41 緊急メンテナンス
ハトシェプスト女王葬祭殿
エジプト観光でもピラミッドと並んで必ずと言って良い程、観光ルートに組まれている建物だ。
それを参考に、いつかのイベントで使ってやろうと、神殿のイメージを作成途中だった。
にも拘わらず、いきなり、藍サーバーで、それが砂の中から現れたのである。
当然、見つけた旅人も運営も仰天した。
速攻でメンテナンスが宣言された。
原因を調べて行くうちに、どうやら、旅人の誰かが、未実装ボスと接触したらしいことが判明した。
その旅人の名は、リ・リー。
開催中のイベントの舞台であるエクタシアン国のネームドNPC、エンチャンター、ル・ルーの妹を自称し、実際に、自律思考型AIであるル・ルーからも、それに相応しい扱いを受けている、いうなれば、特別扱いされている旅人だ。
舞台と立ち位置から考えて、NPCと行動を共にしている可能性は高いと考えた運営は、彼女の行動ログを解析し、映し出された画面を見て、崩れ落ちた。
間違いない、この事態を引き起こした犯人は、こいつだ。
「と言う訳で、あんたに呼び出しをかけたのに、全然、反応しねぇ。現実の家にまで押しかける案が出てたんだぜ」
ニヤニヤと意地悪く笑うセイとさめざめと泣くアレク。
会議室の机には、適当に作ったと思われるモブ顔のキャラたちが、無表情に座っていた。
「何が、”と言う訳で”、なのか、全然わからないのだけど?ハトシェプスト女王葬祭殿の出現と私に何の関係があるの?」
「それを、教えてもらいたいんだ」
そこへ座れ、と顎で促されると、そこはいつの間にか、裁判所に早変わりしていた。促された席は証人席。
「ちょっと!冗談でもやって良い事と悪い事があるでしょ、これじゃ、最初から私が悪いって決めつけてるじゃない。何をしたって言うのよ」
当然、クレハは抗議する。
とは言うものの、全くの無実、無罪、言いがかり、とは言い切れない自覚はある。が、犯人扱いには、物申したい。自分は、頼まれてセト・アニマルに星力を分けただけなのだ。その結果、強制ログアウトされ、アンたちに心配をかけた。その後にセト・アニマルがしでかした事が、運営の予想外だったとして、100%自分の責任では無い、と思う。いうなれば、自分は燃料を注いだだけで、暴走させたのは別人(神)だ。注いだ結果まで、考えなかったのは、まあ、話の流れだ。
仕方が無い、と思って欲しい、かな?
「今回のイベントの概要はご存知ですか?」
頑として傍聴席から動かないクレハに、裁判官席に座るモブ1が尋ねた。セイはいつの間にか、被告席の真正面、裁判長の席についている。
「いえ、知りません。イベントには参加するつもりが無かったので、ざっとしか読みませんでした」
「クレハさまぁ、よく読んでください、って頼んだじゃないですかぁ」
「えへっ」笑って誤魔化す。
「でも、下手にイベント内容読み込んで理解すると、現地人の知らない筈の事をぽろっとこぼしちゃいそうだから。付き合ってるのが、現地人だけならまだしも、旅人とも会話する機会はあるし。調子に乗って考えなしに口ポロしても困るしね」
いつぞやのやらかしを思い出す。
「そぉかぁ。俺様は、別に気にしないけどな」
頬杖をついて、セイが言う。
『そりゃあ、あなたは、そうでしょうよ』と心の奥からそう思ったのはクレハだけでは無い筈だ。
堂々と星王を名乗る旅人。
藍サーバーでのセイの立ち位置はそれだ。まだ、学園には籍を置いているらしいが、星都騎士団での活動に積極的に参加しているようだ、とリ・リーたちから聞いている。
まだ、15?16?祖国では成人したと言うが、幼い設定のセイの体格では、騎士団など苦労するのでは、とおばあちゃんが心配したところで、中身傲慢スポンサーのチート盛り沢山少年は、それこそ、俺様tueeeを地で行っているのだろう。
「まあ、この方の事は放っておきましょう」
セイを挟んでモブ1の反対側の裁判官席からモブ2が言う。頭が痛い、と苦い表情だ。
「我々運営は、今回のハトシェプスト女王葬祭殿出現にあたり、近くのプレーヤーのログを検証して、一人に当たりを付けました。それが、彼女、リ・リーさん、です」
証言席にホログラムの様に、リ・リーのプロフィールが映し出される。
「彼女のログから、彼女と同行のNPCが、この時点では解放されていない場所に立ち入った事がわかりました」
「物凄く、ヤバい感じの砂塵嵐に偽装していたんですけどね。絶対、生きて帰れない、って感じで。
