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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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86/87

86 NPC召喚

無事、帰還陣でヴァルゴの自宅に戻ったクレハは、冷静を装いつつも内心パニックを起こしているのがバレバレなアンに迎い入れられた。

自分たちのすぐ後に会場入りするはずの、クレハとオーランがいつまで経っても現れないのである。当然、何かあったに違い無く、護衛失格と落ち込むアンをバトラーが冷静にサポートし、ともかく、クレハ・デ・ノースヴィラ女男爵は、会場入りし、すぐ、気分不良で退席した、を装って、アンは自宅に、バトラーはバーンに連絡を取りに向かった、と言う。

バトラーに無事に二人とも帰宅した連絡を入れると、彼はバーンと共に直ぐに戻って来た。

他言無用と聖王に念押しされている為、詳しい話は出来ないが、誘拐の噂の真相に近づいており、その為、オーランはしばらく身を潜めた方が良い、と、このままクレハの家で身を隠すことになった。

バーンはゲート開放後に行方不明になった人物のピックアップと、♾️傭兵団のその後を調べる、と帰って行った。危険な事はしない、と宣言していたが、大丈夫だろうか。

やや不安を残して、クレハはログアウトした。


現実世界では、年が明けていた。


しばらくは運営も正月休業中で、余程の緊急事態で無ければ、問い合わせに対する返信は直ぐには帰ってこない。

それだけで無く、ゲームショウで公開した、EEC16NPCキャラの現実への顕現、に問い合わせが殺到し、回線がパンクしているらしい。そんなお詫びメールがユーザーに送られていた。


紅葉は、龍樹にLIMEであけおめスタンプを送り、ゲームショウのオンデマンド配信見たよ、のコメントを付けた。

詳しく話を聞きたいところだが、流石に元旦の朝、数時間前までメッセに行っていた龍樹はまだ寝ているだろう、そう思い我慢する。まあ、ひょっとしたら、運営と同じように、今頃は知り合いからの連絡の嵐に根を上げて、スマホの電源を落としている可能性もある。


ゲームショウの来場者たちが立ち上げたサイトが乱立し、あらゆる種類の噂話が、あちこちに垂れ流されていた。

現実に召喚されたNPCは、4名。いずれもサーバーを代表するネームドNPCだ。

彼らは、お披露目を終えると運営スタッフと共に会場内を移動し、来場者にその存在をアピールした。ゲームショウの最後まで、彼らは現実に留まり、ショウの終わり、フィナーレと共にエターナル・エデンに帰った。

少なくともそう言う演出は為された。


EEC16世界で彼等を知るユーザーの中には、ゲームショウ中にログインし、彼らの不在を確認した者もいた。更に、召喚されたNPCの帰還の瞬間を目の当たりにした者もいて、この現実社会への召喚と帰還が、真実だと、声高に発言している。

「あれは本当に起こったことだ」

そういった書き込みが増え、熱狂が拡がっていく。中には、「さっき、〇〇で見た」と具体的な地名をあげた怪しげなコメントも現れ始めた。

いつもなら、フェイク情報は運営が即座に削除するのだが、正月休みの為か、反応が鈍い。出遅れているうちに、いかにも合成しました、と言うような写真付きの「〇〇で見た」まで流れ出す。


これが、元旦の正午までの出来事だ。

そして、EEC16最大のスポンサーの会見ニュースが流れた。


「私が祖父から引き継いだEECと言うゲームで、やりたかった事は、この大晦日のEEC16キャラの召喚の成功、で一つの区切りを迎えた」

男は、仕立ての良いスーツに身を包み、高級そうな革張りの一人掛けソファーに足を組んで座っている。

「何度も言っているが、私にとって、EEC16は広大な実験場だ。時間の流れを加速し、人類や人類に似た生命、人類と相反する生命、それらをあらゆる環境下において、生じる現象を検証する。時に、人倫にもとる事象に対しても、ゲームであれば許されると、様々な対策を臆する事なく、実行することが可能な場所。


私の作ったEEC16は、この現実社会のより良い未来の為の、試金石だ。

圧倒的な脅威に対して、人類は何が出来るか。

そう言った試練を乗り越えたAIが、現実世界において、我々に方向を示してくれる。

絶望する事なく、人類は発展が約束される。


その過程で、EEC16が医療面で大きなサポートツールとなった事は、意外な発見であり、誇りでもある。

体の機能を失った者、心を病んだ者、認知症の初期など、長期に渡る介護者の忍耐強い支えが必要な者たちが、EEC16で回復した事実は、広く知られている。


ゲームとしてのエターナル・エデンはこのシリーズ16で終わりを迎える。今後、周年イベントのように、現実と時間をそろえた全サーバー共通の大規模イベントの定期開催は無い。今となっては、多様化した各サーバーで共通のイベントなど、土台無理な話だからだ。

