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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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77/84

77 聖女

「何とか、無事、”暴食”と”怠惰”の獣を捕まえることが出来ました。これも、バロネスのお陰です」

そう言ってクレハに頭を下げるのは、Sランク冒険者のオーラン。

「これから、星都へ献上に参ります」


当初の予定から遅れること4日。あのヴァルゴの商人ギルドでの襲撃から手分けして二体の獣を探し、罪源の発現が見られた地域を中心に捜索した結果、3日目の朝に”暴食”と”怠惰”を見つけることが出来た。ただ、見つけた罪源を捉える方法が、その時には無かった。

罪源の影響を受けないよう状態異常耐性のアイテムを身につけた旅人が交代で見張りにつき、漸く、元の玉の代わりを手に捕獲に成功したのがその夜だった。

それに使われたのが、クレハが金平糖の容器用に作った魔物の目を加工し、エッジングで模様を刻んだ小物入れ(ガチャカプセル)だ。今回は、入れるものが入れるものなので、強化の為に運命の赤い糸、クレハの呪具となったシフの金髪を編んで巾着袋とセットで、オーランに渡していた。


「ちゃんと、お役に立てて、良かったです」

取り敢えず、運命の赤い糸で包んでおけば、何か異変があれば、クレハに伝わる。そして、クレハに伝われば、ガイド猫アレクを通じて、運営に報告し、対応を依頼する事が出来る。

前回のゾンビ化イベントは、実際に運営が困っている案件を、EEC16世界に投影して解決策を模索した例外中の例外案件だったが、今回のイベントは、普通にシナリオがあって、それにそった王道の解決方法がちゃんとある。王道とは別に、裏道をいくイレギュラーな解決手段もいくつかあるが、いずれも、運営の想定の範囲内だ。

但し、例外は、必ず、存在する。


クレハの様な、NPCの役を演じるプレーヤーは、各サーバーに一人ずつ配置されている。彼ら、彼女らは、ゲームシナリオには基本、関わらない傍観者だ。

しかし、AI搭載NPCは、旅人のみならず、そんなクレハたち現地人を演じる者を区別しない。

故に、傍観者のはずのクレハはいつも何故か、がっつり、巻き込まれる。

今回の、逃げ出した罪源を捉えたガチャカプセル+運命の赤い糸、はその際たる物だ。


藍サーバーの星王の元に集められた罪源の内、元々、星都に保管されていた”傲慢”は別として、本来の玉の形で回収されたのはたった1つ。海底から回収された”嫉妬”だけだ。残り5つの内、実に4つが、収集過程もしくは運搬途中に破損していた。”暴食”と”怠惰”は、クレハのガチャカプセルに入れられ、”強欲”と”嫉妬”は”聖女ちゃんの封印Box♡”と言う、ちょっとアレな小箱に入れられていた。

ランチジャーサイズの”聖女ちゃんの封印Box♡”はパステルカラーの水玉模様の、可愛らしいデザインで、三頭身デフォルメキャラの聖女ちゃんのイラストが描かれている。


ちょうど一年前の夏休みイベントで、ゾンビ化したNPCたちを元に戻すべく、浄化などを施した旅人たちの中で、聖魔力に目覚め、その力を磨き、やがて、聖女と呼ばれる様になった者がいた。

その中の一人が、ラクシュ、”聖女ちゃん”だ。

EEC16では、”聖女”を名乗る旅人は何人もいるが、その中でも抜きん出て、その能力値が高いのが、彼女、ラクシュと言われている。

生憎、クレハは会った事はないが、”聖女ちゃんの封印Box♡”に描かれているイラストを信じるなら、ふわふわとしたピンクブロンドの巻毛と大きな新緑の瞳の可愛らしい少女のようだ。

最も、その中の人は、そういうキャラデザをしただけの、ただのおっさん、の可能性もある訳で。

旅人の間では、聖女ちゃん掲示板とは別に、密かに中の人談義で盛り上がる裏掲示板があるとか無いとか、とは、息子の龍樹の話である。


旅人は、そうやって自由自在にアバターを弄ることの出来るが、エターナル・エデンに住む者たちは、優生遺伝の法則に従って、容姿が決まる。

エディアカラン国国王の寵妃、ヨウ貴妃は、平民の中に突然産まれた、傾国の美女だった。

ヨウ貴妃は、今からおよそ10年前、エターナル・エデンの世界に、初めて旅人が降り立った頃に、エディアカランの老王に見初められ、側室になった。元は、コ・ダ地方の少し裕福な庄屋の生まれだ。

