73 魔力除去
魔力を糧に成長するドワーフのお宝、シフの金髪。
リ・リーに依頼して数日もすれば、その情報を求めて何人もの旅人が根の国を訪れた。この藍サーバーでは、既にシフの金髪は、オルドビス国の宝物庫に収められているが、それでも、未知のお宝、隠し部屋、と言うのは、ロマンを掻き立てる。
いきなり増えた旅人に、イバラは、目を疑った、とカラカラと笑いながら、クレハに話した。
今、クレハはイバラとル・ルーを誘って、オルドビス国トーリン王に面会を求めている。
目的は、当然、シフの金髪の譲渡だ。
前回、アンとバトラーの洗脳ウィルス除去の為に分けてもらった時の教訓を活かして、今回は、最初からイバラ達に同伴を頼んでいる。そして、前回は個人的なお願いだったが、今回は、天空島の魔力除去の為だ。ハードルは下がっているとは言え、2回目、しかも、前回は使い切った事が、大臣たちには、悪印象を与えているだろうと思われたからだ。
「久しいな、バロネス」
ドワーフ族のトーリン王とは、5年ぶりぐらいになるが、全く容姿に変化が無かった。それは、鬼人族であるイバラにも当てはまり、幼馴染とは言いながら、自分を含めたこの四人の中で、只人族のル・ルーの時間だけが、進んでいるような印象を与える。
「して、今回の用向きは、やはり、あれ、か?」
そんなクレハの感傷に気づかず、それとも、とっくに種族による寿命の違いなど克服しているのか、トーリン王は、話を進める。
「はい。お聞き及びと思いますが、旅人に解放したことで、天空島の魔力汚染が進んでおります。
これは、旅人が意図的に魔力を持ち込んでいるのでは無い事だけは、ご理解ください」
「うむ、それについては了解している。むしろ、我々の予想より、星力集めが上手く行っている証拠なのだろうな」
クレハはほっとした。
ここで、旅人が聖地に魔力汚染を齎した、とトーリンが怒ってシフの金髪の譲渡を渋れば、どうやって説得しようかと思っていたのだ。まあ、クレハが全責任を負う必要はないので、その時は、星王の権力で何とかしてもらう事になるだろう。シフの金髪を使うのが、一番簡単、とクレハが思うだけで、他の方法だってあるはずだ。
「それより、星力集めが上手くいっている証拠と言うのは?」
口髭の中でトーリン王の口元がニヤリと歪んだ。
「ここだけの話、旅人達に解放された転送陣には細工がしてある。あの転送陣は星力で起動するが、天空島に転送するのに必要な星力以上の数値が設定されていて、余剰分は、他に回されているのだ」
その得られた余剰分の星力の運用は各国の裁量に任されている。オルドビス国では厳しい冬季に暖かく人々が暮らすためのシェルターの運営・維持に。エクタシアン国では砂漠の緑化計画に、と言う具合だ。
「一部は、根の国や竜宮にも星霊を介して供給されている」
そう続けたのは、イバラだった。
何とまあ。そう言うシステムになっていたんだ、と感心する。
勿論、星都に元からある直通ゲートや隠しゲートでは、使用者の星力が使われる事はない。
「それって、秘密ですよね」
「そうよ、リ・リーちゃんにも内緒よ」
とル・ルーがバチコン、とウィンクをした。
「で、トーリン、そのシフの金髪って言うのは、譲って貰えるの?確か、アタシが魔力封印のエンチャントをした宝物よね」
素直に差し出さないなら、どうなるかわかってるんでしょうね、と、前回、大臣達が散々渋った事を聞かされているル・ルーからの圧が強い。
「流石に、今回は聖地の環境保全の問題だ。頭の固い大臣連中も、うんと言わざるを得ないだろう」
とイバラ。
それでも、何やかやと、譲渡に当たっての条件を持ち出す者もおり、トーリン王も頭を抱えていた。
「いえ、あの、私に下さい、って言うんじゃなくて、陛下自らが、これをお使いください、って星王に献上するのが、良いんじゃないでしょうか」
クレハの提案に、三人は、え?と揃って、彼女を見た。
クレハとしては、天空島の魔力汚染の報告は既に運営にあげている。対策までは求められいないので、今の行動は、単に好奇心だ。
「トーリン王陛下が国宝を献上するのなら、大臣さん達も文句は言いませんよね。別に全部じゃなくて、数本だけでも、十分だと思うんです」
