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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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43/54

43 緊急メンテナンスの影響

「旅人が一斉に消えた、と言う話ですが、本当ですか?」

如何にも知らないふりをして、ル・ルーから情報を引き出す。我ながら、嫌になるが、ここで、緊急メンテナンスでログイン出来ないだけで、リ・リーの中の人には、全く問題ない、と安心させてあげる事も出来ない。

「バロネスは、療養中だったから、詳しくは知らないのね。

そうねぇ、貴女が気を失った少し後ぐらいかしら」

そう言って、ル・ルーは、自分の知っている事を教えてくれた。


「貴女が、貴きお方に星力を捧げて、気を失った後、貴きお方は、そのお力を使って、この地の荒れ狂う砂塵嵐を治め、神殿を取り戻されて、そちらにお移りになられたわ。アタシは、急いで、王都アブデュルアズィに戻り、ヒュッレム女王に謁見したの。

古の神の星域に立ち入ってしまった事は怒られたけれど、そのお陰で、砂塵嵐が止み、神殿が再び現れた事は、とても、喜んでおられたわ。ただね」

と、ル・ルーは、リ・リー以外にも彼女が寝不足になる理由がヒュッレム女王にあるのだ、と明かした。

「ご自分が巫女になる、と言って、退位を決めてしまったのよ」

後継者も決まっていないのに、と、ル・ルーは、何度目かの溜息をついた。


セト・アニマルは若い巫女を要求していたのではなかったか、と、恐る恐る尋ねる。

ル・ルーも、そう言ってヒュッレム女王を押しとどめたのだが、それならば、巫女の従者となって、神殿に住む、と言ってきかないらしい。

「流石に、アタシも、セリムも、争ってる場合じゃない、となったのは良かったのだけれど」

オアシス都市ジェムの族長セリムは、妻の元許嫁であるル・ルーに対抗意識を燃やし、次期首長の座をかけて、今回の砂塵嵐被害で、どちらが有能かを示す戦いを挑んできていた。

結果、砂塵嵐を治めたのは、ル・ルー、と言う結果になっているのだが、どうやらその辺りの詳細はまだ伝えていないようだ。


「そんな、お家騒動をやってるうちに、旅人が、いなくなった、って、報告が、あちこちから上がって来たのよ」

既に、EEC16世界で旅人は、社会に組み込まれている。

今回の砂塵嵐の被害に対し、救援物資の運送や、後手に回る魔物討伐の主戦力として、彼らにいきなり消えられた現地人は、最初はいい加減だと怒り、その内、何かあったのかと心配した。


「今朝になって、星王陛下から、宣下があったわ。旅人たちと繋ぐゲートに不具合が起きて、旅人が一時的にこちらに来ることが出来なくなった、って。こうなって初めて、アタシたちがどれだけ、旅人に依存していた、とわかるなんて、ね」

自嘲気味にル・ルーは、笑う。

根の国を治めるイバラは、ル・ルーよりひどい状況だと言う。

何しろ、旅人の戦力を期待して、地下迷宮のモンスターハウスを解放し、魔力汚染からの回復を目指していたのだ。旅人がこのまま戻ってこない、等と言う事になれば、地下世界はおろか、この地上も危ない。

オルドビス国国王トーリンと緊急会議を開いて対応中、だと言う。



クレハが裁判所に呼ばれたその日の夜、日付が変わるのに合わせて、緊急メンテナンスは終了した。


転移ゲートの座標固定に不備が見つかり、プレーヤーの皆様のログイン先が、最終ログアウト先では無い場所になってしまう不具合が、報告されました。

イベント開催中の、緊急メンテナンスとなり、プレーヤーの皆様には多大なご迷惑をおかけした事を、ここにお詫び申し上げます。

EEC16の緊急メンテナンスは、本日0時を持って終了いたしました。

皆さまの再びのログインをお待ちしております。

運営からのお詫びとして、魔道具”一握の砂”を、プレゼントさせて頂きます。

魔道具”一握の砂”は、戦闘中にどうしても最後の一押しが足りずに、敗れてしまいそうな時に使用すると、その最後の一押しを押せる時間を捻出してくれるアイテムです。一度きりの使い捨てアイテムではありますが、ここぞと言う時にあなたの助けとなる事でしょう。

それでは、エターナル・エデンの世界をどうか、ご満喫ください。


何だろう、この文章。ハトシェプスト葬祭殿のことには、全く触れていない。あれだけ大騒ぎをしておきながら、まるで、何事も起こっていないかの様な、あの神殿の登場はイベントの流れだよーとでも言うような。紅葉を呼び出し、裁判にかける勢いで問い詰められたのは一体何だったのか。鮮やかに既定路線に組み込んでみせた手腕に、脱力する。でも、ま、いいか、と、紅葉は、公式ホームページを閉じた。

一番、迷惑を被ったのは、間違いなく運営のあのモブズさん達で。消える前にやけに盛り上がったテンションに、そこはかとないブラック企業の匂いがした。緊急メンテナンスの裏側など、知らずにいる方が、間違いなく幸せなのだ、と原因の一端であろう紅葉は、そっと目を逸らした。


既に、緊急メンテナンス終了から、現実時間で半日近く経っているので、”一握の砂”の効果を検証した例の黄サーバーの検証クランのサイトも更新されている。1回使い切りの魔道具を、相変わらず、惜しげもなく費やしているのだなあ、と思いつつ、何はともあれ、EEC16にログインした。


