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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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49 ゲームと言う名の戦場

「誤解ですよ、クレハさまぁ」

ぷるぷる涙目で震える猫はとてつもなく可愛い。だが、そんな事では絆されてやらない。今、クレハは怒っているのだ。


大型船に戻り、船室にアンとバトラーを寝かせると、乗船していた医師が、すぐさま、診察に入った。

二人を一旦、医師に任せて、クレハは猫アレクを抱えて、自分の船室に籠る。

案の定、運営には、この一連の♾️傭兵団との接触が報告されていて、途中から、島の上空に偵察用の鳥型アイテムが飛ばされていたらしい。


責任者、つまり、セイを出せ、と詰め寄るクレハに、ガイド猫は、エイメ・サイアや♾️傭兵団の後ろ盾は、セイではない、と言った。

「じゃあ、どうして、アンちゃんとバトラーが、起動停止してるのよ。

あんな事が出来るのは、自律思考型AI搭載NPCの管理権限があるのは、製作者だけ、って、この前、言ったじゃない」

それはそうなんです。そうなんですけど、とガイド猫はオロオロするばかりだ。

「今、連絡とってるので、もうちょっと、もうちょっと待って下さい」

「別に、私は、セイ君が何してようと構わないけど。でも、それでもさ、これは無い、と思う。二人をゴミみたいに扱って。これが例え、イベントの前振りだったとしても、イベントなら、何しても許されると思ってるの?何が、NPCを大事にする運営、よ。ふざけるなっての」


ヒートアップするクレハは声が震えている。怒って興奮しているのもあるのだが、現実世界の紅葉が、あまり、怒って声を荒げる事がないのだ。歯止めが効かなくなって、余計な事を口走らないか、過去の経験から、そんな不安を抱える彼女は、怒るぐらいなら、飲み込む事のほうが多かった。

今も、そこまで言ってしまってから、後悔が押し寄せている。


「ねえ、アレク、大丈夫なんだよね、アンちゃんもバトラーも元に戻るよね」

ぎゅうっと抱き締めた猫の体は暖かい。これだから、暖かさを実感できるから、この世界が偽物とは思えないのだ。NPCと呼ばれるキャラクターたち、特に、アンやバトラー、ル・ルーの様な自律思考型のNPCは、現実の人間と何ら変わらないように、クレハには思える。

「もし、二人が元に戻らないなら、私も、このゲーム辞めようかなあ」


この二年。エターナル・エデン・クロニクル16にログインして過ごした日々はとても充実していた。

それもこれも、アンやバトラー、ル・ルー、ヴァルゴの街の人々、竜宮のオトヒメ、根の国のイバラ、アマツマラたち職人達。旅人としてではなく、現地人として過ごしてきたからこそ、彼らとの交流があってこそだ。

