47 ♾️傭兵団
どうやら、クレハの暮らす藍サーバーでも、行方不明になったNPCはバトラーだけではないことが、龍樹の調べで明らかになり、その結果を持って、クレハは傭兵ギルド長バーンと相対している。
「それは、つまり、どう言うことだ?」
バーンの問いに、クレハは答えた。
「♾️傭兵団は、各国から、有力な人を集めて、旅人とエターナル・エデン人の混成部隊を設立しようとしているみたいです。これまでのように、エターナル・エデンの組織に旅人が加わる、と言う形でもなく、旅人たちだけの組織でもなく、両者が対等で歩み寄った組織、それを理想として設立された、らしいです」
バーンの眉間に皺が寄る。
「今までの、傭兵ギルドや冒険者ギルドじゃあ、ダメだって事か?」
「うーん、設立者はそう考えたんでしょうね」
クレハも考え考え、言葉を繋げる。
「これまでの、いわゆる”クエスト”で、旅人たちは確実に力を付けてきました。それを脅威と感じて、敵対する人たちも出てきたでしょう?」
冒険者ギルド副ギルド長アスランとその取り巻きたちが立ち上げた、豆粒隊、もとい、魔滅部隊がその典型だ。
「一方で、旅人はエターナル・エデンの人たちと協力することで、星力と言う新たな力を得る事も出来た。もっともっと、交流を深めるべきだ、と考える旅人がいてもおかしな事じゃないですよね」
「バトラーさんが、そいつらに協力してる、って?」
「うーん、それは、ちょっと」
冒険者ギルド長ロットの事を、クレハはよく知らないので、なんとも言えないが、バトラーに関しては、それはあり得ない、と思う。
紳士然と人当たり良さそうに見えて、バトラーは意外と好き嫌いが激しい。最初から紐付けされているクレハは別として、彼が、本当に心を許している人物はそれ程多くは無い。それこそ、アンやバーンはともかく、商人ギルド長のリコは怪しいものだし、Aランク冒険者のオーランは△、ル・ルーは⚪︎で、リ・リーは保護対象。本来の創造主であるセイに至っては、恐らく×だ。
そんな彼が、旅人とNPCの融和を目的とした組織に自ら参加するなど、何か目的があってのこととしか思えない。
各自への評価は伏せて、クレハがそう言うと、バーンは納得したと言うように頷いた。
「じゃあ、バトラーさんは、何か目的があって♾️傭兵団に参加してる、ってことだ」
「多分」
「で、どうするんだ?」
それに対する答えは一択である。
「勿論、迎えに行くよ。バトラーは私の執事だもの」
クレハのその答えに、バーンは獰猛な笑みを浮かべた。
♾️傭兵団の本拠地は、多島海にある。
その情報は竜宮のオトヒメから、齎された。
バトラーが、ロット捜索に出発する前に、クレハに託され、竜宮のオトヒメに寄り道をし、プレゼントという名の賄賂を贈っていたのが功を奏した。オトヒメはわざわざ、竜宮使と呼ばれる魚人族の戦士をバトラーに付けてくれていたのだ。
彼らは、魚人族特有の方法、エコロケーションによって、かなりの距離離れていても短い会話なら可能だ。
定期的に放たれていた音波を、クレハの出発に合わせて多島海に派遣された竜宮使たちの一人が捕まえた。
音の強さを追って、彼らが見つけたのは、難破船海岸との異名を持つ、美しいながらも来る者を拒む島、だった。
『これは、某空とぶ豚さんの隠れ家』
切り立った石灰岩の崖と白い砂浜、真っ青な海には、見覚えがあった。
いつぞや、裁判所で出会った、背景担当モブ氏の好みが知れるというものである。
大型海洋船が帰港するには浅すぎる入江に、ドワーフの宝、スキーズブラズニル(折り畳めば、ポケットに入る船)の廉価版に乗り換えて上陸する。
今回と言い、砂漠と言い、ドワーフの宝の中では、スキーズブラズニルが一番役に立つ、とクレハは思う。
流石に全てパクリでは無いのか、海岸を囲むように、切り立った崖には、櫓が組まれ、上陸するクレハたちに警戒を向けている。空飛ぶ豚さんの暮らしていた洞窟の奥から現れたのは、ヴァルゴの冒険者ギルド長ロットだった。
「バーン!」
大きく両手を広げ、歓迎する様に、笑顔を見せる。
「よくここを見つけたね。君は、あまりこう言うことが得意なタイプでは無い、と思っていたよ。それとも、そちらの」
そう言って、ロットは、クレハとアンに視線を向ける。その目は全く、笑っていなかった。
「そちらのお嬢さんのお力かな」
「ロット、テメェ、何くだらない事に、バトラーさんを巻き込んでやがる」
バーンは一瞬で獣化すると、ロットの首を鷲掴みにして持ち上げた。途端にトストストス、と矢が彼の足元に突き刺さる。
「けっ、この程度の矢でこの俺を殺れると思ってるんなら、俺も甘く見られたモンだぜ」
ギラリと鋭い牙を剥いて、バーンが崖の上に向かって吠えた。
「そんなへなちょこな矢じゃあ、俺の毛皮に傷一つつけられやしねぇ。俺を殺りたきゃあ、降りてきやがれ!」
『ちょっと最初からハードモードなんですけど』
アンもクレハを背に庇い、後ろ手にメイド服のロングスカートの中からボウガンを取り出した。ふんわり広がったロングスカートの中には一体どれぐらいの武器を隠し持っているのだろう。
「ちょっと、バーン様、アンちゃんも、最初はまず、話し合いって決めたじゃ無いですか」
「あんな胡散臭い顔見せられて、話し合いもクソもあるか」
一応、クレハも完全武装で来てはいるのだが、戦うのは最後の手段、と言う話じゃなかったっけ、とこの二人の戦闘意欲の高さに、かなり、困惑している。
『船にアレクを残してきて正解』
こんな危険な場所に可愛い愛猫を連れて来なくて良かった、とクレハはしみじみ思った。
「あの、ロット様、ここに、私の執事がお邪魔していると思うのですけれど、そろそろ、お返し頂いてもよろしいでしょうか?」
襟元掴まれて足先がかろうじて地面に着いている状態の人に、言うセリフとしては、どうなの?と思わないでも無いが、取り敢えず、話し合いの体裁は整えておこう、どうせ、この場面もどこからか記録されているのだろうから、とクレハは、NPCに与えられた監視カメラとしての役割を思い出し、バーンを宥める。
セト・アニマルとの遭遇時にリ・リーのログを、運営が追ったように、旅人のログは、運営がある程度把握している。その時に、NPCの行動もモニター可能な事を知った。アンは自律思考型AI搭載NPCなので除外するとして、バーンとロット、そして、おそらく、崖の上や洞窟の奥などあちこちに潜んでいるNPCから、この場面はすぐに運営の元に届けられるのだろう。大体、そうでなければ、NPCに対する暴力行為で速やかに旅人が垢BANされるなど、あり得ない。EEC16では、魔物以外の戦闘は原則禁止されているのだ。
「それは、困るな。我が♾️傭兵団にとって、ネームドNPCは、優秀な広告塔だ」
その人物は、崖の上から、クレハを見下ろして、そう、言った。
「初めまして、貴女がクレハか。ほう、NPCのエルフとは珍しい。どうだ、貴女も我が傭兵団に入らないか?」
「「はぁ!?」」
アンの底冷えする低い声と驚いて高くなったクレハの声が、綺麗に重なった。
「私は、エイメ・サイア。尊敬するあのお方から、♾️傭兵団を任されている。優秀なNPCは大歓迎だ」




