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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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76 SALIGIA破壊

夏休みイベント・7つの罪源が開始されて暫く後、クレハたちが集めたヒントもあって、罪源の封じられた玉の収集は順調に進んだ。収集された玉の浄化は星都で行われる為、商人ギルドで引渡しが行われた。

その時に、事件は起こった。

シデリアン国から献上されるのは、”暴食”と”怠惰”二つの玉。

それが、破壊されたのだ。


商人ギルドは、物流の要を担う機関であり、常に多くの人が出入りしている。その中に紛れ凶行に及んだ犯人は、逃走したが、すぐに捕まった。それは、オルドビスの貴族からの依頼だった。オルドビス国ドラゴンの巣から回収された”怠惰”の玉は、シデリアンからの献上と、既に星王には報告が上がっている。ならば、と貴族は、その功績に傷をつけることにした。それが、玉の破壊だ。


破壊され、解放された罪源は、その場の人々を飲み込み、その罪に染めた。

その結果が、これだ。

”暴食”と”怠惰”の罪源に侵された人々は、仕事を放棄して、ただただ、目の前の食べ物を貪っている。今はまだ、”怠惰”が優勢で建物内に留まっているが、いずれ、”暴食”が優勢となった時に、彼らは食料を求めて、外に出ていくに違いない。残されるのは、決済を待つ大量の書類だ。

このままでは、シデリアン国の経済活動が麻痺してしまう。


「どうしたら良いの、この状況」

クレハはたまたま、前商人ギルド長リコと共に、新製品の鈴の形の最中を売り込みに商人ギルドを訪れていた。神楽鈴をヒントに一口サイズの型を作るのにちょっと苦労した一品だ。鈴は古くから「魔除け・厄除け」「招福」の象徴と言われており、罪源イベント中で、縁起も良い、と思い、アンと作ったのだ。


7つの罪源・SALIGIAの破壊直後の現場に来たにも関わらず、クレハたちは、その罪源に染まらなかった。

慌てて、周囲を見ると、何人かは呆然と、変わってしまった周囲の人々の様子を伺っている。彼らも、”無事”なのだろう。

その中の一人に見覚えがあった。エルフ族のオーラン、”怠惰”の罪源の回収者であり、星都までの輸送を依頼された冒険者の一人だ。

「バロネス!」

オーランは、無事な人々を連れて、クレハの元に駆けつけた。

「ここは、危険です。貴女は離れた方が良い」

「ですが」

「お願いですから、避難して下さい。そして、お手数ですが、傭兵ギルドか冒険者ギルドに連絡し、この建物を封鎖して頂けませんか?罪源の玉が割れた為に、”暴食”と”怠惰”の玉から、”何か”が逃げ出したらしいのです」

「私、見たんです」

そう言ったのは、商人ギルドの受付嬢の一人。

「荷物を冒険者の方に渡そうとした時、横から走ってきた犯人がそれを奪おうとして揉み合いになって。荷物が床に落ちたんです。その時に、白っぽいボールが転がり出たと思ったら、二つに割れて。その中から、霧みたいな白いモヤモヤが出てそれを吸ってみんなおかしくなっちゃって。そしたら、真っ黒い虫みたいなのが飛び出してきたんです」

その表現に、クレハはギョッとする。それってまさかG?


「真っ黒い虫、ですか?」

深く考えるようにオーランは顎に手を当てて考える。

「それは、魔物ではなく?いえ、罪源の玉から出てきたのなら、罪源、そのもの、と考えるべきでしょう」

逃げ出したのは、”暴食”と”怠惰”?

「捕まえないと、大変な事になります。では、バロネス、お願いします」

クレハたちは、商人ギルドの建物の裏口から出て、大急ぎで一番近くの傭兵ギルドに助けを呼びに走ったのだった。


後日、同様な事件・事故が各国(各サーバー)で起こっていた事が判明する。

それは、もう、最初から運営の狙いは罪源の玉の破壊にあったのではないか、と疑う程に。

『ははは、まさか、そんな』

否定するガイド猫アレクの言葉が固い。


シデリアン国では、未だ、”暴食”と”怠惰”は、見つかっていない。

商人ギルドの受付嬢の目撃証言を元に、真っ黒い虫、みたいなそれは、体長10センチにも満たない、二体の獣。暴食の獣・豚と怠惰の獣・熊、その二体は、超危険種の魔物として、手配された。