魔力があればあるだけ吸い取って成長するのだ。これまで、封じるだけで出来なかったシフの金髪の能力を調べるにも絶好の機会だ、と説得する事も出来る。
「「「確かに」」」
こちらから提案したのなら、研究の主導権も握れるはず、と言うと、三人ともが納得の表情だ。
「だけど、良いの?バロネスの手柄にはならないわ」
「手柄?どうして手柄になるの?」
問題の解決方法を一つ知っているから、それを提案しただけだ。それも、上手くいくかはわからない。ひょっとして、その結果、もっと大変な事が起こるかもしれない。その辺りの事も踏まえて、丸投げしているのだから、失敗したらごめんなさい、と今更ながら、拙かったかとクレハは恐る恐るトーリンを見た。
長い顎髭を撫でながら、トーリンは考え考え、答える。
「確かに、シフの金髪が暴走する危険性を考えぬ訳にはいかぬ。だが、研究に着手出来るのは大きなメリットだ。星王陛下に危険性を説明した上で、ご納得していただけるのなら、献上するに問題は無いだろう」
それは、責任は星王、つまりセイが持つ、と言う事ですね、とクレハは内心、流石は一国の王、政治的駆け引きも弁えている、と感心した。
その後は、普通に幼馴染達の会話にクレハも同席する形で、和やかに雑談を交わし、クレハはリ・リーに現実世界への情報提供のお礼を渡す為にエクタシアン経由で帰宅したのだった。
シフの金髪は、天空島の魔力除去に、画期的な効果をもたらした。
それに伴い、研究も進み、暴走する事なく制御する方法も確立する。
藍サーバーでの成功を受けて、他の6サーバーでのシフの金髪探しも真剣味を増し、その特性から、旅人ではなく、エターナル・エデンの冒険者や傭兵達が根の国探索の中心的役割を果たしたのは、クレハにとっても意外な事だった。
ある意味、旅人にとっては旨味の無い探索になったのだが、そう考える者達とは別に、旅人とエターナル・エデン人の混合パーティが増えたのは事実で、意図せず、と言えど、クレハは、エイメ・サイアの主張する、旅人とNPCの平等な世界、に貢献した、と言えなくも無かった。
「母さん、見つけた!遂に見つけたよ」
長かったぁ、と息子の龍樹からLIMEが、送られてきたのは、ゴールデンウィークが明けた頃。
紅葉は、今年も第3回天下一大武闘大会に伴う生産職のブースに出店し、リ・リーに好評だった金平糖を魔物素材の小物入れに入れて販売し、大好評を得て、商人ギルドのネト(リコは2年前に引退した)に呆れられたばかりだった。
某アニメの王○に似た魔物から採取した目を、元ネタでガンシップの風防に使った場面を思い出し、ガチャのカプセルサイズだった事もあり、小物入れに仕立ててみたのだ。そのままでは味気ないからとガラスエッジングの様に、表面を加工した小物入れは、当然、あの世界では初の品物で、中の金平糖を食べた後でも、入れ物として楽しめる、と単体での販売が打診される人気となった。
作成したのは、根の国のアマツマラ率いる職人集団なので、クレハは当然、そちらに話を振っている。
そんなこんなありながら、のんびりEEC16生活を送り、すっかり、天空島の魔力汚染も解決していた藍サーバーの住人であるクレハは、他のサーバーでは、まだ、魔力汚染問題が片付いていないことをすっかり忘れていた。
「何が?」と尋ねた紅葉に龍樹は、延々と、根の国の迷宮探索の苦労を話して聞かせたのだった。
因みに、最初にクレハを怒らせ、根の国にも出禁を食らっている、黄サーバーの検証クランのパンセは、シフの金髪探索に加わる事も出来ず、仕方がないので別サーバーにまた、アカウントを得て、そちらで、検証しようと躍起になっている。時々、リ・リーを介して、未だに、クレハに面会を求めてくる。
天空島の海の汚染が深刻だった黄サーバーだが、シフの金髪以外にも魔力吸収素材の研究が最も進んでいるのは、このサーバーらしく、きちんと対策は進んでいるらしい。
パンセは人としてアレだが、検証クランとしては、有益な結果も齎しているので、プラスマイナスゼロ、と言うのが、一般的な評価、だった。
うん、パンセが反省してくれば良いのじゃないかな。金輪際、関わる気はないけど。




