね、いつもより半日程はごゆっくりされていらっしゃった様です」

とさらりと答えた。

「だよねー」


バトラーもごく当たり前、と表情を変えずに控えており、一人慌てるオーランの様子に、流石に、クレハもあれ?と思う。

「あー!」

そして、思い出した。

現実時間で12時間なら、EEC16ではその4倍の48時間。つまり、2日。

そう、クレハは丸2日、眠っていた事になっている。

「あれ?あれれ?」

確かに、1日1回はログインする様にはしていたけれど、でも、今までも、12時間以上、ログインしなかった日もあったはず。流石に、一日以上、間の空きそうな時には、直通回線を通して、連絡を入れていたが、ひょっとして、これまでも結構、2日以上、寝室から出てこない事があった?


ログイン後のアンとバトラーの態度は、いつも変わらないから、起きたのが何時であっても、「おはよう」と挨拶をして、軽食を食べ、いない間の報告を聞いて、今後の予定を立てて。その後、蔵で文献を読んだり、出土品を調べたり、料理やお菓子のレシピをまとめたり、時間がある時はヴァルゴの街に出かけたり。そんなあまり時間に拘らない気まま生活を送っていた。

それが、EEC16時間で何時であっても、アンとバトラーの態度は、いつも変わらないから、クレハはいつの間にか、取り繕うのを忘れていた。

よく考えれば、丸2日、寝続けるなど、余程の事がなければ、あり得ない。


『私が、寝る、って言って、寝室に入って、食事も摂らず2日も出て来なかったとして、この二人が様子を見に来ないはずがない。ぴくりとも動かないアバターが転がっているのを見て、どう思ったんだろう』

パクパクと口を開けて閉めて、を繰り返すクレハは答えを聞きたいが、聞きたくない、そんな心境の現れだ。

「私共は、始めから、ご主人様に、誠心誠意、お仕えするのみです」

けれど、アンとバトラー、二人は、通常営業だった。

それは、クレハが何者であっても、変わらない、と示していた。

クレハはへにょりと眉を下げた。

「二人共、それは洗脳だよ」


アンとバトラーは、紅葉がEEC16で現地人として生活する為に、用意されたNPCだ。それが、自律思考型、と言う特殊なNPCであっても、最初から、クレハの味方として”設定”されている。

だから、彼らがクレハに絶対の忠誠を誓うのは当たり前、なのだ。

ふっと、アンが小さく吹き出し、バトラーは困ったように言った。

「私たちは、本物の洗脳、を知っていますよ」

それは、エイメ・サイアの蟻地獄に噛まれた時の事。現実世界から持ち込まれたコンピューターウィルス感染によるデータの書き換えは、正しく、洗脳、だった。

「ですが、そんな私たちをご主人様は、助けて下さいました」

「「その時以降、私たちの貴女様への信頼は揺るぎないのです」」


「それに、今更、でございますよ、ご主人様」

ご主人様は、割と最初から、隠す気がございませんでしたでしょう?と微笑むバトラーの言葉に、彼らから与えられた絶対の信頼に感動していたクレハだったが、そんな事はない、と反論する。

が、

「星霊のアレク様が、随分と、ご苦労されておりました」

と、続けられては、押し黙るしか無かった。


「やはり!バロネスは、ハイエルフとして、何か重要な役割を担っているのですね!」

感動に打ち震えるオーランの声に、クレハは我に返った。そういえば、今、この場にはSランク冒険者でエルフのオーランもいるのだ。

何をどう解釈したのか、クレハが誰にも知られず、数日不在にするのが、大きなミッションにされている。

「エルフの里には、ハイエルフについての伝承があります。

千年を生きるハイエルフは、その寿命の長さから政治に関わる事は許されない。けれど、世界の危機に際しては、未来の指標を示す評定者となる、と言うものです。

バロネスは、クレハ殿は、その遣わされた評定者なのでしょう?

貴女がこの2日、不在であったのは、この世界の行く末を、仲間のハイエルフと相談していた為では無いのですか?」


いやいやいやいや。

ちょっと待って、何その思い込み。突然、何を言い出すんだ?なんか、テンションおかしくない?

あわあわと両手を振るクレハに、決意を漲らせたオーランは立ち上がって、宣言した。

「私は、星王陛下のご提案を受けようと思います!」

「⁉︎」

「そして、この世界を侵食する旅人たちの世界の悪意を、元から絶ってご覧に入れます」


取り敢えず、落ち着こう、とカモミールとラベンダーのハーブティーを用意し、伽羅の香木を焚いた。

そうして、クレハが現実世界で過ごしていた時間に、エターナル・エデンの世界でも、現実世界に渡る方法が実用化に入った、被験者を募集する、との声明が、星王の名において成された事を、クレハは知ったのだった。


「ですが、被験者には資格、が必要です」

そう続けるオーラン。

「まず、旅人たちの世界で活動する為に、しっかりした知識が必要です。そして、どんな悪意にも染まらない精神力。何より悪意を放つ者たちを制する戦闘力が、要求されます」

「ですから、先日、星王陛下は私に声をかけてくださったのだと思います」

確かにSランク冒険者でエルフであるオーランなら、戦闘力・精神力は、他のエターナル・エデン人より優れている、と言えよう。そして、真面目な常識人であるオーランなら、現実世界でも、おかしな事はしないだろう、と想像がつく。

そう言う意味では、ゲームショウで召喚された赤サーバーのリュウジュの所属クラン”愚者たちの酒場”の団長JDの様に、すぐに実力に訴えようとする人物の方が、問題なのだ。


けれど。


「オーランさんが、旅人の世界に行ってしまったら、エターナル・エデンは、この世界はどうなるのですか?」





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