見かけた時は、接触せず、衛兵かギルドにすぐに知らせる事。

人が変わった様に何かを食べ続ける者、以前とは異なり何もせず日々をダラダラと過ごす様になった者。

周囲にそんな者がいる時も、知らせる事。


商人ギルドで”暴食”と”怠惰”に侵された人々は、暫くすると元に戻った。

商人ギルド長ネトが言うには、欲が解消されたから、ではないか、とのことだった。

商人ギルドは、この国の流通を担うが故に、常に誰かがギルドに常駐して、業務を回していた。もっとも、”怠惰”から遠い人達だ。故に、”怠惰”に魅入られた。

何もせず、ダラダラと過ごしたい。

そんな欲望が、誰の心の底にも澱のように沈んでいたのだろう、と。


そして、”暴食”。

忙しさのあまり、きちんとした食生活が送れない。

「そんな中、取り扱う商品には、美味しそうな、目新しいお菓子が、見本、と称して、持ち込まれるんですよ。ちくしょー、今に腹一杯食ってやる!って、誓いますよね」

ネトの魂の叫びに、うんうん、と同席していたギルド員たちも大きく頷いた。

前ギルド長リコが、同情と同意を込めた視線をクレハに向ける。

「だから、バロネスの新作菓子を食べ尽くして、満足したんですね、きっと」

すっきりとした顔で、目の下の隈が消えた商人ギルドの職員たちは、生き生きと仕事に戻って行った。


解決したのか、していないのか。

彼らの心には、”暴食”と”怠惰”の芽が、次の芽吹く機会を待っている。

そんな気がするクレハだった。


夏休みイベント・7つの罪源、は、罪源の玉を探し、それを星都に送り、滅する、のが、イベントクリアに必要なタスクだ。

7つの罪源:SALIGIA

初代魔神王の体から放たれた大人の拳大の透明な球体。その中に7つの罪源の獣が閉じ込められている。

傲慢(獅子)、強欲(狐)、色欲(蠍)、嫉妬(蛇)、暴食(豚)、憤怒(一角獣)、怠惰(熊)。

エターナル・エデンの各地で、魔神王の復活の糧となる為にそれぞれの罪を吸収し、満ちた玉。

魔神王の復活を阻止する目的で玉を回収した、その過程で、罪源の玉が、壊れ、中の罪源が逃亡。破壊と同時に、玉に閉じ込められていた、罪源の獣が放出され、周囲の人間をその欲望の虜にした。

罪源に侵された人間は、ある程度の時間が経ち、その欲望が満たされれば、自然に我に帰る。だが、それは、罪源からの解放ではない。

一度、満たされた欲望は、さらに大きな欲となって、次の機会を待っている。


”強欲”に侵された者は、最初は1枚の金貨で満足していた。けれど、次には2枚を欲した。更に、3枚、4枚と欲する金貨の枚数が増えていく。しかし、希望通りに上がることのない報酬に、雇い主への理不尽な怒りを溜めていった。

”嫉妬”に侵された者は、成功した友人に追いつこうと努力していたが、やがて、友人を妬み、悪い噂を流し、商売の邪魔をするようになった。

二人とも、そのまま、己の欲に飲まれ犯罪を犯す前に、異常に気がついた周囲がギルドに連絡し、旅人が状態異常を解除し、事なきを得た。彼らの近くに肥大化した罪源が潜んでおり、無事回収されている。


7つの罪源は、生きとし生けるもの全てが持つ、当たり前の感情だ。だが、それは、過ぎれば、人を堕落させる。

初代魔神王の体から分かれた7つの罪源は、世界各地に散って、偉大なる魔の王の為に、人の欲を集める役割を担っていた。人々が己の欲に忠実に生きれば、欲と欲のぶつかり合いで、世界は荒廃したものとなるだろう。それは、魔物たちにとって好ましい世界だ。魔神王を迎えるに相応しい世界。この世界をそうしたものへと作り変える。


それは、阻止せねばならない。


最善の形は、無傷で罪源の玉を全て回収し、星王の元で、滅する事だったが、上限まで人の欲を集めた玉は壊れやすくなっていた。けれど、それをあえて公表しなかったのは、仮に玉が破壊されたなら、集められた欲が放出され、魔神王に注がれる欲が減り、その復活が遅れるからだ。どちらに転んでも、魔神王の復活を遅らせることが出来る。

と言うのが、星王の考えだった。だが、罪源の獣は、封じなければならない。


玉の破壊の有無には拘らない。但し、獣は必ず捕らえよ。


星王の命が下った。








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