82 4周年記念イベント
エディアカラン国は、ラクシュを正式に”エディアカランの聖女”と認定し、彼女の聖女の力で、”色欲”の悪女・ヨウ貴妃の影響からの脱出を図る事にした。
旅人のラクシュは自称聖女から、正式にEEC16世界で一国の後ろ盾を得、聖女と任じられた初めての旅人、となった。
元々、取り巻き、と言うか、信奉者、と言うか、そう言う人々が集まるファンクラブを持つラクシュがエディアカランに付いた事で、その連中がエディアカランに殺到し、国は随分、賑やかになった。
聖女ラクシュは積極的にエディアカランの国中を周り、罪源の痕跡を浄化して回った。
そうする事で、彼女の名声は高まり、国民からの信頼が形となった星力を得て、彼女は益々、強化された。
一方、リュウ・シュウからの婚約の申し込みを断ったクレハではあったが、”星霊を増やす”献策は通り、星霊の好みそうな植物をエディアカラン国内の幾つかの場所に植えて回った。育つかどうかは、エディアカランの国民達次第だ。かつて、星都で祈りを捧げたように、ハイエルフの血を引くクレハが、祈りを捧げれば、ある程度まで、植物の生育を促す事は可能だ。
けれど、クレハは今回、その能力を使う気はない。
簡単に与えられた恩恵に、多くの人はそんなにありがたみを感じないからだ。
そう言った意味で、ラクシュのやり方は悪手だと思う。
どこかに罪源の名残りを見つけても、ラクシュが何とかしてくれる、と他人任せになりかねないからだ。
これまでの様に、見張りを残し、一番近い街に大急ぎで連絡を入れ、衛兵も騎士も、その知らせを聞いた人々が、自分達で考え、行動を起こし。
その結果が、悲しいものになったとしても、自らが行動したことで、その経験は、彼、彼女の力として体と心に知識として積もり、次に同じ様な事が起こった時の解決策につながっていくはずだ。
その機会を減らしてしまう。旅人がこの世界に関わった弊害の一つ、そう思う。
そんな気持ちを抱えつつ、エディアカランにある程度の植樹を終えたクレハは、西隣のエクタシアン国に足を伸ばした。
砂漠の神セトが復活してから、エクタシアンの砂漠には、オアシスが増えた。
復活したセト神が砂漠を拡げるのでは、とこっそり、不安を抱いていたのは、何もクレハに限ったことでは無かった。大体が、砂漠と戦、混沌の神なのである。平和とは程遠い権能に、元エクタシアン女王が自らの退位を早めてまで、セト神殿司祭長の座に着いたのも、それ故だった。
その危惧があったからこそ、エクタシアンの民は積極的にオアシスの緑化を進めた。セト神の復活は喜ばしい。それを国の衰退に結びつけるわけにはいかない、と言う事、らしい。
「それに、砂漠にオアシス、は欠かせないもの」
そう言って、ル・ルーは笑う。
エクタシアン国で発見された罪源は、”強欲”だった。地中深くセト神が埋めていたが、”強欲”は、いつの間にか、国全体に拡がって、この不毛の大地を不毛で終わらせない、と言う途方もない欲をこの国の人々に与えていたのかもしれない。
セト神の力には、先のゾンビ騒動の時に随分と助けられた。
クレハの呪具・運命の赤い糸、の効果を誤魔化してくれたセト神のパピルスの花のお礼に、クレハはオアシスに生きる樹木に、祝福の祈りを捧げる。
エディアカランでは使わなかった力を使う。自分でも矛盾しているとは思うが、どうしても、他の大地に比べ生き物の少ない砂漠では、星力、星霊の数が少なくなる。
聖霊を増やす努力を最初から諦めていたエディアカランと、不毛の地すら緑に変えようとするエクタシアン。
肩入れしたくなったって、いいじゃないか、とクレハは開き直ることにした。
7つの罪源SALIGIAは星王の手で滅せられ、魔神王復活の危険性は取り敢えず、先送りになった。その後遺症とも呼べるエディアカランのゴタゴタも片付きつつある。
そして、10月31日、ハロウィン当日に、4周年記念イベントの概要が、現実とのコラボ、と発表された。
「母さん、俺、今年の年末は帰省しないから」
そのイベント情報が公開されてすぐに、息子の龍樹から連絡が入った。
「EEC16、4周年記念イベントで、メッセのゲームショウに行く」
「え?何それ」
いきなり宣言され、紅葉はきょとんとなった。
「もう、公式見て見て。今年のEEC16、4周年記念イベントは、ゲームと現実を繋いだゲームショウ、なんだよ。
12月31日、メッセを借り切ってカウントダウンイベントをするんだ。12月1日から10日間、事前申し込みを受け付けて、12月25日が抽選日。で当選した5万人だけが、参加可能。
