35 星霊武具
EEC16配信一周年記念、星霊武具製作に必要な素材
決して消えない炎:カグツチ
竜宮のオトヒメからお土産にもらった玉手箱に入っていた青白い炎がそれだろう。
天空島調査から帰ってきてレポートを提出した後、クレハは、いつ契約を切られても悔いの残らないように、竜宮へ遊び行った。なんだかんだあって、オトヒメの知己を得たクレハが帰りがけに渡されたのが、玉手箱だ。乙姫の玉手箱、と言えば、開けたら白い煙が出て、老人になってしまう、浦島太郎のおとぎ話が一番有名なので、受け取るのを躊躇したクレハにオトヒメは笑って、言ったのだ。
「あんなの作り話に決まってるでしょ。誰でも彼でもが、亀を助けたら、竜宮城に招かれるって勘違いされても困るじゃない」と。
そうして、玉手箱から出て来たのが、青白い炎を閉じ込めた水晶玉だった。
緋緋色金は、根の国で鬼人族の長イバラから、表向き、迷宮のモンスターハウスや迷宮地図作成、のお礼としてもらった。シフの金髪を押し付けた迷惑料として差し出した、廃鉱山の緋緋色金鉱脈の情報を、彼女が有意義に活用した成果の一部を還元してくれたのだ。足りなければ、何時でも言え、とまで言われている。気前が良すぎて困ったものだ。ついでにその時に鬼人族の鍛冶師アマツマラにも紹介されている。作って欲しい物が決まれば、何を置いても優先する、と優先券を差し出されたのは、よく考えればフラグだったのかも知れない。
クレハは現地人なので、運営から星霊の幼生がプレゼントに贈られる事は無い。
が、しかし、既に、クレハは星霊と契約済みだ。
運営との連絡用ガイドキャラ、猫アレク。
実は、星霊である。
いつの間にそうなった、と思ったけれど、旅人がEEC16に最初にログインした時に、色々教えてくれるガイドキャラ、ナビ16と名乗った蝶々妖精、それが星霊なのだ。そう言えば、天空島で初めて見かけた星霊も蝶々妖精にそっくりだった。
つまり、星霊武具は、発売前から導入が予定されており、製作に必要な星霊は最初から自分に付けられたガイドキャラ!と言う伏線だった。
のだが、ガイドキャラに人気があまり出ず、伏線を大切にするあまり、ガイドキャラを育成出来る事が周知されなかったため、改めて星霊を自分で育てる仕様に変更になった、とは、ガイド猫アレク情報。
ガイドキャラと親交を深めた旅人もいる筈だが、それはごく一部らしい。運営は、この事実を明らかにするつもりはなく(伏線の回収に失敗したのだから当然か)、気がついた者だけが、舞台裏を知る事になるようだ。
星霊武具の性能は付与する星霊の能力に大きく依存する。
クレハにとって、アレクに不足はない。
条件はすべて満たされた。正式に製作が解禁となるのは一周年記念イベントの開始が宣言されてからだが、現地人のクレハに記念イベントの開催日を守る必要は無い。
カグツチ 入手済み
緋緋色金 入手済み
星霊との契約済み
鬼人族の鍛冶師アマツマラに製作予約済み
ここまでお膳立てされたら、作るしかないよね。
でも、何を?
クレハはEEC16では、戦闘職ではない。これまでも、戦いの場面ではアンとバトラーにまかせっきりだ。星霊武具、と言うからには武器だけではなく、防具も可能だろう。
「作るなら、防具、だよね」
だが、クレハの防具は、着物の上に着用する皮鎧タイプで籠手、胴丸、額当てなどになり、既に、EEC16世界屈指のエンチャンター:ル・ルーがエンチャントした最高防具で固めてある。
「となると、盾、かなあ」
軽く、硬く、絶対に錆びない、自己修復能力をもつ神代の武具・星霊武具ならば、最高の盾が出来そうだ。
「出来れば、邪魔にならない、使う時だけ、大きくなるようなのが良いです」
断言するクレハに、鬼人族の鍛冶師アマツマラは頭を抱え、
「そんな都合のいいモンが簡単に出来るかい!」
と、叱られた。
「ただでさえ、こちとら、初めての製法だ。上手くいく保証もねぇのに、はなからややこしい依頼出すんじゃねぇ」
クレハは、最初にモンスターハウスが解放され、今は閉鎖後の混乱の落ち着いたノルドリ迷宮の探索に来ている。そろそろ、アウストリ迷宮のモンスターハウスを閉めるので、旅人たちの関心がそちらに向くのを期待しての事だ。
迷宮に潜る前に星霊武具の製作を依頼しよう、とアマツマラの鍛冶場を訪れたが、彼女の要望は、鍛冶師の常識に反するものだったようだ。
「嬢ちゃんが、この星霊武具の話をどこから聞いてきたのかは、知らねぇが、わしたち鍛治師にとっても、伝説の武具、だ。製法が分かったところで、そうですか、ってな具合にゃあ、作れねぇんだよ」
職人舐めるな、と一喝され、ペショリと落ち込む。
「すみません。お詫びにこれ、使って下さい。カグツチと緋緋色金です。星霊を付与する前までなら、作れますよね。練習?試作品?研究?何でもいいです」
特に、欲しかった武具がある訳でもなく、作れそうだから作ってみようか、と軽い気持ちで頼んだ。
どのみち、緋緋色金も宝の持ち腐れだし、カグツチは、ちょっと雰囲気のある照明に使っていたぐらいだ。
