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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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42 自律思考型AI搭載NPC

あの見た目も中身も生意気なセイが、エターナル・エデン・クロニクル16の自律思考型AIの開発責任者?


そう聞かされても、ふーん、としか、クレハには思えない。

「世の中には何でも持ってる人がいるんだねー、そりゃあ、傲慢にもなるわ」

「ちょっと、クレハさま、声に出てますよ」

アレクがあわあわと囁く。

「ありゃ」

周囲のモブズも、視線を泳がせる中、クレハは、気にせず、しっかりとセイの顔を見据えた。

「それで?私の話は終わったけど、もう、帰って良いんですか?

あ、そうそう、アレク、アンちゃんに連絡を入れたいんだけど、それもメンテ中だと無理?

強制ログアウトになっちゃったから、心配してると思うんだよね」


裁判所の傍聴席から、裁判長にくるりと背を向けて、クレハは歩き出し、腕の中のアレクに話しかける。

裁判所の扉に手をかけて引くと、扉の向こう、真正面にセイが座っていた。ぱたりとクレハの後で扉の閉まる音がする。

「誰も、退席を認めていない。検証はこれからだ」

言葉は厳しいが、楽しそうに声が震えている。「NPCが心配してる、とか、やっぱりお前の考えは面白いな」


『あなたに”面白い”認識されたくないんだけど』

むっとしながら、クレハは、傍聴席に座り直した。これは、セイを納得させるまでは帰してもらえそうにない。

「なら、さっさと済ませて下さい。NPCを心配するのがおかしい、と言うなら、リ・リーの事が気になると言い換えましょうか?第一、ただの一プレーヤーの私がゲームの運営方針に関わるような場に招かれる事自体がおかしいと思います。私は、EEC16世界で、現地の人として、協力するとは、契約したけど、ゲームの本筋に関わるような事は契約外です」

なし崩し的に巻き込まれてる、と感じているのだ。ここらで、少なくとも、セイとは距離を置きたい。

きつい事を言う分、丁寧さを心がける。心臓がドキドキし、声が震えていないか不安になるが、ここで引く訳にはいかない。


「と言うか、藍サーバーだけで出現したのが不味いなら、他のサーバーでも出したら、良いじゃないですか」

あっさり言うクレハに、シナリオ担当者が頭を掻きむしって抗議する。

「そう簡単では無いんですよぉ。大体、何の前振りも無く、いきなり、あんな大物出現させる訳にはいかないでしょ」

「え?今回の砂漠のイベントがその前振りだったんじゃないんですか?」

「そうですよ、そうなんですけど、流石に、そんな直ぐに出現する程、星力が溜まるとは思わないじゃないですか!」

そう言って、夏休みイベント”作戦名・Operation Desert Storm(砂塵嵐)”のシナリオを、クレハに語って聞かせる。


「確かに、あの葬祭殿の出現の為の、星力集め、が今回のイベントの目的なんですけど、それも、後から、そうだったのかー、って種明かしする感じで進めるつもりだったんですよ。それが、いきなり、ドカーンと現れてしまって」

愚痴を挟みつつも、説明した運営の目論見シナリオは以下の通り。


砂漠の国、エクタシアンの王宮の奥深く、祈りの場には、黄金の天秤が祀られている。

向かって正面、左側の天秤に魔力が、右側には星力が乗せられた調和の天秤だ。

天秤は今、大きく左に傾いている。

その魔力が星力を大きく上回っている状態が、エターナル・エデンの世界を狂わせている元凶だ。魔物の活性化や出現までの時間の短くなった魔神の誕生、そして、今回のエクタシアン国での砂塵嵐の異常発生。


エクタシアン国で砂塵嵐が勢力を増し、各オアシス都市との連絡が取れなくなった。旅人は、各種所属ギルドから、エクタシアンの窮状を救うよう依頼を受ける。

依頼内容は魔物討伐だったり、物資の輸送だったり、現地の復興支援だったり、と様々だが、依頼を受けた時点で、旅人のステータス画面に天秤のイラストが表示される。これは、エクタシアンの黄金の天秤と連動している。魔物を討伐すると、左の皿から魔力が失われ、皿は上に上がる。現地支援でNPCからの好感度が上がると、星力が右の皿に注がれ、皿は下に下がる。そう言う仕組みで天秤の傾きを正し、世界に調和をもたらすのが、今回のイベントの目標だ。


イベント開始の合図は、エクタシアン国王宮の上空に、出現した黄金の天秤と共に、エクタシアンの女王の祈りの声が響く。

『エターナル・エデンに生きる者たちよ、どうか、エクタシアン国を救って欲しい。天秤の傾きを正し、この狂った砂漠に調和をもたらして欲しい。魔力に侵されたこの大地に、失われた星の力を蘇らせて欲しい』


