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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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45/54

45 終わらない後始末

アンが連れてきたのは、クレハもよく知る季節限定甘酒屋のお爺さんだった。

王都に本店を構える引退した大商人は、見た目は好々爺だが、その実、一代で財を成した敏腕経営者で、機を見るに聡く、人の心を掴む術に長けていた。

冒険者ギルドの職員たちも、混乱していただけで、決して無能では無い。きちんと方向性さえ示されれば、サクサクと作業は進んだ。


そして、夢幻傭兵団時代、参謀と呼ばれたバトラーが、国内外の各種ギルドや国家機関との関係を整える。

旅人の一斉消失で混乱したのは冒険者ギルドだけでは無い。こちらがきちんと説明と謝罪を行えば、自分たちも同様の危機を乗り越えた心当たりのある関係部署からは、ある程度の譲歩も引き出すことが出来た。

そうすると居心地が悪くなるのは、高みの見物を気取っていた副ギルド長のアスランで、彼は数日の内に自分の取り巻きの冒険者を引き連れて、冒険者ギルドを脱退し、肉食系獣人を中心とした新しい組織の立ち上げを宣言した。


新しくアスランが立ち上げた組織は、”魔滅部隊”。

魔物を滅することを目的とした戦闘部隊である。

ではあるのだが、

「豆粒隊?」

クレハの耳にはそう聞こえてしまった。

もう、きっと、これからは、豆粒としか聞こえない。「くっ」吹き出しそうになるのを抑えるので必死のクレハを、アスランはどう思ったのか、牙を剥き出して笑い、「まあ、これからは魔物を倒す危険な仕事は俺たち魔滅部隊が主流となる。お前たち冒険者はせいぜい、薬草集めや商隊の護衛のような地味な仕事で食い繋ぐんだな」と、豆粒隊員たちと大笑いして去っていった。


何かというと力に訴えることが多かったアスラン一派が抜けた後では、あれだけ殺伐としていた冒険者ギルド内も、やや騒がしい、レベルには、落ち着いて来ていた。

「凄いね、バトラー」

掛け値なしのクレハの賞賛を、バトラーは一礼をもって受け入れ、僅かに口元を緩めた。

けれど、冒険者ギルド長のロットは、まだ見つかっていない。

バトラーは、実質ナンバー2のAランクソロ冒険者オーランをギルド長の探索に専従させるのは、人材の無駄遣い、と判断し、彼をヴァルゴに呼び戻した。そして、彼の到着を待って、バトラーは自らが、ロットの捜索に向かう事にした。


「ご主人様の元を離れるのは誠に心苦しいのですが、もうしばらく、お許し下さい」

「なら、私も一緒に行こうかな」

「え?」「は?」

バトラーとアンが目を丸くする。

「いや、だって、今回の」

と言いかけ、旅人がログイン出来なくなった緊急メンテナンスの原因が、クレハがセト・アニマルに星力を与えた為に、暴走した神が神殿を復活させたから、とは、この世界では、誰も(おそらくセイ以外)知らない事を思い出した。


「あ、えっと、ごめんなさい。今の、忘れて。えへへ」

笑って誤魔化す。

冒険者ギルド長ロットと支援物資を載せた船が消息を絶ったのは、多島海と呼ばれる多数の小島が点在する海域、とまでは、オーランの調査で判明していた。

大小数百にものぼる島が狭い海域に密集し、かつての山頂が島として海面に残っているこの多島海の海岸線は複雑で、入り江が多い。基本的に、波は穏やかで、海面が静かだ。

古代から水運の要所として栄え、港町には、独自の歴史文化が根付いている。

豊かな生態系でも知られ、 潮流の変化や入り江による、多様な海洋生物の生息地となっており、 島々のシルエットが連なる非常に美しい景色と共に、有名な観光地にもなっている。


その一方で、複雑な入り江が海賊の隠れ家に使われている、との怪しい噂にも事欠かない。

かつての海賊の財宝や、落ち延びた王族の隠れ里などのお伽話も、この多島海の魅力の一つではあるのだが、実際問題、海賊王を目指す旅人が立ち上げた海賊クランの本拠地があり、先の海底牢獄イベントで囚人が逃げこんだ土地でもあった。


はっきり言って、クレハの興味を掻き立てるお土地柄であるのは間違いない。

ロットの行方不明事件の間接的引き金になった責任感半分、好奇心半分で、この多島海での捜索に加わりたい、との思いが、口を滑らせてしまった。

だが、流石に、NPCとは言え、人の命がかかっている。役立たずの自分が、同行しても足を引っ張る未来しか見えない。ここは素直に諦めて、大人しくしていよう。


「ありがとうございます、ご主人さま。また、情勢が落ち着きましたら、必ず、多島海へ参りましょう」

そんな、クレハの心情を思い測ったのか、バトラーは丁寧にクレハに一礼するのだった。


クレハは役に立つかはわからないが、と一言断ってから、オトヒメ宛の手紙をバトラーに託した。

海の()の出来事で、竜宮のオトヒメが知らない事はない。

行方不明の船が沈没していない事は、オーランも一番最初に確認している。その情報は竜宮のオトヒメから得たもので、そのお陰で、船のおおよその航路が掴めたのだ。

沈んでいない以上、船は、どこかの島に停泊している。けれど、彼らが上陸したと思われる島、が見つからなかったのだ。


クレハは、個人的にオトヒメと交流があり、今回、バトラーが中心となって調査するため、ちょっとした手土産(賄賂とも言う)を持参し、挨拶に行くことを勧めたのだ。


数多の島毎に独自の慣習。住民も彼らを纏める人間も、大陸の人間とは、異なる理で生きている。けれど、彼らも海に生きる民であるからには、海底王国・竜宮の呼びかけは無視できない、と思われた。

