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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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83/84

83 ゲームショウ

紅葉・クレハ視点ではありません。

初めて名前が出ました。紅葉の旦那さん、上野 孝也 63歳 です。

この年の大晦日。

いつもの紅葉の家なら、息子も帰省し、親子三人で、いつになったら嫁が来るのか、などと、話をしながら、早めに夕食に寿司を食べ、22時すぎに年越し蕎麦を食べ、新年が来たなら、今年もよろしく、の挨拶をして、就寝。

そんな上野家のルーチンが、今年は息子はゲームショウに行くと帰省せず、妻はゲーム内イベントに参加するからと、キャンセルになった。

「夕食にお蕎麦を食べて、お寿司は小腹が空いた時に適当につまむ、って事にしない?」

提案の形を取ってはいるが、それで年越し蕎麦と言えるのか?との夫の言葉は、華麗にスルーされた。

まあ、蕎麦を作るのは紅葉なので、孝也に文句を言う権利は無い。大晦日にくだらない口喧嘩をする事も無い、と頷く。


入浴を終えると、妻はそそくさとギアを付けて、食卓テーブルに座った。

本当に、どうしてそんな体勢でするのかよくわからない。妻の紅葉はEEC16をリビングの食卓テーブルの上でする。VRMMOに入るのには、専用のギアを頭につける。横になって、リラックスして、と言うのが、推奨されるらしいのだが、何故か彼女はテーブルに突っ伏してやっている。

本人にもよくわからないらしいが、指摘されても変えないところが紅葉らしい、と思う。


一人残された夫の孝也は、株式市場も正月休みで、贔屓にしている配信者の配信もなく、仕方がないので、妻と息子が熱心に遊んでいるゲーム、エターナル・エデン・クロニクル16のゲームショウの生中継をネットで覗いてみることにした。

ひょっとすると息子の龍樹が映るかも、などと思っていたのだが、あまりの人出の多さに、まず、度肝を抜かれた。

エターナル・エデン・クロニクルは、紅葉と結婚してから、横で彼女がやっているのを見る事もあり、全く知らないゲームでは無かった。

アクション性の高いミニゲームでは、頼まれて代わりをする事もあったが、自分が主人公になって遊ぶ事はしなかった。長々とストーリー性のあるゲームは、企業戦士には向かない。数日、遊ばないと何をしていたか忘れてしまうのだ。

それでも、ネットから流れる会場の熱気に、これは二人がハマるわけだ、と納得はする。


入ってすぐの展示室は美しいグラフィックが360度、エターナル・エデンの世界を映していた。そこに、一人、二人、と人の姿が増えていき、その中に、獣人やエルフ、ドワーフなど、ファンタジー世界の住人たちが、加わっていく。

大剣を背負った厳つい戦士、背丈より長い杖を持ったエルフ美女、ケモ耳ケモ尻尾の獣人の子供。

黄金に埋もれて眠る真っ黒なドラゴン。海中を悠々と泳ぐ巨大なエイのような魔物。地下世界を彷徨うボロ布を纏ったゴースト。


これまでの各種イベントでMVPをとった戦闘シーンなどがプロジェクションマッピングや3D映像で再現されている企画もある。地上だけでなく、海中や地下世界などでの戦い。一対一、集団戦。夜の闇に紛れての行軍。血生臭い場面は、上手に処理されており、少なくとも、ネットに流される映像ではPG12は考慮されているようだ。


砂の中から浮上した巨大な神殿、空中に浮かぶ教会、海底の竜宮城。岩山を削って造られたドワーフの宮殿。様々な時代の色々な建築物を参考に築き上げられた各都市の街並みを再現した展示室。

武器屋に入れば、実際にゲーム内で使われている武器を再現した剣が展示されており(最も殺傷能力はないが)、防具屋では、防具のレンタルも可能。さすがに魔法の演出はCGだが、杖を振って雰囲気を楽しむ来場者たち。


一番大きな会場は、星都の天下一大武闘大会のメイン舞台を模して造られていた。ローマのコロッセオの様に、周囲を円形に階段状の座席が囲み、天井には夕焼け空に天空島が黒い影となって映し出されていた。そこで、今まさに、このゲームショウのメインイベントが行われようとしていた。