なのに、なのに、どうして、そこに突っ込むんですか!」
クレハの左手側、所謂原告側に座っているモブ3が叫んだ。
「あ、初めまして、わたくし、EEC16の背景担当をしております。クレハさんには、根の国の迷宮探索でよくぞアレに気が付いてくれた、と感謝感激雨あられ、でございます。
はっ⁉そう考えると、あの砂塵嵐は”如何にも”感が強かったのでしょうか?オタク心を強く惹きつけてしまった、と。なるほどなるほど」
モブ3さん、背景担当者さんは、乱暴に涙を拭うと、猛烈な勢いでなにかを描き始めた。
「こうしてはいられない。わたくしには、砂塵嵐のナチュラルさを追求する任務が出来ました。それでは、皆さま、お先に」
モブ3はドロンと意味もなく煙を上げて、消えた。
「ちょっと、待て!」
唖然。
そして、爆笑。裁判長席でセイが、椅子から転がり落ちそうになって笑っていた。
「う、うん、ごほん、兎に角。本来、立ち入れない場所に立ち入った為に、起きる筈の無いイベントが起こってしまった、様なのです」
ホログラムに砂塵嵐の映像が映し出される。
それは、どす黒く、凶暴で、触れたらズタズタにさせそうな鋭さを感じさせる暴風の壁で、耳鳴りの様にゴウゴウと音を立てるのは激しくぶつかる砂塵の音だ。
「これが、旅人、魔力持ち、に見える砂塵嵐の映像です」
「うわっ」
思わず、クレハは息を呑んだ。
「リ・リーちゃん、よく、私達の言葉を信じて、この中に黄金丸と白銀丸を進ませたわ」
クレハは驚くと共に、自分たちを信じてくれたリ・リー、そして、その決断に素直に従った使い魔たちとの絆に感動した。
確かにこんな砂塵嵐の中に入ろうと考える者はいないだろう。
「でも、私にもル・ルーさまにも、あの砂塵嵐はこんな感じには見えなかったですけど?」
「魔力がある奴が見れば、ああ見えるように作ったんだから、当たり前だ」
説明責任のある背景担当者が消えてしまった為に、代わりに何故かセイが答えた。
「ここから先は、あんたのガイドキャラが見た映像だ」
リ・リーのログから、同行したNPCの中にクレハと運営が付けたガイドキャラも一緒にいる事がわかった。
一旅人のログは追えても、画像データまでは保存していない。その点、ガイドキャラはゲーム内監視の意図で定点記録を残している。しかも、そのガイドキャラからは、緊急連絡も入っていた。
早速、過去データを解析する。
星霊に進化したガイドキャラは、薄灰色の砂塵嵐に突っ込む様子をしっかりと記録していた。
そして、そこを抜けた先で見た楽園のようなオアシス。
警戒も露に、バトラーとアンが外に出て。
黒い獣がこちらを向いた。
画面が切り替わり、床に倒れるリ・リーと驚愕の表情を浮かべるクレハ。
船を飛び出したル・ルーが、黒い獣と対峙し、合流したクレハ達と暫く話をしている様子が船の中から見ているガイドキャラ視点のホログラムで再現される。
「距離があるから、音は拾えてない。一体、何を話していたんだ?」
セイの口元がまだ、爆笑を残したまま尋ねる。
「何が起きたか話はしますけど、私も途中で強制ログアウトになったので、肝心なところは知らないですよ」
むっとしながらも、クレハはリ・リーのログアウト辺りから話し始めた。
「と、言う訳です。そこから先の事は、それこそ、ル・ルーさまや、アンやバトラー、あの場にいた所謂NPCから取れないんですか?」
「自律思考型AIは、基本、放置、なんだよ」
「ちょっつと、星王さま!」
口を出してきたセイを慌ててモブズが止めようとするが、セイは、構わず続けた。
「あそこにいたのは、エンチャンターのル・ルーこと、オアシス都市イサの部族長アル・ルシュディー、元夢幻傭兵団参謀バトラー、ハウスメイド(笑い)のアン、だったか?
そいつら全員、自律思考型AIだ。
そして、EEC16の自律思考型AIの行動を止める権限を持つのは、開発者だけだ」
「え?でも」
天空島で、クレハが初めてまともにセイと話をした時、あの時、一緒にいたアンは停止していた。
にやり、と意味深にセイが笑った。
見かけ15、6歳の少年のする笑顔では無い。人生の裏側も経験した後悔と諦念と切望の籠った笑顔だ。
「あの方が、このEEC16の自律思考型AI開発責任者なんですよ」
と腕の中でアレクが言った。
「金も出す、口も出す、でも、頭脳も出しているんです。
私達が逆らえない理由、わかりました?」