そのヨウ貴妃が、最後の1つ、エディアカラン国で発見された”色欲”の玉の持ち主だった。


いや、持ち主、と言うと語弊があるだろうか、それは、ヨウ貴妃と完全に同化し、もはや、人の体を成した罪源となっていた。

故に、ヨウ貴妃が罪源の宿主とエディアカラン国王に納得させるまでには、一悶着あったのだが、その詳細は、クレハは知らない。

”暴食””怠惰”を献上するオーランを見送って、やれやれと一安心していたクレハは、その数日後に、セイに呼び出された。ヨウ貴妃から”色欲”を”運命の赤い糸”を使って引き剥がせ、との業務命令が下ったのだ。

無事、”色欲”を引き出した後、スタン張っていたオーラン達が、ガチャカプセルに再封印。

そんな様々なアクシデントを乗り越えて、星都に集められた7つの罪源は、星王の元で、滅せられ、イベントは終了した。


そう、イベントは終了したのだ。イ(・)ベ(・)ン(・)ト(・)は(・)。


「あー、見つけたぁ!ちょっとそこのエルフ女!オーラン様の愛をかけて、ラクシュと勝負よっ!」

ある日突然、街中で指さされ、キョロキョロと周囲を見回し、他にエルフらしき姿を見つけられず、また、一緒にいるアンの殺気が爆あがりした事から、絡まれたのは紛れもなく自分だ、でも、オーランの愛をかけてって何?と宇宙を背負った猫の気持ちになったクレハだった。

なんか街に出ると、絡まれる事が増えた様な気がする、とロロルとかパンセとか、一癖も二癖もある人物が頭に浮かぶ。その流れから、この可愛らしい声の持ち主も癖の強い人物なのだろうなあ、と振り返れば、そこには腰に手を当てて、ふん、とクレハを睨みつけるピンクブロンドふわふわ髪と新緑瞳の”聖女ちゃん”がいた。


「私はラクシュ。見ての通り聖女よっ!」

『ごめん、見ての通りって、よくわからないよ』クレハはへにょりと眉を下げた。視界はアンが前に立った事で、しっかり遮られている。そこへ、「申し訳ございません、バロネス」と慌てて、オーランが駆けてきた。

「ラクシュさん、誤解と何度も言っているでしょう。私とバロネスは顔見知りなだけで、まだ、友人ですらありません」

「嘘、嘘。だって、オーラン様、あんなに愛おしそうに見てたじゃ無いですかぁ。あんな女より、ラクシュの方がずっとずっと凄いのにぃ」

「愛おしそう、って、あれは」

「おー、何だ何だ、修羅場かぁ、って、また、お前、っと貴女ですか、バロネス」


いつの間にか集まってきていた人混みの中心に、自国のSランク冒険者の姿を見かけ、その獣人の能力で会話を拾い、楽しそうだとやってきた傭兵ギルド長のバーンだった。が、揉めている相手がクレハ、と知って、露骨に顔を顰めた。

『私は何もしてないんですけどねー』とクレハ。

キッと瓶底眼鏡の奥で光ったアンの視線を捉えたバーンが、おっと、と少し引いて、周囲に尊敬するバトラーがいないかを確認する。

バトラーは領地の雑用を片付けてきます、と数日前からヴァルゴを離れていて不在だ。実際の所、クレハが持っていると言う領地がどんな所かは、クレハは全く知らないので(実の所、本当にあるのか疑っているレベル。きっと、バトラーは領地にいると言って、影で何か活動していると思っている)、よろしく、と全てお任せしている。


「傭兵ギルド長殿、これは「ちょっとぉ、おじさん、横から口出さないでくれるぅ。これは、ラクシュとオーラン様とそこの女の問題なのっ!」」

助かった、と安堵の表情を浮かべたオーランの言葉に被せるように聖女ちゃん、ラクシュが叫んだ。

「ならば、そこに、私も加わって良いかな」

第三者の声がして、クレハを含め、野次馬たちも声の主を探した。

人混みがさっと別れて、姿を現したのは、普通の市井の男性と同じようなデザインながら、どこか品の良い仕立ての服装で、腰に直剣を下げた20代半ばの只人族らしき男性。


「あの罪源を封じた道具の作者を探していた。ここで、その二人に会えるとは、まさに奇跡。名も無き神様のお導きによるものだろう」

そう男性は胸に手を当てて、神に感謝を捧げた。

「シュウ?」

オーランの呟きに、クレハは厄介事の気配を感じた。その正体を知っているのか、腕の中で呆れてため息をつく猫アレクと、またやりやがって、と嘲笑うセイの顔が浮かんだ。





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