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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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40/54

40 知らんがな

何を言ってるのかな、この犬モドキは。


セト・アニマルからの要求に対し、最初にクレハが感じたのはそれだった。

『そこのハイエルフよ。其方の星力で、この我を満たしてくれ』

アンとバトラーの殺気が瞬時に高まる。ル・ルーもぎょっとして思わず、下げていた頭を上げる。

「畏れながら、貴きお方、それは、一体、どのような意味でございましょう?」

場合によっては、神に逆らう事も辞さないと、覚悟を込めてル・ルーが問う。

それに対して、セト・アニマルは、パピルスの花の形と称される真っ直ぐ上に伸びた尾をフリフリと左右に振って、犬顔としては長く伸びた鼻をクレハの方に突き出した。

『頭に手を乗せよ。そこから星力を我に捧げるのだ』


あ、そう言う事。

つまり、頭を撫でてくれ、と。

クレハは脱力したが、他三名の緊張はまだ解けない。

「畏れながら、その役目、私では勤められませんでしょうか?」

申し出たのはアン。

彼女はNPCの中でも珍しく星力を自由に行使できる優秀な人物だ。

『無理だ』

ダメ、では無く、無理、とは?

『其方程度の星力では、我の力の100分の1も満たされぬ』

全く足りない、と言われ、アンの表情が危険な物に変わる。

「それでは、主様の星力をお渡しする訳には参りません。主様の御身に危険が及ぶ事は、このアンの命にかけて阻止いたします」

すっくと立ちあがるアン。そして、バトラー。

「ちょ、ちょっと、アンちゃん⁉バトラーも。って、ル・ルーさまっ?」

ル・ルーまでもが臨戦態勢に入り、クレハは慌てた。


失われた神の力を補充するのにどれ程の星力が必要なのか。全く想像がつかないが、ハイエルフとのハーフ設定のクレハの星力とて、神には及ばないのは明らか。生命維持に必要な星力以上を奪われかねない、と誰が約束できようか。

そう言い放つアンの言葉に同意するバトラーとル・ルーを見て、セト・アニマルの頭に手を置いたら最後、カラカラになるまで吸い尽くされる未来を思い描いて、背筋が凍る。

『うん、砂漠でカラカラになって死ぬのは憧れたけど、それとはちょっと違うよね』

頭の片隅に暢気な考えが残っている辺り、クレハはこの世界をゲームと認識している。

一方で、そんな他人事のような自分を、ひょっとしたら、自分より心配している様に行動するNPCたちに申し訳なさを感じる。

『私もこの世界で、少しは真剣に生きてみようかなあ』

どうあがいても、のんびり引きこもり生活、は、難しそうだから。

ふふっと笑ったクレハに、アンたちが驚く気配がする。


「ありがとう、アンちゃん。ル・ルー様も、バトラーも、心配してくれてありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。

そうですよね、セト神さま」

『うむ。満たすとは言い過ぎであった。神殿周囲の砂嵐を止めるだけの力が戻れば良い。その指輪があれば、苦も無かろう』

「指輪?」


そう言えば、このアンドヴァラナウト、財宝と呪いをもたらす魔法の指輪、の事は、ル・ルーには知らせていなかった。

彷徨えるシャーマンことロロルに解呪を頼み、無理だと断られた曰く付きのドワーフのお宝。魔力の塊であるが故に、身に付ければ、星力吸い取られ、死に至ることもある。けれど、クレハの魔よけの指・右手の中指に自ら嵌りにいき、呪い=魔力を防ぐと共に、クレハの望みに応じて、呪い(魔力)を財宝(星力)に変えることも出来るアイテム。

「えっと、ちょっと訳ありの指輪、でして」

説明はまたの機会に、と誤魔化し、そっと、クレハは右手中指の黄金の指輪に触れる。

『アンドヴァラナウト、貴方が貯めた魔力を星力に変えて、セト・アニマルに流してもらえる?』

クレハのお願いに、よっしゃ、出番や!とばかりに、アンドヴァラナウトはキラキラと輝いた。

『わっ、びっくり。本当に出来た』

そのまま、右手をセト・アニマルの頭に乗せる。

ひんやりと冷たい。愛猫アレクの柔らかな毛並とは異なり、スエードのような手触りで、触れた所からじわじわとその黒い体表に光沢が広がって行った。

アンたちが息を詰めて見守る。少しでもクレハの体調が損なわれるようなら、引き剥がす気満々だ。


やがて、セト・アニマルのピン、と立った尾からふわり、と黄金色の煙が立ち昇った。


『よくやった』

黄金色の煙の向こうに現れたセト神は、牙を剥きだして笑った。獣頭人身。神はもう、獣の姿では無かった。

セト神は、砂漠、嵐、異国、そして混沌を司る強力な神。冥界の王オシリスの弟で、彼を殺しナイル川に投げ捨てた悪神として知られるが、その一方、太陽神ラーを守り、下エジプトの守護神、王の力(戦いの勇気)をも象徴する複雑な、まさに混沌の神。