イベントが始まれば、いずれはアマツマラには旅人から依頼が山のようにやってくる。そうなってから、試行錯誤していては、納期の遅れや武具の出来などで、不満も出るかも知れない。
ただでさえ、地味だと思っている一周年記念イベントだ。クレハは、運営に雇われの身として、少しでも、評価が下がら無いように協力を申し出た。
「いいのか?」
アマツマラは、目の前に並べられた素材に、手をワキワキさせながら、確認する。
「はい。
それで、もし、上手くいきそうなら、その時に改めて、私に盾を作って下さい」
嬉しさを堪えるように、アマツマラは眉間にこれでもかと皺を寄せて頷いた。
そして、ノルドリ迷宮の探索を終え、地図をイバラに納品してから、再び訪れた鍛冶場でクレハが見たものは、
彩り鮮やかな、巻き簾だった。
「これって?」
アマツマラから、やり切った感あふれる笑顔で渡された ”巻き簾” にクレハは中途半端に伸ばした手を止めた。
「嬢ちゃんの”盾”だ」
「いやいやいや、待って。これ、盾、って、え?」
「嬢ちゃん、武器は右手持ちで良かったな?おら、左肩貸しな」
クレハの困惑を他所に、アマツマラは、彼女の左肩、胴丸の肩紐に巻き簾を結び付けた。
「こりゃあなぁ、鎧の袖の中でも『大袖』っちゅうて、肩から上腕にかけてを防御するためのパーツだ。戦場じゃ武器を扱う両腕を何よりも守らないかん。腕に深手を負ってしまえば、戦い続けることは勿論、自分の体を守ることすら出来ねぇからな。
大袖は、肩をひねることで、簡単に楯として構えられるし、紐で体に括り付ける作りになっとるから、取り外しも可能だ。いざっちゅう時には、持ち楯としても使える」
胴丸と組み合わせてみると、巻き簾にしか見えないと思っていたそれは、時代劇の武士の着る鎧の両肩に付いているビラビラした物だった。
『大袖』と言うらしい。
本来の大袖は、小さな革や鉄の板(小札)を絹糸や組紐、革紐など綴り合わせている。工芸品レベルになると、色や材質の組み合わせで、織物のような美しい意匠の物さえ存在する。
アマツマラが、クレハの為に組み上げた大袖は、緋緋色金の赤みを帯びた重厚なメタリックレッドが、派手さを抑えつつも美しい白銀の紐によって綴り合わされていた。
「この紐は白銀の有翼獅子の鬣を編んで作ったモンだ」
有翼獅子は、力、勇気、神聖な知恵や復活を象徴する獣だ。その中でも黄金と白銀は希少とされている。
「え、そんな貴重な素材使って良かったんですか?それに、私、あれは、差し上げるつもりで。ひょっとして、凄い、迷惑でした?」
あわあわと続けるクレハに、アマツマラは豪快に笑う。
「嬢ちゃんから預かった緋緋色金だ。一欠片たりとも無駄には出来ねぇ。じゃから、この小札を作るのは、良い練習になった。何十と作っていくうちに、カグツチの特性、緋緋色金を溶かす温度、加工するタイミング、それらが分かってきた。だから、あれだけの緋緋色金じゃったが、大袖一枚分しか出来んかった」
「紐はぁ、黄金でも良かったんだけどぉ、姫様の髪色にあわせてみたんだぁ」
そう言ったのは、甲冑師のハトリ。
クレハの白銀の髪色に合わせて、大袖の紐を選んだ、と、繊細な気遣いを見せたのは、鬼人族にしては小柄な女性だ。その心遣いが、とても嬉しい。
今回のクレハの大袖を製作したのはアマツマラを代表とする鬼人族の職人集団。天空島で星霊武具の製法が発見されたと言うニュースに、心躍らせていた彼らにとって、クレハからの依頼は渡りに船。依頼主の希望を拡大解釈してノリノリで”盾”を作った自覚はあった。
緋緋色金は、温度によって精錬の純度が変わる実に鍛冶師泣かせの鉱物だ。今回、海の底、竜宮の奥宮で燃え続ける”カグツチ”を火種に使う事で、超高温を保ち、精錬の純度を高める事が可能になった。
消える事の無い炎”カグツチ”は、その理の力を炎を介して、緋緋色金に流し込んだ。その結果が、これまでの緋緋色金とは比べ物にならない、深い緋色を放っているクレハの大袖だ。
感動するクレハの様子を見て、ハトリは微笑み、アマツマラはキリリ、と表情を改めた。
「さて、ここからが、最後の仕上げじゃ。
嬢ちゃん、こん武具は、これだけじゃあただの武具に過ぎん。こいつを星霊武具にするにゃあ、星霊を宿らせにゃああかんのは、知っとるか?」
ふるふるとクレハは首を振った。
「言葉としては、わかりますけど、具体的には何をするのか、さっぱり」
「ふむ。星霊武具っちゅうモンは、星霊の入れ物じゃ。良く言えば、家。悪く言えば、檻じゃ。わしもなぁ、途中でようやく気が付いたんじゃが、星霊を武具に宿すとは、契約をもって、星霊を武具に縛り付ける事じゃ。完成した星霊武具は、星力を纏い、魔力、魔物、魔神に対抗する強力な武具となる。
けどな、一度、星霊武具に宿した星霊は、武具が壊れない限り、二度と、そこから離れる事はない。
そして、武具が壊れる時は、星霊の星力も尽きた時だ」
その言葉を聞いて、クレハは固まった。
「星霊武具の製法は、失われていたんじゃない。遥か昔に、祖先達は、放棄したんじゃ。星霊が大地から姿を消した理由。その一つが、星霊武具にあった、とわしらはみてる」




