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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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64 3回目の夏休み

ある日、南の国エディアカランのある村で、突然、村人がゾンビ化して襲ってくる事件が起きた。

襲われた者も次々とゾンビと化し、今や、村の外にもゾンビが溢れ、周囲の街や村が脅威に晒されている。

幸いにも旅人はゾンビ化に抵抗性がある事がわかった。

速やかに、ゾンビ化した村人たちを無力化し、元に戻す方法を見つけて欲しい。


そんな依頼が、各国のギルドを通じて旅人たちに公開されたのは、現実世界で学校が夏休みに入った7月の終わり、シデリアン国では収穫祭を終え、冬の準備が始まろうという頃だった。

3回目の夏休みイベント開催である。

イベントクリア条件

①ゾンビ化をこれ以上広がらないように防ぐ  ゾンビ化の拡散防止

②ゾンビ化したNPCを元に戻す方法を探し、人々を元に戻す  ゾンビ化の解除・治療

③ゾンビ化の原因を見つけ、それを取り除く  ゾンビ化の再発予防


この世界を救う運命は旅人たちに託された。


「今回は、ホラーゲーム仕様なんだ。まあ、夏休みと言えば、怪談だもんね」

イベントの説明文を読んだ紅葉の感想はその程度だった。

現地人仕様の自分は、イベントに参加しても報酬は出ない。

今回の報酬は明らかになっていないが、ホラーは苦手なので、大人しくヴァルゴの自宅に篭ろう、と決めた。


イベント開始直後から、ゾンビ化したNPCの保護は、順調に進んでいた。

何せ見た目が見た目だ。人混みに紛れることなど、不可能だ。

今はまだ、他国の出来事とは言え、いつ、このシデリアン国にもゾンビが現れないとも限らない。国境警備は厳しくなり、入国者は国境の外で数日留め置かれた。当然、苦情は多く上がったが、目の前で知人がゾンビ化する様を詳細に語った行商人の言葉が、彼らを黙らせた。


保護が進む一方、ゾンビ化の解除・治療方法の確立については、混迷を極めていた。

EEC16を訪れる旅人は、討伐や冒険がしたくてログインしている者が多い。ゾンビ化が病気なのか呪いなのかはたまた、魔法なのか。それすらわからない状態で、解決方法を求められても、何から手をつけたら良いのか手探り、というのが本音だった。

こんな時に役に立つのが、黄サーバーの検証クランで、彼らは、旅人は抵抗性があるとは言われているが、全くゾンビ化しないのか?をテーマに、ゾンビNPCに齧られまくり、その結果、見事にゾンビ化に成功した。その確率は1000回噛まれて1回、と言う気の遠くなるような確率だった。


その極低確率を無駄にせず、彼らはゾンビ化の検証を始める。

・ログアウトするとゾンビ化は解ける。

・旅人のゾンビ化は、朝になると解ける。但し、死に戻り。

・ゾンビ化したNPCは、知能が低下し、意思疎通はおろか会話も不可能、筋力はほぼゼロだが、体力は底なし。そんな”動く死体”となる。一方、旅人のゾンビ化では、見た目はゾンビNPCと同じ。知能低下は無いが、魔法は使用不可。これは、魔力・体力などのステータスが軒並みレベル1になる為。


以上が検証クランのサイトに書き込まれていた検証結果だ。


「あれ?」

そのサイトを見て、紅葉は気付いた。

アップされていた動画に映ったゾンビNPCの首に走る赤いミミズ腫れ。

それは、アンやバトラーが♾️傭兵団のエイメ・サイアの放った蟻地獄に噛まれた時に出来たコンピューターウィルス感染部位とよく似ていた。

「これって、ひょっとして、あの時と、同じ?」

もし同じ物なら、あのまま、意図的に機能停止しなければ、アンとバトラーもゾンビ化していた、のだろうか?

