34 一周年記念イベント
結局、クレハはロロルの正体(?)をバトラーに伝える事は出来なかった。
創世期の神様の眷属、かもしれない、などと教えた所で、今後、会う事も無いかもしれないのだ。思い悩むだけ時間の無駄、ときっぱり、忘れる事にする。勿論、それは無理なのだが、気持ちの上では切り替えない事には前に進めない。
呪いの指輪、アンドヴァラナウトは、幸せそうにクレハの右手の中指に収まっているので良しとしよう。と言う訳である。
残りの二か所の根の国の迷宮探索に出かけるには、気力が足りない。
現実世界で、EEC16配信一周年を記念したイベントはどうなったのだろう、と久しぶりに公式ホームページを覗いてみた。
「天空島のゲート解放イベントの予定なんだよねえ」
気が重い、と紅葉は溜息をつく。
自分のレポートが運営の決定に影響を与えるとは思えない。けれど、あの神聖な景色が損なわれるのは、嫌だった。
「大体、海の中の竜宮や地下世界の根の国と違って、天空島って周囲一キロぐらいしかない狭い場所だよね。そこに旅人が大挙して訪れる、とか、物理的に無理でしょ」
ぐちぐちと言いながら、開いたホームページで、紅葉は首を傾げた。
「星霊武具?」
聞いた事の無い単語だ。
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エターナル・エデン16配信一周年記念
星霊武具、製作解禁!
これまで不明とされてきた神代の武具・星霊武具の製法が天空島で発見されました。
条件を満たせば、製作が可能となります。
その条件とは
・決して消えない炎:カグツチを入手する
・緋緋色金を入手する
・星霊と契約を結ぶ
これらの条件をすべて満たし、
・鍛冶師アマツマラに製作を依頼しましょう。
アマツマラが、貴方の持ち込んだ素材に納得したら、お望みの武具を製作してもらえます。
神代の武具・星霊武具は、軽く、硬く、絶対に錆びない、自己修復能力をもつ武具です。
これまで苦戦していた高位魔族の討伐に多大なる助けになるでしょう。
また、星霊と契約する事で、貴方のエターナル・エデン生活に大いなる転機が訪れます。
エターナル・エデンシリーズ16の配信一周年を記念して、旅人の皆様には、星霊の幼生を一体プレゼントいたします。上手く自分好みの星霊を育て、星霊武具の製作にチャレンジして下さい。
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「どゆ事?」
一周年記念イベントとしては、インパクトに欠ける様な気がする、と思いながら、星霊武具に対してあまり興味を惹かれなかった紅葉は、天空島解放を期待していたユーザーたちから、また、批判が上がるのではないか、と心配になった。
そして、こういう時は、詳しい人に聞くに限る、と息子の龍樹に連絡を入れる。
「やっぱり、そう思うよね。竜宮解放につながる大規模レイド、根の国の解放につながった迷宮探索とドワーフ族のお宝。竜宮、根の国、と来たら、次は天空島、ってなるでしょ、普通。大体、配信前にはそう言われていたし。だけど、天空島って、解放してもあまり旨味がないらしいんだ」
「旨味が無い?」
それはどう言う意味だろう。魔力汚染の心配さえなければ、紅葉は、天空島に住んでも良い、ぐらいには惚れ込んでいる。
「まず、天空島への直通ゲートって、入国審査の厳しい星王庁にしかないじゃん。星王庁に入るには、それなりの身分のNPCの推薦状が三枚必要、って知ってた?これがまず、第一の関門。次に、魔石の持ち込み不可、って関門。天空島解放に向けて、事前に調査団が入ったらしいんだけど、彼らから、天空島では魔力が使えない、って報告があがったんだ」
その報告書を上げた本人は、う、と黙り込む。
「それに、天空島には魔物がいないんだって」
それじゃあ、何のために行くのかわからない、と龍樹は言う。
脳筋だ。
「いや普通に観光じゃダメなの?すご、いいやん、空飛ぶ島」
凄い綺麗だったよ、と言いかけて、紅葉は慌てて言葉を飲み込んだ。
「確かに、公開映像は、まさにモンサンミッシェル!って感じだったけど、それだけじゃん」
いや、違うんだって。あの島は、エターナル・エデンの神代のタイムカプセルなんだって。