目の前に復活したそれは、正しくエジプト神話の軍神に相応しい獰猛な姿だった。


アンがクレハを抱き寄せ、その前にバトラーが立つ。

すうーっとル・ルーが、呼吸を整える。

くわっと大きく口を開き、セト・アニマルが、音にならない雄叫びを上げた。

その圧に、クレハはなす術もなく、その場に倒れ伏した。

『あれ、ミスったかな』

薄れ行く意識の中、クレハは何度目かの強制ログアウトを確信した。

最後に見たル・ルーたちは辛うじて、膝をつく程度には耐えていたが、今のクレハには彼女らの無事を祈るしかなかった。


現実世界で目を覚ます。

夕食も入浴も終えてから、ログインしたので、時間は既に23時を回っている。

特に、明日、何がある訳でも無い、定年退職後の身ではあるが、流石に、色々あって、精神的には疲れている。アンたちが心配ではあるが、強制ログアウト後の再ログインは、すぐには出来ない仕様になっていた。

「明日、朝一番で入ろう」

そう呟いて、紅葉は、ベッドに潜ると直ぐに眠ってしまった。


翌日。

「あれ?」

ログインしようと立ち上げたエターナル・エデン・クロニクルだったが、目の前に浮かぶのは”緊急メンテナンス”の文字。

「うわー、どうしよう。これ、いつまで続くのかなあ。アンちゃんたち、心配してるよね」

一体何が起こったのか。少しでも状況を知ろうと、ネットを検索するが、どのサイトも、情報が交錯していてよくわからない。

こう言う時に役に立つ息子の龍樹は、流石に平日は仕事がある。朝早くから、ゲームの事で連絡を入れるのも憚られた。


と、紅葉はふと思い出した。最初にアンとバトラーを紹介された時に、ガイド猫アレクは確か、

『特別にクレハさまに紐づけしてあるので、何か急用でログイン出来なくなった時には、彼らに直接メールで連絡が可能です』

そう言っていた!

緊急メンテナンスで、EEC16自体が閉じているのだろうが、ひょっとして、繋がるかも。微かな希望を抱いて、連絡先を探す。

「えっと、どこにメモしたっけ」

自分の管理が悪い事は重々承知しているが、メモした紙を適当にクリアファイルに入れて片付けた気になっていた事を、今は、ひたすら、反省する。


それでも、何とか、見つけ出したパスワードをポチポチと専用アドレスに入力する。

電話の様に呼び出し音が鳴る。

EECシリーズのテーマ曲だ。

♪♪♪

テーマ曲は流れ続ける。

「・・・繋がらない」

紅葉は、不安を抑え、PCを見つめた。

深呼吸をする。

時間を開けて、もう一度、トライしよう、と思い、一旦PCを切ろうとした時、新着メールに気が付いた。

”大至急開けて下さい!”と、タイトルが付いている。

「うわー、こんな怪しいメール、今時、送り付ける所なんてあるんだ」

紅葉は、嫌そうに顔を歪めて、”削除”を選択した。


朝食後、コーヒーを淹れつつ、再度、専用アドレスに接続を試みる。

やはり、テーマ曲が無限ループするだけだ。

途方に暮れた目の端に、新着メールがまた、届いている案内が点滅している。

珍しい事もあるものだ、と開けたメールボックスには10通以上の”大至急開けて下さい!”のメールの束。

ぎょっとして、恐々、アドレスを確認すると、それは、エターナル・エデン・クロニクルの運営のアドレスだった。

紅葉にNPCのアルバイトを紹介してきた時に使ったアドレスだ。


「ウィルスじゃ無かったんだ」

それでも、ギアをつけて、恐る恐る接続すると、あっという間にどこかの会議室に視界が切り替わった。

「クレハさまぁ、やっと、やっと、つながったぁ」

ガイド猫アレクがダッシュで胸に飛び込んできた。

「アレク?」

「もう、もう!今回ばかりは、大事故ですよぉ~」

びえーっと、猫は泣き出した。

「ハトシェプスト女王葬祭殿が、出現しちゃったじゃないですか!まだ、ラフ外観しか決まって無いのにー」

「何の話?」

クレハには、全く意味が通じない。


「イベントのまっただ中だって言うのに、突然、砂嵐が止んで、失われた神殿が現れたんだよ」

会議室の机の向こうに偉そうに腕を組んで座っていた人物が立ち上がって、そう言った。

「セイ、君?」

「ホント、あんた、やってくれるよな。あれ、まだまだ、先のイベント様に仕込んでる途中なんだってさ」


 知らんがな。






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