「こうしてはいられないかも」

紅葉は取るものも取り敢えず、EEC16にログインした。


「アンちゃん!」

バン!と引き戸が反動で戻ってくるほどの強さで寝室の扉を開けて、クレハは飛び出した。

掃除をしていたアンがびっくりして飛び上がる。

「エディアカランのゾンビの情報、有りったけ持ってきて!」


そうして、テーブルの上に広げられた資料を、クレハは隅から隅まで目を通した。

「まさか、そんな」

驚きの声がクレハの口から漏れる。

過去に洗脳ウィルスに感染したアンたちに出来ていたミミズ腫れと今回のゾンビ化した人のミミズ腫れは、そっくりだった。

そこから、考えられる事は…。


「アレク」

怒りを抑えた声で、クレハは、ガイド猫に尋ねる。「これって、どう言う事?」

「にゃ?」

『あ、逃げた』

今、彼女の腕の中にいるのは、ただの猫だ。ガイド猫は、一瞬の内に接続を切ってしまったようだ。

「はあぁ〜」

怒り、と言うか、憤りや疑問、モヤモヤした気持ちのぶつけ先を失って、クレハは、ソファにどさりと座り込んだ。

忘れた頃に、形を変えて、トラウマを突きつけられた気分だ。


今回の、夏休みイベントのモデルになったのは、砂塵嵐の後で、バトラーやアンを襲ったコンピューターウィルスに違い無い、とクレハは思った。

♾️傭兵団やエイメ・サイアが行ったコンピューターウイルスによるNPCの洗脳。自律思考型AI搭載NPCであるアンとバトラーですら、その被害から逃れる事が出来ず、自ら昏倒する、と言う強制シャットダウン、の方法を取らざるを得なかった現実世界からの恐るべき侵略。あの時、二人がマネキンの様に硬直し、存在自体が乗っ取られるか、消えてしまうか、の選択を迫られた。苦しい気持ちが蘇る。


アンから回収したミミズ腫れで、セイは、コンピューターウィルスへの対抗策を作るのに成功したと思っていた。

エクタシアンのセト神殿前で会った時、何か、ヒントを掴んだようだったし、その後、感染したらしいNPCの子供達について、運営に報告をあげた時に、対策はとっている、と返事があったから。

実際、その後は、NPCの行方不明事件は起こらず、♾️傭兵団は特に騒ぎを起こす事もなかった。


故に、今回の夏休みイベントで、アンたちが罹ったコンピューターウィルスをモデルに、ゾンビ化イベントを計画したとクレハは思い込んだ。予め、解決法が分かっているから、ウィルス感染は怖くない。

「転んでもタダでは起きない、って事?」

よく考えつく、と思う。だが、感情的には、納得いかない。


このEEC16の世界は、星王ことセイが、スポンサーとなって成り立っている世界だ。

以前、彼が雑誌のインタビューで明言していた。

EEC16は、ゲームの形を借りて、現実世界の様々な実験を行う場だ、と。

それは、未来に有益な技術の試験だったり、現実のトラブル解決方法を模索したり、そんな実験場としての役割をこのゲームは担っている。

その為に、この世界では、ある程度のトラブルが起こることを許容している。

♾️傭兵団やエイメ・サイアが行ったコンピューターウイルスによるNPCの洗脳は、そんな許された暴挙の一つだったのだろう。


何に対して怒っているのか。自分はただ、この世界で現地人を演じているだけの凡人で。

雇い主の方針に文句を言う権利は無い。

にも関わらず、一人、蚊帳の外に放置された様な、感情に支配されている。

下手に、セイを知ってしまったせいだろうか。

『何だろう、関係ない、とかって言っておきながら、我ながら、酷いな』と、クレハはため息をついた。


「ご主人様、バトラーさんもそろそろ、帰ってくる頃でしょう。それまで、一休み致しませんか?」

そっと、アンが差し出すルイボスティーの温かさがありがたかった。

静かな沈黙の時間が流れる。ささくれ立っていた気持ちが次第に収まっていく。

そうすると、全く別の考えも浮かんでくる。


『ひょっとして、セイくんは、まだあのコンピューターウィルスの無効化に成功していないのかな?』


「自分たちだけじゃ、お手上げだから、クエストの形にして、何万人といる旅人の知恵を借りる事にした、とか?」

コンピューターウイルスへの対策なんて、クレハには全くわからない。その道のプロだろうセイたち運営だから、簡単だろう、なんて、勝手に思っていたが、思い出せば、アンとバトラーの状態にセイはあの時、随分憤っていた。解決の為のヒントをクレハに求める程、だったでは無いか。

本職が、除去に苦労する程のトラブルで、それでも早急に解決を図りたいなら、多くの手を借りるのだって、方法としては間違ってはいない。

ウィルスの排除には成功しなかったけれど、それを失敗にはせず、こうやってイベントの中に組み込んで、何万人といるEEC16ユーザーにその排除方法の発見を託した?


この夏休みイベントは、手詰まりを解決するための切羽詰まった末の打開イベントなのだろうか?







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