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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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61 検証クランのパンセ

「いやはや、運営も粋な事をしてくれる。

このEEC16と言うゲームは、サーバー間の独立性が実は低い、と知っていたかい?あるルートを使えば、サーバー間で荷物のやり取りが可能なのだよ。

そして、今回、運営はついに禁を犯した!荷物ではなく、人を動かしたのだ!


別のサーバーに所属するユーザーが、今、どれだけこの広場に集まっている事か!

なんと言う暴挙!

ベテランも中堅も新人も。皆、クランやパーティから切り離され、個人として、新しい環境に放り込まれた。

配信三年目を迎え、運営はこの世界を停滞させない為に、旅人をシャッフルしたのだ。

正にカオス。

普通、そんな事考えるかね?ありえないだろう?

だが、カオスとは、新しい物を生み出す根源だ。カオス無くしては、何も生まれない。


しかも、それを一日限りのイベントに落とし込んだ。

まさに、天才!

断言しよう、今後、アカウントを幾つも作る連中が、必ず、出てくる。

EEC16世界は各サーバーで、今や、同じゲームと呼べない程、環境がズレて来ているのだよ。

基本は同じだ。国名も地形も気候も通貨も魔法も主要人物も。

だが、細部が違う。


例えば、この商人ギルド。

吾輩が、この藍サーバーに興味を持った最初のきっかけだ。

ここでしか売られていない銀杏商会の商品の品々。今では他のサーバーでも現実の食事を再現して販売しているが、それを最初に売り出したのは、ここだ。

そして、このサーバーが一番食べ物の種類が豊富だ。そして、旨い。


更に、エクタシアン国で急成長したキヌ産業。

エンチャンタール・ルーと言うネームドNPCが中心になって興した産業だが、これは、他のサーバーでは見られない。リ・リーと言う一人の旅人の関与があってこそ、生まれた産業だ。

そして、エンチャントアイテム、と言う独自のアイテムが生まれた。

このサーバーが発祥だ。


吾輩の黄サーバーでは、根の国の探索は、ギルドランクA以上の傭兵か冒険者に限られている。未だ、あの国の魔力汚染は深刻だ。理由は簡単、吾輩達が、アカウント消失の検証の為、レイスに取り込まれ、奴らに力を与えてしまったからだ。おかげで、あの麗しのイバラ姫には大層嫌われてしまった。

是非とも、ユニーク殿にイバラ姫との仲を取り持って頂きたいものだ。まあ、夢の中でも嫌われるのは、流石に堪えるのでね。

お察しの通り、吾輩の検証クランは敵が多いのだ」


「それはそれとして、同じゲームでありながら、もはや、そうとは思えない程乖離した世界。ゲームで選択肢を変えながら周回する要素を備えながら、遥かに変化に富む日常。

それを、このエイプリールフールイベントで、痛感するユーザーも多いだろう。

4月2日から、EEC16のユーザーは、また、増加に転じるよ」


ほとんど、口を挟む隙を与えず、パンセはここまで、息継ぎもほどほどに一気に話し終えた。

ふう、と満足した息を吐いて、目の前のお茶を一気飲みする。

クレハを始めとして、この部屋の誰も口を開かない。

どう反応して良いか、わからないのだ。


『濃すぎる。キャラが濃すぎる。こっちの話を全く聞かないどころか、自分の事しか考えていないんじゃ無いの?って言うか』

「一体、何が言いたいのですか?」

「ん?ああ、吾輩もこのサーバーにアカウントを作るから、ユニーク殿の好みの男性のタイプを教えてもらえないかな?」

???

意味がわからない。


「明日、新しいアカウントを作って、藍サーバーに転移できるまでリセマラをしようと思うのだがね。何、サーバーの予測も3度目ともなれば、容易だ。明日中には、再び、お会いできるだろう。どうせなら、気に入ってもらえる容姿の方が、良いだろう?

ユニーク殿は獣人がお好みか?それとも同族のエルフの方が良いだろうか?

年齢は若いより、壮年が良さそうだ。ふむ、ふむ」


助けて、アレク!