三年に一度、強者たちが、死力を尽くして戦うその舞台の上に、このゲーム、EEC16の開発責任者の一人が、司会の大任をになって立っていた。巨大なスクリーンが四面、観客席の上空に浮かんでいる。

準備OK、の合図を受けて、彼が宣言する。


「ご来場の旅人の皆様、お待たせしました。今、ここに、今回のゲームショウのゲストを紹介致します」

その言葉で、夕闇迫る会場の舞台の一角の床が光った。司会者の伸ばした手の先に、ゲーム内でよく知られた転移ゲートが地面から迫り上がるように現れる。

ぶん、と重低音と共に、ゲートが一瞬、怪しく暗赤色の光を帯びた。その光のカーテンの向こう、シルエットが浮かぶ。


「エターナル・エデンの住人、赤サーバー随一の実力を誇る傭兵団クラン”愚者たちの酒場”の団長、JDです」

その声と共に転移ゲートから現れたのは、2メートル近くある赤毛の大男。トレードマークとして知られた、いつもは背中に背負っている大剣は無く、服装も革鎧と軽装だ。だが、鋭く周囲を見回し、状況把握に努め、警戒を怠らず、静かな殺気を意図的に漏らしている姿は、彼を知る人にはJDが戦闘準備に入った、と警鐘を鳴らすに十分だった。

「なんだこりゃ、ここは何処だ?」

言葉だけを聞くと、緊張感は無い、だが、

「団ちょぉ?」

メイン会場に向かうべく、ポーションもどきのカクテル片手に再現された街並みを楽しんでいた龍樹は、会場のあちこちに設置されたスクリーンに映し出された、知り合いの突然の登場に、すっとんきょうな声を上げた。


「やばいやばいやばい。あれ、なんか一つ間違えたら、暴発する奴」

大剣無しの団長なんて、劇物でしかない。なんなん、これ。

泣き言がつい大声になり、半泣きで人混みを掻き分け、メイン会場に向かおうとする龍樹だが、観客達も、突然現れた赤サーバーの超有名人に興味津々。

「すげえ再現率」「半端ねー」「カッコいい、JD様」

など興奮して、皆が同じ方向に向かおうと、渋滞が起こっている。


「誰だぁ、テメェ」

剣呑な気配を漂わせる大男に怯みつつ、司会者は、赤毛の大男に、そして、来場者や生配信を見ている視聴者に説明をする。

「ここは、EEC16世界を訪れる旅人達の故郷です。今、あなたは、彼らの使うゲートを逆に通って、こちらの世界に来ています。その体は、人間の体に似せて作られた素体と呼ぶものにあなたのEEC16内の体の記憶を投影したもの、という事になります。動きにくいところは無いですか?」


「ああん?」

胡散臭い、と眉を寄せつつ赤毛の大男は、腕を振り、足を曲げ、腰を捻り、など動作確認を始めた。

「確かに、自分の体じゃねぇ、ってのは、納得だ。ちっ、星王様からの特殊任務だっちゅうから、酒も飲まずに待ってりゃ、何の茶番だ、こりゃあ。俺の剣はどうした?」

コキコキと首を回し、頭を掻く。理解したような態度に司会者も少し安堵する。

「残念ながら、物質転移はまだ実用化の段階にはなく、あなたの体も武器もEEC16のさっきまであなたがいた所にあります」

「へえぇ。そりゃ、良かった。んじゃ」

ニヤリ、と笑った凶悪な笑顔に司会者は引き攣った。


「うわー、待って、待って!団長!ステイ!」

間一髪間にあった龍樹がコロッセオの最上階から叫んだ。

「何がステイ、だ。俺は犬じゃねぇ!・・・って、おい、そのツッコミ」

「団ーーーー長ーーーー。ここで暴れちゃダメーーーー。副長が怒るよーーーー」

更に反対側から甲高い女性の声もする。

「ああん?」


龍樹は、ステージ上のJDと目が合ったが、彼が自分を認識していない事をその表情から読み取った。

EEC16内のリュージュの容姿はちょっといじってある。

「うわっ、どうしよう、俺、えっと」

オタオタする龍樹に対し、彼の反対側から声を掛けた女性は、JDに大きく手を振った。

「団長ー、あたしー。ビスケットー」

ぴょんぴょん跳ねながら、両手をブンブン振る女性に、周囲が波が引くように離れていく。おかげで、彼女の姿はよく見えた。10代半ばの少女は、しっかり、コズプレしてやってきていた。