そこで、クレハは、オトヒメに星霊武具(仮)大袖、を作った際に、補修用としてもらった小札を髪留めに加工して、新作和菓子:若鮎(カステラ生地で求肥を包んだ初夏の和菓子)と一緒に、バトラーに持たせた。


バトラーが不在の間、世間がイベント関連でバタバタしている事もあって、アンの緊張が高まっている。

『あんまり、出歩かないほうが良いよね』

クレハは、ヴァルゴの自宅に引きこもり、今回のイベント:Operation Desert Stormについて考える。


クレハは現地人仕様なので、ステータス画面がない。調和の天秤の傾きが、今、どうなってるのか、正確なところはわからない。一方、砂塵嵐が止まった為、エクタシアンの復興は、予定より急ピッチで進んでいる。

リ・リーもログインしてきて、ル・ルーも元気を取り戻し、砂塵嵐からの復興とセト神の復活した神殿関連の諸々に、精力的に動いているようだ。ハトシェプスト葬祭殿の周囲は、旅人、NPCを問わず、見物人で溢れ、中には商魂逞しい連中が、屋台を出したりしているらしい。


葬祭殿の中に入るには、星力を集める必要がある。

そんな噂が囁かれ、それを聞いた旅人たちが、NPCに協力的な行動をとり始めている。

噂を流したのは、間違いなく運営関係者だろう。

紅葉の適当な助言を元に、他サーバーにもハトシェプスト葬祭殿のホログラムを出現させ、夏休みイベントで星力を集めたら、これが実装されるかも、と言う流れに持っていったのだ。

怪我の功名とでも言うべきか、イベント開始前は、魔物討伐に人気が集まり、NPCとの協力行動は今一つだろう、と予想していたのが、葬祭殿出現後は、星力を集める方向に旅人たちの行動が変化した。

ガイド猫アレクが、泣いているのか笑っているのか、よくわからない表情でそう教えてくれた。


ヴァルゴの冒険者ギルドも、オーランを中心に、旅人たちは、イベント関連の依頼を中心に、NPCたちは、それ以外、と住み分けて、依頼をこなし始めた。

根の国のイバラの元にも、旅人が戻ってくるだろう。


今回の夏休みイベントは、旅人にNPCと協力する楽しみを利益を絡めて理解してもらう、そんなイベントになるはず、だったのではないだろうか。

魔物討伐だけでは、天秤の魔力を削り切る事は出来ない。星力を上乗せするために、NPCに協力して行動すれば、EEC16の世界が広がる事を知ってもらえるはずだった。

それが証拠に、緊急メンテナンス後は、イベント内外で、旅人たちとNPCが協力する姿が、これまでより多くみられる様になった。

けれども、元冒険者ギルド副ギルド長アスランたちの様に、対立を深める者もいない訳では無かった。


EEC16のイベントは、どれもが、何かの伏線になっている。

竜宮のイベントには、消えない炎・カグツチのヒントがあり、根の国のイベントでは、幻の鉱石・緋緋色金の入手についてのヒント、更に、鬼人族と仲良くなれば、鍛治師アマツマラの知己を得ることが出来た。

配信一周年記念イベントでは、これらのヒントをつなぎ合わせて、星霊武具を作製し、魔力と星力と星霊の関係が明らかになった。

天下一大武闘大会では、溝が深まりそうになっていた旅人とNPCの間を、ルールに則った殴り合い、と言う、脳筋的解決法で、溜まりつつあった不満を解消させ、更に、天空島への道が示された。


今回の”Operation Desert Storm”では更に踏み込んで、NPCに積極的に協力することで、星力が得られることを体験させた。自分の育てた星霊や星霊武具の成長を促すために必要な星力をどうやって集めるのか。知っているのと知らないのとでは、大きな差が出るだろう。

そして、フライングになってしまったが、星力を集めることで、古の神殿が蘇った。これは、星力がこの世界に及ぼす影響の大きさを見せつけたのでは無いだろうか。


そんな事を考えつつ、ちまちま、星力を込めた組紐を編んでいる。若者ならミサンガの方が馴染みがあるし、異世界転生物でも時折出てくるアイテムだが、あいにく、クレハが作れるのは、昔習った着付けの時の帯締めの編み方だ。それでも、髪飾りやブレスレット、飾りベルト、それこそミサンガ様に使うことが出来る為、商人ギルドのリコには、出来た端からお買い上げ頂いている。


そうこうしているうちに、夏休みイベントは終了した。



けれど、冒険者ギルド長ロットの捜索に向かったバトラーはまだ帰って来ない。






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