「アレキュと別れるのは辛いけど、仕方ないよね。だって、本物のアレクは死んじゃってるし。これは、未練だもの」


「なあに、悲劇のヒロインぶってるのさ、おばさん」

クレハの感傷をぶった斬る少年が、いつの間にか、そこにいた。

「出たな、諸悪の根源」

抱き抱えた猫の前足をビシッとセイの鼻に突きつけて、クレハは内心、アレクの爪伸びていれば良いなあ、と思っていた。

「ひどい言われ様だな。俺が何をしたって言うんだ?」

「ふん、わざとらしい。どうせ、全部見てから来たんでしょう?」


クレハに割り当てられた船室の真ん中に現れたセイは、押し付けられたガイド猫を抱き取ると、ぐるりと周囲を見回して、壁付ベッドに断りもなく、腰をおろした。

「そりゃあ、訳も分からず、いきなり、呼びつけられたんだ。理由ぐらい聞くだろう、普通」


EEC16世界を監視していた運営メンバーから、緊急の呼び出しを受けて、自分は、別のサーバーでプレイしていたにも関わらず、最速でやって来たのだ、とセイは言う。

「この猫型ガイドキャラがいるから、正確な座標がわかって、ピンポイントでここまで飛べたけど、普通は無理、なんだからな」

セイがすりすりと猫の頭に頬ずりするので、クレハはアレクを取り返す。

「それで?感謝しろって?大体、あんたが、変な組織を立ち上げて、バトラーを攫った上、用が済んだらポイ捨てするから、悪いんでしょ」

「俺様じゃ、無い」

「は?」

「俺様じゃ無いんだ」

「何、今更、責任逃れしようとしてるのよ、自律思考型AI搭載NPCを停止させられるのは、自分だけだって、あんた私に言ったし、やって見せたじゃない」

「だーかーらー、俺様じゃないって何度言わせりゃわかるんだよ、おばさん」


クレハとセイ、二人のトーンがどんどんヒートアップしてくる。

「お二人ともぉ、ちょっと落ち着きましょうよ、ね。言い争っていても、解決にはならないですよ」

間に挟まれた猫アレクが、困ってもどこ吹く風で、ぽんぽんと言葉が飛び交う。

とうとうガイド猫は諦めを込めた声で鳴いた。

「み、みぃ〜」


それは、劇的な変化を齎した。

クレハがピタリと動きを止めたのだ。

「ご、ごめんね、アレク。別に喧嘩してたわけじゃないよ。びっくりしたよね」

自分の心を落ち着かせる為に、猫を抱き上げ、その額にぐりぐりと自分の額を押し付けた。


「はあ。よし、落ち着こう。うん、アンちゃん、カモミールティ淹れて」

と振り返り、クレハは視線の先にいつもいる筈のメイド姿がないことに気がついた。

「そっか。今、アンちゃんは」

別室のベッドに寝かされている動かない体の二人を思う。

そうだ、こんな所で、喧嘩をしていても、何の解決にもならない。

再び、愛猫吸いをして、クレハは、セイに尋ねた。


「犯人があなたじゃない、って事は、他にも自律思考型AI搭載NPCの行動を操る事が出来る人がいる、ってこと?」

「やっと、話を聞く気になったな。

答えはYES and Noだ」


ストンと再びベッドに腰を下ろしたセイが手を振ると、何もない空間にマグカップが2つ現れた。

「カモ何だかじゃないけど、俺様オリジナルブレンド、豆から炒ったコーヒーだ」

「砂糖かチョコレートが欲しい」

「贅沢なやつだな。コーヒーはブラックが一番美味い」

そう嫌そうに顔を顰めつつ、セイは高級そうなチョコレートをバラバラとベッドの上に降らせた。


「まあ、飲みながら聞け」


そこで、セイが言うには、エターナル・エデン・クロニクル16は、オープンワールドのVRMMOの最先端の技術を思う存分注いで作ったゲームだ。それは、現在進行形で進化を続けており、ある意味、ゲームを舞台とした技術開発競争現場、真っ只中、なのだ。

ここで、実用性を検討し、修正し、そして、実社会に導入する。

その為の、試験場。

但し、それはもちろん、ゲームの世界を壊さない範囲で、ではある。

「こいつで稼いだ金をこいつに注ぎ込んで、開発を進める。そんな無限ループを狙ってる」

そんな俺様たちが、自分たちの首を締めるようなことはしない、とセイは言う。


「だがまあ、この世界に旅人としてログインした連中の中に、俺様の支配を簒奪しようって奴も紛れ込んでいる。今回の事件はそう言う連中が起こした事だと、俺様は見ている」

「ふざけやがって」

そう言いながらも、顔は嬉しそうだ。

強い奴と戦える、とワクワクするような、どこかの少年誌のヒーローか、と突っ込みたくなる笑顔だ。


「その辺の事情は別にいいかな。私が知りたいのは、アンちゃんとバトラーが元に戻るか、って事だけ」

酸味の強いコーヒーが苦手なクレハは、チョコレートを齧りながら、ちびちびと飲みつつ、話を聞いていたが、セイの話が自分の興味に流れそうになるのを危惧して、割って入った。

「あー、診てみないとわかんないな」

「なら、診て」「今、ここでか?」

さすがに、乗船記録もない旅人の少年セイがいきなり現れ、バトラーを診察する、なんて、バトラー大好きバーンじゃなくても、怪しすぎてトラブルにしかならない。


「仕方ない、竜宮に連れて来い」

「竜宮に?どうして?」

「直接、星都には入れないだろう。だから、俺様が竜宮に行く」

機能停止した二人を診察するには、環境と設備が整っていないと無理だ、とセイは言う。

最適なのは星都だが、星都への転送陣は、各国の首都にしかなく、許可がなければ、使うことが出来ない。

次点が、独立した立地の竜宮、だと言う。


クレハたちを乗せた船は、南のエディアカランから出航したものだが、案内は竜宮のオトヒメの使者、竜宮使が務めてくれている。クレハはバトラー発見と♾️傭兵団との接触を、世話になったオトヒメに報告する為に、竜宮に立ち寄る事にした。

「竜宮には、お前たちが行くと連絡しておく」

そう言い残すと、セイは来た時と同じように、空中に溶けるように消えていった。


「セイくんって、旅人とか、NPCとか、そんな枠、全く無視してるよね」

手の中の猫は黙って、大人しく撫でられていた。






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