「そしてその失われた星の力の象徴が、ハトシェプスト女王葬祭殿!どどーん、と登場、となる予定だったのです」


旅人の行動によって、黄金の天秤が傾きを変える。

天秤が、星力に傾かなければ、ハトシェプスト女王葬祭殿の出現は叶わない。


「それが、それがぁ~」

「出てきちゃったものはもうしょうがないじゃない。ひっこめる訳にも行かないんでしょ」

もう、クレハは投げやりだ。

「でも、まだ誰も、葬祭殿には入ってないですよね。って言うか、入れませんよね。なら、やりようは色々あると思いますけど?」

そのクレハの言葉に、裁判所に集まった者たちは、皆、驚いた視線を向けた。

「え、なんで、それがわかるんですか?立ち入り条件知ってるんですか?」


「え、だって、セト・アニマルが、魔力持ちは絶対拒否だから」

クレハは、あのオアシスでセト・アニマルが、自分の巫女に希望する条件を彼らに伝えた筈だ。

「そんな人、あのイベント中の砂漠にいるとは思えませんけど」

「「「確かに」」」

今、緊急メンテナンスで旅人のログインを禁じている一方で、藍サーバーのハトシェプスト女王葬祭殿の入口は運営スタッフが、この場で下される決定を実行すべく待機している。

彼らも、葬祭殿内部に入れずに困っていたのだ。


クレハの話を聞いて納得だ。

『我に仕える巫女を選出し、そこに住まわせよ。条件は一つ。穢れを一切持たず、我を信じる者だ。若くて、美人ならなお良し』

セト・アニマルの要求、特に後半、に、セイですら、開いた口が塞がらない。

だが、そんな自律思考型AI搭載NPCの製作者は彼自身で、クレハはきっとセト・アニマルにはセイの一部が確実に反映されている、と思っている。


「他のサーバーに葬祭殿を出すのが、むずかしいなら、ホログラムで作ったハトシェプスト女王葬祭殿を出したらどうですか?」

証言席に映し出される藍サーバーの葬祭殿を指差して、クレハが言う。「それみたいに」


本物であろうとホログラムであろうと、立ち入れない時点で確認のしようが無いのだ。

藍サーバー以外のサーバーでは、それこそ、実体化に必要な星力が溜まるまで、ホログラムを出しておけばよいし、藍サーバーでも、巫女が決まらなければ、立ち入りは不可能だ。更に、巫女だけいれば良いと言うものでは無く、巫女の世話をする使用人も必要になる。

セト・アニマルの要求は、言う程、容易い物では無いのだ。

本神は、わかっていなさそうだが。


「ついでに、巫女が必要、とも告知すれば良いんじゃないですか?どうせ、直ぐには集まらないんだから、ホログラムが実体化するまでに、並行して動かないと見つけられないですよ」


わかりました!と何故か、いい笑顔で、この場を去るモブズ。

残されたセイにクレハは、もう帰って良いかと尋ねた。

「あ、あぁ」

了承の言葉と同時に、裁判所が消える。

クレハは、ヴァルゴの自宅の庭に立っていた。

「「ご主人様!」」

アンとバトラーが直ぐに駆け寄って来る。


エクタシアンの砂漠にいたはずが、いきなり、庭に立っている事に違和感が無いのかな、やっぱり、こんな所が、ゲームなのかな、と思いつつも、心配させたのは間違いないようで、クレハは二人に笑いかけた。

「ただいま?おはよう?ちょっと、疲れちゃった。アンちゃん、なんか、甘い物ちょうだい。バトラー、私が眠っていた間に何が起きたのか、教えて?」


緊急メンテナンスで旅人の来訪が途絶えてもエターナル・エデンの時間は動いていた。

星力をセト・アニマルに注ぎ、意識を失った(強制ログアウトした)クレハは、帰還陣でヴァルゴに帰った。それから、3日程、目覚めなかったが、これで、何度目かの強制ログアウトである。二人もそれなりに慣れて、心配はしながらも、目覚めを待っていた。彼女らにとっては、寝て起きたばかりのはずのクレハだが、疲れた、のセリフに、疑問も持たずに動き出す。


あれだけいた旅人が一斉に消え、この世界でも、かなりの混乱が生じていた。

ル・ルーから安否を問う連絡が何度も入っている、と知らされ、こちらも話をしたかったので、早速、通話の転送陣を起動する。


「良かったわぁ、体は何ともないの?」

ワンコールで繋がった先のル・ルーは、目の下に隈を作っていた。

「ありがとうございます。私は寝ていただけなので、何とも。それよりも、ル・ルーさまの方が、お疲れが溜まっている様ですよ。

セト神様は、どうされていますか?」


「貴きお方は、機嫌よく、神殿でお過ごしの様よ。アタシも、ぐるりと見回ってみたけれど、長年砂の下にあったとは思えないぐらい、いいえ、逆ね、砂の中にあったからこそ、建築当時の美しい色彩がそのまま残っていたみたいでね、とても、とても美しかったわ」

「あ、ル・ルーさまは、神殿内に入れたのですね」

やっぱり、NPCは入れるのか、と、思った言葉がそのまま零れる。

「ええ、まあ、殆ど、何も身に付けない状態でなら、とだけ、言っておくわ」

その返事を聞いて、あ、ちょっと不味いかも、と思う。

あの裁判所で、神殿でセト・アニマルに仕える巫女やその従者は簡単にみつからないだろう、などと、いい加減な事を言ってしまった。

『ま、仕方ないか。あの時は本当にそう思ったのだし』


「リ・リーちゃんは、大丈夫かしら」

ぽそり、とこぼされたル・ルーのセリフに、オネエさんの、隈の理由はやはりそれかと、溜息をつきたくなった。


この世界の自律思考型AI搭載NPCは、既に人間と遜色がない。


『セイの馬鹿たれ』

心の中で盛大に罵声を吐いた。





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