36 リュージュの星霊武具
ガンガンと頭の中が鳴っている。「そんな」
星霊武具は星霊を契約で縛り、閉じ込め、魔物と戦うための武具。
どうしてそんな武具を、配信一周年記念武具としたのか。
何も知らずにアレクを星霊武具に宿らせていれば、この暖かな体をまた、失っていたかもしれない。その恐怖に、クレハは愛猫の体をぎゅっと抱きしめた。
『大丈夫ですか、クレハ様?』
ガイド猫アレクの声が頭に響く。
『どうして、こんな酷い事するの?』
『うーん、酷い、ですか?』
そう切り返されて、クレハは傷ついた。
『酷いよ。大好きなアレクに二度と会えなくなるかも知れなかったんだよ』
『ですが、僕はゲームの、キャラですらない、アイテム、ですよ』
「そんなっ!」
思わず、声が出た。「私にとって、アレクは大事な大事な存在なのに!」
「嬢ちゃん?」
アマツマラは、ポンポン、とクレハの頭を軽く叩くと、「よく気が付いたのぉ」と笑った。
「嬢ちゃんのその猫は星霊じゃったのか。実体化する程、大切に育てたんじゃのう。武具に宿らせると、その猫の体は失われる。二度と取り返しのつかん事になる前に、分かってよかった。
わしらの作ったこん大袖は、例え星霊が宿らんでも、嬢ちゃんをしっかりと護ってくれる。こいつは、誰が何と言おうとこのアマツマラの最高傑作じゃ。受け取ってくれ」
クレハは泣きそうになりながら、アマツマラに礼を言った。
後日、EEC16運営のホームページにて、星霊の説明と聖霊武具の特性が公開された。
星霊とは、
エターナル・エデンの星の力、星力そのものが、実体化した存在。
かつては、この世界に普通に溢れていたが、いつからか、世界から失われ、御伽話となり、先日、天空島で数百年ぶりに発見された、とされている。
けれど、実際は、知られていないだけで、世界中に存在している。魔力に溢れた今の時代では、存在自体が希薄となり、殆どのエターナル・エデン人は、気が付かずにいた、魔物の対極に位置する存在。
そして、星霊武具とは、
宿した星霊の力で、魔物の魔力を削り、これまで、力押しするしかなかった魔神との戦いでも、対等の戦いを可能にする神代の武具だ。
魔力と魔力のぶつかり合いでは、単純に、魔力総量の多い方が勝つ。旅人が使える魔力では、魔物とは渡り合えても、さらに上位種の魔神が相手では苦戦していた。魔神の持つ魔力量は強大で、旅人の中でも、強者のみが対抗可能だった。
一方で、魔力と星力は相反する力だ。魔力の塊である魔物に星力を当てれば、等価交換、とばかりにぶつけた星力と同等の魔力が失われる。
星霊武具の実装によって、普通の旅人も星力を使い魔神と対抗する事が出来るようになった。
以前、現実世界で、電波ジャックした星王が、宣言したように、旅人に”星の力”が、与えられる、のだ。
「星霊は、最初から武具に付与する目的で育てるんです。クレハ様が心配するような、思い入れなんて育ちませんよ」
ガイド猫はそう言う。
『だけど』
そんなに簡単に割り切って育成なんて出来るものなのだろうか?
『それに』
星霊武具の製法は、エターナル・エデン人が、NPCが、理由があって封印した疑いも出てきた。
星霊をアイテムとして扱う旅人を見たなら、アマツマラらは、どう思うだろうか。
EEC16配信一周年記念イベントは、その時限りの一過性イベントでは無く、以後、装備を整えていく上での最終武具の形を示した、と紅葉の予想外に大いに盛り上がった。
イベント以降、武具に宿らせる星霊の幼生が配られるのは、ログイン1周年目のプレゼントとされ、ユーザー一人当たり、1回限りだが、野生の星霊の幼生を捕まえる事が出来るならば、二個目、三個目の武具を作る事は可能だ。
今回、運営が製作方法を発見した、と発表した星霊武具の製法は、あくまで、ゲーム内イベント、として数多ある星霊武具の一部の製法に過ぎない。
何故なら、永遠に消えない炎:カグツチも、幻の鉱物:緋緋色金も、そして、何より、その材料を加工する匠が、鍛冶師、と言う時点で、普通の人は、刀、剣、精々が、槍を作るのが正解、と考えるからだ。
クレハの様に、一流の鍛冶師に、盾の作成を依頼する方が、イレギュラーだ。
ならば、カグツチや緋緋色金以外の素材から作られる星霊武具も当然ある筈で。
製法発見第2弾!とか、やりそうだ。
正月休みに帰省した息子の龍樹は、今年も、衣食住を全て、紅葉に任せ、エターナル・エデンの世界にどっぷり漬かって帰って行った。その龍樹が2月に入って早々、星霊武具が完成した、と嬉々として連絡を寄こした。
見て見て、俺の星霊武具!と見せられた画面には、黒いナイフが1本。
「ナイフ?」
