69 答え合わせ
”夏休みイベント ゾンビ化の謎を解け” 報酬のお知らせ
エターナル・エデンをご旅行中の皆様にお知らせいたします。
昨今、エターナル・エデン各地で、住人がゾンビ化する伝染性の疾患の発生が確認され、旅人の皆様にはこ迷惑をおかけしております。皆様のご協力をもちまして、この度、治療法の確立に目処がつきました事を、ここにお知らせいたします。全ての病原体の除去には今しばらくの時間がかかると想定されますが、皆様の旅のご安全を確約いたします。
つきましては、ここに天空島の開放を宣言いたします。
更に、安全に、快適になったエターナル・エデンの世界をお楽しみください。
夏休みイベントの終了時、運営からそんなメールが流され、EEC16ユーザーたちは、配信開始前からいつかは開放されると待ち望んでいた天空島へのチケットが漸く手に入る、と浮かれた。実装自体はもうしばらく先らしいが、予告映像でしか見たことのなかった天空島がどんな所か、一体そこには何が待ち受けているのか、ユーザーの興味を掻き立てる。
ゾンビ化イベントは、サーバー会議の報告を受けて、後半の一週間で驚く速さで進んだ。
各サーバーでバラバラに集めていた情報を統合し、ウィルスの基本情報を読み解き、アンチウィルスを作成したのは、事前にシークレットクエストを受注していたパンセたちを中心としたグループだった。
けれど、そのアンチウィルスの情報を受け取って、実際にゾンビ化したNPCたちに施した治療は、各サーバーで大きく異なっていた。
あるサーバーでは、飲み薬として聖水と共に投与し、呪いも合わせて解く方法を試みたが、効き目は50%程だった。一方、湿布の様に貼り付けたサーバーでは80%、ゾンビ化の呪いを浄化で解いてからアンチウィルスを投与したサーバーでは効果は100%だったが、イベント期間中の治癒率は低くなった。
アンチウィルスの効き方の違いは、ゾンビの腐った皮膚では、上手くアンチウィルスが浸透しなかったのだろう、と解説された。
その他、呪いの解呪方法では、術者の腕前に成果が左右された。
クレハの藍サーバーでは、ル・ルーが中心となって、セト神の香と組み合わせた吸入薬、の形で開発を進め、ゾンビ化したNPCたちは、苦痛を感じることなく、時間はかかったものの穏やかに解呪と治療が進んだ。
ちなみに、龍樹の赤サーバーでは、強制解除を狙い、スタンガン型の注射器で、ゾンビをガンガン襲った。一瞬にして、元に戻ったらしいが、何とも乱暴な方法の為、使用は今回限りと、イベント終了後には、回収された、と言う。
イベントのクリア条件
①ゾンビ化をこれ以上広がらないように防ぐ ゾンビ化の拡散防止
②ゾンビ化したNPCを元に戻す方法を探し、人々を元に戻す ゾンビ化の解除・治療
③ゾンビ化の原因を見つけ、それを取り除く ゾンビ化の再発予防
は、全てに満点の答えが出せた訳では無かったが、それでも、EEC16の世界に再び、平和は訪れたのだった。
「さて、そろそろ答え合わせをしようでは無いか、ユニーク殿」
パンセがそう言ったのは、すっかりゾンビ化イベントの余韻も消え、天空島への熱狂も落ち着いて来た頃だった。
「答え合わせ?」
「左様、左様。ユニーク殿は、洗脳ウィルスに罹患したNPCを呪った呪者を知っているのではないか?吾輩も検証クランの代表をしているのだ。呪いについても、その辺の一般人より詳しい自信はある。呪い、とはね。何の媒体も無しには、発動しないものなのだよ」
そうでなければ、この世は呪いだらけになってしまう、そうであろう?と同意を求める様に、パンセはクレハの顔をじっと見つめた。
ここは、エディアカラン国のとある廃村。ついこの間まで、ゾンビ化した人たちが、隔離されていた場所だ。
何故、こんな所にクレハたちが来ているのか、といえば、ここに未だ残されているエイメ・サイアの事情聴取に呼ばれたからだ。
エイメ・サイアは、旅人にも関わらず、ゾンビ化していた。
そして、それは、どんな浄化手段を用いても、解呪出来ない、濃い呪いだった。
「彼は、死に戻りも出来ない。永遠にこの地に縛られている」
美青年を意識してクリエイトされた鮮やかな金髪は、今やくすんで艶もなくザンバラ。ボロボロの灰色の肌。碧眼は虚で、半開きになった口元には、乾いた涎の跡が残っている。
「⁉︎」
多島海の♾️傭兵団の本拠地の島で初めて会った時は、自信に満ちて傲岸不遜な態度をとっていた男は見る影もない。
「エイメ・サイア」
パンセは呼びかけた。「お前は何故、呪われたのか、知っているかい?」
「………。神は全てを見ていた」
掠れてはいたが、間違いなく、それは、エイメ・サイアの声だった。
「これだよ。何を尋ねても、彼の答えはこれだ」
やれやれ、と肩をすくめて、パンセはクレハを振り返る。
「もう、彼を呪ったのが、”神”としか思えないだろう?」
「このEEC16世界において”神”が、語られる事は、それ程多くない。神の存在を信じていないわけではないが、この世界を創造した”名も無き神”が、この地を去った、と言われているから、だと、吾輩は考えている。いない神に祈るより、自分たちで出来る事は、自分たちでする、と言う事なのだろうね。いや、むしろ、このゲームを作った人間が、神、など信じていない事が、最大の理由なのかもしれないがね」
そう言って、パンセは意味深にクレハを見た。
「おっと、話が逸れた。
故に、去年の砂塵嵐のイベントでのセト神の復活は、何かの前振りである、と吾輩は考える。
”名も無き神”以外の神々も、伝承に名が残ってはいるが、神殿や神社など、彼らを祀る物はそのほとんどが、失われている。けれど、セト神が証明したように、彼らは、”名も無き神”の様にこの地を去った訳ではなく、この地のどこかに今も隠れ潜んでいる。おかしくは無いだろう?」
「そして、ここに来て、この世界の住人を脅かす”洗脳”ウィルスを操った存在、エイメ・サイアにかけられた解けない呪い。
”神は全てを見ていた” エイメの言う神とは、誰か?