しかもさぁ、転売防止の為、申し込み可能なのは、ゲームユーザーのみ。抽選発表も、ゲーム内で行われて、アバターと紐付けされたチケットが発行されるんだって」
「でも、メッセって東京でしょ。年末ギリギリじゃあ、地方の人は当たっても、行けないんじゃない?」
外国にだってEEC16のコアなファンはいて、当然、来日するにも無理のある日程だ。
「えー、来たい人は来るでしょ、それこそ、万難を廃して来る価値はあると思う」
いやぁ、それはどうかなあ、と紅葉は懐疑的だ。
しかし、紅葉はEEC16の人気を侮っていた事に、翌日ログインしてすぐに気がついた。
ヴァルゴの街に新米の旅人たちが溢れている。
とにかく、応募しなければ当たらない。応募する為には、EEC16に登録しなければならない、と言うので、いきなり新規ユーザーが爆誕し、あわや、サーバーがパンク状態、になりかけた、と。
しばらく、ゲームから遠ざかっていたユーザーも戻ってきたりもあり、現実でゲームショウの発表後、エターナル・エデンの中は、かなり騒がしかったらしい。
らしい、と言うのは、クレハはヴァルゴの自宅に引きこもっていた訳で、噂を集めてきたのはアンとバトラー。そして、何故か、そこでお茶を飲んでいるセイ、である。
「あの〜」
「初めて来たが、流石に良い暮らしをしているな」
「はあ、ありがとうございます。これも、運営の皆様のお陰です」
こんな会話が出来るのだから、当然、ここ、ヴァルゴのクレハの自宅応接室は、クレハとセイの二人きりである。
本来なら、メイドとして控えているアンは、お茶のお代わりの用意に下がっている。バトラーは、屋敷周囲の哨戒中だ。
「わかっているなら良い。で、だ。そんなあんたに仕事の依頼だ」
一応、正式な社員ではなく、協力者、の立場、なのだが、こんな良い暮らしを無料でさせてやっているんだ、断る訳ないよな、的なプレッシャーをひしひしと感じる。
主に、猫アレクが。
ぶわぁっと、尻尾の毛が逆立っている。
「今度の大晦日にメッセでゲームショウをする事は、知ってるな」
「ええまあ」
『え?知ってたんですか、クレハ様?』
いつもと態度が変わらないから、気付いていないかと思っていた、とアレクが驚く。
「まあ、あんまり興味はありませんけど。大晦日の東京に行く気にはなれません」
「あんたに来い、とは言わない。大体が、運営でもない人間がゲームショウの設営に関われるわけがないだろう。あんたの助力が欲しいのは、こっち側、つまりEEC内協力者としての立場でだ」
ゲームショウ当日、会場とEEC16を繋ぐ予定だが、運営の多くが現実での対応に手を割かれる。こちら側で何か起きた場合のサポートを頼みたい、と言うのである。
「まあ、本来の役割がそう言ったものだったはずなので、良いですよ。ただ、わかってるとは思いますが、あんまり力技でくる人たちには、敵いませんよ」
当たり前だ、とセイは鼻で笑った。
「抽選に外れたユーザーの中から、こっち側の協力者も選ぶつもりだが、そいつらとは、別個に動いてもらいたいんだ」
「あんたは、何か起こった時だけでいい」
そんな念の押し方に、クレハは胸の辺りがモヤっとした。「何か起こる予定でもあるんですか?」
「いや。念には念を、って奴だ。ある程度制御可能なゲーム内と違って、現実って奴は、イレギュラーの嵐だからな。実際、俺様もメッセに詰めるし、運営のほとんどはそっちにかかりきりになる。そこの猫も当日はこっちにやれない」
と言うことは、その日の猫アレクは純粋に星霊アレクだ。
「だから、何かあった時にどう動くかの判断はあんた自身とAIに頑張ってもらうしかない」
その言葉が終わるとほぼ同時に、アンが軽いノックの後に、お茶のお代わりを持って入室してきた。
ここからは、セイは運営の人間ではなく、旅人のセイ、星都騎士団のセイだ。
「こちらが、星王陛下からノースヴィラ女男爵へ招待状になります」
いつの間にが、テーブルの上には、サーバー会議の前に検証クランのパンセが持ってきた様な、上質なコットンペーパーの招待状が置かれていた。いかにも、その内容について伝達していた、と言った風を装っているセイに、クレハは呆れながらも、礼に則り頭を下げた。
「有り難く、お受け致します」
「では、当日は、ヴァルゴ領主邸にお越し下さい」
爽やかな笑顔を見せて、セイは席を立った。胡散臭さが半端なかった。