いつも通り、ヴァルゴのクレハのベッドで目覚める。

丁度のタイミングでアンが襖の向こうから声をかけてくる。ベッドの中でごそごそと猫のアレクも動き出した。

『そう言えば、本物のアレクもちっちゃい頃は、一緒の布団で寝てたっけ』

足の間で眠るのが好きな子で、寝ている間に蹴飛ばしたりしないだろうか、と緊張した事を思い出す。


今日は、旅人の突然の消失と再来で混乱しているであろうこの世界の人々のサポートをする予定だ。

一番被害を受けたのは、イベントの開催地であるエクタシアン国だろうが、そこは流石に運営自ら、テコ入れに入っているだろう。

クレハは自国シデリアン国のフォローに入る。

各ギルドを通して、エクタシアンへの支援を行っていた筈だ。先ずは、一番関係の深い商人ギルドの様子を見に行く。


「バロネス!」

ギルド長のリコが、クレハを見て、ホッと表情を緩めた。「ル・ルー様から、大きな事故に巻き込まれたと聞きましたが、大事はございませんか?」

「ありがとうございます。私は大丈夫です。それより、ギルド長こそ突然、旅人がいなくなって大変だったのではないですか?」

そっと、リコは視線を逸らして、「ええ、まあ」と曖昧に答えた。

その反応にクレハは首を傾げる。「何か、お力になれる事があれば、おっしゃって下さい」

暫く、逡巡したのち、視線は下を向いたまま、リコは言った。

「我が商人ギルドは通常業務に戻りつつあるので、大丈夫です。ですが、実は、冒険者ギルド長が、行方不明なのです」

「冒険者ギルド長?」


多分、会った事はある筈。だが、顔は思い出せない。名前は、確か、ラット(鼠)?ロッド(棒)?、ああロット(多い)だ。カタカナの名前は何かと関連づけないと覚えられないクレハだった。まあ、冒険者ギルドと言えば、月の光を集めたようなストレートな銀髪、新緑の緑の瞳、白磁の肌、尖った耳、人外の美貌を持つエルフであり、限りなくSに近いAランク冒険者、冒険者ギルドのNo.2のオーランの印象が強すぎて、他の人が霞んでしまうので仕方ない。


「旅人の消失事故に巻き込まれたのでしょうか?」

「まだ、詳細は何も。ただ、旅人が消えて人手不足で出せなくなった救援物資を積んだ船に乗り込んだ、のは、わかっているのです。オーランが中心となって捜索しているのですが…。うちもそうですが、傭兵ギルドも受けていた仕事の多くが途中で、止まってしまっていて」

自分たちの所の後片付けで手一杯で、様子も見に行けていないのだ、と言う。


『ちょっと大事過ぎ』

あまりの影響の大きさに、クレハは自分に出来る事は無い、と諦めた。

陣中見舞いに、と持参した手土産をリコに渡し、申し訳程度に帰る前に冒険者ギルドを覗いてみる。

依頼を途中で放り出した、と一部の旅人の冒険者とNPCの冒険者たちがいがみ合い、あちらこちらから罵声が聞こえる。ギルド職員は仲裁に入ることも無く、必死の形相で、依頼の補填をすべく、人員の手配をしていた。


「これは、酷い」

誰もが目の前に置かれた事案を片付ける事に手一杯で、系統だった業務がまるで出来ていない。後でも良い事、他部署との連携が必要な事案にただでさえ少ない人員を取られ、至急処理しなければならない事が、そのまま、留め置かれている。

「アンちゃん、リコさまに報告して、どこかの商家で事務長クラスの経験のある方をお借り出来ないか相談してきてくれる?ねぇ、バトラー、冒険者ギルドには副ギルド長のような役職は無いの?」

アンはクレハの傍を離れる事に抵抗を示したものの、流石に混乱する冒険者ギルドを放ってはおけない、と、一礼すると物凄い速足で出て行った。


バトラーが、軽く周囲に威圧を放っているので、クレハの周りには、乱暴者は近寄ってこない。

「勿論、副ギルド長はおりますよ。ですが、冒険者ギルドは、昔から、力こそ正義、と言った考え方が強く、頭脳労働者を軽んじる傾向がありますので、このようにトップ不在となると、収拾がつかなくなるのでしょう。まあ、あれがいた所で対して変わるとは思えませんが」

後半は小声で、それこそ、クレハにすら聞こえない音量ではあったが、バトラーの呆れたような態度は、近くにいた冒険者をイラつかせるには十分だった。


「何だと、てめえ、ふざけてンのか!」

威圧にも負けず、叫んで振り返った冒険者は、一瞬にして床に這いつくばった。

「ん?今、何か聞こえましたか?」

にっこり笑うバトラーは、クレハの目に映す価値無し、とくるりとクレハをエスコートして、死んだような目をしたギルドスタッフたちの横を抜けて、奥の部屋に入って行く。


そこには、冒険者ギルド長の椅子に座り、悦にいっている男がいた。


「あれが、副ギルド長ですよ」

冷え冷えとしたバトラーの声に、クレハは、如何にも悪役、と言った性格の悪そうなキャラに、テンプレだなあ、と思うのだった。







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