言いたい。けど、言えない。むにむにと口元を動かすだけの紅葉だった。
「だから、それより、高性能の武具が作れる、って事の方が、俺は嬉しいけどな。なんか、カグツチや緋緋色金を探して、条件を幾つもクリアしないといけないってところが、RPGゲームって感じじゃん?星霊の幼生を育てるのは育成ゲームっぽいしさ。
で、作成した星霊武具が天空島に行く鍵になる、と俺は思ってる訳」
「え⁉」
息子の言葉に紅葉は驚いた。
「流石に、天空島を解放しない、って選択肢はないと思うんだ。事前にあんだけ煽っといて、見るだけ、ってのはさ、詐欺じゃん。だけど、モンサンミッシェルをモデルにした天空島はせいぜい、100ヘクタール(東京ドーム約21個分)の広さしかない。そんな所に、何万人もが一斉に押し寄せて、通勤電車並みの混雑起こしてどうするの、って話。
それなら、入るには制限をかければいい」
「それが、星霊武具?」
「かなー、って。だけど、結構、信ぴょう性高いと思うんだよねー。掲示板でも考察厨の連中が盛り上がってるよ。俺もカグツチや緋緋色金の入手先には心当たりがあるけど、星霊ってのがなぁ。配られてからの育成になるし。後、アマツマラ?鍛治師って事は、ドワーフ族だと思うけど、どこに居るんだよ。アマツマラってのが、個人なのか、鍛治師集団なのかは分からないけど、作る人間が限られるなら、結局最後は、早い者勝ち、順番待ち、になるでしょ。
まぁ、後からもっと詳しい情報が配信されると思うから、それまでは、素材集めだね」
狙うぜ、一番乗り!と自信満々に笑って、息子はLIMEを切った。
紅葉は、天空島解放に反対したレポートを提出した自分の悲壮な覚悟は何だったのだろう、と溜息をつく。けれど、思い出してみれば、あの後、ガイド猫が、一周年記念イベントに修正が入るような事を言っていたように思う。
「それが、これ?」
ひょっとして、運営も途中で天空島ゲートの一斉解放には無理があると思ったのではないか。
その為に調査団を派遣し、クレハを利用して、ネガティブな結論を引き出した、なんて
「考えすぎよね」
そこまで、都合よく使われたなら、何だか腹立たしい。
もう、この話は、お終い。
「って言うか、どうする、これ」
じーっと周年記念イベントの星霊武具製作条件を見つめる紅葉の顔に困惑が浮かぶ。
「私、もう、作れちゃうけど」
龍樹が言うように、エターナル・エデン・クロニクル16のイベントに参加していれば、カグツチ、緋緋色金の入手はさほど苦労しないはずだ。既に、手に入れている人、もしくは、知らずに売り払って、悔しい思いをしている人もいるかも知れない。
何故なら、カグツチは竜宮(海底監獄イベント)で、緋緋色金は根の国(地下迷宮イベント)で手に入るからだ。
そして、鍛治師アマツマラは鬼人族で根の国に工房を構える技術者集団のまとめ役だ。鍛治師、からドワーフ族を予想して探すと、アマツマラに達するまで、時間がかかるかも知れないが、鬼人族がドワーフの末裔、とは、地下迷宮イベントで明らかになっている。ちゃんと考えれば、正解に辿り着くはず。
星霊に関しては、何とも言い難い。
クレハは天空島で星霊もその幼生も、その目で確認している。何なら、めっちゃ好かれて、一部、付いてきた疑惑すらある。
それはそれとして、NPCの研究者ですら、幻、御伽話、と涙して感動していた星霊を、幼生とは言え、旅人に配布する、のは、いかがなものか。
根の国の地下迷宮探索で、初回到達者に与えられたドワーフ族のお宝は、かなり破格の性能で、それが全て、旅人の手に落ちた事に、エターナル・エデン人の不満がない訳ではない。NPCが地下探索可能になった頃には、宝箱がアイテム生成する為に必要な魔力は、十分に溜まっておらず、”ハズレ”ばかり。
旅人がいなければ、根の国に立ち入ることすら不可能だった事実は別として、何故、と言う気持ちは、わからなくもない。
そこへ来て、自分たちエターナル・エデン人ですら、伝説の存在、”星霊”、を余所者の旅人が、何の苦労もなく手にしているのを見て、どう思うのだろう。
NPCの感情を星王であるセイは、鼻で笑う。けれど、現地人、クレハ・デ・ノースヴィラとして、この世界に暮らす紅葉には、これが、争いの火種にならないことを願うばかりだ。