「お前、ビスケットか?」

「ピンポーン!」「胸、ちいせぇな」「セクハラー!」

JDの闘気が少し揺らぐ。

ビスケット、と呼ばれた少女は、コロッセオ最上階からステージに向かって駆け降りた。

「あたし、”愚者たちの酒場” のクランメンバー、”死神天使ビスケット”でーす」

そうしながらも、自己紹介と共に背中に負った大鎌の柄をジャキン、と伸ばして、ステージ前でポーズを決めた。

「そして、あたしの星霊武具デスサイスの”クッキーちゃん”。よろしくねっ」


ウオォー。

大歓声。


一方、龍樹の方はと言うと、自分がリュージュと証明するものは、ここに何も無い。

ちょっと目立ってしまったが為に、周囲から、次はこいつか?いや、こいつはただの悪ノリ野郎じゃ無いのか、とヒソヒソ聞こえてきて、居心地が悪い。

そんな龍樹にスタッフの腕章とネームタグを付けた人物が何事かささやいた。

「え?そんな。いいんですか?はい、わかりました」


ビスケットの登場に、大いに沸く会場の、ステージ脇に大きな鏡が引き出されて来る。

「あれは、ユーザーの皆様なら一度は使った事がある鏡、EEC16でアバター作成時に外観を確認するための鏡、です」

司会者が説明する。

「私たち、こちらの世界の住人はEEC16に行く時に、魔力から体を作ります。あの鏡には、その魔力で作った体を映す事ができるのです」

そして、降りてきた龍樹に、入場パスを鏡の横の読み取り機に通すように指示する。

龍樹は大急ぎでパスを通した。

鏡に映ったのは、現実より多少身長を伸ばし、すらりと足の長い、シンプルな軽鎧を着た青年。黒髪黒目はそのままに、涼やかなイケメンが、途方に暮れた顔をして立っていた。

鏡の映像は、会場のスクリーンにも大写しになっている。

「何これ、現実の自分とのギャップを公開とか。いじめ?」落ち込む龍樹。


「お前、リュージュか?」

「そうですよ、団長。ってか、落ち着いたみたいで良かったっすよ。あんた、暴れる気満々だったでしょ。やめてくださいよ。寿命縮んだわ。っていうか、本物の団長?」

「ほう、俺の偽物がいるなら、戦ってみてぇなあ」

「あー、リュージュだぁ。えーなになに、その鏡にあっちの姿映せるの?おもしろー」

わちゃわちゃとするステージ上の三人。

ステージ下では、EEC16世界の自分の姿を映す鏡の前に何人もの列が出来ていた。


司会者は言う。

「さて、皆様、お一人だけでは納得しない、と言う方もいらっしゃると思います。次に、こちらにお呼びするのは橙サーバーの錬金術師ラフラメルさんです」

そうして、転移ゲートが暗橙色を帯び、JDと同様に、錬金術師ラフラメルが現れると、会場は、興奮のるつぼと化した。


エターナル・エデンの住人が現実に現れる。


それは、この時点では、ただのゲームキャラの顕現、でしか無かった。

けれど、後のち、これは、VRMMOで教育したAIの現実世界への導入の、第一歩となったのである。



ゲームショウの配信を見ていた紅葉の夫、龍樹の父は、息子の晴れ姿?に、ゲームの世界にダイブ中の妻を呼ぶべきかどうか、数分考えた後、どうせオンデマンドで見れるかと、大きなあくびを一つして、何十年ぶりかに、大晦日恒例歌番組にチャンネルを切り替えたのだった。





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