「そう、投げナイフ。母さん、覚えてるかなあ、俺が一番最初に街を移動するときに、一緒に連れてってくれた旅芸人一座の事」
勿論、と紅葉は答えた。
EEC16の世界にログインして、まだ間もない頃、旅人たちが、降り立った街から、外の世界に出るには、何もかもまだ足りない時期に、龍樹ことリュージュは、NPCの旅芸人一座に、こちらの世界の知識と引き換えに,同行させてもらい、旅をしている。
「その時に、ナイフ投げを教わったって言ったじゃん。あれ以降も、ちゃんと練習してたんだ。俺のメイン武器は剣だけど、折角、好きな武器を作ってもらえるって言うから、投げナイフにしたんだよ」
「え⁉緋緋色金の投げナイフって、大金を投げてるようなものじゃない!」
流石に”幻の”、と修飾語のつく金属を、使い捨てにするのはどうなのか、と息子の思い切りの良さ?に驚いていると、そんな訳あるかい、と笑われた。
目指したのは、構えれば、自分の背後に何十本と展開するナイフ。
それらが、合図一つで矢のように敵を攻撃する、そんな武器だった、と龍樹は言う。
『・・・つまり、某有名ゲームかつアニメの聖杯をめぐる物語に出てくるギルガメッシュの宝具出現時の再現、だよね』
「星霊の幼生には、属性がなかったでしょ。矢のように飛ぶ投げナイフだから、風の星霊に育てたんだけど、育ててるうちに、イメージが”蜂”で固まってきて、星霊が、”女王蜂”に進化したんだ。名前はメフィ。で、メフィは星力で無数の働き蜂を作り出すことが出来る」
リュージュの星霊武具”メフィ”は、無数の働き蜂を生み出し、倒した魔物の魔力を持ち主に還元する、そんな武器だ。
「最初の思い通りに、とはいかなかったけど、これはこれで、凄い有用。結構、星力を食うから、一度使用してから再使用までの時間が長いのが、今後の改善点」
メフィに溜められる星力量を増やす方法を探してる、と楽しそうだ。
「ナイフに名前、つけたんだ」
「悪い?日本刀にだって、”銘”ってモンがあるでしょ。名前があった方が、愛着も湧くし、俺のメフィだって、育てれば、擬人化する可能性だってある!」
そう言い切る息子は、某ゲームやアニメになった刀剣を思い描いているのだろうが、ちょっと、大丈夫かな、と不安になる。
「どうして、武器づくりみたいな地味なイベントが栄えある一周年記念イベントなのに、ネットが炎上しなかったか知ってる?」
まず、素材(カグツチ、緋緋色金)がSランクの入手困難素材である事。
更に、鍛冶師アマツマラとの接触が困難であり、何とか紹介してもらえたとしても、頑固職人に武器作成を受けてもらうまで、好感度をあげるのが、とても大変な事。
「いくつかの依頼を受けたり、好感度を上げるための贈り物をしたり、おっさん相手に乙女ゲームか、って言う程の難易度なんだ」
それらと並行して憑依させる星霊を育てる育成ゲーム要素がある。
「星霊の幼生は、ふわふわした光じゃない?だから、イメージがしっかりしていないと、とんでも無いものに育つんだ。どんな武具を作りたいか、を考えながら育てるんだよ」
「母さんは星霊、ちゃんと育ててる?緋緋色金とかは後からでも入手可能だけど、星霊だけは、育てておいた方が良いよ」
偉そうにそう言い残して、龍樹は通話を切った。
星霊武具が本来の機能を発揮するには、その武具に相応しい星霊を宿す必要がある。
あの時、アマツマラの鍛冶場で、未完成の大袖を前に、クレハは考えた。
大袖に星霊・アレクを憑依させることは出来ない。星霊武具を”檻”と認識してしまった自分は代わりに新しく星霊を育てるつもりも無い。
折角作った武具が、未完成のまま、と言うのは、口ではああ言ってもアマツマラたちも思うところはあるだろう。
ならば、星霊の代わりに星力を直接纏わすのは?
幸いにして、ハーフハイエルフであり、属性の縛りを持たず、星力豊富なクレハだ。
ラノベに良くある、”剣に魔力を乗せる”なんて、やってやれないことは無い、のでは無いだろうか。
そんな気持ちから、クレハはアマツマラの星霊武具(未完成)・大袖に星力を込めてみた。
結果、クレハが星力を注いだ大袖の反応は、クレハと製作者アマツマラの予想を超えるものだった。
注いだ星力の量、質によって、大袖は、その性能を変えたのである。
宿らせた星霊によって、武具の性能も変わる可能性がある。
それは、アマツマラには、星霊武具は進化し続ける武具に思えた。
配信一周年記念イベント公表後、鍛冶師アマツマラら職人の元に、いくつもの星霊武具の製作依頼が来た。
アマツマラは、色々な課題を出すことで、依頼者の本質を見極め、気に入った者、星霊を大切に育てた者の依頼のみを受けた。
クレハが息子の龍樹から聞かされた”おっさん相手の乙女ゲーム”難易度、の理由、である。