全く理解できない存在を前にして、クレハは恐怖を感じた。膝上の猫を抱きしめる。

いつの間にか、バトラーとアンが、彼女とパンセを引き離していた。

パンセの背に手を当てているバトラーの張り付いた笑顔に、バーンが顔を引き攣らせる。『心臓の真後ろ』

パンセにさりげなくお茶のお代わりを差し出したアンの手元から、リコの目が離れない。『何を入れたの?』


殺意を隠さない二人にも、パンセは全く動じなかった。

「良き良き。明日が、うむ、こちらの時間では2、3日後になるのかな?まあ、近日中にまた、お会いしよう」

そう言い残して、パンセは消えた。

「「ちっ」」「「はあぁ〜」」

鋭い舌打ちが二つと、大きな安堵のため息も二つ。商人ギルドの応接室に溢れた。


「旅人がこの世界から自分の世界に帰るのは、何度も見たことがあるけど、今みたいに、消えるのは初めてだわ」

ぐったりとソファーに深く背を預けて、疲労感を隠さずリコが言う。

「ここ数日は、報告が来てたぜ。はなから、こっちに来てた旅人じゃない奴は、あんな風に存在自体が消えちまうみたいだ」

気持ち悪ぃ、と首の後ろをボリボリと掻きながら、バーンはやれやれと、クレハを見た。

「相変わらず、ヘンなのに好かれるな、バロネス」

「それにしても、申し訳ございませんでした、バロネス。あの様な面妖な者とは思わず、お話を持っていってしまって」

そう謝罪する商人ギルド長のリコだが、あれは、ある意味、天災だ。気にしないで、とクレハは手を振った。

非常に疲れたが、それでも、カオス、と言う、ヴァルゴの街の様子は見てみたい。来て早々、パンセに絡まれてしまったので、実際に他のサーバーの旅人達と、このサーバーのエターナル・エデン人のやり取りは、あまり見る機会が無かったのだ。


応接室の窓から、広場の状況を見る。

日の入りの遅い真夏の星鳥(せいちょう)月のヴァルゴの街は、夜になっても人出は多い。街頭芸人がパフォーマンスを披露していたり、酒を出す屋台も出ているが、特に争いは起きてはいない。

商人ギルド内も、活気はあるが、トラブルに発展している様子はない。

「あー、これまでの所、傭兵ギルドでも暴力沙汰にまではなっていないな」とバーン。

「ル・ルーさまの所は、大丈夫かな?」

ネームドNPCのル・ルーだ。しかも、パンセの話から、この藍サーバーでの彼女の事業は他サーバーでは見られないものらしい。ひょっとして、今頃は、旅人達に囲まれて大騒動になっているのでは?と想像する。

「繋がるかどうか分からないけど、様子だけ聞いてみましょうか?」とリコが申し出てくれた。


「もう、もう、本当に、大変なのよ。一緒にスクショ撮ってくれだの、サインしてくれだの、エンチャントしてくれだの、フレンド登録してくれだの」

意味わかんない、と、ル・ルーは画面越しにも、ぐったりとくたびれていた。

旅人と接触しないよう、今は、セト神の神殿に避難している、と言う。


流石に、魔力持ちの旅人は、そのままでは神殿内には立ち入れない。2周年記念イベントで解放された神殿に、旅人が入るには、魔力をマスキングする装備・儀式が必要なのだが、このエイプリールフールイベントで、転移させられた旅人達は、その装備が無効化されていたらしい。

セト神殿の他にも星都や竜宮、など、いくつか旅人立ち入り禁止区域があったらしく、何人かはル・ルーのように避難して来ている有名人もいる、との事。


「ご主人様も暫く、何処かに避難された方がよろしいのではありませんか?」

近日中に、また、来る、と言い残したパンセに、アンが警戒も露に避難を勧める。

「そうは言ってもねえ」

暫くログインしないって言うのもなあ、とクレハは考える。


狂気的な検証クランの代表パンセだから、たまたま絡まれただけで、実際の所、クレハに注目する旅人など、いないだろう、とクレハは夜のヴァルゴの街に踏み出した。

バトラーの存在感がスッと薄くなる。一方、アンは索敵範囲を広げ、こちらに興味を持ちそうな人物から、静かに遠ざかるようにクレハを誘導した。付かず離れずの距離にいる傭兵ギルド長バーンが、周囲に目を光らせているお陰で、街の治安維持に一役買っていた。興味からクレハに突撃する旅人は知らぬ間に速やかに排除されている。


「ねぇねぇ、あれ食べた?抹茶小豆のかき氷」

「食べた食べた。私、緑サーバーだけど、あんなの売ってないよ」

「うちんとこも。うちはオレンジなんだけど」

「え?オレンジなんてサーバーあった?」

「無いけど。橙って、なんかダサくない?だからオレンジ。うちのサーバーの人たちは皆、そう呼ぶよ」

「へー、でも、ちょっとわかるかも」


「あぁ、なんで、甘酒屋の爺さんが、冒険者ギルドにいるんだ?」

「それを言うなら、俺の愛しのミィメちゃんが、受付嬢してないことの方が問題だろ」

「ミィメちゃんも良いけど、やっぱ、サクマさんだろ。あの眼鏡の奥の冷ややかな瞳!」

「誰だよ、それ」

「知らねぇなんて、人生、損してるぜ。サクマさんは、我が紫サーバーが誇るドワーフ女子受付嬢だ!」

「ドワーフ女子⁉︎そんなのいるのか?」


「ここには、刀は売ってないのか?和菓子や日本茶があるんだ。日本刀ぐらいあるだろ?」

「どこ理論だよ、それ。でも、さっき、侍の鎧みたいなの来た人見たぜ」

「どこだ?」


ヴァルゴの街は、新しく訪れた旅人達が楽しげに闊歩している。

現実時間で夜にログインしたユーザーたちは、事前情報を有効利用し、知っているのに知らない街を思い切り楽しんでいるようだ。息子の龍樹、EEC16ではリュージュと名乗っているはずの我が子も、何処かの街で同じように楽しんでいるのだろうか?ひょっとして、このサーバーに来ていたりしないかな、などと想像すると、クレハも楽しくなる。


エイプリールフールイベントは、そうして、幕を閉じた。





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