だが、人類が悪意から逃れられない以上、EEC世界に悪意は垂れ流され、魔物は生まれ続けるだろう。その結果、魔神王が蘇る可能性も残されている。それはEEC世界の設定上、仕方の無い事だ。そうならないよう、EEC16世界の住人と旅人の検討を祈る」


「配信停止はしない。EEC16は、社会的弱者支援の一つとなっているからだ。企業としての社会貢献、一種のノブリス・オブリージュと考えている。故に、これまでと同様、プレーヤーキルや、NPCへ危害を加える、などの反社会的行動、に対して、運営は介入する。最低限のメンテナンスの維持は、EEC16を選んでくれたお客様への、義務であり、礼儀、だからな。

勿論、EEC16が私の実験場である以上、他の奴らに好き勝手させる事はない、とだけ言っておこう」


そう言ってニヤリと口元を歪めた男は、どう見てもマフィアのボス並みの凶悪さだった。


「既に、我々の元には、世界各国から、AIエージェント派遣の要請が来ている。まだ、素体を動かすエネルギー効率が悪く、稼働時間は短いが、近いうちにその問題も解決する目処がついている。

今、巷に流れているタチの悪いフェイク動画が、現実のものとなるのを、楽しみにして欲しい」


相変わらずの傲慢さだと、会見を見ていた紅葉は、呆れながら、玉露を飲んだ。

病院勤務の時は正月出勤もあったため、退職してからはのんびりと、寧ろ、退屈を感じる三が日だったが、今年は、初日から波乱万丈だ。


EEC16の目的の一つが、現実世界に有用なAIを仮想現実で育てる事。

仮想現実の世界で育ったAIが、現実世界で活動する。

EEC16ゲーム内キャラのAIを現実のロボット(素体)に移植して動かす。

それは、現実世界で時間をかけてAIに学習させるより、はるかに簡単に技術者を手に入れる事が出来る。

そして、それは何もAIだけには限らない。現に、今までも、その実証実験の結果得られた新技術、例えば、砂漠の緑化に有意義な植物であったり、効率的なエネルギー獲得手段であったり、現実では、国際問題が絡んでなかなか進まない事業の下準備を整えて、プレゼンすれば、ほぼ100%その技術は売れた、らしい。

そんな事は、このインタビューを見た後に検索して知った事で、おそらく、その下準備のいくつかに間接的にクレハも関わった事はあるはずだ。

知らないだけで、色々と使われていたみたいだが、それに対して、恨み言はない。


だが、紅葉は考えてしまう。

現実世界に召喚されたAIはEEC16ではどうなってしまうのか。

今回は、全員が戻ってくる事が出来た。

だが、素体の稼働時間が伸びたら?


現実では、ただのAIだが、EEC16では一人の人間。

それに、召喚が最初から上手くいった筈はなく、召喚に失敗したAIをもつNPCはどうなったのか。

誘拐、とオーランたちは言った。

つまりは、ゲーム世界のNPCを誘拐して、その頭脳であるAIを現実のロボットに移植可能かの実験をしていた、と言うこと。


ゲームのスポンサーであるセイ、つまり、星王主導で。


エターナル・エデンの住人にとって、星王は、旅立った”名も無き神様”の代理人、として最も尊ばれている存在だ。その星王が、誘拐の主犯。自分たちの尊敬を逆手にとって、騙して連れ去っていた。

星王にとっては、自分たちエターナル・エデン人は農作物や家畜、と同じなのかもしれない。

昨日まで普通に隣にいた人物が、誘拐(収穫)されて、現実に輸送される。


一種の育成ゲーム、と書かれたサイトの記事が目に入る。

キャラを育て、育てたキャラで競わせるゲームだ。その競わせる場が、現実世界なだけで、何も変わらない、と。

だが、流石に紅葉はそこまで割り切れない。

青い顔をして口元を抑える紅葉に夫が心配そうな視線を向けた時、スマホが鳴った。

満面の笑顔の息子の後ろに緑髪ツインテールの少女他数名が、一つのタブレットを覗き込んでワイワイやっている姿が写っていた。


「明けましておめでとう、母さん、父さん。俺、今、ゲームショウで会った俺のクランの仲間たちと一緒なんだ」


龍樹ことリュージュのクラン、赤サーバー実力ナンバーワン傭兵団”愚者たちの酒場”の団長は、赤髪の大男JD。

昨日、ゲームショウで、EEC16世界から最初に召喚されたAIだ。

詳しい話を聞きたいが、楽しそうな若者たちの邪魔をするのも悪い、と、紅葉は早々に通話を切り上げる事にした。

「ん、また、連絡するね」

通話終了アイコンに触れる直前、紅葉の耳に彼の仲間たちからの挨拶が届く。


「リュージュのお母さん、あけおめ〜」

「お袋さんに、俺は挨拶しなくて良いのか?」

まだ若い少女の声に続く、低い男の声に、紅葉はどこかで聞いたような、と首を傾げたが、その時には既に通話は切れていた。






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