勿論、”名も無き神”の可能性もある。
だが、
もっと相応しい神が、この世界にはいる。
そうだろう、ユニーク殿?」
この検証クラン”考える足”の代表パンセは、何をどこまで知っていて、何がどこまではったりなのだろうか?
迂闊に答える訳にもいかず、クレハは、無言のまま、虚な目をしたエイメ・サイアに視線を向けた。
結局、彼の、彼と彼の言うところの”あのお方”は、何がしたかったのだろうか?
洗脳、ハッキング、と言うやり方は、かなり、暴力的ではあるが、表向き、彼らの主張は、
”エターナル・エデンにおける現地人と旅人の差別を無くす”と言う事だった様に思う。
それは、こんな酷い状態を、エイメに強いる程の罪、なのだろうか。
「エイメ・サイアさん、今、あなたが、こんな状況に陥っているのを、あなたが敬愛する”あのお方”は、知っているのですか?」
”あのお方”、そう言われても、エイメ・サイアは何の反応も示さなかった。
「うーん」
当てが外れて、クレハは悩んだ。
影の救世主エイメ・サイアを名乗るからには、真の救世主、がいるはずであり、それがエイメ・サイアに指示を出していた”あのお方”なのだろう、と思っていた。たとえば、現実世界での、セイのライバル、EEC16のVRMMO技術を盗み、評判を落とし、あわよくば取って代わろうとする企業のトップとか。
その人の正体について揺さぶりをかけて、ここで、エイメが”あのお方”に反応を示して、何かが起これば、パンセの追求をかわせる気がしたのだ。
「エイメ・サイアの雇い主について、彼から聞き出すことは出来ないよ」
と、あっさり、パンセに切り返される。
「エイメ・サイアは、影だ。真の救世主の命を受けて、7つのサーバー全てで同じアバター:エイメ・サイアを名乗り、♾️傭兵団を立ち上げ、活動していた。今、エイメ・サイアのアバターを使っているユーザーの身柄は運営で確保している。何せ、この世界からログアウトができないのだから、現実世界の彼は、寝たきりだ。飲まず食わずで排泄は自然に任せたまま、の状態で放置は、流石に出来ないからね。まあ、彼がこうなる前から、容疑者には監視がついていたのだが、接触してくる人間は、その頃から皆無だ。運営が知らない方法で、命令を出していた可能性、つまりは、真の救世主が、この世界のNPCだと言う可能性もあるのだがね」
洗脳が、現実世界から持ち込まれたコンピューターウィルスである事実を知るクレハにとって、それは、あり得ない話で。故に、パンセの言葉に少しも揺らがない彼女が、余計にパンセの興味を掻き立てていることに、本人は気がついていない。
「まこと、ユニーク殿は、非常にユニークだ。”あのお方”についての情報共有もお願いしたところだが、ネームド殿とメイド嬢を癒した吾輩の知らぬ方法についても興味は尽きないのだがね。どうだろう、吾輩と一緒に暮らさないか?」
「は?」「冗談」「死にたいと見える」
いくら今のパンセのアバターが美女エルフでも、各方面から、非難と殺気が降り注いだ。
「そんなに悪い話では無いと思うのだがね」
と心底、不思議そうに小首を傾げる美女エルフだが、ようやく、ここにクレハを連れてきた目的を思い出した。
「さて、さて。現状は理解してもらえただろうか。吾輩としては、エイメ・サイアから情報を得られない以上、彼をこのままにしておくのは、忍びない。そこで、恐らく、この呪いをかけた呪者を知っているであろうユニーク殿に解呪をお願いしたいのだよ。
勿論、解呪の礼はしよう。吾輩達で出来る事なら、何でも一つ、願いを叶えようではないか」
単純に同情だけで、パンセがこんな頼み事をするとは思えない。
クレハは、どうしたものか、とアンとバトラー、そして、腕に抱く猫アレクに助けを求めるのだった。




